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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三一九話 一つ目クリア

 厄災級と目される巨大アルラウネの攻略を始めてから、早くも三日が経過した。

 現在時刻は夕方五時を回り、空の向こうからは夜の気配が着々と近づきつつある時間帯。

 私たちダンジョン攻略班は現在、揃って小会議室に戻ってきており、現地の様子をリアルタイムに映し出す映像の一つに釘付けになっていた。


 そこには、イクシスさんとサラステラさんが共に攻略に当たっている一つ目のダンジョン、その最深部より送られてくる光景が投影されている。

 迎えた五〇階層はいよいよダンジョンボスの待ち構えるフロアであり、二人は今正にボス戦を繰り広げているのだ。

 敵はやはりと言うべきか、草人形だった。それも、とびきり強そうなやつ。

 サイズは大柄なゴーレムと見紛うほどに巨大で、優に五メートルはありそうだ。

 足は無く、そも下半身の形は人の体をなしていない。

 敢えて雑な見方をするのであれば、地中から上半身だけを出した草の巨人のようにすら見える。そんな巨人は地面より無数の触手めいた太い蔓を幾重にも繰り出し、二人へ獰猛に襲いかかる。

 恐るべきはその速さと鋭さで、ともすれば達人の鞭さばきを彷彿とさせるほどの脅威を誇った。

 きっと常人があれを前にしては、一秒と待たずして四肢をバラバラに裂かれてしまうのではないだろうか。或いは突き刺しによる串刺しか。

 それほどまでに、鋭く強烈な蔓さばきを披露する草の巨人はしかし、それに飽き足らず魔法まで放って来る有様である。

 当然その威力は絶大で、地と水を自在に操ってみせる奴の猛攻には、まるで僅かな反撃の隙も許さぬという徹底ぶりが見て取れた。


 対するイクシスさんとサラステラさんだが、流石の彼女たちとて相手は厄災級に連なるダンジョンのボス。一筋縄というわけにも行かず、その猛攻を前に防戦を強いられていた。

 とは言えイクシスさんの障壁は、物理的、魔法的干渉を一切阻む無敵の盾だ。

 草の巨人による攻撃の尽くは、その一切が彼女らへ何ら痛痒を与えることが叶わぬ有様だった。

 しかし障壁が堅固すぎて、イクシスさん側からも手出しできないというのが玉に瑕ではあるわけだが。

 同じくこの障壁に護られているサラステラさんにしても、身動きがとれない状況に甘んじている状態が続く。

 が、そんな障壁の内側より彼女たちは、虎視眈々と草の巨人の動きを観察し、屠る用意を着実に進めていた。


 そしてその結果、形勢は一瞬でひっくり返ったのである。

 唐突に解除された障壁。閃く極光。体の大部分を消し飛ばされた草の巨人。

 しかしやはりと言うべきか、凄まじい再生能力で体を修復していく奴は、如何にも難敵然としていた。がしかし、巨人の再生よりも二人の破壊力のほうが圧倒的に上回っており、何より一度流れを掴まれてしまった草の巨人に再逆転の手札は残されていなかったのだ。

 結局それから程なくして、地中に潜ませ護られていた巨人の核は、彼女らにより見つけ出され、敢え無く砕かれたのである。

 斯くして一つ目のダンジョン攻略は、見事に果たされたのだった。


 その一部始終を目の当たりにした私たちは、思わず感嘆の息を漏らした。

 実際自分たちであの草の巨人と対峙したわけではないため、正直それがどれ程凄まじいことなのかは推し量る他ない。

 けれど、ダンジョンの壁をプリンのように容易く抉り取る攻撃の応酬に、果ては瞬きする間に消滅した草の巨人。

 それらの光景から察するに、やり取りしているダメージ値の桁がおかしいってことはよく分かった。


 と、その時である。イクシスさんたちの活躍に目を奪われていた私たちとは違い、きちんと他の映像もモニタリングしていたチーナさんとレッカが声を上げたのは。


「皆さん、繭に異変が!」

「障壁の幾らかが消えたみたいだよ!」


 二人の言うとおり、見れば確かに厄災級アルラウネの引き籠もっている、幾重にも張り巡らされた障壁の繭がサイズダウンしていたのである。

 どうやらダンジョンを一つ落としたことで、障壁のおおよそ四分の一程が消滅したと見える。

 それは即ち、ダンジョンを攻略することが、厄災級を討つためにクリアしなければならない必須のプロセスであると証明されたことをも意味していた。


「やっぱりそういう仕組みだったか……」

「つまり残りのダンジョンも攻略できれば」

「障壁が全て解除されるってことですね!」


 そのように皆が攻略の手応えを感じ取ったのも束の間。

 不意にチーナさんがもう一つ何かに気づいたらしい。


「待ってください、草人形の様子が変です!」


 言われて別の映像へ目をやれば、確かにその変化を見て取ることが出来た。

 草人形が、明らかに凶暴性を増して冒険者へ襲いかかっていたのだ。ステータスも上昇しているように見受けられる。

 しかも、地中から湧いてくる頻度も上がっているようだ。


 現在地上にて、手の空いている冒険者の多くはダンジョンアタックを試みており、草人形に当たっていた戦力というのにそれ程の余裕はなかった。

 結果、忽ち劣勢に立たされる地上の冒険者たち。

 急ぎダンジョン内の戦力を呼び戻そうにも、それは如何にも困難であり、仮に呼び戻したところでその到着まで持ち堪えられるかも怪しい状況である。


「拙いわね……バカ仮面!」

「分かってる。行こうみんな!」


 リリに急かされ、私は早速皆を伴って現地へワープすることに。

 人手が要りそうなので、今回はチーナさんとレッカにも付いて来てもらう。


「二人とも行ける?」

「ま、任せてください!」

「ようやく暴れられる!」


 意気込みもバッチリである。

 イクシスさんたちに関しては、現地に直接ストレージ経由で来てもらうのが早いだろう。

 ということで早速ワープを駆使し現場に降り立った私たちは、以前にも増して物々しく感じられる空気に眉を顰め、直ちに散開。各々が草人形に対して攻撃を開始したのである。

 私もまた、遠隔魔法を発動しながらイクシスさんたちへ通話越しに現状を知らせた。

 すると、ボス戦直後で疲れているだろうに、二人は一も二もなく自らをストレージ内へ収納した。

 早速そんな彼女たちを取り出してやれば、これまた即座に草人形たちめがけ突っ込んでいくではないか。本当に、流石の一言に尽きる。


 斯くして冒険者側の被害を最小限に留めることはどうにか叶ったけれど、しかし草人形の凶暴化はどうやら一時的なものではないらしく。

 一向に落ちない草人形の出現頻度は、それに少人数で対処する私たちをじわじわと追い詰めていった。

 今の所なんとか戦線の維持を成り立たせてはいるものの、はっきり言ってジリ貧である。当然、私たちの体力も無限に続くわけではないのだから。

 対する草人形は、無尽蔵に生み出され暴れまわっている。寧ろ倒せば倒すだけ増えているようですらあった。それはさながら、ひっきりなしに補充される椀子蕎麦が如く。


 だがそこでふと疑問に思い、「もしかしてこれ、一度に活動できる草人形の数に上限があったりしないかな?」と、試しに皆へ通話で問うてみた。

 それというのも、草人形が使役モンスターであるならば、如何な厄災級とて一度に使役できる数には限りがあるのではないかと、そう考えたからだ。

 すると、皆から返ってきたのは『確かに可能性は高い。確かめてみよう』という提案であった。

 これを受け、私たちは早速行動を開始することに。


 しかしここでネックになるのが、今も一生懸命戦ってくれている一般冒険者の皆さんだ。

 この数日、草人形の対応に追われ続けてきた彼ら彼女らの体力だってそろそろ限界だろう。検証を行うとなれば、そんな彼らに一層の負担を掛けかねない。

 ばかりか、もし検証の結果草人形の数に上限など無いと知れ、奴らが無尽蔵に湧いて数がわんさかと膨れ上がったなら、それを大規模攻撃で一気に滅する必要が出てくるだろう。

 しかしそうなると、一般冒険者さんたちを巻き込む可能性が否めなかった。

 何せ私たちなんて、突然戦場にやってきた乱入者のようなものなのだ。そこには統率もへったくれもなく、彼らが私たちに「危ないから下がってくださーい」なんて声をかけられたとて、言うことを聞く道理もないのである。

 よってこう言っては何だが、彼らへ配慮するとなると、あまり派手な検証を実行することは難しいと言わざるを得なかった。

 現に私の遠隔魔法にも、うっかり巻き込まれる人が続出しており、実質既に私と彼らで足を引っ張り合っているような有様なのだ。


 さてどうしたものかと私が考えていると、不意にイクシスさんが『ここは私がなんとかしよう』と申し出てくれた。

 それから待つこと暫く。

 状況は唐突に動き始めた。


「勇者様だー! 勇者様が来てくれたぞー!!」

「俺たちは邪魔になる! 下がれ下がれー!!」

「今のうちに体制を整えろ! 怪我人には手を貸してやれー!!」


 という声がそこかしこから上がり、忽ち冒険者たちは戦線から離れていったのだ。

 どうやらイクシスさんが自らのネームバリューを存分に発揮した結果らしい。

 私たちはこれを受け、草人形の足止めに努めた。倒すのではなく、この場に留めるべく動いたのである。

 その際に大きな働きを見せたのは、イクシスさんとリリだった。

 万能型のイクシスさんは、強力な魔法も自在に操ってみせる。これにより大規模なドーム状の結界を生み出した彼女は、自身や私たち諸共、その内に草人形の全てを閉じ込めたのだった。

 加えてリリの大規模魔法が結界の際に氷の茨を作り出せば、草人形たちは結界障壁を破りに掛かることすら難しくなる。

 これにてどうにか草人形の勢いを留めることには成功した。

 後は経過を観察すれば、草人形の数に上限があるのかを確かめることが出来るだろう。


「イクシスさん、この障壁ってどれくらい維持できるの?」

『そうだな、破られなければ一週間ほどは大丈夫なはずだ。私が都度補強すれば延々ともたせることも出来るぞ!』

「それなら一旦拠点に戻ろうか。イクシスさんたちなんて、ボス戦直後にこの騒ぎだし。草人形の変化についても意見交換をしておきたいんだけど」

『ふむ……いや、どうせ名乗ってしまったのだから、私は少し情報を集めておきたい。皆は先に拠点に戻ってくれ。私も彼らと話したらすぐに戻るから』


 ということで、彼女を残して私たちは一足先にイクシス邸へ戻ったのである。

 時刻はなんだかんだで午後七時を回っており、普段ならそろそろ晩御飯でも頂いている時間帯だ。

 しかし現状は草人形が無限に増えるのか、それとも上限数が存在するのかという検証の最中であるため、食堂に足を運んで舌鼓を打っているような場合でもない。

 すると気の利く使用人さんたちはそれを見越していたように、サンドイッチなどの軽食を用意し配ってくれた。非常に助かる。

 と同時、ふと現地で戦っていた冒険者さんたちのことが思い起こされる。

 彼らはちゃんと食事を摂れていたのだろうか? ポコポコと断続的に湧いてくる草人形を相手にしていては、気の休まる暇もありはしないだろう。

 食事を摂る時間もそうだが、そもそも手持ちの食料面に於いても心許ない可能性がある。

 パトって町が近いらしいけど、行き来するにはそれなりに距離もあるようだし。補給担当の人員が居るとしても、持ってこれる食料には限りがあるはず。

 だとしたら、何かしら私たちで用意して届けるべきなのかも知れない。


 そんな話を軽くしてから、続いて本題へ。

 二〇からなる現地の映像群は、未だ飽きもせず地中から湧いて出ては暴れまわる草人形たちの様子を映し出していた。結界内には既に大量の奴らが屯しており、今尚増え続けている。

 結界の広さは広大で、厄災級アルラウネの繭を中心に半径四キロメートルほども覆っている、とんでもない代物だ。

 結界の根本にぐるりと氷の茨を敷き詰めたリリの魔法も大概おかしいが。

 それを成したリリは、流石に疲れたのか口数も少なくMP回復薬を先程から手放さない。時折こちらをじろりと見るのは、恐らく私の使う裏技を羨んでのことだろう。

 他方で彼女以上に大量のMPを使ったであろうイクシスさんは、未だ映像の中で余裕綽々としていた。改めてとんでもない人だと驚くばかりである。


 そのように現地の様子を皆で睨みながら、先ず声を発したのはサラステラさんだった。


「パワ……やっぱり、ダンジョンを一つ攻略したことが切っ掛けでこの異変が起きたぱわ?」

「ああ。状況から見て、恐らく間違いないだろうな」


 とクラウが同意すれば、彼女は居た堪れなさに眉根を寄せた。


「だけどダンジョンを攻略しなくちゃ本体を引っ張り出すことも出来ないんでしょ? 仕方のない過程じゃない」

「だね。だけどもし残り三つのダンジョンそれぞれを攻略する度、あの草人形たちが更に強化されていくとしたら……何か手を考える必要があるんじゃないかな」


 私の言葉に、皆は難しい顔で押し黙った。

 どうやら状況は、順番にダンジョンを攻略して大ボスとご対面! という、シンプルな攻略を許してはくれないようである。

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