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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三二六話 第二次偵察

 妖精やハイエルフの扱う特殊な術は例外だが、普通の人が扱えるスキルや魔法というのであれば、どうにかして発動までこぎつけることにより、この世界の仕組みだかなんだかに『そのスキルは習得したもの』と見なさせ、ステータスウィンドウのスキル欄に当該スキルの名を登録することが出来る。

 これにより、今しがたココロちゃんの見せてくれた【ディズィーズガード】の発動に成功した私は、結果それを習得したものとして扱われる事となる。

 そうしたら後は他のスキル類よろしく、発動を念じるだけで簡単にディズィーズガードを行使出来るようになったわけだ。まぁ覚えたてゆえ最低レベルではあるのだが。

 しかしここから更に魔力調律を駆使し、私自身の魔力を『ディズィーズガードの天才』と呼べるカタチへ変質させることで、私の使用するディズィーズガードは一時的にでこそあるけれど、理論上最高のスキルレベルで運用することが出来るってわけだ。

 我が事ながら無茶苦茶なことを考え実行している自覚はあるけれど、それがまかり通るのはつまるところ、普通の人はそれが出来ないってことの裏付けでもあるわけで。

 これをやって周りから変な目で見られる度に、私は自らの異常性ってものをこっそり認め、ちょっとだけ複雑な気持ちになったりもする。まぁ心配されるのも心苦しいから、大きな声では言わないけど。


 皆に時間をもらい調律を始めてから、約五分くらいか。魔力をこねくり回し、ようやっと理想的なカタチを掴むことが出来た。

 これでも相当速くなった方だが、やはり実戦中敵の目の前でやるには時間が掛かりすぎる。今のように、腰を据えられる場所でやる他ない。

 それというのも魔力のカタチは扱いの酷くデリケートな代物であり、それを感覚頼りに調律し維持しなくてはならないのだ。はっきり言ってとんでもなく難しい作業なのである。

 なのでもしこの『ディズィーズガードの天才』を何度でもパッと再現できるようにしようっていうのであれば、今苦労して維持しているこの魔力のカタチをしっかり体に覚えさせるために、念入りな反復練習を行う必要があり、当然その場でぱぱっと覚えるだなんてことは不可能だ。

 したがって今回のようにちょっと使う程度であれば、五分掛けて一々調律をし直すという運用法がベターとなっている。

 尤も、それ程間を置かずしての再調律ならばカタチを覚えているため、もっと短時間で再現できるわけだけれど。


「というわけで、今の私はかなり強力なディズィーズガードを扱えるわけだよ。斥候班を状態異常になんて、私がさせない! ってね」

「……ってね、じゃないわよ!! まさか本当にそんな妄想話を実現させてるっていうの……!?」


 と目くじらを立てるのは、実際に作業の一部始終を目の当たりにしていたリリである。魔力のカタチに関しては観測できなかったようだけれど、それでも結果が私の言を裏付けているため、疑うつもりはないようだ。効果の程を確かめるべくリリ当人に掛けたディズィーズガードは、それ程までに明らかな強さを彼女へ示したらしい。

 その隣ではクオさんが何やら諦念めいた遠い目をしており、更にその隣では聖女さんが手を組んで拝んできている。

 するとそこへ、クラウを中心に行われていた第二次斥候班選抜のプチ会議に参加していた、アグネムちゃんが戻ってきて言うのだ。


「ミコト様を私たちのモノサシで測ること自体がおこがましいのです!」


 そう言い残し、またテケテケと会議の方へ戻っていく。

 その背をすごい目で見送ったリリは、しかしいよいよ理解を諦めたように溜息をつくと、ようやっと話を本筋に戻す気になったようで。


「もういいわよ……それで、斥候班の選抜は終わったの?」


 とクラウたちへ声を掛ければ、概ね話し合いは纏まっていたらしく。

 後は当人の合意があれば、とのこと。

 そうして自薦他薦により選ばれたのは、先ず先ほどと同じオルカとクオさん、ココロちゃんだ。

 そこに加えて、火力役としてリリ、盾役としてクラウを交えた五人で向かいたいのだと。


「目的は奴の隠し玉ないし奥の手を引き出し、皆に情報を届けることだ」


 クラウがそう締めくくれば、指名されたリリにもクオさんにも否やは無いようで。

 前回PTストレージ経由での撤退も成功が確認できたことから、私を始め皆の中にあった危惧や緊張感も、いい具合に弛緩を見せている。

 斯くして第二次偵察に赴くメンバーが決定したのだった。

 そうなれば早速、彼女らへ覚えたてのディズィーズガードを掛ける私。

 理論値最高の効率に加え、魔力もできるだけ多く注いでの強力な魔法行使でもって、バッチリ彼女らへ状態異常耐性を施しておいた。

 これにより、どんな状態異常も今の彼女たちは寄せ付けないはずである。


「それじゃみんな、気をつけていってらっしゃい」


 と送り出せば、ボス部屋へ続く一本道を歩き始める五人。

 そして待機組である私たちは、再度プロジェクターの吐き出し始めた映像に注目するのだった。



 ★



 ボス部屋の扉は開かれていた。

 どうやら挑戦者がどこぞへ消えて部屋の中に居なくなったことから、初期の状態に戻ったらしい。

 緑の獣も律儀に地中へ潜り、その反応さえ消す徹底ぶりである。


 しかし現在、映像向こうにある彼女らの前には再び石畳を割り、地中より奴が姿を見せているところだった。

 が、そこへすかさずリリの強烈な一撃が見舞われる。

 登場の仕方すら把握している今の状態なればこそ、初手に高威力の攻撃を叩き込むことが出来るというわけだ。

 彼女曰く『偵察だなんてケチくさいことは言わないわ。一撃で仕留めてやる!』とのこと。

 そんな彼女の意気込みを示すかの如く、美しい弧を描き魔法剣の剣閃が一つ煌めけば、地中より顔を出した緑の獣へ恐るべき冷気が襲いかかる。彼女が好みよく使う魔法の一つだ。

 しかも超越者たる彼女の振るうそれが生半可なわけもなく。その身に冷気を受けた獣は体の殆どが凍結したのである。


 これみよがしにそこへ突っ込んだのは、クラウとココロちゃんだった。

 状態異常の脅威がないと分かれば、近接戦を仕掛けるのに何の躊躇いがあろうか。

 クラウの聖剣が鋭く斬り込み、ココロちゃんの金棒が凄絶に叩きつけられる。

 結果、呆気ないほどに奴の体は砕け散り、すかさず二人が飛び退けば、更にそこへリリの魔法がダメ押しを与えた。

 今度は石畳をガラス状に変えてしまうほどの凄まじい熱波である。それが容赦なく獣へ浴びせかけられ、氷結を逃れた肉体の残滓もこれにより燃やし尽くされてしまった。


 そんな光景を映像越しに眺めていた私たちは、ただただその圧倒的な火力に舌を巻いていた。


「メ、メチャクチャじゃん……」

「ええ、凄まじく純度の高いスキルです」

「うちのメイン火力ですからね」

「火力バカなだけです。ミコト様の偉大さには到底及びませんよ!」


 などと呑気なことを言っていたのも束の間。

 よもやこれで終わったなどとは露程も思っていなかった私たちは、誰もが油断なくマップを見ていた。

 すると案の定、そこには分かりやすい反応が見られたわけだが。


「うわ……みんな、十分注意してね。すごい数が来るよ」

『これは、私もカメラ係ばかりはしてられないかも。羽つきに切り替える』


 どうやら向こうでもマップは確認していたようで、注意を促すまでもなく既に敵の反応を捉えていたようだ。

 それに備え、オルカはカメラをハンディカムから羽つきに変えたらしい。

 これに伴い映像が一瞬暗転し、切り替わる。先程までのオルカ視点のものではなく、今度は彼女ら五人を俯瞰する、宙に浮いたカメラ、通称『羽つき』からの映像である。ストレージに入れておいた予備を使ったのだろう。

 因みにもともと私たちの様子を捉えていた羽つきカメラは、今も私たち待機班の近くに浮かんでいる。


『ちっ、前方は私がやるわ』

『背は私が担おう』

『私は天井を』

『ココロは適当に突っ込みます!』

『なら私は討ち漏らしの処理かな』

「私も遠隔魔法で支援するよ」

「ならば私は、狙い目の場所にマーカーでも立てましょうか」


 という具合に素早く役割分担が済めば、いよいよその時が訪れた。

 マップに映る敵の数は、数える気にもなれないほどの数多。

 それが広大なボス部屋の床から壁から天井から、所狭しと押し寄せては、次々に這い出し始めたのである。

 映像の向こうには、それはそれはエゲツない光景が見て取れた。緑の獣がごまんと溢れ、ともすれば気持ち悪ささえ覚えるような不快な景色を生み出していたのだ。


 彼女らが先ず対処するべきは、足元であった。

 そう、緑の獣は彼女らの足の下からさえ現れようとしたのだ。

 しかしそうはさせじと、先行してリリが自分たちの足元に強固な障壁を展開する。

 これにより、地中より足元に迫った獣らは壁にぶつかり、迂回を余儀なくされた。


 そうなればここからは、派手な殲滅戦の幕開けである。

 打ち合わせ通り、向かって正面の敵はリリの超火力範囲魔法にて大味に処理されていく。

 そんなリリの背はクラウが守り、接近を許さぬ構え。

 オルカは人間離れした動きで天井を駆け回り、獣が地上に落ちる前にその首を次々に刎ねて行った。

 ココロちゃんは、さながらボーリングのピンの如く獣たちを撥ね飛ばしながら元気に駆け回っている。撥ね飛ばされた獣たちが、大変グロいことになっているのは如何ともし難い光景だが。

 そしてクオさんは、先ほどと打って変わって短刀を二本逆手に持ち、宣言通り皆が討ち漏らした獣を的確に素早く処理して回っている。

 私は私で、せっせとマップを見ながら遠隔魔法を手当たり次第に連発し、ソフィアさんは傍らでマップ上にピンを刺し、突っ走るココロちゃんの先導役を受け持っていた。


「す、凄まじい光景ですね……」

「あぅ、私たちにできることって無いのかな……いっそ向こうに参戦しちゃおうか?」


 なんて所在無げに聖女さんとアグネムちゃんがオロオロしているけれど、今回はあくまで敵の手の内を探るための作戦である。

 一先ずこの物量こそが脅威であることは分かった。

 確かにこんな数で迫られたのでは、何はなくともそれだけで相当な戦力だし、これに加えて現場には状態異常を付与する花粉が濃密に漂っているはず。

 これでは状態異常を治癒している暇もないだろうし、耐性魔法の効果切れもやがて訪れることだろう。

 っていうかそれ以前に、スタミナや魔力が持たない。消耗し切る前に決着を付ける必要があるわけだ。


「オルカ、そいつらにコアって見える?」

『……うん、見える。各個体がそれぞれ備えてる』


 もしかすると、本体を叩かない限り無限に増殖するタイプかと思ったけど、どうやらそうではないらしい。

 各個体にコアがあるということは、全てがボスモンスター……いや、全て合わせてボスモンスターということだろう。


「厄介だな……でも手の内は知れた。みんな、消耗し過ぎる前に一回戻ってきて」

『く……そうね。了解よ』


 悔しげにリリが了承の返事を返せば、他の面々も次々に自らをPTストレージへ収納。

 斯くして第二次斥候班はその役を果たし、多少の消耗はあれど大きな怪我もなく撤収に成功したのであった。

 PTストレージより彼女らを取り出せば、無事に再合流が叶った。

 マップを見れば、挑戦者のロストを受けて、大量の獣らは再び地中に潜り始めたらしく、あっという間に鳴りを潜めてしまった。


 さて、どう対処したものか。

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