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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三一八話 今日はここまで

 時刻は既に深夜一時を回り、ダンジョンを駆ける面々にもいい加減疲れが見え始めていた。

 そんな折、通話越しにオペレーター組より提案が届く。


『皆さん、今日はこの辺で切り上げませんか? まだ元気な方も居ますが、疲れの見える方も増えてきました』

『急を要する事態なのは確かだけど、余計な疲労は溜め込むべきじゃないもんね!』


 というチーナさんとレッカの意見により、私たちは今日のダンジョン攻略を切り上げ一度地上に戻ることに。

 これに伴い、まずは私から協力者の皆へ注意事項等の説明を飛ばしておく。


「それじゃ、改めて拠点への戻り方を説明しておくね。方法は簡単で、自分自身をPTストレージに収納してくれればそれで大丈夫。あ、聖女さんとクオさんは今の所PTストレージ使えないから、リリかアグネムちゃんが二人を収納するか、私が直接迎えに行くかする必要があるんだっけ」

『そんなことして大丈夫なんでしょうね? 体に害とかは?』

「今まで何度も試してるけど、無害だよ」

『私はミコト様を信じます! クリスちゃんたちに関しても、ミコト様の手は煩わせませんので!』

「ありがとうねアグネムちゃん。でもPTストレージへの収納は、抵抗されると失敗するから無理はしなくていいよ」


 魔法により直接身体に影響を及ぼそうという際には、必ずMNDというステータス値が抵抗力を発揮することになる。

 けれど術を受ける当人が、影響を受け入れる場合にはMNDをすり抜けることが出来るのだ。

 即ち、当人の同意なくしてPTストレージへの収納というのはかなわないわけで。

 ゆえにこそ、自分で自分を収納する、という方法が一番確実なのだけれど。

 如何せん聖女さんもクオさんも未だ私のステータスウィンドウ内にあるPTメンバー一覧には名前が出ていない。故に通話もマップもストレージも共有化が出来ない状態にあった。


 きっと未だにこの状況へ疑問や疑念を持っていることが予想される聖女さんたち。

 そんな彼女らを、果たしてアグネムちゃんたちはPTストレージへ収納することが出来るのだろうか?

 もし無理そうなら、私が直接出向いてフロアスキップやワープで拠点へ連れ帰る必要が出てくる。

 以前はちょっとでも抵抗されると、すぐ失敗してしまったそれら転移系スキル。

 しかし最近は、多少の抵抗があっても強引に他者を巻き込むことが可能になっていた。

 伊達に転移しまくっているわけではないので、多分レベルが上ったのだろう。


 まぁともあれ。チーナさんたちの提案を受け入れることにした私たちは、早速自らをPTストレージへ収納したのである。

 私だけはフロアスキップでダンジョンを脱出した後、ワープでイクシス邸小会議室まで一気に飛んだ。

 ちなみに私たちに付いていた羽つきカメラは既にストレージの中だ。

 斯くして私がぱっと姿を見せれば、一瞬ビクリとしたチーナさんとレッカはフゥと小さなため息をつき、お帰り、お疲れ様の言葉をくれた。

 それに応えつつ早速ストレージから仲間たちや、イクシスさん、サラステラさんをポイポイ取り出してみれば。

 既に慣れた様子の仲間たちやイクシスさんとは異なり、初めての体験となるサラステラさんは。


「ぱ、ぱわっ! 本当に単独で転移できたぱわ!」


 と目を丸くして燥いでみせた。

 厳密に言えば転移というのとは少し異なるのだけれど、実質的には転移と大差ないので野暮なツッコミはなしである。

 しかしながらやはりと言うべきか、PTストレージ内には蒼穹の地平の名前が一つとして見当たらず、未だ壁に投影されている映像に目をやれば、そこには当の彼女らの姿を見つけることが出来た。

 どうやら懸念したとおり、聖女さんとクオさんがPTストレージに収納される、ということに抵抗を覚えているらしく。なかなかどうしてアグネムちゃんたちによる説得も難航しているようだった。

 こんな時通話が使えたなら、イクシスさんの一声で聖女さんくらいは攻略できそうなものだけれど、それも今は無理な話である。

 そうして暫し問答を続けていた四人だったけれど、いよいよ短気を起こしたリリが一足早く自らをPTストレージへ収納してみせたことで状況は動いた。

 残されたアグネムちゃんもイライラしているようで、「これ以上ミコト様を疑うのなら、私ももう行くからね! 荷物はちゃんと置いていくから、あとは野宿でも何でも好きにしたら良いよ!」と言って、いよいよ聖女さんたちに決断を迫ったのである。

 結果、ようやっと折れてくれた二人は渋々ながらアグネムちゃんによるPTストレージへの収納を受け入れ、その後すぐに自らもストレージへ入ったアグネムちゃん。


 他方でその様子を見ていた小会議室側では、いち早くストレージ入りしたリリが目をパチクリしてサラステラさんと同じような感想を言っていた。

 それから聖女さん、クオさん、アグネムちゃんと取り出せば、ようやっと今日のダンジョン攻略も一区切りである。

 結局何事もなく戻って来れたことに、聖女さんたちは些か気まずそうな顔をしていたけれど、そんなことには構わず皆に声を掛ける。


「みんなお疲れ様。おかげで随分早く、ダンジョン攻略の方は片付きそうだよ」

「だな。私たちからも礼を言わせてくれ」

「ぱわ! 攻略する階層が減れば、それだけ早くダンジョンボスにたどり着くことが出来るぱわ! 明日以降もよろしく頼むぱわ!」


 イクシスさんとサラステラさんの言葉は、私に未だ幾らかの不信感を持っている聖女さんたちにしても、軽んじることの出来ないものであったらしく。それ故に今日の自らの言動を顧みて、居た堪れない心境に追いやられる彼女たち。

 まぁこの前エルダードワーフのゴルドウさんにも「お前は怪しい」とストレートに言われちゃったし、大事な仲間がいつの間にかそんな奴に肩入れしていたとなれば、尚の事聖女さんたちが警戒する気持ちも分かる。

 なのでもう少し時間を掛けて、あわよくば理解を得られれば良いな、というのが私の考えである。まぁ、口止めだけはさせてもらうわけだけれど。


 と、そこへ。

 小会議室の扉が不意にノックされたかと思うと、執事さんが入ってきて一礼。

 お風呂と夜食の用意があるとのことで、私たちは有り難く今日の疲れを癒やさせてもらうことにしたのである。

 全員で大浴場に向かい、裸の付き合いなんかを行えば。約一名、綺麗な手の平返しをする者が現れた。

 聖女さんである。


「ミコトさん……いえ、ミコト様。貴女はもしや、天より遣わされた天使様なのでは……?」


 などと言い出す彼女は、どうやら私の素顔を見てそんな考えに至ったらしい。

 が、これに噛み付いたのはココロちゃんとアグネムちゃんである。


「天使なはずありません! ミコト様こそが女神様なのです!!」

「そうだそうだー!」

「いえ、ですがしかし主は天より常に我らを見守っておられるはず……であればミコト様は天使様で間違い有りません!」


 などと、おかしな言い争いが勃発し、私が一人ため息をついていると、未だ難攻不落を保つクオさんがこちらへジト目を向けていることに気づいた。

 思わず苦笑で返せば、彼女はぷいっとそっぽを向いてしまう。

 信用を勝ち取るって、やっぱり簡単なことじゃないんだなぁ。


 お風呂を上がった後は、用意されていた夜食を皆で美味しく頂いた。

 深夜ということもあり、お腹に優しい軽食ではあったけれど、皆ダンジョンを駆け回ったあとであるためお腹はペコペコ。

 おかげで胃を慰めることも出来、満足した皆はいよいよオネムである。


「さて、それじゃみんなを宿まで送っていかなくちゃね。帰り支度をお願いするよ」

「む? 泊まっていってくれても構わないんだぞ?」

「いや母上。宿に戻らず外泊を続けるというのは、やはり如何にも不自然だろう。家に泊まってもらうとするなら、明日以降に都合をつけてからが妥当だと思うぞ」


 クラウの言葉に、殊更怠そうにしたのはレッカである。

 彼女はついこの間までここに滞在しており、使用人さんたちとも親しい関係を築いている。つまりは勝手知ったるなんとやら、というやつだ。

 なればこそ、ちょっと宿泊しているだけの宿に戻るよりこの屋敷のほうが落ち着くというのは、仕方のないことなのかも知れない。

 が、クラウの言うことも尤もであると分かっていればこそ、のそのそと重い腰を上げて帰り支度を始める彼女。

 蒼穹の地平メンバーも各々、面倒臭げに荷物をまとめ始めた。

 ちなみにサラステラさんとチーナさんは、このまま泊まるつもりのようである。サラステラさんはもともと雪山に居たしね。チーナさんも、オレ姉に連絡を入れておくから問題ないとのこと。


 そうして宿に戻る組の支度が済むのを待ってから、私は彼女らとともに本日何度目ともつかないワープを実行したのである。

 先ず向かったのは蒼穹の地平が泊まっている宿だ。時刻は既に深夜二時を大きく過ぎており、それ故に自然と誰からともなくヒソヒソ声で喋り始める。

 真っ先に声を上げたのはレッカだった。


「わぁ、広い部屋! いいとこに泊まってるんだねぇ」

「当然よ。それなりに稼いでいるのだし、わざわざ安宿を選ぶ理由なんて無いでしょ」


 レッカの言うとおり、転移した瞬間鼻に届くのは程よいアロマの香り。照明は留守にしていたため最低限のものしか灯っておらず、それ故部屋の中は暗かったけれど、それでも広くて高級感のある様は見て取れた。

 ちなみにレッカがついてきたのは、この後彼女の宿へ飛ぶためである。イクシス邸に残してきたのでは、二度手間になってしまうしね。

 確かに自分たちの部屋に戻ってきたということを確認した面々は、ようやっと肩の力を抜いてくつろぎ始めた。

 そんな彼女らへ、去る前に一つ確認を取る。


「それで、明日なんだけど。用意が出来たなら通話で呼んでね、迎えに来るから。なんならPTストレージ経由でも来てもらっても構わないけど、それはそれで一報入れてからお願い」

「……あんた、ほんとに大丈夫なの? そんなバカスカ転移しまくって」

「どうだろうね。流石に今日はちょっと疲れてるよ」

「ど、どうかご無理はなさらないでくださいね!」

「必要とあらば、治癒魔法をお掛けしましょうか天使様!」

「だ、大丈夫なので。それじゃおやすみ」


 そのように小声で彼女らへ別れを告げると、私はレッカとともに再度ワープにて転移を果たしたのだった。

 次に訪れた先は、レッカの泊まっているまずまずの宿である。直接彼女の部屋へ転移したわけだけれど。


「はぁ……私の部屋は、どうしてこんなに慎ましやかなんだろう」

「もっと高い所に泊まれば良いんじゃない?」

「うーん、それはそれで勿体ないような……やっぱりイクシスさんのところが一番だよ!」

「そっかー」


 なんてやり取りをし、レッカにも一応明日連絡をしてくれたら迎えに来る旨を告げて、その場を後にしたのである。

 飛んだ先は、私の住み込んでいるおもちゃ屋さん。今となってはここが私の家と言っても過言ではない。

 普段は直接屋内に転移することはしないのだけれど、時間も時間なので今日は寝室へ飛ばせてもらった。

 しかし何気に心配性のモチャコなんかは、裏口前で私が帰ってくるのを待っていることもしばしばある。

 なので念の為、寝室をこそっと出て裏口の方を窺いに行くと。

 案の定、宙に浮かんだまま鼻提灯を作っているモチャコの姿を見つけてしまった。


 帰りを待っていてくれたことに、嬉しさと申し訳無さを同時に感じながら、さてと考える。

 どうやって、彼女を起こすこと無く寝床まで運んだものかと。

 私の寝室は、妖精たちにとって非常に危険な部屋であるという、如何ともし難い共通認識がまかり通ってしまっているため、モチャコを連れ込むのは憚られた。

 かと言って、モチャコの部屋はトイやユーグと同室であるため、こっそり彼女を送り届けるというのは一層難しく。


 結局私が床に就くのは、それからもう暫くしてからのことになったのである。

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