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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二九一話 傷心帰郷

 カンカンを出発してからしばらく。

 足元には延々と、大小様々な石ころの積もった険しい山道が続いている。

 下手をすると足首をグネりかねない不安定な足場を一歩一歩丁寧に歩みながら、私たちはターゲットであるフレイムアイビスを探し進んでいた。

 その道すがら、せっかくなので同行者であるチーナさんに色々と話を振ってみる。


「チーナさんって冒険者なんですよね? ランクはどのくらいなんです?」

「へぁっ!? あ、ええと、その、一応Aランクを名乗らせてもらっています……」

「すごい。私より上」

「私とオルカはBだもんね」

「そ、そうなんですか!? てっきりもっと高いものと……」


 心底驚いたと言わんばかりの反応を見せるチーナさん。

 でもまぁ、分からないではない。だってオルカときたら、ニンジャのジョブに変わってからというもの、戦闘面でもそれ以外でも活躍がめざましく、Aランクであるココロちゃんやクラウに決して引けをとってはいないのだ。

 私に関しては、一応異例の早さで昇級させてもらいはしたけれど、未だ知識面では全然ランクに見合っていないし、正直分不相応だと思っている。

 何せ冒険者になってからまだ一年未満なのだ。

 確かに【完全装着】ってスキルのおかげで、ステータスは装備品次第でめちゃくちゃ高くなるし、その他のスキルに関しても工夫をこらして至らぬ点を補っているつもりではある。

 けれど、やっぱり力だけあってもダメなんだ。

 知識や経験は現状、その大半を仲間たちのそれに依存しているし、もし何かの拍子にソロで動くことになったなら、私なんてそこらの新人冒険者と大差ないはずである。


「ちなみにこっちのココロちゃんとクラウはAランク。ソフィアさんに至っては……」

「一応特級ということになっていますね。このPTで過ごしていると、段々その自覚が失せてきますが」

「と、特級! すごいPTなんですね……!」


 なんて感心するチーナさんだが、しかしAランクだって十分にすごいことである。

 特級は実質的に別枠扱いなので、冒険者ランクで言う最上位はAであり、チーナさんは既にそこへ上り詰めているのだから。


「っていうか、チーナさんこそ若いのにAランクだなんて、すごいですよ」

「! ああいえ、えっと、外見がこんななので勘違いされやすいんですけど、実はこれでも二十歳を超えてるんですよ……?」

「ご……合法ロリ……!!」

「? なんですか、その『ごうほうろ……』」

「あーあーなんでも無いです。気にしないでください!」


 びっくりした。

 ココロちゃんも、見た目にそぐわぬ年齢らしいが、それと似たような人が他にもいただなんて。流石ファンタジーな世界である。

 不思議そうに首を傾げているチーナさんへ、すかさずオルカが話題を繋いでくれた。


「その見た目は種族によるもの?」

「あ、はい。ドワーフの女性は低身長になりがちなんだそうです。私はその中でもそれが顕著で……ちょっとコンプレックスだったりします」

「分かります……初対面の方は、何ら悪気なく子供扱いしてくるのですよね」

「そ、そうです。そうなんです!」


 と、急に意気投合し始めるココロちゃんとチーナさん。

 普段は特に気にした素振りも見せないけれど、外見のこととかやっぱりちょっと気にしてたんだねココロちゃん。

 お互い外見が幼いせいで被った有難迷惑話に、生き生きと花を咲かせ始めた。

 私たちにはちょっとついていけない、あるあるトークが展開される中、ちらほら思い当たるフシがあってメンタルを地味に削り取ってくる。

 私たちも、知らず識らずの内にココロちゃんを外見で侮るような態度をとってしまっていたのかも知れない。そも、ちゃん付けで呼んでいることもそうなのだろうか。


「ココロちゃん、なんかごめんね。もし私たちに至らない点があったら、ちゃんと教えてね? 直すから!」

「我慢はダメ」

「だな。居心地の悪さがあるのなら、積極的に改善していかねば」

「あばば、誤解です! 皆さんに関して言えば、何ら思うところはありません! 強いて言うなら、ミコト様の妻を自称する輩が癪に障る程度です!」

「さらっとケンカを売られましたね。まぁ、妻の座は誰にも譲りませんが」


 なんて静かに火花を散らし始めたココロちゃんとソフィアさんを尻目に、いよいよ私たちはフレイムアイビスの分布エリアへと足を踏み入れていったのである。

 随分と坂道を登ってきたため、振り返れば見晴らしはよく。徘徊するモンスターの姿というのも散見できた。

 だが、肝心のターゲットはやはり見当たらず、見つけ出すのが大変だというのも分かる気がした。


「さて、それじゃぁどうやって探そうか? やっぱり手分けするのが良いと思うんだけど」

「で、でしたら私は、その、ミコトさんとご一緒させてください。ミコトさんが戦う姿を見届ける義務がありますので……!」

「それならばココロもご一緒します! ミコト様あるところココロあり、です! それにチーナさんとももっとお話ししたいですし」

「む。それなら私も……」

「でしたら私も」

「ってこらこら、それじゃぁ手分けにならないだろ! オルカとソフィアは私と来るんだ」

「「えー」」

「その顔やめろ、傷つくだろ!」


 というわけで、フレイムアイビスの捜索は私チームとクラウチームの二手に分かれて行うこととなった。三人三人で人数的なバランスは良い。

 しかしこういった場合、強いのはやはり向こうのチームだろう。

 オルカは斥候のプロフェッショナルだし、ソフィアさんは非常に目が良い。加えてマップスキルの助けもあれば、マーカーを付けて見失うこともないし。

 であれば私たちの役回りは主に、彼女らの手が回らない部分をカバーすることだろうか。

 私だって能力を隠す必要さえなければ、秘密道具でも何でも使って、それなりの捜索能力を発揮していたところだが。

 しかしいかんせん、チーナさんの前では『普通の冒険者』を演じなくてはならない。

 演技の下手な私に出来るのは、精々がスキルなどに縛りを設けて、常識的な能力を装うことくらいである。

 だもんで、申し訳なくは思いつつも、今回はクラウチームが頼りだ。


 そうは思えど、私たちだってサボるつもりはない。

 クラウたちの向かった方とは反対方面を、丁寧に探して歩いた。

 マップウィンドウを見れば、モンスターの位置くらいは分かる。それらを頼りに一つ一つ、フレイムアイビスかどうかを確かめていくわけだが。いかんせん手間のかかる作業ではあった。

 まぁマップすら無い状態で挑んだなら、掛かる苦労はこの比ではないだろうし、チーナさんはその苦労をする前提で望んでいるわけだから、私はもっと苦労ってものに耐性をつけるべきなんじゃないかとつくづく思う。

 いや、でもそれって、ちょっと違うのかな。

 私にはマップがある。だから時間も手間も短縮できるわけだけれど、だったら浮いた時間でもっといろんなことをやれば良いんだ。

 現に私の修行時間なんていうのは、そうやって捻出しているわけだからね。

 なので、普通の冒険者に比べて私が苦労を知らない、というのは考え違いなのだろう。

 と、勝手に納得しておくことにする。


「オレネ様をカンカンまで護衛なさったのは、チーナさんだったんですか!」

「え、そうなの?」

「えと、はい。そうです」


 ぼんやり考え事をしながらモンスターのチェック作業を続けていると、何やらココロちゃんがチーナさんから、ちょっと気になる話を聞き出していた。

 曰く、アルカルドにて会ったチーナさんに、オレ姉からカンカンへの護衛依頼があったそうだ。

 オレ姉とは昔なじみであり、仲も良かった為それを快諾したチーナさんは、二人でカンカンへやって来たらしい。

 オレ姉が急にアルカルドを離れたのは、チーナさんとの思わぬ再会があってのことだったようだ。


「へぇ、ってことはもともと別の場所で活動してたんですか?」

「はい。最近までトレオンという町にいました……」


 少し言いづらそうに、彼女はそう肯定した。

 それだけで、彼女の帰郷には何かしら理由がありそうだと察することが出来る。

 しかしそれは、部外者である私達が気安く触れて良い話題ではないだろう。

 どうやって気まずくなる前に話題を転換しようかと、一瞬逡巡したその隙に、思いがけず話は勝手に進んでいたのである。


「実は、トレオンで大きなミスをおかしてしまいまして……私の判断ミスが原因で、協力して依頼に当たっていた方に怪我を負わせてしまったんです」


 そうして彼女が語った内容は、如何とも遣る瀬無い懺悔めいたものだった。

 最近までPTで活動していたチーナさんは、しかし所属していたPTが解散したことでソロ冒険者になった。

 不慣れなソロでの活動を強いられ、あくせくしていたところに突如、緊急性の高い依頼が舞い込んでしまう。

 断りきれず駆り出された彼女は、Aランクという肩書が災いし、様々な判断を委ねられてしまった。いわば現場責任者としての役回りを負ってしまったわけだ。

 協力して依頼にあたっているのは、皆彼女よりもランクが下の冒険者ばかり。

 そんな状況で、チーナさんだけでは手に負えないモンスターの群れとぶつかってしまったそうだ。

 彼女は不慣れな指揮や戦力の割当に失敗し、みすみす彼らに被害を出してしまったと言う。

 幸いモンスターを退けることは出来たが、その一件でチーナさんはすっかり自信を喪失。トレオンで他の冒険者と顔を合わせるのが辛くなり、自身を見つめ直すべくカンカンへ戻ってきたらしい。


 何とも重たい失敗談であった。

 特に私なんて、経験が浅いことを悩みにしているため、いつそれと似たような状況が訪れないとも限らない。

 そう思うと、単なる他人事であると切り捨てる気にはなれなかったのだ。


「私がPTの一員だった頃は、リーダーの指示に従って動いていれば、それで大体上手く行っていたんです。それが、いざ自らが指示を出す立場に立たされた時、頭が真っ白になってしまって……リーダーの苦労や凄さを、今更ながらに知りました。そして私自身の不甲斐なさも……」

「チーナさん……」

「あぅぅぅ……申し訳ありません、ミコト様。ココロは、ミコト様に依存していましたぁあ!!」

「あー、感受性が強いんだからもう」


 チーナさんの話を聞いて、自らに重ねて考えてしまったらしく。急にべそをかき始めるココロちゃん。

 彼女の場合は長らくソロで活動を続けてきたが、諸事情があり周囲はココロちゃんを恐れ遠巻きにしてきた。

 そのため誰かに指示を飛ばすという状況に立たされることは恐らく無かったのだろう。

 私たちと一緒に行動するようになってからも、彼女は指示を受けてパフォーマンスを発揮するタイプだった。

 事実彼女がリーダーシップを発揮してどうこう、という姿は確かに見たことがない。

 ゆえにこそ、チーナさんの話はグサッと来たのだろう。


「ですがココロは、ミコト様から離れたぐありまぜん~~!!」

「はいはい、分かった。分かったから泣かないの」


 がしっと私の腰にしがみつき、捨てないでくださいと懇願してくるココロちゃん。

 よく分からないけど、罪悪感が湧いてくるからやめて欲しい。

 こういう面を見るに、ココロちゃんはどうにも外見だけでなく、精神面でも未成熟な部分があるように思う。もしかするとこれも体質の影響によるものなのだろうか……?

 そして、そんな様子をキョトンとした顔で眺めていたチーナさん。


「そっか……そう、ですよね。私の覚悟が甘かった……そういう事かも知れません」


 と、突然何やら一人で納得を覚えているらしい彼女。

 どうやらこのココロちゃんの姿に、しっくり来る考えを見出せたようだ。


「ココロさんのように、私もリーダーに一生ついていくくらいの覚悟を持って接するべきだったんです……! さもなければ、きちんとソロでもやっていける力を日頃から磨いておかなくてはならなかった。私は……それを怠っていたんですね」

「え、えっと、チーナさん……?」

「ありがとう御座います、ココロさん、ミコトさん! 私、何だか自分に足りていないものが分かった気がします!」

「あ、えっと、それは何より……です」

「ココロも、大事なことを教えられました……! ミコト様、ココロはもっと強くなりますから! だから捨てないでくださいぃ!」

「捨てないから! 変な心配しないの!」


 そんな具合に、私たちは思いがけず親交を深めたのだった。

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