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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三三話 狂化

 許可をえて、私はココロちゃんのステータスウィンドウを表示させた。

 初めて目にするその情報に、私は思わず息を呑む。


――――


name:ココロ

job:鬼


HP:183

MP:202


STR:42~137

VIT:61


INT:45~129

MND:32


DEX:4

AGI:41~85

LUC:2



スキル


・鈍器マスタリー

・体術マスタリー

・自己再生

・再生術

・狂化

・ガッツ



魔法


・治癒魔法

・聖魔法

・強化魔法

・防護魔法



装備品


・純白のショーツ

・純白のブラ

・ニーハイソックス

・修道服

・レザーブーツ

・銀のクロス

・ダマスカスのメイス



――――


「な……このステータスは……」

「あ、あはは、驚かれましたよね……数値に振れ幅があるだなんて、普通ではありませんから」

「ココロちゃんを操作してみたくなった! なんだコレ、なんて面白いステータス!」

「えぇ……その様な反応を見せてくださるのは、ミコト様くらいのものですよ……まったく」


 一般人の平均ステータス値は、HP・MPを除くとおおよそ10余とされている。一人前の冒険者で、もっとも高い数値が30あれば十分。一流ともなれば50に届くと。

 ココロちゃんはAクラスの、つまりは一流冒険者だ。だからどれか一つでも50を上回っていれば十分な数値なのだが、それがまさかの最高百超えである。

 しかも『~』なんていう表記がある。ココロちゃんの口ぶりから、振れ幅を意味しているのだろうけれど、この振れ幅をコントロールできないというのなら、そりゃ力の制御なんて至難の業どころの話には収まるまい。これも鬼というジョブの特性だろうか。


「それで、ジョブについてだけど……」

「はい……い、いかがでしょう? ココロには、クラスチェンジが出来ますか……?」

「…………」


 ココロちゃんのジョブ欄に意識を集中する。

 すると、オルカの時と同様別のウィンドウが表示され、そこには確かにクラスチェンジ先と思しき名前が表示されていた。

 しかしこれは……。


「……うん。あるにはあるけど……あまりいいものではないみたい」

「‼……そう……なん、ですね。それでも、内容をお聞かせ願えますか?」

「うん。クラス名は【狂鬼】。条件は、『狂化状態で多くの命を殺めること』」

「…………っ」


 ココロちゃんが、ビクリと肩を震わせて身を固くする。

 オルカも、流石のソフィアさんですら言葉が見つからないようだ。

 鬼はユニークジョブだから、当然その派生クラスに当たる狂鬼も詳細は分からない。

 けれど、その名前からも、条件からも、碌でもないものだろうという当たりは簡単についてしまう。


 因みに狂化状態とは、ココロちゃんのスキルにある【狂化】に由来するものだろう。

 推測だけど、ココロちゃんの感情が昂ぶると理性が飛んで、意に反し大暴れしてしまう、というのはこれに依るものではないだろうか。


「ほ、他には……他のクラスは無いのですか?」

「……うん。今のところ表示されているのは、それだけかな」

「そうですか……」

「ごめん、ココロちゃん。期待させておいて……」

「あ、いえ! ミコト様のせいではありませんので! そ、それにその、考えようによっては良い情報でした。私が暴走して暴れて、他者をたくさん殺めてしまうと、今よりも恐らく酷い状態になってしまうってことが知れたんですから」


 ココロちゃんは努めて笑顔を作ろうとするが、あからさまな空元気。私は堪らず彼女を抱き寄せていた。


「大丈夫だよ。ココロちゃんが暴走したなら、ちゃんと私が止めるから。それにステータスを見る限り、フル装備でオルカと合体した私なら、実際それも可能だと思うしね」

「ミコト様……はい。もしそうなったなら、どうかよろしくお願いします」

「私も、頑張る」

「はい、オルカ様にもご迷惑をおかけしますが、お願い致します」


 オルカと二人でココロちゃんを元気づけていると、不意に蚊帳の外へ追いやられたソフィアさんが口を開いた。


「ところで、ミコトさんのスキルでクラスチェンジ先のジョブ情報などは確認できないのですか?」

「あ、はい。それも勿論試したんですが、分かるのはクラスチェンジの条件と思しきものくらいで……レベルが上がれば、何かもっと詳しい情報が開示されるかも知れませんけど」

「クラスチェンジ先は、一つしか無いのかな?」

「それは、どうだろうね。もしかすると、何か条件を満たすことでフラグが立って、一覧に名前が追加される仕様なのかも……」

「フラグ……? 旗……? よく分かりませんが、クラスチェンジ先が複数ある可能性に関しては、私もあり得ると思います。実際、元は同じジョブの方たちが、いつしか全く異なるクラスチェンジを行っていた、という事例はたまにありますから」

「それなら、ココロちゃんにもまだ希望はあるってことだね!」


 私がほっと息をつくと、それ以上にココロちゃんは強張った体を弛緩させ、安堵した様子を見せた。

 無理もない。生きていれば誰だって嫌なことは幾らでもある。ココロちゃんはそれが【狂化】ってスキルのトリガーになって、知らぬ間に他人を殺めてしまう可能性があるのだ。正直たまったものではないだろう。

 ましてその上、そんなことが続けば恐ろしいクラスへ強制的に変えられてしまうというのだから、この先ますます生きづらくなっていたところだ。


「これは何としても、現状を打破する方法が必要だね。少なくとも狂化ってスキルを何とかしなくちゃ、ココロちゃんも安心できないだろう」

「流石の私でも、スキルを消し去る方法は存じ上げませんね……ですが、スキルが変化するという例はあります」

「! そうなんですか!? そこんとこ詳しく!」


 ここに来て、ソフィアさんのスキル知識が火を吹きそうな予感に、私達の視線は彼女へ吸い寄せられた。

 ソフィアさんは記憶をたどる様子さえ見せず、スラスラと情報を吐き出していく。


「スキルの変化には幾つかのパターンが確認されていますね。最もオーソドックスなのは、スキルレベルを上限に至らせて尚鍛え続けた場合の【進化】です。これにはクラスチェンジが条件として関わっているという説もありますね」

「狂化を進化させるわけには行かないから、それはちょっと無しかな」

「クラスチェンジに伴い、従来のスキルが性能を変化させる事例もあります。その際、大きな変化を遂げるものは同時に名称まで変化し、別物になることもあります」

「やっぱり、鍵はクラスチェンジ……」

「その他ですと、何らかの方法で上位のスキルを手に入れた場合、下位互換に当たるスキルや、同系統のスキルを吸収、統合し、新たなスキルとして合成される場合もあるようです」

「狂化を何とかしてくれそうな、上位スキルの習得、ですか……」

「幸い私達は、自力で望んだスキルを獲得した実績があるから、可能性はあるね」

「問題は、どんなスキルが狂化を吸収してくれるか」


 流石のソフィアさん。私が聞いたこともないような知識を次々に披露してくれた。これにはココロちゃんも目を輝かせている。

 鬼というジョブ自体厄介ではあるが、厳密には狂化さえなんとかすればかなり状況は好転するのだ。ここで得られた情報は、ココロちゃんにとって朗報だったことだろう。


「まさか、ソフィアさんが参加してくれてこれほど有り難みを感じることになろうとは……」

「スキルの知識は、普通に考えて貴重」

「私にとっても、初めて知ることがたくさんあって、本当に助かりました。ありがとうございますソフィアさん!」

「ふふ、私にも様を付けていただいて構わないのですよ?」

「いえ、それはちょっと……」

「むぅ……」


 一人だけココロちゃんに様ではなくさん付けで呼ばれることを地味に気にしていたのか、ソフィアさんは不満げに頬を膨らませている。

 とは言え今回の報告会は、ココロちゃんの抱える問題に対して、なかなかに大きな進展を齎したと見ていいだろう。


「さて、それでは明日も早いのでもう休みましょう。見張りの順番を決めて、交代で番を――」

「あ。言いそびれてましたけど、私新しく【マップウィンドウ】ってスキルも覚えたので」

「え」

「私からの報告は、それで以上ですね。ではおやすみなさい」

「ちょっと待ちなさい‼ 何をさらっと爆弾投下してるんですかミコトさん!」


 また騒ぎ始めるソフィアさんに、ちょっと眠くなってきた私はいよいよ面倒臭さを覚える。

 しかしこのスキルに関しては、実のところオルカもココロちゃんも知っているのだ。


「オルカに協力してもらって覚えた、便利スキルなんですよ。便利スキルなので一緒に狩りをしていたココロちゃんにも知らせてますし、知らぬはソフィアさんばかりなり、ですねー」

「憤懣やるかたないとはこのことじゃないですか! 何眠そうに目元をこすってるんですか! ミコトさんは全て白状するまで私と見張り番です‼」

「えええー?」


 結局、本当に私は居残りを命じられ、オルカとココロちゃんはさっさと眠りについてしまった。

 それからあれやこれやと質問攻めに遭い、遅くまで解放されることはなかったのである。

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