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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二九七話 岩のダンジョン二日目

 魔道具作りの師匠であり、友達でもあるモチャコたちにカンカンの話をしていたところ、不意に思いがけないワードが飛び出してきた。

 モチャコの口から出たのは、『エルダードワーフ』という如何にも強そうな名前である。なんたってエルダーだもの。

 カンカンにはドワーフがたくさん居た、という話をしたところで出てきたこの名前。

 問題は、それが妖精である彼女から出たということであり。興味に駆られた私は、早速そのエルダードワーフとやらについて詳細を尋ねてみることに。

 すると彼女は、記憶を手繰るように眉間の皺をグニグニ指でほぐしながら、つっかえつっかえ語ってくれた。


「たしかねー、じっちゃんから聞いたことがあるんだよ。でっかいドワーフの話」

「でっかいドワーフ……」


 それを聞いて、脳裏に過ぎったのはオレ姉の師匠であるゴルドウ氏の図体である。

 彼はドワーフでありながら、身長にして二メートルを超える大柄な人物だった。もはや普通にマッチョで太くてもじゃもじゃしたおじいさんである。

 確かに始め見た時は、ドワーフのくせにこんな人もいるんだなと感心したものだが、モチャコの話を聞く限りもしかすると彼が……?


「他には何かないの? そのエルダードワーフについて知ってることって」

「あー、おっきいドワーフなら、私も聞いたことあるよー。たしかー、エルフにとってのハイエルフー、みたいなものー、みたいなー」

「そう言えば、ハイエルフよりも以前に旅立った種族の一つ……だったかしら? 私も、詳しくは知らないわね」

「でも、確かそいつらも特別な技術を持ってるってじっちゃんが言ってた気がする!」

「エルダードワーフの、特別な技術……」


 なんか、ものすごく興味深い情報を耳にしてしまった。

 しかし結局、それ以上の情報というのは特に出てこず、この話題はいつの間にかどこかへ流れていった。

 妖精は好奇心こそ旺盛だが、その分興味の矛先がコロコロ変わるため、話をしていても何時だってその内容は一つ所に留まらないのだ。

 私は彼女らの他愛ない話を聞き流しながら、魔道具作りの修行に再度集中したのだった。

 そのエルダードワーフとやらについては、機会があれば調べを進めてみるのもいいなと心に書きとめつつ、である。

 正直今は色々とやることや、やりたいことが渋滞していてそれどころじゃないのだ。

 折を見て、ゴルドウ氏にそこはかとなく話を聞いておくとしよう。



 ★



 翌朝。

 朝練を終え、イクシス邸に飛んだ私は皆と一緒に朝食を済ませると、出発の準備を整えた後マップウィンドウを監視していた。

 時刻は午前八時過ぎ。マップ上に浮かぶチーナさんの反応が、ぼちぼちと町の外を目指し始めたのを見つけ、私たちは飲みかけのお茶をぐいっと飲み干した。

 あと、ついでにお手洗い等も済ませて用意を整えると、仲間たちを連れ転移を発動。

 昨日チーナさんと別れた場所へ飛べば、未だ朝方の冷たい空気が肌を刺し、ブルリと早速身震いを一つ。

 一応掛けておいた透明化を解除すれば、やがてカンカンの方からチーナさんが私たちの姿を見つけ、小走りにパタパタと駆けてきた。

 現在地はカンカンからやや外れた、人目につきにくい岩陰だ。山岳地帯という土地柄、身を潜めるのには都合のいい大きな岩なんかがちらほらあり、さほど大げさに転移ポイントを厳選する必要がないのは楽でいい。


「皆さん、おはようございます! すみません、お待たせしてしまいましたか?」

「ううん、私たちもたった今来たところだから」

「ミコト、なんかそのセリフ、デートの待ち合わせみたい」

「む。私を差し置いて他の女とデートですか!? 許しませんよミコトさん!」

「それはココロも捨て置けませんね!」

「すまないな、朝からうるさくて」

「あ、あはは……」


 斯くして滞りなくチーナさんと合流した私達は、早速ダンジョンへワープにて移動。

 更にフロアスキップを駆使すれば、数秒後にはダンジョン二〇階層である。

 その、あまりに唐突な景色の様変わりに、目を回しそうになっているチーナさん。

 しかしいい加減リアクションを取ることにも疲れたのか、軽く頭を抱えてため息を一つこぼすだけに留めた。


「気にしたらダメ。気にしたらダメなんだ……」

「なんかブツブツ言ってるね」

「そこは触れないであげて」


 オルカの窘めを受け、私は自分に何やら言い聞かせているふうのチーナさんをそっとしておきつつ、周囲の様子を確認した。

 現在地はカンカン近くに存在する、岩系モンスターの巣窟、仮に岩のダンジョンとでも呼んでおこうかな。その第二〇階層入り口に当たる場所だ。

 ダンジョンは階層を繋ぐ階段の上下に、モンスターがポップすることも近づくこともない、所謂セーフティーエリアがある。

 よって現在はその、二〇階層に降りてすぐの場所というわけだ。ダンジョン内でキャンプを行う場合などは、こうしたスペースを利用することが一般的だが、ダンジョンによっては一階層がバカみたいに広く、一日がかりでも次の階層へ移動できないようなことだってある。

 そうした場合は、モンスターポップの危険がある場所でも交代で見張りを立てるなどして休まなくっちゃならないため、それはそれは大変なのだ。

 よって、こうした安全セーフティーエリアというのは冒険者に重宝され、時々休んでいる他所の冒険者さんに遭遇することだってある。

 フロアスキップも、油断して発動したら転移先で人目につきかねないわけだ。


 マップにも気配的にも、誰かがいる様子はない。一応光学迷彩での透明化は、転移系スキルとセットでの使用をデフォルトとして心がけているため、仮に転移先に誰かいたとしてもそうそう容易く見つかるようなことはないのだけれど。

 とは言えこんな階層にまでやって来れる実力者であれば、気配だけで察知してくるような人がいないとも限らない。

 フロアスキップは非常に便利だけど、そういったリスクは常に有り、毎度内心でヒヤヒヤしていたりするのだ。


 と、いい加減立ち直った様子のチーナさんを認め、私は皆へ向き直る。


「それじゃ、軽く今日の予定について打ち合わせをしようか」


 一応鏡花水月メンバー間では、その手の話は済ませてあるのだが。

 しかしチーナさんの了解を得る必要もあるし、何かしら彼女からの提案があるかも知れない。

 或いは現場を訪れてみて、初めて気付ける異変なんかがあるかも。

 そういった状況に対応するためにも、やはり攻略前の最終打ち合わせというのは必要である。


「戦闘訓練兼、ドロップ素材集めをしながら、状況を見つつ更に深い階層へ進んでいこうっていうのを基本的な方針にしたいんだけど、チーナさんからは何かある?」

「そうですね……今日は、もっと戦う機会をいただけると嬉しいです」

「昨日は我々が、エンカウントするなり競うように倒していましたからね」

「経験値がそこに落ちていれば、飛びつくのは仕方ないことだろう。冒険者の性というやつだ」

「経験値って、いつからそんな用語をナチュラルに使うように……」

「ミコト様の影響ですね」

「経験値を溜めてレベルアップ」


 ああ、私のせいで仲間たちがゲーム脳に……。

 ともあれ、今回はチーナさんの訓練も目的の一つである。私たちでモンスターを取り合っていたのでは、彼女のためにはならないだろう。

 とは言え、流石にこの階層以降のモンスターを単独で倒すというのは、容易いこととは言い難い。

 そこで。


「よし、それならさ。今日はチーナさんを加えた連携で戦闘に当たって行くとしようか」

「妥当な判断だと思う」

「は、はい、よろしくおねがいします!」

「ならばまずは、改めてチーナの能力を把握するところからだな」


 話は決まり、一先ずチーナさんの戦闘スタイルについて教えてもらうことに。

 彼女の得物は二本の手斧である。ドワーフ……いや、ひょっとするとエルダードワーフの血を引いているかも知れない彼女は、丈夫な体と人並み外れた膂力を駆使した、バチバチの近接戦闘を得意としているらしい。

 さながら一昔前のココロちゃんのようだが、あの頃の彼女と違ってちゃんと力の制御は出来ており、意図せぬ大暴れをするようなこともないそうだ。

 他には、地属性の魔法も操れるそうで、存外自由度が高く器用な戦い方が可能なようである。


「ってことは、基本は前衛だね。場合によっては中衛に下がってもらう感じかな」

「それを踏まえて一度戦ってみるのが早そうだな。動きもしっかり見せてもらうとしよう」

「うぅ、お、お手柔らかにお願いします」


 話も決まり、早速マップでモンスターの反応を見繕ってエンカウントを仕掛けていく。

 セーフティーエリアを出て一歩通路に入れば、そこはこれまでと変わらぬ狭い道である。

 洞窟然としたしっとりひんやり肌寒くさえ感じる空気感に、ゴツゴツとした床と壁。天井には鍾乳石……とまでは行かない。普通に岩の天井だ。ただ、それ程高さはなく、精々二メートルちょっとくらいか。

 通路の横幅も、人が三人横に並んで歩けるくらい。長物の武器だと、振り回すのに注意が必要なレベルである。

 トリッキーな動きが売りのオルカなんかは、普段ほどの力を発揮できない厄介な狭さだが、何も通路ばかりのダンジョンというわけではない。

 広間に出れば狭さの問題は解消できるし、今回はそういうハンデの薄い場所でしっかりとチーナさんとの連携を確かめたかったので、場所も厳選した上で単独行動しているモンスターに当たりをつけた。

 以前やったオルカによるおびき出しを使えば、私たちに都合のいい場所で戦えるのだから、大きな強みと言えるだろう。


 そうして早速オルカが釣ってきたのは、全長五メートルほどもある、背中に硬い岩をびっしり貼り付けたワニっぽいなにかであった。

 名前はロックアリゲーター。まんまだ。

 これまでに数度戦ったけれど、重そうな図体の割に素早く、そして硬い。

 が、口の中は比較的柔らかいため、御しやすい相手でもある。


 動き回るには十分な広さを持つ小広間にて待ち構えていた私たちの元へ、オルカを追いかけやって来た岩ワニ。這いずって動くさまは迫力十分だ。

 私たちは軽く目配せすると、早速戦闘に突入。今回は、得意の奇襲作戦ではなく、真っ向勝負である。


「【ロックピラー】!」


 先ず突っ込んでいったのは、いつもどおりクラウとココロちゃんだった。一歩下がった位置で、駆けながら魔法を叫ぶチーナさん。

 そうして直後、岩ワニとクラウたちが衝突しようとした、その瞬間。

 ワニの背に、天井から太い岩の柱が突き出し落ちてきて、凄まじい勢いで潰しにかかったのである。

 ロックピラーは岩の柱を生成する、通常は足場を作るのなんかに用いる魔法だが、こういった天井のあるフィールドにおいては侮れない脅威となる。

 何せ質量は力だ。それが重力に引かれて落下するだけで、人なんて簡単にぺしゃんこにされてしまうからね。

 魔法で生成した岩の柱は、当然相応の質量を備えており、それが天井からずんと伸びてワニを思い切り押さえつけてしまった。

 呆れるべきはその耐久力で、頑丈な岩ワニは柱に押さえつけられて尚ジタバタと元気に手足や尻尾、頭を振り回してどうにか抜け出そうとしている。

 が、大して足掻く暇もなく、そこへ到達し襲いかかったのはクラウとココロちゃんであった。

 こうなっては、身動きの碌に取れない奴を一方的にボコすのみなのだけれど。

 しかし彼女たちはチラリとチーナさんへ目配せ。彼女の意向を確認した。

 すると、一言「口!」と発せられた彼女の声に、逸早く動いたのはオルカである。


 自在に変形する黒苦無は、いつの間に仕込まれたのだろう。突然岩ワニの口内にて上下に伸びるつっかえ棒として出現。

 無理やり大口を開けさせられた岩ワニは、必至さの滲む声で叫ぶが、もう遅い。


「【ロックウォール】! 【ロックランス】!」


 岩ワニの面前に、突如垂直に突き出た岩壁はしかし、その直後唱えられた彼女の魔法によって鋭く太い岩の槍へと姿を変え、奴の口の中へ無残に突き入れられたのだった。かなりえげつない光景である。

 そしてこの直後、敢え無くロックアリゲーターは一溜まりもなく黒い塵へと変わり、ドロップアイテムを落とすのだった。

 始めから囮と念の為の後詰めとして駆けていたクラウとココロちゃんは、結局これと言ってやることもなく、少し不完全燃焼気味ではあったが、それを言ったら私なんて見ていただけだ。


 ともあれ、十分に危なげのない完勝がかなったと言える。

 チーナさん、思ってたより魔法も使えるじゃないか!

 と、皆で彼女のもとへ駆け寄りつつ賞賛の言葉を掛けたのだけれど。

 しかし対する彼女の表情は浮かないもので。


「うぅ……、たった一戦で三回も魔法を使ってしまいました……」


 と、反省ムード。

 なるほど、普通の冒険者にとっては確かにMPのロスなのかも知れない。

 ため息をつく彼女の傍らで、私もまた一般冒険者の苦労を改めて思い知ったのだった。

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