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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三〇一話 内から爆ぜる

 シンプルに硬くて重い。大玉ころがしに用いられる玉ほどもある、岩のモンスター。それがメガポロックである。

 手足や顔があるわけでもなし、見た目はただの岩。自力で動くだけの岩だ。

 攻撃は突進してきたり転がって押し潰してきたりと、まぁ見切る分には然程の苦労もないのだが。

 しかし如何せん、こちらの攻撃がほぼ意味を成さないほどに硬い。

 っていうかシンプルに岩なので、付け入る隙がないと言うか。

 関節の一つもあれば、そこが弱点になりうると言うのに、残念ながらまんまる岩石ボディであるメガポロックは、やたらと硬い岩を殴るが如く単純に攻撃が通じづらく、ココロちゃんの怪力をもってしても粉砕できないほどの強度を誇っていた。


「防御に一点特化したその有様や見事。私も見習うべきだろうか……」

「クラウが盾しか使わなくなったら、うちの火力大幅ダウンだよ」

「それより、どうするのコレ」

「いっぱい殴れば倒せなくはないのです。でも、効率は良くないです」

「もし囲まれると、最悪詰みますね」

「やっぱり、発破でしょうか……」


 発破。要は、その内部に爆薬を仕込んで爆砕してしまおうという発想だ。

 岩ばかりのこんな土地で育ったチーナさんなので、そういったアイデアが出るのは不思議でも変でもないのだけれど。

 しかし相手はモンスター。要は生き物である。

 生き物相手に、「体内に爆薬を仕掛けて起爆しちゃいましょう!」だなんて。なかなかエゲツないことである。

 とはいえ、打てる手があってそれを忌避感がどうたら言うのは、それはそれで違うのかも知れない。

 いや、うーん。でもなぁ。

 もしも相手が動物系のモンスターだとしたら、きっと同じような発想は出てこなかっただろうし。それを思えば相手を見た目や種類で判断してるってことになる。それはどうにも気持ちが悪い。

 どうやら私はまだ、生前の倫理観ってものの上で生きているようだ。

 実際私以外のメンバーは、よしそれで行こう! という乗り気を示していた。


「も、問題は爆薬をどうするかですけど……」

「体内に魔法を送り込むのは、MNDによる妨害を受けるだろう。よってミコトの魔法は当てに出来ないか」

「あ。そう言えば私の故郷には、それっぽい術を使う人がいましたね。閃断の応用だと思うんですが……ミコトさんなら出来るんじゃないですか?」

「出来たとして、またミコトにそんな物騒なものを覚えさせるの?」

「オルカ様、それは今更です」

「私がやる流れになってる……」


 ということで急遽にはなるが、なんだかハイエルフに伝わるおっかない固有魔法を習得する羽目になったらしい。

 とは言え、今回はお手本があるわけでもなし。

 通常の魔法と言うだけなら、大体強くイメージして魔力をこねくり回していれば、こう、なんていうか、魔力のカタチが糸で引っ張られるみたいに特定のカタチへ収束する感覚があって、気づけばイメージ通りのマジックアーツが成功していたりするんだけど。

 しかし今回はハイエルフの固有魔法だ。とても一筋縄で行くとは思えない。

 が、やってみないことには分からないというのも事実。


「取り敢えず、メガポロックは鬱陶しいのでココロが抑えておきますね」

「なら私も手伝おう」

「あ、それなら私も」


 私が集中出来るようにと気を利かせてくれたココロちゃんとクラウ、そしてチーナさん。

 最初にココロちゃんが、メガポロックめがけて駆け出せば、勢いそのままに奴を蹴飛ばし壁の方まで転がしてしまった。

 激しい激突で、頑丈なダンジョンの壁にも関わらず些かめり込んだメガポロック。

 それをすかさず、ココロちゃんたち三人がかりで押さえつけに懸かった。

 こうなっては身動きの取れないメガポロック。どうやら向こうは任せておいて何ら問題無さそうである。


「ではミコトさん、張り切ってどうぞ」

「そう言われてもなぁ……うーん」

「ミコトならきっと出来る。がんばって」


 オルカの励ましも受け、私は早速目を閉じ魔力調律を行い始めた。

 一先ずは、ハイエルフの用いる魔力の波長……のようなものを再現する。ソフィアさんに指導を受け、閃断や幾つかのハイエルフ固有魔法に関してはいつでも再現出来るくらいに馴染みがあるため、それ自体は難しいことではない。

 だが問題は、そこからどうするかである。

 例えるならそれは、適切なパスワードを入力しないと開かない金庫に対して、デタラメな入力を行って解錠を試みるような無謀さに思えた。

 まぁ厳密には、スキルや魔法にはスキルレベルってものが設けられているので、ピッタリバッチリパスワードを揃える必要はなく。宝くじで言うと、前後賞だ何だっていう掠れ当たりでも発動は可能だと思うのだが。

 さりとて、難しいことに変わりはないわけで。


「ぐぬぬ……」

「ミコトさん、【スキルシミュレーター】を用いてみてはいかがですか?」


 仮面の下で顔を顰め、苦戦する私にソフィアさんからそんなアドバイスが飛んできた。

 スキルシミュレーターとは、スキルを使用する際に、使用したスキルが齎す結果をイメージとして頭の中に再生してくれるという、魔力制御に長けた人が目覚める便利なスキルである。

 私はこれを、魔力調律の際に活用していたわけだけれど、今回は失念していた。未発見のスキルを探すために用いる、という発想には思い至らなかったためだ。


「なるほど、それはありかも……ありがと、やってみるよ」


 ソフィアさんへ礼を返すと、早速スキルシミュレーターに注意をはらいつつ魔力をこねくり回す私。

 それはさながら、ラジオのチューニングに似た作業であった。或いは電波を探して部屋の中を歩き回る作業か。

 高速でグニグニと魔力のカタチを流動させていると、時折スキルシミュレーターがチラリと脳内に映像を送ってくる。

 それは紛れもない、何かしらのスキルが成り立つという裏付けたり得るものだった。

 映像が見える度、私はすぐさま魔力のカタチを整えて、いちいちどんなスキルが起こりうるのかと確かめるのだけれど。

 しかし相手を内側から爆発させる、だなんて魔法にはなかなか巡り会えなかった。

 代わりに、ちらほら別のエゲツない魔法が見えているのだけれど。


「ハイエルフの魔法、恐ろしや……」

「な、何か見えたんですか? 覚えました? 使ってみても良いんですよ!?」

「固有スキルや魔法の類いは『習得』が出来ないんだから、無茶言わないで!」


 閃断然り、妖精師匠たちの付与然り。

 通常の属性魔法ならば、一度発動がかなうと『習得』という扱いになり、ステータスのスキル欄にも名前が載って、スキルや魔法の名前を念じながら唱えることで簡単に再発動が可能となる。

 が、どういう理屈かは定かじゃないけど、固有スキル・魔法の類に関してはそれが出来ないのだ。

 発動に成功しても、習得したという扱いにはならず、唱えたところでスキルも魔法も起こらない。

 だから私は、都度魔力調律を駆使して、マニュアル操作にてそれらを行使しているわけである。

 非常に感覚由来の方法であるため、ちゃんと練習しないと自在に発動できないのがネックだが、固有魔法を再現できるというメリットに比べれば些細なことと言えるのかも知れない。

 それ程、ハイエルフの魔法はエゲツないものが多く感じられた。


 そんなこんなで一人苦戦を続けること一時間ほど。

 気づけばメガポロックは、チーナさんが地魔法で作った奴のサイズにぴったりな岩の箱に収められ、身動きの一つも取れないような状態に。

 そうして暇になった面々は、やることもないのでくつろぎセットでお茶をしている。

 のんきに駄弁っている彼女らを他所に、私は一人黙々と頑張った。ソフィアさんだけは終始、傍らで目を輝かせ熱い眼差しを向けてきたけれど。

 ヒントは閃断の応用である、という点だった。

 先ずは魔力調律で、閃断を最も効率よく発動できる魔力のカタチを探り、これを起点に魔力をこねてスキルシミュレーターとにらめっこを繰り返したのである。

 その結果。


「み、見つけた……!!」

「!! ほ、本当ですかミコトさん!?」

「ちょっと使ってみるから、見てて」


 そう言って私は、岩の箱に収められたメガポロックへ視線を投げると、苦心の末見つけたその魔法を発動したのだ。

 名前も知らないそれは、果たしてシミュレーターが見せてくれた通りの結果をもたらす。

 即ち、箱がボゴンと内から爆ぜ、ガラガラと崩れ去った。その中に封じられていたメガポロックはと言えば……。


「お、ぉ、お、ぉほぉおおおおおおお!!」

「良かった、成功だ」


 全身に罅が走り、ボロボロと崩れ落ちる。そんな奴の姿が、箱の内から覗いたのであった。

 そうして次の瞬間には黒い塵へと変わり、消え去っていくメガポロック。

 それを見るなりソフィアさんは奇声を上げ、ぴょんぴょんと飛び上がって大はしゃぎする。

 お茶をしていた面々も、揃って目を丸くしていた。驚いてくれたようで何よりである。


「やりました! やりましたねミコトさん! 流石私の嫁です!!」

「ごめんソフィアさん。せっかく掴んだ感覚を忘れそうだから、今はあんまり話しかけないで」

「あ、はい……」

「ちょっと反復練習してくる!」

「ミコト、一人で行っちゃダメ。私も行く」


 固有魔法の再現は、感覚が頼りだ。一度それを見失い、忘れてしまったなら、また手探りからのやり直しになってしまう。

 それを避けるためには、この感覚が消えない内に繰り返し練習して、体に覚えさせるのが一番だろう。

 ということで、慌てて席を立ったオルカと、しょんぼりしながらもちゃっかり追従してくるソフィアさんを引き連れ、私は暫し岩のダンジョン二九階層を荒らし回ったのだった。

 エンカウントするなり、爆散するモンスターたち。

 オルカは死んだような目でそれを見つめ、対照的にソフィアさんは大はしゃぎ。

 そして私は、やっぱり複雑な気持ちを感じながらも、新たな技の習得に手応えを覚え、何度も何度も練習を繰り返したのである。


 通話にて、クラウたちも三人で適当にフロア内を回って、戦闘訓練を継続しておく、という連絡を受け、結果二チームに分かれての行動は結局その日の活動時間いっぱい続いた。

 協力して当たりさえすれば、今や攻略法の見えているモンスターたちばかりなので、然程苦戦をするようなこともなく。

 クラウたちのチームもまた、順調に戦闘を消化しながらフロア内を徘徊し続けたのだった。


 斯くして夕方になり、皆と合流を果たした頃には、私もすっかり例の固有魔法をマスターしたと言えるほど感覚を覚え、ドロップアイテムもたっぷりストレージに溜め込むことが出来ていた。

 クラウたちの方も、考えてみたら前衛三人というえらく偏りのあるチームにて行動したこともあり、なかなか面白い経験になったと満足気にしている。

 そうして十分な一日の成果を感じた私たちは、今日の訓練を切り上げたのだった。

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