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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三一三話 引き篭もる厄災

 現地に来て、改めてよく観察してみれば分かる。

 厄災級と思しき巨大アルラウネは、今尚もってして成長を続けていることが。

 奴は大地から『養分』を吸い上げ、自らの糧としているのだ。

 その結果、さながら色を失ったかのように死に果てた灰色の大地が今も尚、奴を中心に拡大を続けているのである。


 イクシスさんとサラステラさんによる強襲は成功し、なんなら今も続いている。

 灰色の領域の中心、そびえ立つ植物が頂く巨大なその蕾へは、何度も何度も凄まじい攻撃が加えられ、随分と離れた位置の私たちにまでその余波がビリビリと伝わってくる程だった。

 だと言うのに、今も蕾は健在であり、通話向こうからは焦れるような声が聞こえてくる。


『パワァァ! なんて殴り甲斐のある奴パワッ!!』

『くっ、再生力も尋常じゃないぞっ』


 信じ難いことに、人類最強クラスの二人が束になって掛かっていると言うのに、あの蕾はそれを上回るだけのタフさと再生力で抗い、拮抗を成り立たせているらしい。

 とは言え、効いていないということもないはずだ。少なくとも回復が必要だということは即ち、裏を返せばそれだけの負傷を負っているということでもある。

 が、果たして優勢を築けているかと言えば、それはそれで怪しいところだろう。

 傷を癒やすのにもエネルギーというのは必要になるわけで。当然それはなにも無いところから無尽蔵に湧いてくるものではない。

 ならばどこからそのエネルギーを得ているかと言えば、当然大地からであり、奴の使役する草人形が人間を始めとした生き物を襲い、吸い奪った養分からである。

 であれば必然、灰色の領域はその拡大スピードを増し、同じく草人形たちの凶暴性にも輪が掛かった。

 しかしイクシスさんたちの活躍に鼓舞された冒険者たちも、勇ましくこれに立ち向かい、戦線は激化の一途を辿ったのである。


 そして私たち鏡花水月もまた、既に多くの草人形を仕留め、今尚冒険者たち同様に被害の拡大を食い止めるべく努めているわけだけれど。

 しかし大地から直接養分を吸われてはどうしようもない。

 否応なく灰色の領域は拡大していき、周囲の草木は忽ち痩せ細って死んでいった。辛うじて立っていた木々も遂には自壊するようにへし折れ、砕け散る。一帯はさながら荒野が如き惨状に塗り替えられていく。

 その原因は恐らく根だろう。巨大アルラウネの根が凄まじい勢いで地中に張り巡らされ、そこから養分を吸い上げているのだと考えられた。

 ならばと、私は試しに地面へ向けて幾つかの魔法を放ってみることに。

 地中を硬質化させて、根の進行を止める試みをしてみたり、草人形に効果のあった凍結を地中に向けて施してみたり。


 しかし結果は、イマイチなものだった。

 全く無意味ということこそ無かったのだけれど、所詮根の末端を幾らどうこうしてみたところで、すぐさま新たな根っこが伸びてきて硬質化した土も凍った土もお構いなしに突き破っていくのだ。

 これではまるで焼け石に水、というやつである。

 やはり一刻も早く大本を叩く他ないというこの状況。一応通話を介してイクシスさんたちにも伝えておく。

 が、それは彼女らを焦らせる結果にしかならないわけで。


『ぐぅ、火力が足りない!』 

『パワァ、このぉぉおぉ!!』


 相変わらず、蕾の方からはまるで世界の終わりを告げるような大爆発がひっきりなしに起こっているのだけれど。

 それでも奴を倒すには不十分なようで。それ自体が私には、とんだ悪夢めいて思えたのだった。


 しかし不意に、変化は訪れる。

 巨大アルラウネが、唐突に一際大きな鳴き声を上げたのだ。

 堪らず私たちは耳を手で覆った。その手の甲にビリビリと空気の震えを感じるほどには、巨大な音である。

 怪獣の鳴き声めいた、何とも形容しがたい叫び声。

 頭がおかしくなりそうな音波に耐えかね、私はすぐさま遮音の結界を張った。遠隔で仲間たちや、他の冒険者たちも保護する。イクシスさんたちも念の為に。


 そうしてたっぷり三〇秒は鳴いた巨大アルラウネ。

 するとその直後、異変が生じたのである。

 奴の体が急激な発光を見せ、次いで奴を中心に風船が膨らむかの如く、大規模な障壁が生じたのだ。

 イクシスさんとサラステラさんはこれに弾かれる形で押しのけられ、否応なく大きく吹き飛ばされてしまった。

 幸いケガは無いようで、すぐさま遠くから障壁を攻撃する物々しい轟音が響いてきたが、どうやらあまり意味をなしてはいないらしく。

 それというのも、障壁は幾重にも幾重にも折り重なって張られ、さながら巨大な繭、或いは卵のように巨大アルラウネをまるっと包み込んでいたのだ。

 正しく山のように巨大なその繭は、おおよそ人の手でどうにかなるような類のものには思えず。私なんかはついぽかんと口を開けてしまったほどだ。

 壮大とも取れるそれは一見、幻想的な美しさのある光景ではあった。だが、それ故にこそ忌まわしくも感じられる。


 イクシスさんたちで破れないというのなら、いよいよ私達にどうにか出来る代物ではない。

 ただ彼女らで全く歯が立たないということもなく。一枚二枚と障壁を割ることは出来るのだ。

 しかしその都度障壁は、角質さながらに内側から押し出されるようにして補充され、そしてその度奴は多くの養分を求め大地を喰らう。

 灰色の領域の拡大が加速し、相変わらず湧き続ける草人形は元気に暴れ回った。

 こうなったらいよいよ、半端に障壁を傷つけることは逆効果でしか無く。

 私は急ぎ二人にそのことを伝えた。

 すると彼女らからは、悔しげな声が通話越しに返ってくる。


『くっ……すまない皆。仕留めきれなかった』

『ぱわぁ……不甲斐ないぱわぁ』

「というか寧ろ、驚くべきはコイツの耐久力の方だよ。まさか二人の火力を合わせても倒し切れないやつが居るなんて……」

『ええ、信じ難いことです』

『ともかくこうなったら、一度作戦の練り直しが必要』

『ですね。一旦集合しますか?』

『だが草人形はまだ暴れている。捨て置くことは出来ないだろう』

「むぅ、どこまでも厄介な……」


 と、意見を交わしていたその時だ。さらなる異変が、唐突に生じたのは。

 いよいよチラホラと星の瞬き始めた夕と晩の間の空。

 そこから突如、赤い雷が轟き落ちたのだ。


 それも、四つ同時に。


「な……っ?!」


 赤い雷。

 それはこの世界に於いて、とある物の先触れとして有名である。

 そう、ダンジョンの発生だ。

 皆のまさかという思いに違わず、障壁の繭の四方を囲むように閃いた赤き雷の落下地点。

 そこには一瞬にして、地下へと下る階段がそれぞれに生じていたのである。

 間違いないだろう。ダンジョンの入口である。


 当然、混乱を強いられたのはこの場にいる全ての者達であった。

 このタイミングで、唐突に現れたダンジョン。しかも四つも同時に、巨大アルラウネの繭を囲むように。

 流石にそこに何ら因果関係がないとは考え難い。

 順当に推察するのなら、これらのダンジョンと巨大アルラウネには何らかの関係があるものと見るべきだろう。

 が、とは言え確証があるわけでもない。この局面で時間も手間も掛かるダンジョン攻略を行うなど、リスクでしか無いわけだ。


 でもだからと言って、繭を破壊できる手立てがあるわけでもなく。

 現状を打開できる可能性があるとするなら、それは偏にこのダンジョンを除いて有りはしないのだ。少なくとも今のところは。

 何にしても、一度皆と話し合う必要があるだろう。

 とは言え悩ましいのは、今尚徘徊し、冒険者たちを襲っている草人形たちの存在である。

 マップで見てみれば、未だにおびただしい数が活動を継続しており、このままでは冒険者たちを押し切ってしまうことは明らかだ。

 だが、ダンジョンが発生したからか、それとも本体が繭に引きこもったからか、草人形の増殖は随分と落ち着いたように見受けられる。

 イクシスさんたちがまた繭に攻撃を仕掛けたなら、どうなるか分からないが。ともあれ今なら草人形の数を一気に減らすことが出来るかも知れない。


 早速皆にその可能性を共有すると、協力して草人形の掃討に当たった。

 そうなるといよいよとんでもない働きを見せるのが、イクシスさんとサラステラさんの二人で。

 マップを見ながら虱潰しに草人形を屠っていけば、物の一〇分程度で大半の草人形を撲滅することに成功した。

 それでもやはり、チラホラとはまた地中よりボコリと現れる草人形。

 さりとてこうなったら数で上回る冒険者側が強く。

 一旦この場は彼らに任せても大丈夫だろうという見通しも立ったところで、私たちは合流の後一度イクシス邸へ戻ったのだった。



 ★



「はぁ……くたびれたぁ」

「ぱわぁ……」


 と、転移直後に床へ突っ伏したイクシスさんたち二人をなんとか席につかせ、使用人さんにお茶の用意を頼むと、早速私たちは話し合いを再開したのである。

 一先ずプロジェクターを起動してみれば、変わらず四角い二〇の映像がパネルが如く壁に並び、現地の様子を私たちへ伝えてくれた。

 それを見ながら、大まかなおさらいと現状の確認から始めていく。


「さて。突然現れたこの厄災級と思しき『巨大アルラウネ(仮)』に、強襲作戦を仕掛けたわけなんだけど。みんなどうだった?」

「まぁ、そうだな。端的に言ってしまうと……失敗だな」

「うぐ」

「ぱわ……」


 クラウの容赦ない断定に、思わずダメージを受けるイクシスさんとサラステラさん。


「火力不足は由々しき問題」

「想像以上に奴がタフだったんですよ。このお二方で倒せないなんて、本来ならあり得ないことです!」

「正に想像を絶した、というわけですね」

「で、その結果対象は強固な障壁を幾重にも纏って引きこもり、まるで繭にくるまった蛹みたいになっちゃったと」

「下手な攻撃をすれば、奴は障壁を修復するためにより多くの養分を求め、大地からそれを吸い取る。草人形も活性化する」

「正に厄災だな」


 クラウの唸るような感想に、誰もが同感を覚えた。

 と、早速使用人さんが運んできてくれたお茶が皆の前に配られ、それに口をつけて一息つく一同。

 さりとて各々の目は、今も厳しくプロジェクターの吐き出す映像を眺めており。


「取り敢えず草人形に関しては、アルラウネの閉じこもりか、或いはダンジョンの発生に伴って随分落ち着いたよね。一度掃討したことで、今は現地の冒険者たちで対応可能な状態にまで出現率も落ちてる」

「とは言え、奴による大地の侵食は依然として継続している。悠長にはしていられないぞ」

「っていうか、あのダンジョンってなんなんでしょう? 厄災級と無関係には思えませんけど」


 ズバリココロちゃんが切り込めば、皆も逡巡して「それが問題だ」と難しい表情を作った。


「単純に考えると、あのダンジョンをすべて攻略したら障壁が解除されるー……とかかな?」

「何がどうしてそうなるのかは、さっぱり分かりませんが。まぁ可能性自体はあるかと」

「逆に、何も関係ないただのダンジョンっていう可能性だって、無いわけじゃない」

「ダンジョンを攻略するべきか、無視して障壁を破る方法を模索するべきか……」

「あ。ミコトの空間魔法やテレポートなんかで、障壁を無視することが出来るんじゃないか?」

「勿論、簡単にだけど実験はしてみたよ。でも内部に行けば行くだけ障壁層の密度が上がってるみたいで、テレポートは無理そうだった。空間魔法も、直接本体に攻撃を通すのは無理だと思う」

「それでも、障壁を幾らか無視できるのは大きいかも」


 と、私たち鏡花水月メンバーで色々と意見を交わしていると。

 机に突っ伏していたイクシスさんが不意に顔を上げ、座った目でとある提案を述べたのだ。

 それは。


「分かった。それなら試しに先ず、私が速攻でダンジョンの一つを落としてくる」


 という、もはや提案を通り越した、突撃宣言であった。

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