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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二九〇話 孫バカ

 演武と言うよりは、舞姫のプレゼンのようなパフォーマンスとなってしまったけれど、ともあれ舞姫の凄さというのは十分伝わったと思う。

 皆の前で演目を披露し終えた私は、一礼して仲間たちのもとへ戻ると、早速ゴルドウさんへ感想を求めたのだが。

 しかし今度は『邪道だ』などと言い出す有様。

 これにはカチンと来たオレ姉と口論が始まり、置いてけぼりを喰らった私たちは弟子たちのはからいで、暫し工房の見学でもして時間を潰すこととなったのだった。


 工房では武器に限らず防具やアクセサリーなど、装備品なら何でもござれと言わんばかりの多様さでもって、様々な品が作られていた。

 弟子たちいわく、ゴルドウ氏は特に武器作りに優れてはいるけれど、防具やアクセ作りに於いても超一流の職人であり、ここで修行している弟子たちは日々そんな彼から学びを得つつ、腕を磨いているのだと言う。

 試しに制作の様子を見させてもらったが、流石というべきか全員が卓越した手並みでそれぞれの専攻する品を手掛けていく。そのさまは正に見事と言う他無い、鮮やかなものだった。

 これには武器愛好家のイクシスさんもニッコリである。


 そんなこんなで一時を過ごすと、ようやっと口喧嘩が終わったのか、オレ姉がやってきて私たちを手招きした。

 彼女に導かれるまま移動した先は、最初に通された応接間である。

 するとそこにはゴルドウさんの他に、見覚えのない女の子が一人いて。


「はは、はじめまして……おじいちゃ……ゴルドウの孫の、チーナって言います……! ひ、人見知りです……」


 自己紹介で、肩書のように人見知りを名乗るとは。どうやら余程らしい。

 それに応える形で私たちも、それぞれ一通り名乗りを返す。

 彼女は終始ビクビクしながらそれを聞くと、一旦皆で席について本題へ。尤も、ソファは精々が三人がけ程度なので、私、オレ姉、イクシスさんの他は立ちっぱだが。

 対面の席で、孫の横に腰掛けるゴルドウさんが早速話を切り出すべく口を開いた。


「舞姫の力、確かに見せてもらった。見くびっておったことは素直に認めよう。だがミコト、お前さんがその性能を引き出せているという証拠としては弱い。使い手に関係なく、単純に舞姫がすごいってだけかも知れんからの」

「師匠……あんたともあろう人が、何言ってんだい! ミコトが舞姫の力を引き出してんのは明らかだっただろう?! そうじゃなきゃ優れた振るい手もなしにヨロイくんが――」

「うるさいうるさいだまらっしゃい! ともかくじゃ! 次は事前に言った通り、ワシの孫と素材を取りに行ってもらうぞ!」

「素材を取ってくることが、舞姫の力を引き出しているっていう証明になるんですか?」

「いや、趣旨はそこにあらず。要は実戦を見て判断したいという話じゃな。チーナたんを同行させるのはそのためじゃ」

「おじいちゃん、お客さんの前でその呼び方は恥ずかしいよぉ……」

「恥ずかしがるチーたんも可愛いのぉ! おひょひょ!」


 顔を真赤にするチーたんこと、ゴルドウ氏の孫娘、チーナさん。

 見た感じ、ココロちゃん並みの小さな女の子であり、どう見ても小学生くらいのロリっ子である。髪色もピンクだし、何だこのあざとい感じは!

 っていうか、何をどうしたらこんな大男にこんな女の子の孫が生まれるのか。不可解である。


 まぁそれはそうと。

 チーナさん、一見するとか弱い女の子で間違いはないのだけれど、どうにも油断ならない気配がある。

 いや、腹黒そうとかそういうことではなく。現に心眼で見たところ、彼女は表面的な態度そのまんま普通に人見知りしているし、おじいちゃん子でもあるようだ。

 私が気になっているのはそこではなく。

 これまた心眼で分かったことなのだけれど、彼女が意識的に観察している部分というのが、どうにも素人離れしているというかなんと言うか。

 私たちの力の程を、視覚的な情報からフルに読み解こうと細かく観察している。そんな感じがしたのだ。

 そして自然とその過程で、自分と比較してどの程度かと当たりをつけている。

 他人の能力や実力を測る上で、最も分かりやすい物差しとなるのが、他でもない自分自身の力量となるのは当然のことだろう。

 であるならば、彼女が『この人の実力は自分よりも優れているだろう』とか『この人のこの部分は私よりも劣っている』なんて目算を立てている時点で、心眼を持つ私は逆算的に彼女の力の程を推し量れるというわけだ。


 そうした観点から見た結果、どうやらチーナさんは相当に出来る戦闘経験者であることが分かった。

 あと多分冒険者だと思う。観察している部分や、己と比較している内容が、対モンスター戦を想定した実力の割り出しであるように思えたためだ。

 モンスターとの戦いは、極端な話柔軟な対応力が最も重要になってくる。

 何せモンスターと一口に言っても、その種類は多岐に渡り、戦い方だってモンスターの数だけバリエーションがあるのだ。

 であれば必ず、相性って問題が冒険者にはつきまとってくるわけで。

 その相性問題を如何に克服するか、というのは私たち冒険者にとっての命題の一つである、というのは私だって理解しているような常識である。

 チーナさんの観察は、そんな私たちの対応力にまで向き及んでいるように思えたのだ。


「それで、私たちはどんな素材を獲ってくれば良いんですか?」


 チーナさんが戦える人である、ということは分かった。あんなに孫を溺愛しているゴルドウさんが、彼女を同行させようというのだから、その信頼の程も窺えるというものだ。

 ならば彼女を護衛しつつお使いを果たしてこい、みたいな話ではないはず。

 さしずめ実力者であるチーナさんに、私の実力を見極めさせることが狙いというところだろうか。

 何にせよ先ずは、ゴルドウさんに具体的なお使いとやらの内容を尋ねてみる。すると。


「うむ。お前さん方に頼みたいのは、フレイムアイビスよりドロップする宝石じゃ」

「と言うと、アイビスルビーですか。なかなか希少な素材アイテムですね」

「そうなの?」

「ええ。そも、フレイムアイビスは数の少ない希少なモンスターに分類されますので、遭遇すること自体が困難なのです」


 ソフィアさんの解説を聞き、私はふむと考える。

 マップウィンドウは確かに便利だけれど、モンスターの種類を特定するのには向いていない。

 人もモンスターも、実際出会ってみなくちゃその正体を確かめられない、というのがマップの数少ない欠点であると言えた。

 従って、珍しいモンスターを探す、という目的に於いてはそれ程強力な効果は期待できそうにない。


「と言うか、どうしてその課題が舞姫と関係するっていうんです? もしかして私たちを良いように使おうとか思ってません?」

「な、何を言うんじゃ! そんなワケ無いじゃろ!」


 そう言ってしどろもどろになったゴルドウさんは、あれこれと言い訳めいた台詞を並べ始めた。

 曰く、フレイムアイビスは珍しいモンスターであるため、それを見つけるためには多くのモンスターとエンカウントすることになるだとか、その際には魔法でなく、舞姫を使って戦闘をしろだとか、そもフレイムアイビスは強力なモンスターであるため、生中な使い手では返り討ちにされるのがオチだとか。

 そして声を大にして言うのが、孫に傷一つ付けるようなことがあれば、ただじゃおかないぞという理不尽な釘刺しである。


「そんなに言うならお孫さんを同行なんてさせなければいいのに……」

「うるさいうるさい! そうでもしなけりゃお前さんがズルして、舞姫を使わんかもしれんじゃろが!」

「ならゴルドウさんが一緒に付いて来たらいいんじゃないですか?」

「ワシには納期の近い頼まれ物があるんじゃい!」

「だったらお孫さんじゃなくて他のお弟子さんとか」

「チーたんほど戦えるやつはおらんわ! ワシだって出来ることならチーたんに危ないことなんぞして欲しくないんじゃよ! だいたい冒険者になるのだってワシは反対で……」

「師匠、そこまでは聞いてないだろ」

「ぐぬぅ……ともかく、素材を取ってこなければ舞姫の力を十全に引き出せているとは認めてやらん!」


 無茶苦茶である。

 っていうか心眼で見るに、演武の時点で私が舞姫の力を引き出せていることくらい分かっているくせに。

 どうやら彼の目的は素材を得ることと言うよりは、孫のチーナさんにこそあるようで。

 具体的にそれが何を求めてのことか、というところまでは流石に読み切れないまでも、ともかく彼女とともに行くことが必要な過程らしい。

 結局良いように使われている、ということは間違いないみたいだけれど、しかしそれで創作武器への認識が変わるというのなら、お安い御用というものである。


「はぁ……分かりましたよ。それじゃぁチーナさん、出発は明日ってことで構いませんか?」

「えぁ、えっと、そうですね。これから向かっても日が暮れてしまいますし、明日早朝からにしましょう」

「さすがチーたん、良い判断じゃな」


 人見知りの偏屈孫バカ大男。私たちの間でゴルドウ氏の印象はすっかりそのように定まり、オレ姉が無遠慮に口喧嘩をしていたのもそんな人柄ゆえなのだと理解できた。

 彼の強引な口車に乗せられるのは些か癪ではあるけれど、ともあれ明日はそのフレイムアイビスとやらを探しに行くことに。

 チーナさんが同行するということで、早速先日行った縛りプレイが有効に使えそうな場面がやってきた。


 時刻はやがて午後四時に差し掛かろうかという頃。

 確かにこれから山に入ったのでは、下手すると野宿することになりそうだ。

 私たちは一先ずチーナさんと明日の待ち合わせ時間や場所なんかを話し合い、それが済むなり御暇することにした。

 また、帰り際には口止めも忘れない。ゴルドウさんにはつい、【換装】を見せてしまっているからね。我ながら短気を起こしたものだと、頭の冷えた現在は反省している。


 見送りに出てきたオレ姉には、通信機を渡そうかとも考えたけれど、現在はここで兄弟姉妹弟子たちと共同生活を送っているらしいため、下手に彼らの目についても問題だ。

 なので、連絡は通話を用いて取るようにし、今後は定期的に顔を見に来るということで様子見することが決まった。

 それと念の為マップウィンドウのマーカーはオレ姉に付けたままにしておく。


 そんなこんなでオレ姉とも別れ、軽く町を散策してから帰ることに。宿を取るつもりはない。

 通りを歩けば、至るところに工房が見えるが、しかし肝心の品を販売しているお店というのは見当たらなかった。

 イクシスさん曰く、職人タイプのドワーフは内向的であり、商売に向かない人が多いらしい。

 かと言って戦士タイプのドワーフはどんぶり勘定ばかりするものだから、これまた商売に不向き。

 ということで、各工房で作られた品物は、一所に集められて販売されているそうだ。あとは、行商人などを介して町の外で売買されるのだと。


 ならばと、この町で作られた品が買える販売所を見ていこうということになり、暫し町中を歩いて探してみたところ、町の中央部に一際大きくそれらしい建物を見つけることが出来た。

 さながら体育館と見紛うような大きさのそれは、入ってみると工房毎にコーナー分けされた、さながらホームセンターの如き場所だった。

 売られているものは剣や防具といった厳ついものから、アクセサリー類の綺羅びやかなもの、それに日常雑貨や金物類と言った一般層向けのものまで、実に様々である。

 また、販売所の外には普通に食材等を取り扱う店も見られ、この町の買物はここへ訪れれば事足りる、という設計になっているようだった。


 私たちは一頻り店内を巡って、各自要るものを手に取るとレジにて会計を済ませ、満足して店を後にする。

 職人の町と言うだけあり、品はどれも高品質なものばかり。特にゴルドウさんのところの品は、高級ではあれどその品質は頭抜けており、いつかは手にしてみたいと思えるような、ロマン溢れるような物が多かった。

 そうこうして、ようやっと帰ろうかという頃にはすっかり日も傾ききっており、私たちはいそいそと人目のない町外れへ移動すると、ワープを発動してイクシス邸へと帰還したのである。



 ★



 翌日早朝。

 カンカンの町入り口にて待ちぼうけしている私たち鏡花水月。イクシスさんはお仕事もあるそうなので、今日は来ていない。

 時刻は午前七時頃と、日の短い空は太陽を覗かせて間もない。

 そろそろ冬と言って差し支えない気候になってきた。吐く息は白く、空気は随分と澄んで感じられる。

 季節の移ろいは、私たちの装備にも影響している。つまりは防寒対策が成されているわけだ。

 纏う衣類は分厚くなったし、風魔法にて吹き付けるそよ風を無効化しておけば、それだけで幾分マシに感じられるものだったりする。


 そうして暫く待っていると、チーナさんが遠くからパタパタと駆けてやってきた。

 私たちの姿を見つけるなり、途端に酷く申し訳無さそうな顔をする。

 別に遅刻というわけではないし、何なら明確に時間を決めていたわけでもない。そも、時計が高級品であるこの世界では、どうしたってある程度時間の感覚はルーズになりがちなのだ。


 そんなこんなで無事に彼女と合流を果たせば、いよいよフレイムアイビス探しに出発である。

 チーナさんを伴い、私たちは早朝のカンカンを後にしたのだった。

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