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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三一七話 夫々の考え

 厄災級モンスターとの関連が疑われるダンジョンの一つ。

 このダンジョンに潜り、なるべく深い階層まで歩みを進めてほしいと頼まれた冒険者PT、蒼穹の地平。

 しかし彼女たちはその目前にて、足を止めてしまった。

 この話を持ちかけてきたミコトへの疑念が、否応なくそうさせてしまったのだ。


「冷静に考えてみてください。私たちのいた町からノドカーノのパトだなんて、一体どれだけ距離があることか。どれだけ急いでも一月以上は優に掛かりますよ?」

「それをほんの一瞬で行き来するだなんて、先ずそこからあり得ないよね。しかも当人は見た感じ、まるで疲れた様子もなかったし」


 と主張するのは、聖女クリスティアと斥候のクオである。

 一方で難しい表情をするのはアグネムと、PTリーダーのリリエリリエラ。

 確かにクリスティアたちの言い分は尤もなものだ。普通に考えるなら、出来るわけがないようなこと。それをミコトは容易くやってのけるのである。

 そこに怪しさを感じないかと言えば、それは嘘になる。

 リリエラはそのことに眉根を寄せ、けれどしかしとも考えた。

 現に彼女は闘技大会の折にミコトと手合わせをし、あまつさえその後決闘までふっかけているのだ。

 ミコトの実力というものについては、その際にしかと我が身で確かめてある。

 リリエラはミコトから感じた『底知れ無さ』を、強く印象に残しているわけだ。

 事実ミコトは決闘の折、リリエラを降している。奇天烈な戦い方でこそあったけれど、あれがもしただの殺し合いだったとしたら、死んでいたのはリリエラで間違いない。

 いや、もし本当の殺し合いだったなら、もっと容易く殺されていた可能性すら感じていた。

 ミコトは何をしでかすかも、どんな手を隠し持ってるかも分からない。そんな不気味さを、確かにリリエラは感じていたのだから。


 ゆえにこそ、彼女が何かしらのまやかしを用いてこの現状をでっち上げたという可能性が、全く無いとも言い切れなかった。

 例えばそれこそワープなんかを駆使して、夜中自分たちの枕元にやってきて、特殊な夢を見せるスキルなんかを用いたり……。

 なんて思い至ると、途端に怖気が立つ。確かにミコトなら、その気になりさえすれば容易くそれを実現出来てしまうのだと気づき、怖くなったからだ。

 ワープとは、考えてみたらそれだけ恐ろしいスキルなのである。最強の暗殺手段と言っても過言ではないだろう。

 だがそれならば、とも思う。


「怪しいっていうのはまぁ、認めるけど。それならあんたたちは、アイツが私たちを騙そうとしてるとでも言うの? 何のために?」

「そんなの、私たちを利用する理由なんて幾らでもあるでしょ。それこそ何かと戦わせるとかさ」

「……まやかしだって言うんなら、クリス。あんたの魔法で解除できるんじゃない?」

「そう思って、既に試しました。ですが何れの魔法も効果はありませんでした……余程強力な術なのかも知れません」

「いい加減にしてよ!!」


 皆のやり取りに、とうとう大声を上げたのはアグネムだった。

 人一倍件のミコトに執心している彼女は、いよいよクリスティアたちの物言いが腹に据えかねたようだ。


「何なのみんな! とんでもない言い掛かりばっかりつけて! ミコト様の力がすごすぎて受け入れ難いのは分かるけど、なら逆にこの状況が全部真実で、ミコト様が純粋に厄災級へ立ち向かおうとなさっているだけだったとしたらどうするの? 被害をみすみす黙って見逃しておくっていうの? それだったらもういいよ、私一人で行くから! みんなはそこでいつまでも頭でっかちになってなよ!」


 そのように、言うだけ言ってダンジョン入り口へ駆けていくアグネム。

 その背を見て、逸早く動いたのはリリエラだった。

 無言でその後ろを追おうとする彼女へ、クリスティアが声を掛ける。


「リリエラも、ミコトさんの肩を持つつもりなのですか?」

「……肩を持つも何も。私は私を信じるだけよ。アイツとは実際直接やりあったこともあるし、為人も知ってる。あんたたちの抱いている『疑念』なんかより余程信用できる根拠だわ。アイツは確かに変なやつだけど、他人を騙すようなやつじゃない」


 そう言って、アグネムの後を追いかけるリリエラ。

 クリスティアとクオはしばしその背を眺めながら、小さく言葉を交わす。


「……どうするの?」

「そうね……アグネムの言うことは、確かにそのとおりよ。仮にこの状況が全て本当のことだとしたら、私は聖女の名を返上しなくてはならないわね」

「だけど本当だって言う確証もない」

「確証、ね。確かに確証はないけれど、それ以上に信用するべきものが私たちにはあるわ」

「そう、だったね。リーダーがああ言うのなら、私はその判断を信じるよ」

「ええ。行きましょう」


 斯くして、一人突っ走ったアグネムを追いかけ、ダンジョンへ突入した蒼穹の地平であった。



 ★



 イクシス邸小会議室では、レッカとチーナが大きなため息を漏らしていた。

 二〇余りある映像の一つ。蒼穹の地平を追うカメラは既に起動しており、彼女らのやり取りは実際バッチリこちらへ筒抜けとなっていたのである。

 あわや蒼穹の地平がまさかの戦力外になるかと思われた状況は、どうにか回避できたらしく。

 そのことに二人して安堵するレッカたち。

 しかし、画面向こうの問答に、思うところも確かにあるわけで。


「まぁ、私も気持ちはわからないじゃないけどね。ミコトってばほんとにメチャクチャだし」

「ミコトさんだけじゃありませんよ。他の方たちも大体メチャクチャです」

「あはは、そうかもね」


 レッカはミコトが闘技大会の際、夜遅くまで訓練に打ち込むさまを目の当たりにし、そこで不思議な現象を幾つも目にしている。故にこそ、ミコトの力に納得がいかず、自分は夢でも見ているのだろうか? だなんて本気で言い出したくなる気持ちも十分に理解できた。

 一方のチーナもまた、彼女たち鏡花水月とは一緒にダンジョンで戦った経験があり、そこで嫌というほど非常識を目にし、体験もしているのだ。ゆえにこそ、それらを素直に認められない気持ちも分かってしまう。


 とは言えだからこそ、今のこの状況が確かな現実であるとも理解している二人。

 場合によっては自分たちがオペレーターとして、蒼穹の地平を説得することになっていたことを思えば、そんな胃の痛くなる展開を回避できたことは幸いであった。

 初対面だったレッカとチーナだったけれど、共に安堵を共感したことから思いがけず早く打ち解けることが出来たのもまた、重畳である。


 そうしてレッカはチラリと映像の一つへ目をやり、チーナの「他の方たちも大体メチャクチャです」という言葉に、無言で納得を覚えていたのである。

 浅層とは言え、厄災級と繋がりがあると思しきそのダンジョンに於いて、ほぼエンカウントもなしに突っ走る鏡花水月。PTを二チームに分けた彼女たちはしかし、たまに出会う敵を一秒と掛からず瞬殺しては駆け抜けていくのだ。しかもドロップもちゃっかり拾ってるし。何ならオルカの居る方など、確実にコアを破壊してのレアドロップだ。

 同じ冒険者として、つい白目をむきたくなるような光景であった。


「はぁ……私、もっと頑張って強くなろう。具体的には、こういう状況でちゃんと戦力に加えてもらえるくらい!」

「そうですね。監視役っていうのは、確かにちょっと悔しいです……私もがんばります!」


 そう言って密かな悔しさをバネに、やる気を漲らせる二人。

 ともあれ小会議室は、今のところ異常なしである。



 ★



 チームを二つに分けて、ダンジョン内を走ることしばらく。私たち鏡花水月は既に五階層目に至っていた。

 今回のチーム振り分けは、私・ソフィアさんチームと、オルカ・ココロちゃん・クラウによるチームという内容になっている。

 今の所攻略は順調であり、手に負えないモンスターというのもまだまだ出てくる気配はない。

 とは言え勿論油断なんてしない。一寸先は闇。油断は大敵なのだ。


 しかし自画自賛的で何だけど、速度を重視した私たちのダンジョン攻略スピードというのは多分、尋常じゃないと思う。

 というのも、マップの恩恵も然ることながら、重力魔法で体を軽くしての文字通り身軽なダッシュでマップ埋めに当たっているためでもあった。

 これのおかげでイクシスさんたちにも多分、引けを取らない攻略スピードを出せていると思う。

 モンスターとエンカウントしても、私とソフィアさん二人がかりで【閃断】を使えば、速やか且つ難なく突破可能なわけだし。

 オルカたちのチームにしても、あちらは連携力に秀でている上、オルカのスキルでコアの位置を見い出せるため、たとえ多少強い敵でもあっさり片付けることが可能である。


 というわけでダンジョン内を爆走していたときのこと。


「あ」

「あああっ!! ミコトさん、気づきましたか! 今確実にマップのサーチ範囲が広がりましたよ! レベルアップです!!」 

「そ、そうだね」


 私より大はしゃぎするスキル大好きソフィアさんのせいで、リアクションを取りそこねてしまった。

 が、実際彼女の言うとおり、唐突にマップスキルのサーチ範囲がより広くなり、更には3Dマップのディテールがより鮮明になったりもした。色も付いたし。

 これは確かにソフィアさんの言うとおり、スキルレベルがアップしたものと見て間違いないだろう。

 早速通話にて皆に、その旨を伝えると。


『ミコト、これとうとう罠の位置まで知らせるようになった……私の存在意義がまた……』

『オルカをいじめてやるな。ほら、分かりやすくしょげてるじゃないか』

『ミコト様の偉大さに、また一段と磨きがかかりましたね!』


 という、概ねいつもどおりの鏡花水月。


『ああ、またこんな……』

『ミコトはこうやって便利になっていくんだね……』


 とはチーナさんとレッカの言。

 他方で蒼穹の地平はと言えば。


『っていうかあんたたち、今何階層にいるのよ?!』

『マップで見たら分かるよリリエラちゃん。ミコト様たちはもう五階層目! 流石だよね!』


 という、マップに不慣れなリリと、何故かマップを使いこなしてるアグネムちゃん。

 そう言う彼女たちはどうやら、まだ二階層目を走っているらしい。

 聖女さんたちはマップが見れないわけだし、重力魔法のバフもないのではそのくらいが妥当だろうか。

 しかしリリは納得がいかないらしく、もっと急ぐわよと仲間たちに檄を飛ばしていた。何だか大変そうである。

 そして。


『ぱわぁぁああ! ますます攻略捗っちゃうパワァァ!』

『有り難い、これで煩わしい罠を確実に回避できる。感謝するぞミコトちゃん!』


 という、既に深い階層を走っているイクシスさんたち。

 いよいよ罠の凶悪度というのもシャレにならないレベルになっているらしく、その対処に煩わされていたらしい。

 彼女たちにとって、罠をマップに映し出せるようになったこのアップデートは、渡りに船とでも言うべき利便性を発揮したようだ。


 斯くして、ますます勢いに乗って私たちはダンジョン内を突き進んだのである。

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