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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三二一話 予定変更

 時刻は〇時も半ばになる頃。

 ようやっとダンジョン内の冒険者達を全員外に連れ出す、というミッションを完了した私たちは、最後に戻ってきたイクシスさんに労いの言葉を掛けていた。


「イクシスさんお疲れ様」

「本当ですよ! 今日はずっと出ずっぱりで、さぞお疲れでしょう! お食事になさいますか? それともお風呂? それとも……」

「ね、労ってくれるのは嬉しいが、体力には自信があるんだ。そこまで心配しなくとも平気だよクリスちゃん」

「クリスってばそのセリフ、新婚のお嫁さんみたいだよ」

「!! あ、あう、いえそんなつもりじゃ……」


 などと、クオさんに茶化されて珍しく顔を真赤にし、あたふたしている聖女さん。

 今日はなかなかに忙しい日だったため、皆結構なお疲れムードだったところをうまい具合に和ませてくれた。

 それを認め、改めてイクシスさんが皆へと向き直る。


「皆、今日もよくやってくれた。私も頑張った。明日もよろしく頼むぞ!」

「パワ。それにしてもミコトちゃんの作戦は正に妙案だったぱわ!」

「開き直って逆に、『怪しい集団』に徹する作戦ですね」

「勇者イクシス様の関係者なら、多少常軌を逸した能力を見せても必要以上に怪しまれることはない……確かにそのとおりになりました」

「正直、最初はそんなのが上手くいくのか心配だったけど、思いがけずすんなり受け入れられたね」

「勇者を直接知っている人はそう多くない。だから話には必ず尾ひれが付くし、そこに紛れれば大抵の不思議や不自然は目立たなくなるもの」

「『木を隠すなら森の中』というやつですね!」


 そう。ダンジョン内に取り残された冒険者達を外に連れ出すに当たって、ネックとなった幾つかの問題は、私のスキルを活用することで解決が可能だった。

 が、それをどう目立たずに用いるかという点に関しては、何かしらの策を講じる必要があったのだ。

 下手にスキルを使用したのでは、私が転移スキルを持っていることや、マップという超常の探知スキルを所有していることに感づく者が出てくるかも知れない。

 かと言って、それらを隠そうとすれば次は、目的の方を成せなくなってしまう。

 正にあちらを立てればこちらが立たず。手段を隠して何かを成すというのは、斯くも難しいことなのだと思い知らされた。


 そこで考えた手段が、『開き直り』であった。

 即ち、「そういう事が出来てもまぁ、それほど不思議ではないか」と思われるような存在をでっち上げさえすれば、然程の追求を受けることはないんじゃないかと。

 確かに強引なやり口であることは否めない。実際追求したがる人だって確実に出てくるような方法だった。

 が、状況が状況なだけに、そこはもうある程度目をつぶる他ないと、腹をくくって割り切ってしまったのだ。

 幸いなことに、拍子抜けするほどツッコミの類はなく、存外あっさりした冒険者たちの反応に殊更私なんかは、密かに胸を撫で下ろしたものである。


 私たちは全員で顔を仮面で隠し、全身を覆う黒ローブで容姿の一切を隠蔽した。外見から判別できるのは、精々が背丈や大まかな体型くらいだろうか。あと仮面の種類。

 なのでイクシスさんに付き添い大勢の人の目に触れる場面では、体格の似通った数名のメンバーを見繕い、その役を担ってもらった。

 加えてイクシスさんにも怪しい集団のことを『彼ら』という言葉で示してもらうことで、女性チームであるという可能性から意識をそっと遠ざけさせてもいる。


 これにより、勇者イクシスには謎の協力者集団が存在した! という情報こそ出回るだろうけれど、それより踏み込んだ情報というのはきっと出にくいはずだ。

 ただまぁ、これ以降あまりイクシスさんと親しくしているところを他者に知られては、私たちこそがその怪しい集団なのでは? と感づく者が出かねないため、実質些か身動きが取りにくくなった節は否めないが。

 ともあれ、代償はあれど目的は果たした。

 ダンジョンから冒険者たちに退出してもらえたことで、外で草人形にあてがえる戦力は増えたし、明日には増援もやって来る見込みだと言う。

 それ以降も救援要請は既に各方面へ送っているため、時が経つにつれて多くの戦士が集まるだろうとのことだった。


 ただ、時が経てば経つだけ厄災級アルラウネも大地を喰らい、力を蓄えるに違いない。それに伴う被害の拡大も深刻だ。

 悠長に戦力が揃うのを待っている時間はなく、明日からはまたダンジョン攻略に集中しなくてはならないだろう。

 その後は厄災級アルラウネとの決戦も控えている。

 それ以前に、残り三つあるダンジョンそれぞれを攻略した際生じる変化が如何様なものかも未知数であり、その被害を抑える手を打つ必要もあった。


 ダンジョン攻略にはイクシスさんが当たるから手出し無用、という旨は既に冒険者達に通達してあるため、これ以降余計な手間が掛かることはないと思う。

 が、それも増援が到着して、草人形に当てる戦力に余剰分が出てくれば、きっと「勇者様をサポートするぞ!」だなんてことを言い出す人が出てくるに違いない。

 何れにしてもダンジョン攻略にそれほど時間を掛けるわけには行かない、ということだ。

 が、そうは言えども体よく残りのダンジョンを攻略し終えたとして、厄災級アルラウネをそも私たちだけの力で倒しきれるのかという大きな問題もある。

 イクシスさんやサラステラさん、それにリリまで居るのだから大抵の敵になら対処できるとは思う。

 だけど、確証はないわけだ。現にイクシスさんたちは、厄災級アルラウネの蕾を火力不足から仕留めきれなかったと、酷く悔しげにしていたのである。

 それがいよいよ成長したとあらば、果たして……。


 最悪の場合、それこそ湯水のごとく大量の人員を導入して当たらねばならないような、そんな状況が訪れるかも知れない。

 その可能性を避けるには、ともかく厄災級が育ち切る前にダンジョンを攻略し終え、未成熟な奴を叩くのが重要だろう。

 そうさ。私たちは変身を待ってやるほど悠長な生き物ではないのだから。

 もしも目の前でヒーローが変身ポーズを取り始めたなら、私たち冒険者はきっとその誰しもが構わず攻撃を仕掛けに行くだろう。

 我武者羅に勝って、獲って、生き延びる。

 そのために、明日も頑張らなくては。


 話もほどほどに切り上げ、私たちはその後お風呂で汗を流すと、あとは各々夜食を摂るなり部屋でくつろぐなりして過ごし、やがて眠りに落ちたのであった。

 ちなみに蒼穹の地平もレッカも、宿はチェックアウト済みらしい。何なら滞在していた町を出て、現在は次の目的地への移動中……という体を装いイクシス邸に滞在しているそうな。

 私だけは相変わらずおもちゃ屋さんで寝泊まりしているが、妖精の情報についてはちょっと毛色が異なるため、おもちゃ屋さんへの行き来に関してはこっそり行うことにしている。

 そんなこんなで今日も私は、妖精師匠たちがこしらえてくれたベッドにて微睡みの中に沈んでいったのである。



 ★



 明けて早朝。

 イクシス邸の食堂は、滞在している人数も多いということでなかなかの賑わいを見せていたが、しかし皆が一堂に会する席でただ談笑ばかりしているわけにも行かない。

 皆ちゃんと目が覚めていることを確認した私は、徐に席を立って皆の注意を集めた。


「食事を続けながらでいいから、聞いてほしい。ダンジョンの攻略方針についてなんだけど」


 ぶっちゃけた話、通話を介すれば話し合いなんてほぼほぼ時間も場所も選ばず出来てしまう。

 故に、この話は昨日寝る前、既に皆とおおよそ意見を交えて決定した方針の確認である。

 中には寝落ちして聞いてなかった人も居るみたいだし。


「攻略開始当初、ダンジョン攻略の手順は、一つ一つ確実に落としていくって予定だった。けど、昨日一つ目のダンジョンボスが落ちたのと時を同じくして、草人形が強化されるっていう異変が発生。これを受け、大規模結界の展開による大半の草人形の封じ込めと、ダンジョン内に残っていた冒険者たちの排出を実行。そして彼らを含む地上の戦力にて、結界からあぶれた草人形に対処してもらう、ということで状況を整えることに成功した」


 皆が黙って頷くのを確認し、続ける。


「しかし二つ目のダンジョンを攻略した際にもまた、何かしらの異変が生じるものと考えられる。草人形のさらなる凶暴化って線が濃厚だけど、断言も出来ない。果たしてそれに今の地上戦力が対応できるかすらも」


 現状は結界があるため、草人形の多くを無力化することが出来ている。

 が、二つ目のダンジョンを攻略したなら、それすらどうなるか分からない。

 もしかすると結界外に大量の草人形が湧いて出るようになるかも知れないし、結界を破壊できるほど草人形が強化される可能性もある。

 可能性と言うだけなら、それこそ幾らでも挙げられるわけだけれど、何れにせよ良くないことが起こるだろうという見込みだ。


「そこで、攻略手順の変更を行おうと思う。これまでの予定なら、イクシスさんとサラステラさんに今日潜ってもらうのは、私たち鏡花水月が攻略を進めていたダンジョンってことになっていたのだけれど。これを変更して、四つ目のダンジョンに当たってもらうことにした。そして今進めているダンジョン攻略については、ダンジョンボス直前まで攻略を続行。それが済んだ後は他のダンジョンの攻略サポートに入る予定だよ」


 これには、昨日早々に寝落ちしていたサラステラさんが目をパチクリとさせている。

 それを横目にしつつ、更に話を続ける私。


「三つ目四つ目のダンジョンもそうしてボス直前まで攻略を進めて行き、一旦足並みを揃えてから一気にボスを叩く。これにより、発生すると思われる何らかの異変一つ一つに対し、後手に回るのを避けるのが狙いだよ」


 と、ここでスッとサラステラさんの手が上がった。挙手である。


「だけどもし、想定以上の異変が起こったら、地上の戦力だけじゃ対処できないんじゃないパワ? もっと増援が増えてから動いたほうが良いんじゃないパワ?」

「うん。それは昨日も最後まで意見の割れた問題だよね……増援を待てば厄災級アルラウネによる『食事』は進み、大地はより広い範囲が喰い尽くされちゃう。だけどその分、大きな異変にも対応しやすくはなる」

「パワ……増援を待たず速攻をかければ、被害拡大は食い止められる反面、リスクも高いパワ……」


 何れを選ぼうとも、何らかの被害やリスクは逃れようのない状況だ。

 無難な選択をするのなら、サラステラさんの言ったように機を待って、地上戦力の充実を目指すべきかも知れない。

 しかし被害を最小限に留めたいのなら、リスクを覚悟で一気に決着をつけに掛かるべきだろう。


「まぁいずれにせよ、一先ず残すはダンジョンボスを倒すだけ、という状態にまで持って行くべきじゃないかな。ってことが昨日寝る前の話し合いで決まった内容なんだけど。何か疑問や異議、意見なんかがある人がいれば今のうちに聞かせてほしい」


 と、これまでに決まっていた方針の確認を行った上で、何か新しい意見等は無いだろうかと募ってみたところ。

 手を上げたのはクオさんだった。


「攻略方針に異議はないけど、一つ質問。勇者様たちはともかく、鏡花水月の攻略速度が明らかに異常なんだけど、よかったらそのからくりを教えてくれないかな? 真似できるのならこっちでも取り入れたいし」

「クオ、他所様の企業秘密を問うだなんて非常識ですよ!」

「いやいや、大丈夫だよ。別に特別なことなんてしてないし。重力魔法を使っただけだよ、こんなふうに」


 そう言って私がぽんと宙に浮かび上がってみせれば、ぽかんとしてそれを見る蒼穹の地平の面々。


「あとは、スペースゲートを使用すれば直線距離は一気に短縮できるし、私単独ならテレポートが便利だね」

「はぁ……真似しようとか言った私がバカだったよ……」

「あーでも、手分けをして階層探索を行って、最初に階段にたどり着いたメンバーの所に、ストレージ経由で飛ぶっていう方法なら真似できるんじゃない?」

「私たちはストレージからの取り出しが出来ないじゃない」

「あぁ、そう言えばそうだった。でも取り出し許可を出すってことは、ある意味財産共有になっちゃうからね、そこは勘弁してもらわないと困るっていうか……」

「それなのですが、ミコトさん。もしかしてフォルダ限定での取り出し許可というのは出せませんか?」

「! それは試したことなかったね……えっと……お、出来るじゃん!」


 私の持つ、所謂ウィンドウ系スキルの不便な点は、出来ることと出来ないことが分かりにくいという点にある。

 それこそゲームのように、メニュー選択なんかがいちいちあれば良いのだけれど。しかし残念ながらそういう仕様にはなっていないのがウィンドウ系スキルである。

 確かに幾らかはそういう項目もある。このボタンをタッチすればこういう事が出来ますよ、みたいな。

 しかし便利な機能の多くは、『もしかしてこんな事って出来ますか?』と意識内で問うてみて初めて、その可不可が判明するという仕様なのだ。

 可能ならそれが実行されるし、不可能なら何も起きない。

 今回はソフィアさんの言う、限定取り出し許可についてその可不可を問うてみたところ、可能であることが分かった。


 早速私は蒼穹の地平メンバー全員に、疑似転移用に使用している専用フォルダへの限定取り出し許可を与えたのである。

 そう、全員だ。いつの間にか聖女さんやクオさんの名前も、私のPT一覧内に追加されており、先日から通話もマップもストレージへの収納も利用可能になっている。

 そして今、彼女らは限定的でこそあるがストレージからの取り出しも可能となった。


「これで一層攻略が捗るね!」

「そんなことが出来るんなら、もっと早く使わせなさいよね!」


 というリリの文句を受け流しつつ、他に意見はないかと皆を見渡すも、あとは細々としたすり合わせが行われる程度であった。

 斯くして今日も今日とて、皆でダンジョン攻略である。

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