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第三一話 報告会

 私がこの世界に転生してから、早いものでもう一ヶ月以上が過ぎた。

 ココロちゃんをPTに勧誘してから私達は、スキルの鍛錬に資金調達にとひたすら精を出し、着実にその成果を重ねている。


 現在は満天の星空の下、焚き火を囲って報告会を行っている最中である。

 パチパチと薪が爆ぜ、ちらりと舞う火の粉は美しい。前世ではこうして火を囲うのなんて、食卓でガスコンロに鍋をかけたくらいしかほぼほぼ経験がないため、とても趣深く感じてしまう。


「こほん。えーそれでは、スキル特訓による成果を順に発表してもらいましょう。尚、この発表会は互いの成果を教え合うことにより、モチベーションの向上、及び効率的なスキル習得のノウハウを研究、共有するものであり――」

「っていうか、すごい今更なんですけど、なんでソフィアさんが野営にまで参加してるんですか……」

「ミコト、それは愚問……」

「ココロはもう、気にしないことにしました」

「スキルあるところに私あり、です。ではココロさんからどうぞ」

「ええっ……まぁ構いませんけど」


 とうとう狩りどころか野営にまで参加してきたソフィアさんが、地べたにぺたんと腰を下ろすと、入れ替わりにココロちゃんが立ち上がって成果の発表を行う。

 やや瞑目し、ここしばらくの頑張りを振り返っているようだ。そうしてすぐに口を開いた。


「まず、オルカ様の協力もあり、何とか【体術マスタリー】の習得に成功しました!」

「「「おおー!」」」


 パチパチパチと、皆が手を叩いて称賛し、労をねぎらう。

 ココロちゃんは恥ずかしそうに後頭を撫でて、言葉を続けた。


「これにより、長年手のつけられなかった怪力を、辛うじてですが制御出来そうな兆しが見えています」

「【体術マスタリー】は徒手空拳を用いた戦闘術を補助するスキルですが、延いては体捌き全般に効果の見込めるものですからね。近接戦闘を専門にする冒険者にとって、実は垂涎のスキルなんですよ」

「体をうまく操れるってことは、力加減もそれに準ずるってわけだね」

「ココロには、必須だった」

「はい。ですが、力任せにしか戦えなかった私では、きっといつまで経っても身につけられなかったはずです。それをミコト様が背中を押してくださり、オルカ様とソフィアさんからアドバイスをいただけたからこそ、成し得ることの出来た成果だと思ってます」


 そう言ってココロちゃんは、深々と頭を下げた。ありがとうございますと、気持ちのこもった言葉にじんと来てしまう。


「現在は【体術マスタリー】のスキルレベル上昇に向けて、鋭意特訓中です。皮肉にも、私には持て余すような怪力があり、日々これに振り回されていますから、この力を御するために努力を重ねることが、転じて良い経験値になっていると思うんです」

「【体術マスタリー】は一般的に、徒手空拳での戦闘経験を重ねることがレベルアップへの近道とされていますが、私もココロさんの考えに異論はありません。習得時がそうであるように、経験の重ね方は人によって適した方法があると考えます。ココロさんにとっては、そこら辺のモンスターを蹴飛ばすよりも、力の制御に重きを置いたほうが良質な経験を得られるのでしょう」

「おぉ……こういう時は、的確な意見を言うんだねソフィアさん」

「普段がアレだから、ちょっと感動……」

「む。失礼です。おこですよ。私に謝ってどうぞ」


 ムッとむくれたソフィアさんを放っておいて、次はオルカが立ち上がった。

 放置されたソフィアさんは、グーで自分の太ももをとんとん叩き、不満のジェスチャーをしている。あざとい! かわいい!


「私は、新しいアーツスキルを覚えた。名称は【ピアースバレット】。近~中距離で使える、貫通力特化の技で、発動にはスリングショットを使う」

「先ほど見せていただきましたが、小石で軽々と樹木を貫通していましたね。急所を射抜くことが出来れば、格上だろうと関係なく打倒し得る、文字通りの必殺技になりそうです」

「オルカ様の隠密と併せたなら、高い確率で一方的に狩りができちゃいますね」

「それに、既に習得していた【消音】のスキルと相まって、かなり静かにピアースバレットを運用できる。たくさん練習したから、【消音】のレベルも上がった、みたい」

「オルカの気にしてた火力も、これでバッチリ補えたね」

「ミコトの助言のおかげ。早く融合して、ミコトにも試してみて欲しい」


 いつになく高揚した調子でオルカはそう言い、出番を締めた。

 それにしても、スリングショットまで扱えるんだねオルカは。話によると、弓マスタリーの補助効果が乗っかるらしいけど。

 スリングショットもまぁ、弓っぽいと言えばぽいか。

 しかし良い感じにオルカは、アサシン街道を驀進しているように思う。このまま行くとクラスチェンジしちゃうんじゃないだろうか。今後の活躍に、ますます期待だ。


「さぁ、それでは満を持して次の成果発表です」

「次は私か」

「いいえ、私です」

「「「え」」」


 立ち上がろうとした私を制したのは、何故か司会進行みたいなことをしているソフィアさんだった。

 私を遮って自らが立ち上がると、ムフーという自信あり気な表情で皆を睥睨する。

 まさか、またなにか新しいスキルを覚えたっていうんだろうか? そして野営に参加しているのは、それを自慢したかったから、とか。いやまさか、そんな……。


「私も、新しくスキルを習得したんですよ!」

「えええ、ソフィアさんはこの前【収納術】と【修復】を覚えたばかりじゃないですか!」

「スキルって、そんなにポンポン覚えられるものなの……?」

「それで、何を覚えたんです?」

「まぁ見ていてください。まずは実践してみせますから!」


 三者三様の反応を返すが、ソフィアさんはそれを一旦落ち着かせてから、自身の鞄をゴソゴソと漁り始めた。

 やたらパンパンの鞄だが、【収納術】の効果で恐らく、見た目以上のものが詰め込まれているに違いない。

 そうしてソフィアさんが取り出したのは、一冊の本と銅貨を一枚。それに筆記具だ。


「さて、ここに取り出しましたるは何の変哲もない品々です。ご確認いただいて構いませんよ」

「いえ、大丈夫なので。さっさと話を進めてください」

「ドライです! 反応がカラッカラですよミコトさん! もっと心に潤いを持つべきです!」

「あ、この本ってどのページも白紙なんですね」

「他には、特に変わった様子はない」

「ココロさんとオルカさんには、はなまるを差し上げます。よく出来ました!」


 ココロちゃんとオルカが、並べられた品々を改めたことにご満悦のソフィアさん。なんだ、マジックショーでも始まるのかな?

 などと惚けたことを考えていると、白紙の本を拾い上げ、右手には羽ペンを携えた。

 そうして本を広げ、そこにインクを付けた羽ペンで、サラサラと何かを書き込んだ。

 本を翻し、私達に書き込んだ文字を確認させるソフィアさん。勉強のかいあって、私にもそれは読めた。


「『銅貨一枚』……ですか」

「ミコトさん、読めるようになったのですね。偉いですよ」

「ばっ、バカにしないでください! それくらいだったらもう読めますし!」

「ミコトは毎日寝る前、ちゃんと勉強してる」

「勤勉なミコト様、素敵です!」

「やめろぉ! そんなことでおだてるなぁ!」


 かぁっと顔が熱くなり、堪らず私は両手で顔を覆った。仮面の上から。

 私が悶えていると、気を取り直したソフィアさんがちゃんと見てくださいと注意を促してくる。

 言われた通り、姿勢を直して白紙の本へと視線を戻すと、それを確認したソフィアさんは一つ頷きを返し、唱えたのだ。


「では行きます。【記録】発動!」

「「「‼」」」


 ソフィアさんの声に応じ、一瞬本に書かれた文字が白く光った。かと思えば、それは何と銅貨を吸い込んでしまったのだ。

 銅貨は一瞬、光の粒子上に分解され、本へと吸引された。不思議な光景だった。銅貨を吸い込んだ文字は変色し、赤色になっている。恐らくこれが、アイテムを格納している証なのだろう。

 私達は暫しソフィアさんの掲げる本を、そこに書かれたシンプルな文字列を呆然と眺めていた。

 が、すぐにソフィアさんのドヤ顔が目に入って、我に返る。


「見ましたね? では聞かせていただきましょうか。感想をねっ!」

「うわぁ、物凄く調子づいてますねソフィアさん」

「すごいです! 一体何をしたんですか!?」

「本にアイテムをしまう……以前ミコトが言ってたやつ?」

「そうです正解です!」


 ソフィアさんは、今にもニョキニョキと鼻が伸びそうなほど得意げに、以前私がアイテムストレージを習得するために四苦八苦していた際述べた思いつきを、もしかしたらそういうスキルが実在するのではないかと考え、しつこく研究し続けたのだと言う。

 そうしてその結果、本当に本への収納を可能にしてしまったというのだから、もう脱帽する他ない。


「スキル名は【書庫】。文字通り、本を倉庫としてアイテムをしまうというスキルですね。発動には、収納したいアイテムを前にし、そのアイテム名を記録する必要があります」

「取り出す時はどうするんですか?」

「ふっふっふー、まぁ見ていてください」


 ココロちゃんの素朴な疑問に、ソフィアさんは嬉しそうに本を構えると、再びトリガーを唱えた。


「銅貨一枚を、【解放】!」

「「「おお!」」」


 ソフィアさんの呼声に応え、先ほどとはさながら逆再生のように光の粒子が本より飛び出し、銅貨の形に復元され、地面にころりと転がった。

 そしてアイテムを吐き出し終えた文字は、力を失ったように消え去って、元の白紙へと戻ってしまった。

 本当にマジックみたいな光景に、皆が言葉を失ってしまう。

 ああ嫌だなぁ。ソフィアさんのドヤ顔を見るのが億劫だなぁ。そう思いながら彼女の様子をうかがうと、案の定鼻の穴をひくひくさせていた。残念美人だ。


「これは……確かに、物凄いスキルですね」

「そうでしょうそうでしょう! もっと褒め称えていただいても構わないのですよ?」

「本当にすごいです、ソフィアさん! これまでいろんな受付嬢さんを見てきましたが、こんなスキルを自力で覚えてしまうような方は始めて見ました!」

「ソフィア、すごい……さすがの執念」

「むふぅ! これもスキルへの熱い情熱があればこそ実った成果です! 皆さんもこの調子で、どんどん新しいスキルを覚えて、私に披露してくださいね!」


 すっかりご機嫌なソフィアさんだが、私はふと気になったので質問を投げてみることにした。


「ところで、アイテムを記録している状態で、文字が消えたり燃えたり滲んだりしたら、アイテムってどうなるんですか?」

「それはもちろん、消えますね。アイテムロストです」

「えええ……」

「それは、リスキー……」

「雨に降られると、危ないですね……」

「む。確かにリスクはありますが、お忘れですか? 私には【修復】のスキルがあることを!」

「「「あ」」」


 言われてみればそうだった。これまた私がアイテムストレージを覚えるために四苦八苦している最中、ちゃっかりソフィアさんが獲得してしまった便利スキル。

 その一つが【修復】であり、その効果は対象を正常な状態へ直してしまうというもの。また、発動中は壊れにくくなるという効果もあるらしい。


「【書庫】と【修復】のシナジー効果により、たとえ本を燃やされ灰にされようと、私にとっては何ら問題にならないのです。もちろん、実証実験済みですしね」

「これは参った。素直に羨ましいですよ、ソフィアさん」

「ココロもそのスキル、覚えたいです!」

「ソフィアのくせに……」

「はぁ……今夜は良い夢が見られそうです。満足しました」


 恍惚とした表情で粛々と後片付けを行ったソフィアさん。

 しかし司会進行役はまだ続けるらしく、改めて姿勢を正して口を開いた。


「それでは大トリをミコトさん、よろしくお願いします。素敵な新スキル、期待していますからね!」

「く……妙にハードルを引き上げないで欲しいんだけど。まぁいいか」


 私は腰を上げ、ぺんぺんと軽くお尻の埃を叩いてから自身の成果を発表する。


「ええと、それじゃ最後に、私の覚えた新しいスキルだけど……」

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― 新着の感想 ―
[一言] ソフィアさん、癖が強いけどスキルに関しては超優秀でしたw
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