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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三〇五話 鉱石の山

 町で一番の鍛冶師であるゴルドウさんは、町どころか国を跨いで名を馳せるほどのすごい人らしい。

 その作品の出来たるや、筋金入りの武器愛好家である勇者イクシスさんが、コレクションの中でもお気に入りの一本としてピックアップしているほどであり、かつてはわざわざ難題を押し付けに工房を訪れたこともあったとか。

 それを裏付けるように、イクシスさんとゴルドウさんには互いに面識があるような風であったが。

 まぁ、それはいいとして。


 対面のソファーにはそんなゴルドウさんと、ついさっきまで一緒にダンジョンに潜っていたチーナさんが腰掛けている。

 三人がけのソファーなのに、ゴルドウさんがやたら巨体なせいで二人分のスペースを占めてしまっていたが、しかしチーナさんが小柄であるため特に窮屈さはないようだ。それとオレ姉が、ソファーの後ろに立って成り行きを見守る構えを見せている。

 対するは私たち。ソファーには私を挟んでソフィアさんとクラウが左右に座っている。ココロちゃんとオルカは、チーナさんに用意してもらった足の長い椅子に腰掛け、私たちの後ろから様子を眺める構えだ。


 時刻はやがて一六時も半ばを過ぎようという頃。

 このゴルドウ氏宅の応接室にて、これより行われるのは依頼完了の承認を得るという、本来なら何ということはない話なのだけれど。

 しかし依頼に付随して今回は、注文の品をゴルドウさん手ずから買い取るという交渉までもが、依頼の一部として組み込まれていた。

 即ち今回の依頼を達成するためには、ダンジョンにて獲ってきた成果を彼に買い取ってもらうことで、ようやっと完了するという流れになるわけだ。

 なお、ダンジョン攻略にチーナさんを同行させる、という条件は既にクリア済みであるため、問題にはならない。

 ぶっちゃけた話、もしもチーナさんが攻略の過程で戦闘不能になっていたとしても、今回は護衛依頼というわけでもないため、それを理由に依頼遂行が失敗となるようなことはない。

 まぁとは言え、万が一そうなっていたら、孫バカのゴルドウさんがどんな癇癪を起こすか分かったものではないのだけれど。


 いやに張り詰めた空気の中、先ず口を開いたのは当のゴルドウさんだった。


「先ずは礼を言おう。チーナが良い顔をして戻ってきた。良い経験になったようじゃ」

「あ、はい。私たちも、普段とは違う刺激を受けられてとても為になりました」

「あぅ、そう言っていただけると有り難いです」

「謙虚なチーナたんは可愛いのぉ」


 どうやら今日も平常運転のゴルドウさん。いかつい外見のせいで、いまいち機嫌の良し悪しが判断できない彼だが、こういうギャップを見せてもらえると途端に場の空気が和むのは助かる。

 しかしそれも束の間。

 彼はちらりと私たちを一瞥するなり、言った。


「それで早速じゃが、今回の成果を見せてもらおうか」

「はい、こちらに」


 そう言って応じたのは、うちの交渉担当であるソフィアさんだ。

 彼女が徐に懐から取り出したのは、折りたたまれた質の良い布製の袋だった。

 ゴルドウさんはそれを見るなり、ほぉと関心を示す。


「マジックバッグか。なるほど、それならば量は期待して良さそうじゃな」

「ええ、ご期待には添えるかと。ところで大変恐縮なのですが、現物をここで出すには少々手狭のように思います。よろしければ、鉱物類を出して問題のない場所へご案内ただけませんか?」

「む、それもそうか。良かろう」


 そう言ってのっそりと立ち上がったゴルドウさん。

 彼に先導される形で、私たちは工房の倉庫へ案内された。

 様々な鉱石や宝石、木材によく分からない薬品の数々と、ざっと見回しても多種多様な素材アイテムが並んでおり、そのくせ整理整頓はしっかりと成されているようで。

 私たちが通されたのは、それこそ鉱石類の並ぶ棚の傍、開けた床の上に今回の成果を出してくれとゴルドウさんは言う。


 それに従い、ソフィアさんは早速マジックバッグへ手を突っ込んだ。

 尚このマジックバッグというのは、本物である。ストレージを誤魔化すためのダミーとかではなく、以前ダンジョン内で見つけたレアアイテムなのだ。

 私たちには【アイテムストレージ】や【PTストレージ】といったスキルが有るため、普段は死蔵している代物なのだが、こういう『大量のアイテムをどうやって運んできた?』と問われそうなシチュエーションに於いては、非常に役に立つ代物となっている。

 また、マジックバッグの中身に関してなのだが。これに関してはちょっと、面白い仕様が判明している。

 ストレージとの親和性が、思いがけず高いのがこのマジックバッグというアイテムなのだ。


 先ず、マジックバッグはストレージ内にしまうことが出来る。

 これだけでも、ストレージの容量を随分節約することが出来るわけだけれど。

 これに加え、アイテムウィンドウからマジックバッグの内容を、直接編集出来ることが分かったのだ。

 謂うなれば、データフォルダのようなもので。つまるところマジックバッグ内のアイテムは、実際の手作業を介すこと無く、アイテムウィンドウを操作することで物の出し入れが可能なのである。

 ということで、マジックバッグ内には予め、今回得た鉱石類をたらふく詰め込んであるわけだ。


 ソフィアさんはそれらを次々に取り出しては、手際よく種類ごとに積み上げていく。

 が、それを見ていたゴルドウさんの顔色が変わった。


「おいおい待て待て、なんかすごい石が混ざっとるんじゃが?! お、お前さん等一体何階層まで潜ってきた!?」

「三〇階層ですね。ですがそこはボスフロアでしたので、実質二九階層でしょうか」

「……いやいやいや、流石におかしいじゃろ」


 淡々と語るソフィアさんに、ゴルドウさんが呆れたように溜息をつく。

 しかしその理由は至極当然のもので。


「お前さん方が依頼に取り掛かってから、まだ一週間そこらじゃ。それで三〇? バカを言え。しかも何じゃその石の量……ってまだ出てくんの?!」

「まだ出てきます。お構いなく、お話の続きをどうぞ」

「ぐぬ……まぁいい。三〇階層なんぞ、行って戻って来るだけで三週間と言わず掛かるのが普通じゃろ。しかもモンスターを狩って素材を集めるとなれば、エンカウントするためにダンジョン内を探索する必要もある」

「そうですね」

「戦闘をすれば消耗するし、疲れれば休まねばならん。それを加味すれば、到底三〇階層まで達し、それだけの素材を……ってもう山になっとるし……そんなもん、集めてこれるワケがないじゃろうが!」


 いよいよワケガワカラナイと頭を抱え始めたゴルドウさん。

 しかし、その鉱石で出来た山の中にあるものを見つけ、また表情が固まった。

 そして酷く訝しげに問うてくる。


「おい、待て。その鉱石……まさか、メガポロ鉱石か……?」

「流石、一目で分かりますか。そのとおりです」

「はぁ……なるほどな。お前さん方、ワシを謀っておるな」


 そう言って、急に剣呑な空気を纏い始めるゴルドウさん。

 どうやら何か誤解を覚えたらしく、不機嫌さを顕にしてみせた。

 だが。


「と、お祖父様が仰っていますが」

「おじいちゃん、変な言いがかりはやめて!」

「はぅあっ!! ちち、違うんじゃチーナたん!!」


 一瞬で剣呑な雰囲気もどこへやら。でっかい図体を丸めて、猫なで声を出し始めるゴルドウさん。

 どうやら珍しく怒ってみせたチーナさんの一声は、彼にとって効果てきめんだったらしい。

 とは言え、そんな力ずくでは納得を勝ち取れないだろう。

 実際、孫に嫌われまいと丸くなっているゴルドウさんだが、しかし言い分は曲がっていない。


「だ、だってチーナたんもおかしいと思うじゃろ? どう考えても辻褄が合わんし、それにほらこの石じゃ。メガポロ鉱石を落とすメガポロックは、おじいちゃんのゲンコツでもなかなか砕けん、メタクソ硬いモンスターなんじゃよ? それをあんな量、あり得んじゃろ?」

「でも私たちは、実際戦ってきたんだもん! おじいちゃんは私が嘘つきだっていうの?」

「そ、そうは思わん! ありえん! チーナたんは天使じゃ!! マイエンジェルチーナたんじゃ!! じゃから嘘つきは此奴らで……」

「おじいちゃん!」

「えひゃい! ごめんの! ごめんの!」


 い、居たたまれなくなってきた。

 っていうか、ゲンコツでメガポロックを砕く?! やっぱり只者じゃないよこの人。まぁ、それはそれとして。

 私はちらりと、一緒にこの場までやって来ているオレ姉へ視線をやり、小声で問いかけた。


「オレ姉、どう思う?」

「ド級の孫バカ」

「じゃなくて!」

「はぁ……まぁ、そうだね。身内の評価なんぞ当てにならないだろうけど、師匠は信用に足る人だと私は思ってるよ。ただ、見せるかどうかはあんた次第さ」

「ふむ……」


 百聞は一見にしかず。ゴルドウさんの疑いを一発で晴らすには、実際彼を伴い今から現地へ飛ぶのが一番だろう。

 ただ、また私の秘密を明かすことになってしまうため、正直気乗りはしない。ソフィアさんがマジックバッグで誤魔化しを行ってくれているのも、私のへんてこスキルを隠そうとしてのことなわけだし。

 ただ、このままだと話は前に進まないだろう。

 やっぱり実演して見せるべきか……。

 なんてこっそり私が覚悟を決めかけていると。


「やはりお疑いですか。ならばこうしましょう。ゴルドウ様へはこちらの、二〇階層へ至るまでに取れた素材を引き取って頂き、残りは我々で処分する、ということで」

「な……?!」


 ソフィアさんがまたすごいことを言い始めた。これには動揺を隠せないゴルドウさん。

 それも無理はないだろう。だってメガポロックが倒し難いモンスターであることは、今しがた彼自身が認めたこと。

 そこから得てきた素材とあらば、希少性も相応に高く。

 私たちが果たして本当にダンジョン攻略を行ってきたにせよ、或いはデタラメを言っていたにせよ、現物だけは嘘をつかないのだ。

 経緯がどうであれ、目の前にはメガポロックを始め、強力なモンスターが落とす希少素材が山のように積まれているわけで。

 疑うのならもういい。お前には売らん! と、言外にそう言ってのけたソフィアさんへ、ゴルドウさんは途端に焦燥を覚えたのである。


「い、いやまてまて、別に金を払わんとは言っておらんし? 実際チーナたんの証言もあるわけじゃし? ワシもやぶさかではないっていうか?」

「そうですか。では全て引き取っていただけると言うことでよろしいんですね?」

「そ、そうじゃな。経緯はどうあれ石を泣かせるわけにもいかんしの! っていうか、いつまで石積み続けとるんじゃ! しかも貴重なもんばっかり!」

「戦闘訓練も兼ねて、二九階層では特に多くの狩りを行いましたからね」

「限度があるじゃろ?! っていうか、余裕で予算オーバーなんじゃがぁ??」


 斯くして、どうやら依頼達成に関しては認めてもらえる目処が立ったわけだが。

 しかし値段交渉に関してはその後も暫し、ソフィアさんとゴルドウさんの間で熱いバトルが繰り広げられることとなったのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういった交渉事はあまり描かれてこなかったので(ギルドでの買取だったので交渉の余地はなかったので)、新鮮で良かったです。
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