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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三一四話 最強の先遣隊

 イクシスさんの言い分はこうだ。

 巨大アルラウネの張った、繭が如き多重層の障壁を強引に突破するにせよ、突如思わせぶりに現れたダンジョンを攻略するにせよ、ともかく手をこまねいている時間はないと。

 現状繭を破るすべがないのなら、速攻で四つあるダンジョンの一つを攻略し、アルラウネとの因果関係を調べてみるのが手っ取り早いと。

 最速でダンジョンを攻略するのであれば、自分がひとっ走り行ってくるのが一番だとも。


 確かにそれはそうなのかも知れない、と皆も一応理解は示した。

 が。


「いやいやいや、規模も脅威度も不明なダンジョンに単身で挑むとか、無茶を言わないでくれ母上! 急く気持ちも無論分かるが、他にもやりようはあるはずだ!」

「むぅ……だが」

「ぱわぁ……私たちが初手で奴を落とせていれば、被害の拡大も抑えられたし、こんな面倒な展開にもならなかったぱわ。先輩も私も、少なからず責任を感じているぱわ」


 と、あけすけに胸の内を吐露するサラステラさん。

 しかしそればかりはどうにも仕方のないことだ。二人の発揮する火力というのが世界規模で見ても最強クラスであることは、誰もが知るところである。

 別に手抜きをしていたわけでもなし、それで倒れなかったというのだから恐るべきは寧ろ、厄災級モンスターというものの脅威度である。

 聞けばイクシスさんが以前打倒した、魔王というのも一種の厄災級だったと言う。

 つまり今回の相手は、そんな常軌を逸した相手であるというわけだ。

 流石に魔王ほどの脅威ではないにせよ、イクシスさんやサラステラさんだけでどうこう出来るような手合ではない、ということだろう。


 そんな厄災級モンスターを攻略しようと言うのに、果たして彼女一人をダンジョンに向かわせて良いものか。

 答えは。


「条件付きでなら、イクシスさんに任せても良い気がする」

「! ミ、ミコト!」


 私の言に、戸惑いの声を上げるクラウだが。

 私はまぁまぁとそれを制し、イクシスさんに向き直った。

 すると彼女は早速、「その条件とは?」と問うてくる。


「先ず、全階層マップは埋めながら進むこと」

「! ミコトちゃんたちがいつもやっていることか……」

「ぱわ? それに何の意味があるぱわ? 確かにこのマップにはびっくりしたけど、ダンジョン内のマップを埋めると良いことがあるぱわ?」

「ああ。マップが埋まれば、ミコトちゃんはその階層まで転移で移動できるんだ」

「パワァッ!?」


 と、驚愕に固まるサラステラさんを他所に、二つ目の条件発表である。


「次に、カメラを持っていってもらう。モンスターの強さなんかも、適宜通話を介したりライブ映像を介したりして評価を挙げてもらいたいな。後続の役に立つだろうから」

「なるほど……道理だな」


 ダンジョンの脅威度はモンスターの強さやトラップの凶悪さ、巧妙さなどで決まる。

 イクシスさんクラスになると、大抵のトラップは踏んだところで力ずくで解決できるし、モンスターなんてほぼほぼ脅威にはなりえないだろう。

 しかし、ダンジョンは全部で四つもあるわけで。もしダンジョンを攻略することで巨大アルラウネに何かしらの変化が起こるのなら、残りの三つを皆で手分けして攻略することになるだろう。

 その際、イクシスさんが集めてくれる情報というのは必ず役に立つはずだ。


 そして三つ目の条件だが。


「あと、食事休憩や睡眠を取る時は、一度PTストレージ経由で帰って来てしっかり休むこと。ちゃんと送迎はするから」

「う。だが、そうしている間に……いや、そうだな。ミコトちゃんに掛かれば、惜しむような時間も掛からないか」

「ああそれと、攻略にはサラステラさんと一緒に当たって欲しいかな。二人で手分けしてマップを埋めれば、どんなに広い階層でも半分の時間で済むし、きっとより捗るから」

「ぱわ! もちろん最初からそのつもりぱわ!」

「ああ、分かったよ」


 というわけで、巨大アルラウネを仕留め切れなかったと悔しがる二人は、転じて最強の先遣隊として四つ出現したダンジョンのうち、一つを攻略することに。

 勇者イクシスさんと、邪竜殺しの英雄サラステラさん。この二人からなる先遣隊って、実質本隊のようなものだけど。まぁ、出来る限りのサポートは私の方で行うわけだし、万が一ということもないはずである。

 いざとなったら、それこそPTストレージに避難してもらえれば、緊急離脱も容易なのだから。


 私の出したすべての条件を了承したイクシスさんとサラステラさん。

 そうと決まれば話は早い。

 一先ず二人には、先程巨大アルラウネに全力で攻撃を仕掛けた際の消耗を、休息と回復薬等にて癒やしてもらい。他方で私たちは、改めて現地の様子を映像越しに眺めた。

 今尚巨大アルラウネは二〇機の羽つきカメラによる監視が継続されており、リアルタイムな映像を確認することが出来る。

 現地では今もちらほら出現する草人形の対処に当たる冒険者たちの姿が各所で見られたが、当然彼らもダンジョンの出現には気づいているわけで。


「あ。ダンジョンに潜ろうとしてる人たちがいますよ!」


 とココロちゃんが、映像の一つを指差した。

 これに際し、私たちはどうしたものかと逡巡を余儀なくされる。

 原則として冒険者というのは、自己責任の生き物だ。

 ダンジョンがそこにあるのなら、入るのも入らないのも彼らの勝手。

 とは言え殆どのダンジョンは、冒険者ギルドがその脅威度を調査し、時には侵入にランク制限を設けたりもするわけだけれど。

 当然ながら発生したばかりのダンジョンに、そのような制限などあるはずもなく。

 ゆえにこそ、冒険者が自らの意思で入ってみると決めたのなら、それを誰かが遮り、禁ずることなど出来なかった。

 寧ろ現地に於いては、そうした勇気ある者たちを有り難がる同業者まで見受けられる始末。

 何せダンジョンに挑もうという者は、謂うなれば先駆者だ。

 未知を切り開き、情報を持ち帰ることを期待された者たち。

 そして彼らは、やがてそこに最強の勇者が訪れるとも知らないわけで。


 ゆえにこそ、ダンジョンに入って行く彼らは勇気ある人たちなのだろう。正に冒険者の鑑とさえ言えるかも知れない。

 当人たちだってプロなら分かっているはずだ。それが如何に危険で、無謀な行為なのか。

 それでも誰かがやらねばならない。

 彼らは恐ろしかろうと、自らを奮い立たせその役目を買って出たのである。

 草人形に苦戦するほどだ。ダンジョン内に巣食っているであろうモンスターに、自らの力がどれ程通用するかも分からず、その恐怖は一入だろうに。

 それでも、ダンジョンに入ろうというものはチラホラといた。


 私たちはその光景を映像越しに見ながら、非常に歯痒い思いを強いられたのである。

 無論、危険だから入るな! と、今すぐ現地に飛んで彼らを引き戻すことは出来るだろう。

 だがしかし、彼らがどうして言うことを素直に聞いてくれるというのか。

 相手は未知の厄災級モンスターであり、彼らが挑むのはそれに関わると思しきダンジョンだ。

 自らの危険を顧みず、そこに挑もうという彼らを引き止めるというのなら、相応の理由を用意する必要があるだろう。

 ならば、『勇者様がこれからダンジョンに潜るから、余計な危険を冒す必要はない』と、そのようにでも言えばいいのだろうか?

 確かに勇者が動くのなら、という安心感はあるだろう。それでも、忘れてはならない前提がある。

 そも厄災級モンスターの討伐というのは、大規模な戦力を湯水のように使ってようやく成し遂げることの出来るような一大事なのだ。

 如何な勇者イクシスさんとて、一人でこれをどうこう出来るわけではない。

 事実、まだ成長段階にある奴の蕾を落とすことにも失敗し、大凹みする始末だもの。


 なればこそ、自分たちも協力せねばと。そう考えるのが、覚悟を持って戦う人たちの当然の帰結と言えるだろう。

 では自分たちに何が出来るかと考えた彼らはきっと、イクシスさんたちが攻略するダンジョンとは、また別のダンジョンへ潜り始めるに違いない。

 彼らの自由意志を、私たちは妨げることが出来ないのだ。

 であればこそ。


「ミコトちゃん、行こう。彼らのためにも行動を急がねば」

「ぱわ! よろしく頼むぱわ!」

「……分かったよ」


 未だ万全に回復したわけではないだろうに、じっとしていられないと立ち上がったイクシスさんとサラステラさんを連れ、私は現地へと飛んだのだった。

 転移は一瞬。いつものように人目につかぬ物陰にワープした私たち。

 時刻は既に日も落ち、午後七時を少し過ぎた辺りだ。フィールドでの活動には支障のある時間帯だが、これから二人が臨むのはダンジョン。

 ダンジョン内は決まって、光源がどこにあるかも分からないのに、不思議と明かりに不自由することがない作りになっている。まぁ、時には薄暗かったり真っ暗だったり、逆に眩しいフロアなんかもあるけれど。

 ともあれ月明かりだけを頼りに活動するという、不便を強いられることにはならないのだ。


 既にやる気十分といった二人に、私は先程急遽作っておいた新たな羽つきカメラを取り出すと、それぞれの傍らに浮かばせ、うっかり壊さないようにとだけ注意を促しておいた。

 動作確認がてら、二人は羽つきカメラに向かって手を振ってアピール。声も届いているだろうかと話しかけてみれば、通話を介して拠点であるイクシス邸小会議室より皆の声が届いた。

 それはイクシスさんにもサラステラさんにも聞こえているので、レスポンスに小さな驚きの声を漏らす二人。


「信じられないぱわ……ミコトちゃん、本当に何者ぱわ?」

「それを調べるために色々頑張ってるんだけどね」

「ぱわー……」

「それじゃミコトちゃん、行ってくるよ。外で何かあればすぐに知らせてくれ」

「うん、了解。二人も気をつけて」


 斯くしてイクシスさんとサラステラさんは、ステータスに物を言わせた凄まじいダッシュでダンジョン入り口へ向け突っ込んで行った。

 途中、彼女らの姿に気づいた冒険者の人がギョッとし、まさかという面持ちでその背を眺めていたけれど、二人の姿はあっという間にダンジョン内へ消えていったのである。


 それを見届けるなり、私は拠点へ戻り皆と合流。

 別途用意したプロジェクターは、二〇の映像を写す壁とはまた別の壁に、新たに二つの映像を投影しており、そこには早速イクシスさんとサラステラさんの背中がそれぞれ映し出されていたのだった。


「よしよし、問題なく映ってるね」


 映像も音声もしっかり届いていることを確認すると、次いでマップウィンドウの様子も確かめる。

 早速二人が侵入したダンジョンマップが、凄まじい速度で埋められていくさまが確認できた。

 先にダンジョンに入っている冒険者の反応も幾つか見えるが、そちらに感けるでもなく攻略を優先する二人。

 フロアの規模は広めで、半径八キロもあるサーチ範囲をもってしても一発ではカバーしきれない程度には広大だった。

 が、二人が駆け回ればそれも一瞬である。

 あっという間にフロアの全容が明らかになれば、あとは階段めがけて駆け抜けるのみ。

 うっかりカメラを置いてけぼりにするほどの速度で走るものだから、とうとう焦れったくなった彼女らは二人して、それを手に携えての移動を始めてしまう。

 失敗したなぁ。カメラは身につけるタイプの方が幾分マシだったかも知れないと、改めて彼女たちの規格外っぷりに舌を巻く私たちであった。

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