第三二話 大発見
未だ浅いとはいえ、紛れもない夜闇のなか、私達は火を囲んで話の続きをしていた。
チロチロという、焚き火のオレンジに照らされながら立ち上がった私は、気負うでもなく口を開く。
「ええと、それじゃ最後に、私の覚えた新しいスキルだけど……まずは、そうだね。アイテムストレージのレベルが上ったのが一つ。それにステータスウィンドウもレベルアップしたみたい」
「アイテムストレージに関しては、既にお話を伺っていましたけれど。ステータスウィンドウもですか? いつ上がったんですか!? どんな変化がありました? というかどうして私に報告しないんですか!?」
「報告会を開いて一斉に発表しましょうって言い始めたの、他でもないソフィアさん自身でしょう!?」
「それはそれ、これはこれです!」
「ソフィアうるさい。ミコトの話が聞こえない」
「静粛に、ですよ」
さっきまでのドヤ顔は何処へやら、前のめりになって騒いでいるソフィアさんをオルカとココロちゃんが制し、私はため息を一つ吐いて説明の続きを行った。
「まずアイテムストレージですけど、容量は以前の一六枠から、倍の三二枠へ拡張されました。っていうのはまぁ、重要情報だったんで事前にみんなに知らせておいたんだけど、更に機能が一つ追加されたっぽいんだよね」
「私! 気になります‼」
「あ、はい。実はアイテムストレージって、ステータスウィンドウみたいな窓が視界内に表示されて、ストレージの内容をリストで確認できるようになってるんですけどね。そのリストからアイテム名を選択すると、選択した対象に関する情報が表示されるようになったんです」
「! そ、それって要は、鑑定スキルじゃないですか!」
アイテムの一覧を、仮に『アイテムウィンドウ』と呼ぶとして、アイテムウィンドウにはアイテム名が並ぶ。思い返してみると、実はこの時点で既にアイテム名っていう立派な情報が手に入っていたんだよな。
それに輪をかけるように、アイテム名に意識を集中すると、アイテムの説明ウィンドウが別途展開されるようになったんだ。
内容は簡単なフレーバーテキストとか、サムネイルとか。まぁ、あんまり詳細な情報はわからないんだけどね。
「それって、どの程度の情報まで分かるの?」
「や、そこまで細かいことはわからないよ。大雑把な説明文と、アイテムの状態が表示されるくらいかな。ああ、けど――」
「けど、なんですか! 何を勿体つけているんですか、早く説明してください!」
「圧がすごい……ええとですね。装備品をストレージで確認すると、私のステータスに加算される数値を確認できることが分かったんですよ」
「おお、それは便利そう」
「装備選びが楽になりますね! あ、でもお店で勝手にストレージに入れるのはマナー違反ですよね……」
「そうなんだよねぇ。それで使い所も今のところあんまりないから、報告会まで黙ってたんだけど」
なんて雑感を言い合っていると、なんだかソフィアさんが黙ってふるふると震えていることに気づいた。
ヤバいこれ、爆発する前兆のやつだ。
「な、な、何を的外れなことを言ってるんですかあなた達は‼」
ほらみたことか。
「装備の能力を数値化して確認できるだなんて、それは高ランクの鑑定スキルでやっと可能になる、商人にとって垂涎の能力ですよ!? ましてそれがアイテムストレージの副次的な効果でしか無いだなんて、大事件です‼」
「ミコト、ここは話に乗るべき」
「あ、うん。わーたいへんだー! 私はなんて神スキルをてにいれてしまったんだー!」
「神スキルなのは当然です。何せミコト様のスキルなのですから!」
「ミコトさんばかりズルいです! なんですか、プレイヤーというジョブがそもそもの原因ですか! どうしたらなれますか!?」
「いや知りませんし。っていうかまだ発表の途中なので」
今にも掴みかかってきそうなソフィアさんを警戒しながら、私は次にステータスウィンドウの話をする。
「次にステータスウィンドウについてですけど、以前は一通りのステータスと、覚えているスキル類が見える程度だったんですよね」
「それがどう変化したんですか?」
「とりあえず、装備品の情報が追加されてました。そしてストレージ同様、装備品の説明を見ることが出来ました。あと、装備補正を除いたステータスの確認も簡単にできるようになりましたね。悲しいくらい低いので、普段はあまり見ませんけど……上がるのも遅いし」
「つまり、ミコトは直接装備しても、ストレージで確認する時みたいに、装備品の性能がわかるってこと?」
「そうなるね。ストレージに入れるより、ずっと使い勝手が良くて助かってるよ」
「すごいです! 流石ミコト様の神スキルです!」
「ぐぎぎぎ……私も、欲しいんですけどぉ……」
いよいよ目が血走り始めたソフィアさんが、なんだか心配になってきたけれど、私はここでお茶を濁すべく一つの話題を投じることにした。
それは、私にとってはかなり重要な発見だったから。
「ここで私なりに、大きな発見を一つ報告させて欲しいんだけど」
「! ま、まだなにかあるんですか!?」
「いえ、まぁもしかすると、私が無知なだけで常識なのかも知れませんが。これは装備欄を確認していて気づいたことなんですけどね」
ソフィアさんがゴクリと生唾を飲む。そんなに期待されても困るんだけどな。
何せ見方によっては、結構当たり前の話なんだもの。言われてみればそれはそうか、という程度の話。
「実は下着も、装備品にカウントされてるんですよ。装備可能数の上限は全部で一六。そのうちの二つを、パンツとブラで埋めちゃってることに気づいたって話です」
「へぇ、そうだったんだ」
「ココロも知りませんでした。なるほど、装備の内容を確認できるということは、そういう発見も出来ちゃうわけですね!」
「…………せ」
「? ソフィアさん……?」
あ、やばい。またオーバーなリアクションの予兆だ。流石にお腹いっぱいだから、薄味の反応が恋しいのだけれど。
ふるふると震えまくっている彼女を見ていては、それも期待できそうにない。私はそっと、耳の穴に人差し指で蓋をして、目を閉じた。
「――――~~っ ――――‼ ――‼ ――――……」
「ああああ、聞こえない。うん。何も聞こえないー」
嵐が過ぎ去るのをしばらく待っていると、とんと誰かが肩を叩いてくれた。このソフトタッチはオルカだな。
私は目を開け、終わった? とオルカに尋ねる。それに頷きで返し、視線でソフィアさんの方を促す彼女。つられてそちらを見てみれば、恨めしげな目でこっちを睨んでいる。
げんなりして、とりあえず耳栓を外す。
「で、ソフィアさんはなんだって?」
「なんでも、世紀の大発見なんだそうです。これまではずっと、男女で装備可能数の上限に差があるとされてきたそうなんですが、まさか下着の数が関わっていただなんて盲点でしたね。ミコト様にかかれば、世界の謎も容易く紐解かれてしまうのです!」
「男性はブラなんてしないもんね。いや、たまにする人もいるのかもだけど」
「私は、装備上限数は変動するものだって聞いたことがある」
「それは多分、インナーとか、靴下なんかが枠を埋めてたってことなんだろうね」
「それなら確かに、辻褄が合う」
結構単純な話なのに、まさか今までそれに気づく人がいなかったとは……いや、いたのかも知れないけれど、広まらなかっただけかもな。情報社会ってわけでもなし。それに確認するためには装備を犠牲にする必要もあるわけだしね。
それに何より、上限を超えて装備された品が塵になって消滅する、というルールの性質上、誰もが一番最初に身に着ける下着が盲点になるのは、仕方のない話だったのかも知れない。だって装備の上から下着を着ける人なんていないから、下着が塵になる瞬間を見る人もいなかっただろうし。結果下着が装備品だと判明する機会もなかった、と。
「ともあれ私にとって、これは大きな発見なんだよね。何せ下着をつけなければ、装備枠が二つも浮くってことだからね! 決して低くないステータス上昇を見込めちゃうね」
「ミ、ミコト、それは流石に待って欲しい」
「そうです、ステータスを引き上げる代償に、乙女の大事な何かが犠牲になっています!」
「えー? 私は別に、そこまで気にならないタイプだけど。寧ろその分厚着するわけだから、大事な所が見られる可能性は低くなるかも?」
「そういう問題じゃ、ないと思う……!」
「あ。融合する時は相手の装備も完全装着の対象になるから、オルカにも実践してもらえると助かるなぁ。ゆくゆくはココロちゃんも……ね!」
「大問題!」
「うぅ、ミコト様がそう仰るなら……」
私の投下した話題は、どうやら思わぬ混乱を呼んでしまったらしく、一時現場は騒然とし、ソフィアさんも含めて皆がやんやと意見を主張しまくった。
そんなに大事なのか、パンツとブラ。
しばらく経って、ようやっと話が落ち着いた頃。私は一つ咳払いをして話を戻すことにする。
「それで、もう一個気になることがあるんだ。実はステータスウィンドウは、一緒に行動している味方を勝手にPTメンバーみたいな扱いにするらしく、その相手のステータスも、見ようと思えば見れちゃうんだよね。まぁ、オルカのをうっかり見てしまってからというもの、見ないように気をつけてるからそこは安心して欲しいんだけど」
「ココロは、ミコト様にならいくら見られても平気ですよ?」
「私は寧ろ、毎日だってチェックして欲しい……」
「私はあまり見られたくありませんね……。それより、気になることとは?」
「あ、はい。実はジョブについての話なんですけど」
ココロちゃんの抱える問題を知り、私もジョブについて何かわからないだろうかと、ステータスでジョブの項目をよく気にかけるようになった。
ステータスのスキルレベルが上がってから、特に何か変化はないだろうかと注意深く調べてみたけれど、特にこれと言った違いが見つかることもなかった。
「試しに、オルカのステータスを確認させてもらった時に、それを見つけたんだよね」
「そう。ミコトにステータスを見せて欲しいって言われたから、許可したの。そうしたら」
「追加のウィンドウが開いて、【アサシン】ってジョブ名が表示されたんです」
さながらそれは、スキルツリーを思わせる形だった。とは言え枝の数は一本だけだったので、ツリーと言えるようなものでもなかったけれど。ともかく、オルカのジョブであるところの【レンジャー】という表示から線が伸びており、その先に【アサシン】の表示があったんだ。
「そ、その話、もっと詳しく教えてくださいミコト様!」
「もちろん。実はこれって、ついさっき気づいたことだから、私もオルカも十分考察とか出来てないんだけど、とりあえず分かってることは全部聞いてもらうつもり」
「はい。ありがとうございます……!」
「それで、他になにか分かったことがあるんですか?」
ソフィアさんの、いつになく真剣な表情に促され、私は居住まいを正して説明を続ける。
オルカとアイコンタクトを取り、説明の許可を得てから語った。
「【アサシン】の項目を選択してみた結果、ウィンドウには簡単な文章が表示されたんです」
「【アサシン】についての説明、ですか?」
「いえ、『条件:敵に気取られること無く、多くのモンスターをコア破壊にて仕留めること』ってあったので、恐らくは……」
「まさか、クラスチェンジの条件……!?」
今度ばかりはソフィアさんも、大きなリアクションを見せることはせず、その代わり真剣な顔で押し黙ってしまった。そのことが寧ろ、この情報の重要性を示唆しているようで、堪らずこちらまで息を呑んでしまう。
けれど、黙っていられないのはココロちゃんだ。
「ミコト様、ココロを! ココロのジョブを見てください‼ クラスチェンジの条件がわかるのなら、今すぐにでも‼」
「う、うん。分かった。もともとそのつもりだったし」
いつになく切羽詰まった様子を見せるココロちゃん。
了解を得るまでもなく急かされたので、私はその場でステータスウィンドウを開き、そして彼女のジョブを確認したのである。
どうもです。カノエカノトです。
実は初めて誤字報告なるものを頂きましたので、この場をお借りしてお礼と謝罪を致したく!
まずは、誤字報告を受けての雑感ですが、正直とても嬉しかったです。
細かく読んでくれてる人がいるんだなぁと感じ、我ながら気持ち悪い笑みを浮かべてしまいました。
と同時に、お目汚ししてしまったことを申し訳なくも思います。
書き損じを見つけたときって、読むリズムを崩されたみたいでモヤッとしますよね。
本当にすみませんでした。
毎回投稿前には、一通り読み返して細かな修正なんかを行ってはいるのですが、目の行き届かなかった部分があったようで。お恥ずかしい限りです。
私も人の子ですから、今後こんなミスはしません! なんて言えませんので、もし誤字を発見し、モヤッとしてしまった方は報告いただけるととても助かります。
それにしても、誤字報告を頂いた部分の訂正ってとっても簡単なんですね。びっくりしました。
まさかのツークリック! むぅ、便利だ。
とは言えこの機能に甘えること無く、極力誤字脱字等には今後も注意していく所存です。




