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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三〇六話 怪しいやつ

 ゴルドウさんの工房にて、時刻はもうすぐ一八時を回ろうかという頃。

 季節柄、すっかり冬の気配を身近に感じる昨今、私たちはこの応接室を温めてくれている暖房魔道具の前に陣取って、背後でずっと行われているソフィアさんとゴルドウさんによる値段交渉に耳を傾けていたのだが。

 どうやらそれもようやっと決着したようで。


「それでは、定期的にこちらで素材を引き取っていただくという形でよろしいですね?」

「ふん! お前さんらがそれでいいというのなら構わんがな! そのような行商の真似事が成り立つのならやってみせるがいいわ!」


 結局ワープの存在を知らないゴルドウさんは、ソフィアさんの口車に乗せられ、定期的に私たちの運んでくる素材を買い取ってくれるという契約を結んでしまった。しかも、ギルドより割高で。

 オレ姉はやれやれと頭を振っていたけれど、しかし広く名を馳せる工房なだけあり、別にお金に困っているようなことはないそうで。

 故にオレ姉は「だったらついでに、どこか旅先の美味しいものでも一緒に運んできておくれよ」だなんてちゃっかり追加注文を乗っけていた。

 斯くしてようやっと話も一段落したところで、不意にぼそっとゴルドウさんの漏らした一言が、私の耳に残った。


「まったく、これじゃからエルフは……」


 その言葉は、ソフィアさんをエルフであると見抜いた者の言だ。

 実は恥ずかしながら私、ソフィアさんがエルフ……というかハイエルフであることを知ったのって、彼女のカミングアウトを聞いてからのことだったりする。

 というのも、彼女は普段からその長い耳を、魔法にて隠蔽しているからに他ならないわけで。

 もし最初から彼女がエルフだと知っていたなら、私ももうちょっとソフィアさんに強い興味を持っていたところである。

 しかしながら、この世界に於いても多くの異世界ファンタジーでそうだったように、エルフは総じて綺麗な外見をしており、故にこそよからぬ人に狙われやすいと言う。

 ソフィアさんが耳を魔法で隠していたのは、自衛の意味合いも強かったのだろう。

 しかも殊更ハイエルフという、一層珍しい種族なわけだしね。

 おかげでこれまでソフィアさんを目の当たりにして、「綺麗な人だなぁ」という以上の印象を持つ人はそうそう居なかった。


 だと言うのに、ゴルドウさんはそれを看破してみせたのである。

 私はなんだかどうにも気になって、つい問うてしまった。


「そういうゴルドウさんって、もしかしてエルダーなんですか?」


 瞬間、彼と、そしてチーナさんの表情が固まった。あと、ソフィアさんも驚いた様子だ。ちなみに彼の弟子であるオレ姉は小首をかしげているが。

 なんだか唐突に場の空気が張り詰めた気がする。

 もしかしてこれ、拙い質問をしてしまったのだろうか……?


「えっと、ごめん。なんでもないです」

「ミコトと言うたな。お前さん、何故その名を知っておる」


 ゴルドウさんから発せられる異様な迫力に、私は忽ちいたたまれなさを感じて縮こまった。そして確信する。

 これ、完全に地雷踏んづけたやつだ!

 かと言ってだんまりも出来ないため、私はどうしたものかと頭をぐるぐる回転させた後、無難な答えで返すことに。


「えっと……友人から、大きなドワーフはエルダードワーフだって話を聞きかじって、もしかしてそうなのかなーって……」

「……エルダーについて、どこまで知っておる?」

「と言われても、うーん。ドワーフなのに体が大きい……以外に何かあるんです?」


 そう問い返せば、ゴルドウさんは暫し鋭い目で私を観察したあと、一つ大きな溜息をついた。

 そして言う。


「いいや。ただ図体のでかいドワーフ、それだけじゃよ」


 彼はそう言うが。

 しかし心眼は、確実に嘘の気配を見て取っていた。

 何か隠したいことでもあるのだろう。例えばそう、私が多くの事を隠しているように。

 ならば、これ以上詮索するべきではないかと。どうにか話題を別のものへ切り替えようとした、その時である。


「エルダーという名なら私も聞いたことがありますね。確か、今のドワーフの祖にして、特殊な力を持つとか」

「「!!」」

「ソ、ソフィアさん?!」


 ギョッとするゴルドウさんと孫のチーナさん。

 特にゴルドウさんは、すごい顔でソフィアさんのことを凝視している。


「お、お前……」

「あ、ちなみに私、ハイエルフです」

「なっ?!」


 これまた大層驚いたのか、思わずと言った具合にガタリと立ち上がってみせるゴルドウさん。驚きの連続とは正にこのことだろう。

 しかし驚いたのは私たちも同じだ。何せ、彼女が唐突にそんなカミングアウトをするだなんて、私を含め誰も思いはしなかったのだから。

 一体どういうつもりなのかとソフィアさんに視線をやれば、彼女は軽く私を一瞥し、口元に小さな笑みを浮かべてみせた。

 ゾゾゾと嫌な予感がする。あと、何となく読めた。

 妖精の術も、ハイエルフの術も再現してみせた私に、次はエルダードワーフの持つその力とやらが再現できるか、どうにかして試させたいと。そう目論んでいるのだろう。

 そのために、自らがハイエルフであるという情報を明かしてみせたのではなかろうか。


 だが、ゴルドウさんの反応を見るに、どうにもエルダー云々に関してはデリケートな問題のように思う。

 何かしらの理由から、きっと彼はその力とやらを隠したいのではないだろうか。

 であれば、ソフィアさんの思うような展開になるとは考え難いのだが。


「道理でいけ好かんと思ったわ……なるほど、それならエルダーを知っておっても頷ける話じゃな」

「とは言え、詳しくは知りませんけどね。その力が如何様なものなのかも、エルダーがどこで暮らしているのかなども」

「ふん……では、お前さん方がここへ訪れたのは、エルダーの力を求めてのことではない、と?」

「私はミコトさんについてきただけですよ」


 ソフィアさんがそう述べると、流れでゴルドウさんの刺すような視線がこちらを向く。

 私は慌てて、オレ姉が心配だったからここを訪れた。それだけであり、他意はないということをはっきり宣言しておいた。

 が、どうにも疑心は晴れないようで。

 ならばその友人とは何者か、というところにまで話は波及してしまった。

 流石にモチャコたちのことを話すのは憚られるが、かと言って嘘が下手な私に出来るのは精々が、嘘でも本当でもない言葉選びくらいのもの。


「な、何者かと言われても困っちゃうなぁ」

「……名前は?」

「う……モチャコ」

「モチャコぉ? なんだその変な名は。嘘を言ってはおらんじゃろうな?」

「……あ?」


 この野郎、この前おもちゃ作りを軽んじたばかりか、今度は私の友達で師匠の名前を、変な名前呼ばわりか?

 カチンと来た。


「師匠の名前をバカにするとか、喧嘩売ってるんですか? 買いますが?」

「ミ、ミコトの逆鱗にダイレクトアタック……」

「おじいちゃんがすみませんミコトさん、謝りますから落ち着いてください……!」


 慌てた様子でチーナさんが間に入り、どうにか場を鎮めようとする。

 彼女の介入により苦い顔をしたゴルドウさんだったが、かと言って私の気は収まらない。


「チーナさんが謝っても仕方のないことだよ。ゴルドウさんに今の言葉を引っ込めてもらわないことにはね」

「ぐぬ、貴様。チーナたんに向かってなんつー口ぶりじゃ! つうか、もしやそのモチャコとやらがお前の師匠か。そう言えばこの間もおもちゃ作りがどうとか言ってワシに食って掛かったな!」

「だったら何だっていうのさ」

「エルダーを知っておったり、創作武器を操ってみせたり、わけの分からんダンジョン攻略を行ったり。挙げ句がおもちゃ作りじゃと? ぶっちゃけお前は相当怪しいんじゃ! その師匠とやらも含めての!」

「怪しい……?!」

「要はお前さん、その玩具職人に師事しているということで相違ないな?」

「そうだけど」

「なら、作品を見せてみろ。分野は違えど作品を見れば、口で多くを語られるより余程為人が知れるというものじゃ」

「ぐ……」


 チーナさんが間に立つことで、結果として火に油を注ぐ形となってしまったらしい。

 私の言い方が気に入らなかったらしいゴルドウさんは、とうとう私を怪しい奴扱いし始めた。

 が、並べられた言葉を鑑みれば、確かにと納得してしまう自分も居るわけで、それがどうにも歯がゆいばかりだが。

 とは言えモチャコまで巻き込んだことは許せない。私は確かに怪しげな冒険者かも知れないけど、モチャコは真っ当なおもちゃ職人で、私の尊敬する師匠なのだ。

 しかし、それを主張するためには作品を見せろと言う。

 それは即ち、妖精の技術を見せることに相違ない。

 妖精の技術もなしに作った私の作品なんて、それこそガラクタ以外の何物でもないのだから。

 ならば問題は、作品や技術を彼に見せても良いのかという点にある。


 そも、幾ら腹が立ったとは言え、私の作品は軽はずみに誰にでも見せて良いような代物ではない。

 まして口論の拍子に持ち出すだなんて、それは間違った作品の使い方だ。

 技術を学ばせてくれた師匠たちにも、そんなことをしていては顔向けのしようもないだろう。

 妖精の技術は尊ぶべきものであると。それが私の考えであり、それを貶めるような真似は忌むべきことだ。

 業腹ではあるが、ここは一度冷静にならねばならない。


「……それは、できません」

「あん? それはどういう意味じゃ? 腕に自信がないということか? 或いは作品が手元にないと?」

「私が師匠から教わった技術は、軽はずみにひけらかすようなものなんかじゃ無い」

「……ほぉ? じゃから作品を見せることは出来んと。じゃがそれでは、お前さんは自身が怪しい、信用のならん者であると認めているも同義じゃぞ」

「……そのとおり。客観的に見たら、私は確かに怪しい奴だと思う」

「なんじゃい、開き直る気か……?」


 開き直るも何も、残念ながらそれは事実であり、寧ろ自覚するべきところだ。

 先ずもって仮面で顔を隠していることに始まり、ワープを扱う以上神出鬼没にどこにでも現れ、心眼で心を読み、普通の人では扱えない武器を扱ったり。挙げ句、妖精やハイエルフの術を操ってみたり、スキルで仲間と融合したりなどなど……こんなに怪しい奴は、世界中探してもそう居ないだろう。

 それをどの口で、『怪しい者ではございません!』だなんて言えようものか。

 とは言え、モチャコやその仕事を馬鹿にされるのはやっぱりムカつく。

 なので、こうしよう。


「どうしても私の作品を見せろというのなら、答えてください。貴方は、エルダードワーフなんですか?」


 私の作品、というか妖精の技術は、誰にでも見せて良いものではない。

 けれどきっと、それがエルダードワーフだというのなら話は別だ。

 ゴルドウさんがもしそうであると、はっきり認めるようであるなら、私も技術を披露することにやぶさかではない。

 問題は、こんな怪しい私に、彼がどう答えるかというところだが。

 どう答えようと、私には心眼がある。

 彼の返答と心眼で判断した真偽。私が作品を披露するかどうかは、それをもとに判断するとしよう。


 そのように私が思索を巡らせていると。

 暫し黙って私の真意を読もうとでもするように、こちらをじっと睨んでいたゴルドウさんが、ようやっと口を開いた。

 そうしてその喉が発した返答とは……。

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