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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三一六話 懐疑心

 イクシスさんたちのダンジョン攻略を円滑なものにするべく、急遽最近出会った友人たちに協力要請を出すことに。

 結果、程無くしてイクシス邸小会議室にはレッカ、チーナさん、そして『蒼穹の地平』というPTの四人が集結したのである。

 この中で蒼穹の地平メンバーである聖女さんことクリスティアさんとクオさんは、今回始めてワープやその他諸々のスキルについて知ることになり、何ならプロジェクターを介し投影されている二〇あまりの映像に目を丸くしていた。

 というか、映像に関してはレッカ以外のみんなが驚いているわけだが。

 流石に私が作っただとか、妖精由来の技術だ、なんていうのは行き過ぎた情報供与なため、ここはイクシスさん秘蔵のアーティファクトだと言って誤魔化しておくことに。


 と、ワープ後の一賑わいも程々に、早速話は本題へと切り替わった。

 切っ掛けはリリである。


「それで、私たちに何をさせたいっていうのよ?」

「うん。それじゃ先ずはざっくり説明していくね」


 彼女たちにやってもらいたいのは、大きく分けて二つだ。

 一つは私たち鏡花水月に代わり、ここで映像チェックを行い状況を通話にて適宜共有するっていう、オペレーティングの作業。

 これはレッカとチーナさんに担当してもらいたい。

 レッカは存外鋭いところがあるし、チーナさんはこと『判断力』に関しては積極的に磨きをかけようと心がけている。

 今回の役目はきっとチーナさんだけでなくレッカにとっても、得難く良い経験になることだろう。


 そしてリリたち蒼穹の地平は、私たち同様にもう一つのダンジョン攻略に当たって欲しいと考えている。

 勿論通話とマップ、それからPTストレージを共有化するので、これを駆使すれば攻略もぐっと捗るだろう。

 ちなみにPTストレージの共有化についてなのだけれど、実はちょっと便利な機能が存在していることに気づいた。

 共有先の相手に開放する権限として、『出し・入れ』の両方ではなく『出し』か『入れ』の片方だけを許可する、という設定が可能らしいのだ。

 いつからそうなのかは不明だけど、身近過ぎるスキルであるため近頃まで気づかなかった。とんだ盲点である。


 ともあれ、これによりリリたちはPTストレージに物を入れることが出来る。

 即ち、ダンジョンからの緊急脱出に用いることが出来るというわけだ。

 しかし残念ながら、聖女さんとクオさんは未だPT欄に名前がないため、これらの機能を共有化することは出来ない。

 その事も含めてスキルの説明しておくと、まぁ全員が全員胡散臭気な表情を向けてきた。言外に、「本当にそんなスキルが実在するの?」と顔で語る彼女ら。

 それだけ信じ難い内容であるという事なのだろうけれど、私たちとしては当たり前に実用しているものなので、正直そんな顔をされても苦笑で返す他ない。


 それから幾つかの質問等に受け答えして、皆がそれぞれの役割を理解してくれたなら、早速作戦開始となる。

 何せこうしている今も厄災級による『食事』は続いており、既に結構な被害が出ているのだ。時間的猶予はないものと考えて行動しなくてはならない。


 斯くして話し合いは速やかに纏まり、早速先ずは蒼穹の地平メンバーを現地に送ることに。

 懸念していた聖女さんとクオさんは今のところ、驚きこそすれ変な気を起こすような気配はなく一安心。だが、失礼を承知しつつも用心するに越したことはない。この二人に関しては今後もなるべく気にかけておくようにしよう。

 そうして早速転移が済み、ノドカーノのパト近く、死んだ森……だった場所の人目につかぬ所へ一瞬で移動が済めば、未だに慣れないのか四人して呆けた顔をする。


「ほ、本当に転移してますね……」

「ほんと、とても信じられないね。実際体験しても、イマイチ納得が追いつかない」

「ミコト様のお力を疑うとか、失礼ですよクオちゃん!」

「だから言ったでしょ。コイツはデタラメなの……私を負かすくらいにはね」


 ぼそっと、気まずそうにリリがそう言えば、聖女さんもクオさんもやっぱり信じられないと言わんばかりの困惑顔だ。

 するとそれに対し、またもアグネムちゃんがプンスコし、珍しくリリがそれを窘めている。

 ともあれ、聖女さんたちからすると現状、私っていう存在はさぞ胡散臭いに違いない。ワープも、今起きている厄災級の被害も、これから潜ろうっていうダンジョンでさえ、何かしらのまやかしや夢の中の出来事みたいに捉えていたって不思議ではないくらいに。

 それだけ、彼女たちにとっては突拍子もない事態であるのは間違いないのだから。

 急にリリやアグネムちゃんから、「厄災級と戦いに行くから付いてこい」だなんて言われて、あれよあれよとイクシス邸を経由しこんなところまで連れてこられれば、そう思うのも無理はないだろう。二人からは相応に私への警戒心が感じられた。


「ええと、それじゃ私は戻るよ。あとはよろしくね。何かあったら通話で連絡を……あとはい、これカメラね」


 ちょっと居た堪れない気持ちになってきたので、私は気持ち早口で告げるべきことだけを告げると、羽つきカメラを渡し、その使い方なんかをかんたんにレクチャーしてからワープでイクシス邸まで引き上げたのだった。

 マップでダンジョンの位置はすぐに分かるし、通話によるサポートも付いている。後のことは彼女らに委ね、私たちは私たちでダンジョン攻略へ挑まねばならない。


 イクシス邸に戻るなり、仲間たちと合流した私は早速続いて自分たちが担当する三つ目のダンジョンへと移動を行った。

 今日はワープをしまくっていて、MPは裏技で回復しているとは言えちょっと疲れる。

 裏技による強引なMP回復だなんて、普通に考えたらきっと体に良くないことだろうしね。出来ればあまり積極的に頼るようなものではないのだろう。

 とは言え、厄災級の対処を行おうというのだから、このくらいの無理は許容して然るべきものだとも思う。

 この程度のことで被害の規模を大きく抑制できるというのなら、まったくもって安い買い物だ。

 だからこそ、オルカの「大丈夫? 無理してない?」という心配げな声にも、努めて明るい返事を返しておいた。


 斯くして私たちはそれぞれ、自らの役割を果たしに掛かったのだった。



 ★



 冒険者PT『蒼穹の地平』に所属する、聖女ことクリスティアと、斥候役のクオ。

 彼女らは目の前でパッと消える仮面の少女を目にし、思わず今立っているこの場所が夢の中か、はたまたまやかしにでも掛けられているのではないかと本気で疑っていた。

 試しにこっそりほっぺや二の腕をねじって、痛みを確認したほどである。よもや、そんなベタな真似を自らが働くことになるなどと、まるで思いもしないことではあったが。

 ともあれちゃんと痛みはあり、そのベタによるとここはどうやら現実の中で間違いないらしい。

 が、そんな検証とすら言えない適当な確かめ方では、ここが本当に現実の世界だ、なんて断定できないくらいには慎重な二人。

 彼女たちには唐突にやって来たこの現状が、徹頭徹尾胡乱に思えて仕方がなかった。

 まして……。


「ほら二人とも、いつまでもそんな顔してないでさっさと行くわよ!」

「ミコト様のために、ダンジョン攻略頑張るのです!」


 そう言ってずんずん歩いて行くリリエラとアグネム。

 ミコトと名乗ったあの仮面の少女に、妙に入れ込む二人の姿もまた、クリスティアたちには解せないことだったのだ。

 何せリリエラは気難しく、そう容易く他人に気を許すような娘ではない。

 アグネムに関しては人懐っこくはあるけれど、かと言ってアレはもはや崇拝の域にすら達して見える。

 クリスティアにとっては、ミコトは勇者イクシスと懇意にしている冒険者、という認識がある程度で、それ以上のことは殆ど知らず分からず。未だ信用に足るとも、警戒するべきとも判断の付かない相手であったが、クオは違う。

 面識すら殆どないミコトは、この上なく怪しい人物に見えたのだ。

 もしかしたら、自分や仲間たちをたぶらかそうとしている敵なのではないかと。そんな可能性すら考えていた。


 一先ず、先を歩くリリエラたちを追いかけながら、ぐるりと回りを改めて見渡してみるクリスティアとクオ。

 厄災級の餌食となった、元は自然豊かな山や森だったそこは、今や見る影もない。

 木々は朽ちた枯れ木の如く空虚で、自重すら支えきれずへし折れたものも多い。地面を見ても干からびたように萎れ、息絶えた草花が延々とくたばっているばかり。踏んだ土の感触さえも何だかボソボソとしており、きっとここに植物の種を撒いても芽吹くことはないのだろうと、そう強く予感した。

 この胡散臭い状況下ではあるが、この地が死んでしまっているという事実。それだけは確かな事だと、二人は一つ確信を持ったのである。

 そうすると、面前にデカデカと存在するアレもまた、本当に厄災級であるのだろうと。そう間接的な真実味を感じたのだった。


 高く見上げる程巨大な、楕円形の障壁。

 それが幾重にも幾重にも折り重なった、さながら繭のような物体。

 ミコトたちの説明によると、この中に件の厄災級モンスター、巨大なアルラウネと思しきそれが引き籠もっているのだと言う。

 更に遠くを見渡せば、地面から見たこともない草で編まれた等身大な人形がたまに現れては、冒険者と戦闘を行っている。

 数も強さも大したことはなく、それ自体は冒険者たちで対処できているようだったが、それらを生み出している存在がこの繭の中に居るのだとしたら、確かに捨て置くわけにも行かない。

 それにこの死んだ大地は、今も少しずつ拡大を続けているらしい。

 未だ疑心は強いけれど、ともあれ仮に全てがミコトの説明どおりだったとするなら、ここで無為に時間を浪費など、ただの愚鈍がやることである。

 クリスティアもクオも、静かに足を早め、直ぐにリリエラたちの背へ追いつくのだった。


 しかしそれも束の間。

 不意にそのリリエラがおかしな声を上げて立ち止まった。


「な、何よコレ?! こんなものが……っ」

「む。もしかしてリリエラちゃん、やっとマップウィンドウを起動したの? 遅くない?」

「うるさいわね。っていうかあんたは何で平然としてるのよ!」

「それは勿論、ココロ様に詳しくお話を伺っていたからね! まぁでも、さっき実物を見た時はこっそり泣いちゃったけど!」

「こじらせすぎでしょあんた……」


 リリエラとアグネムのやり取りから、どうやら先ほど話にあった【マップウィンドウ】なるスキルを試したらしい、と察したクリスティアたち。

 一体二人の目には何が見えているのか。それが気にならないと言えば嘘になるが、ともかく傍目にはこれまた胡散臭く見えて仕方がない。

 自分たちには見えないものを見て、それについて語り合うリリエラたちの姿というのは、如何にもごっこ遊びでもしているかのような不思議な光景に見えたのだ。

 それに加えてアグネムのあの様子である。


 自身もまた、神に仕える信徒として日々を過ごしている聖女クリスティア。

 彼女から見て最近のアグネムは、正にどこかの宗教へ入信した新米信徒のように見えたのである。しかもとびきり熱心な。

 神に仕える我が事を棚上げしながら、アグネムの姿に言い知れない感情を抱くクリスティア。

 ミコトの見せた能力がもしも本当に、まやかしなど一切ない本物だとしたなら。それは確かに奇跡の御業として称えるべきものだろう、とは思うものの。

 かと言って自分が崇拝する神とは異なるものを尊び、崇め奉る彼女には少しばかり引っかかりを覚えてしまう。

 しかもその対象は、普通に冒険者活動をしているただの少女だ。それを神のように崇めるだなんて、やはりどうにも納得がいかなかったらしく。

 クリスティアは何時になく言葉に圧を滲ませ二人に問うた。


「私にも詳しく教えてくれませんか? 二人には何が見えているんです?」

「「ひっ」」


 言い知れぬ迫力を敏感に感じ取ったリリエラとアグネムは、揃って一歩後ずさると、おずおずと自らの視界に映るマップウィンドウについて彼女へと語って聞かせるのだった。

 殊更、事前にミコトの仲間であり、今やすっかり仲良しのココロに色々教えてもらっているアグネムの口は滑らかだった。

 マップウィンドウについてスラスラと、事細かに説明を行えば、次第にクリスティアとクオの表情が抜け落ちていく。

 そして唐突に言うのだ。


「そ、そんな都合の良いスキルが存在しているはず有りません!」

「そうだよ。それはおかしい。だってそんなモノがあるのなら、あの娘たちのPTに斥候役がいる理由が分からないじゃない」


 ここに来てようやっと、明確な矛盾点を見つけた二人の疑心は大きく膨れ上がったのである。

 クオの指摘どおり、オルカは鏡花水月において斥候の役割を担っている。

 だが、ミコトのせいで最近さっぱりその出番がなく、一時自身の存在意義について本気で悩んでいた、なんてことを知る由もない彼女らは、言われてみればそれもそうかと納得を覚えたのだ。


 未だダンジョンに踏み入れる以前だと言うのに、早速雲行きを怪しくする蒼穹の地平。

 斯くして、ダンジョンへ向かう彼女らの足はパタリと留まってしまったのだった。

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