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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二八八話 へそを曲げる

 オレ姉を訪ねて、はるばるやって来たのは鍛冶師の町カンカン。

 その中でも町一番の名匠と知られるゴルドウさんは、なんとオレ姉の師に当たる人だった。

 そんなゴルドウ氏の工房を訪ねてみたところ、無事にオレ姉と再会を果たすことは叶った。

 のだけれど。


 現在、ゴルドウ氏の応接室にてお茶を頂いている私たち。

 テーブルを挟んで、向かいにはオレ姉と、もじゃもじゃの大男。自称ドワーフなのにどういうわけか小さくない、二メートル前後の大柄なこのマッチョなおじさん……おじいさん? こそが、ゴルドウ氏その人であった。

 その図体と比較すると、実にちんまいカップに口をつけ、軽く喉を潤した彼は迫力のある目つきで私たちを一通り見回すと、言った。


「ひ、人がいっぱいおる……」

「はぁ……師匠はほんと、内弁慶なんだから。しゃんとしてよ!」

「う、うるさいわい!」


 どうやら可愛い人のようだ。

 私たちが密かにほっこりしていると、不意にカタリと席を立つ者があった。イクシスさんである。

 彼女はバサリと変装のために身に纏っていた布を脱ぎ捨てると、ふんぞり返ってその正体を明かした。

 そして言う。


「久しいな、ゴルドウ殿!」

「!! ひぇっ、お、お前はイクシス……!」


 と、大げさに狼狽してみせるゴルドウさん。

 その目には警戒心をたっぷり浮かべており、それだけで何となくではあるが、イクシスさんと彼の関係性というものが想像できてしまった。


「何じゃぃ、まさかまたワシに注文をつけに来たのか? 嫌じゃぞ! お前ほど注文が多くて面倒なやつはおらん! お前の注文だけは二度と受けんと心に決めておるんじゃ!」

「むぅ、えらく嫌われたものだな。だがそれなら、二度と言わず三度でも四度でも受けてくれれば良いだろう!」

「ダメじゃこいつ、話も理屈も通じとらん!!」


 頭を抱えてワナワナ震え始めたゴルドウさん。

 どうやら以前、イクシスさんに余程酷い注文をつけられたらしい。

 しかし話によると、彼の作品はイクシスさんのコレクションの中でもかなりのお気に入りに入る名作らしいので、しっかりその無茶な注文には応えられたようだ。

 これを流石と称賛するべきか、はたまたご愁傷さまと同情するべきかは、何とも判断の難しいところではある。


「とにかく帰れ! ワシはお前の注文だけは受けん! 絶対に受けん!」

「全くつれないことを言う。だがまぁ、今日は別に注文をしに来たというわけではないんだ」

「? ならば、お前ほどの有名人が、わざわざ変装までしてここへ何用で来たと?」

「強いて言えば、彼女たちの付き添いだな。ついでに世話になったゴルドウ殿の顔でも拝んでいこうかと思った次第だ」


 そう言って、サラリとこちらへ話題を向けてくるイクシスさん。

 しかし私達にしても、別にゴルドウさんに用事があって来たわけではないので、一様に苦笑を浮かべる。


「つまり、お前さんらは勇者の口利きでワシに武器を打たせたいと?」

「いえ、私たちはオレ姉が無事にこの町にたどり着けているのか、確かめに来ただけです。ハイレさんも心配してましたし」

「! 何じゃ、ハイレとも知り合いなのか」


 弟子の名前が出たからか、はたまた自分が面倒に巻き込まれるわけではないと分かったからか、幾分警戒心の緩んだゴルドウさんは、ようやっと私たちのことを『怪しい奴ら』としてではなく、『客人』として見てくれる気になったらしい。

 それからは、ここへやって来た経緯を相当にぼかしながら説明し、何なら既に目的は達したので、あとは適当に町を見物して帰るつもりであることまで伝えると、いよいよ最初の人見知りも解けてきたようで。


「そういう事ならゆっくりしていくと良い。いや、よもやこの跳ねっ返りにわざわざ身を案じて、遠路はるばる訪ねてくるほどの友人が出来ようとは……ぐすっ」

「ちょっと師匠、なに泣いてんだい! 恥ずかしいからやめてよ!」

「な、泣いてないし! 花粉症なだけじゃし!」


 なんか、噂から勝手にイメージしていた人物像とは、大分かけ離れた人だなゴルドウさん。

 もっとこう、気難しい職人気質な小さいおっさんっていうイメージを勝手に持ってたんだけど、いざ本物を見てみたら、図体は大きいし内弁慶の人見知りだし、かと思えば身内思いだし涙もろいし。何ていうか、すごいいい人だ。

 オレ姉にしても、腕を磨き直してくるだなんて言って旅立ったものだから、もっと凄まじい環境でしごかれているのかと想像していたのだけど。しかし思いがけず言いたいことはちゃんと言える、良い環境で修行に打ち込めているようで安心した。

 と、ここで不意にイクシスさんが口を開いた。


「時に、先程外にまで響くような怒鳴り合いが聞こえたのだが。何かトラブルでもあったのか?」

「「!!」」


 流石は勇ましき者。敢えてそこに突っ込むのか。

 次の瞬間、オレ姉が席を立ってテーブルを迂回し、私の目の前に立った。

 かと思えば、がしりと私の両肩を掴み、言うのだ。


「ミコト、協力してくれ! あの石頭に創作武器の素晴らしさを分からせたいんだ!」

「はん! ワシはお前の才能を高く買っておる。だというのにそれを、そのようなおもちゃ作りに使いおって! くだらんお遊びに興じておらんでもっと真面目にだなぁ」

「……あ?」

「!?」


 今この人、おもちゃ作りを『くだらん』って言ったの?


「あわわ、珍しくミコト様がムカついてます!」

「ミコトちゃん、彼はその、そういうつもりで言ったんじゃないぞ」

「そうだぞミコト、言葉の綾というやつだ。喩えってやつだ」

「ミコトさんが怒るなんて珍しいです! これはもしかして、新たなスキルの発現が期待できるかも? 良いですよミコトさん! 怒りを力に変えるんです!」

「ちょ、何煽ってんだい!」


 確かに言葉の綾だろうけれど、かと言っておもちゃ作りをバカにされたとあっては心中穏やかではいられない。

 どうにも彼の言った『くだらん』の一言が頭の中をループして、その度に師匠たちの一生懸命な姿が脳裏を過るのだ。

 我ながら大人げないとは思うけれど、否応なく腹が立つ。


「ゴルドウさん」

「な、なんじゃい……!」

「おもちゃ作りは、決してくだらないものではありません。それは私の師匠たちが生き甲斐にしている、とても尊いものです」

「! そ、そうか……」

「それにオレ姉の創作武器も、決してあなたの言うような『おもちゃ作り』ではない」


 私は換装にて最強装備へ着替え、そして私の尤も頼れる相棒であるところの、四振りの舞姫を宙に浮かべてみせたのである。

 それを目の当たりにするなり、ゴルドウさんは驚愕に目を見開き、固まった。


「これは舞姫。オレ姉の作ってくれた、私の愛剣です」

「……!!」


 おもちゃ作りをくだらないものの喩えとして出されたのにも腹が立ったけど、同時にオレ姉の創作武器をバカにされたのにもやっぱりカチンと来るものがある。

 確かにオレ姉の創作武器は、この世界の仕組みからして普通の人には使いづらいものだろう。

 特定のカテゴリーに属さない創作武器は、マスタリースキルの恩恵を受けられないのだ。そのため、正しい意味で武器の性能を引き出せる人というのは実質存在しないとすら言えるのではないだろうか。

 或いは珍しいだけで、専用のマスタリーが存在しているのかも知れないが。

 しかし何れにしたって、創作武器なんてものを求める人が稀有であることに間違いはない。

 一般的ではないということは、それだけ使い手を選ぶということ。

 それを思えば、ゴルドウさんの言い分は確かに正しいのだろう。


 しかし、だ。


「オレ姉には、私がいます。私には彼女の創作武器こそが必要なんです!」

「それは……お前さんが、創作武器を使いこなせるということか?」

「はい。そのためのスキルも有しています」


 ここまで来たら、半端な説明はしたくないと思った。

 とは言え勢いで何でもかんでも明かすような愚は、勿論犯さない。

 ゴルドウさんに打ち明けたのは、万能マスタリーの情報だけだ。

 さっきはつい換装を見せてしまったけれど、これらに関しては秘密のスキルだと説明しておいた。


「つまりお前さんは、どんな武器でも使いこなすことが出来る、と……?」

「はい」

「武器に限らず、防具やアクセサリーもですね。何れに於いても十二分に性能を引き出すことが出来ます」

「むぅ……」


 ソフィアさんの補足もあり、万能マスタリーの概要を知ったゴルドウさん。

 しかし当然のことながら、その心中には疑念が多分に含まれていた。

 が、仮にもイクシスさんとともに現れた者が、斯様なデタラメを言うとも思えないようで、まさしく半信半疑の状態に陥っているようだ。

 それを見て取ったのか、オレ姉からこれ見よがしの提案が飛ぶ。


「信じられないなら、実際に確かめればいいだろう。ミコトが舞姫を使いこなしているところをさ!」

「ぬ、確かにそれはそうじゃな……」


 そうして暫し何かを逡巡したゴルドウさんは、ふむと一つ頷き提案を述べてきた。


「ミコトと言ったか。お前さんが真にその武器を使いこなせるというのなら、証を示してくれんか?」

「む。この流れ……もしかして、試合ですか?」

「いや、違う。ワシからの要望は二つ。一つは、その武器を用いた実演……そうじゃな、演武でも披露してもらおうか」

「え、演武!?」

「それともう一つは、使いを頼まれてくれ。山に生息しておるモンスターから、素材を調達してきてくれれば良い。ただし、それにはワシの孫を同行させるが」


 素材調達はともかく、やったこともない演武という無茶振りをもらい、たじろぐ私。

 しかしながら、オレ姉の創作武器制作を軽んじられたままでは、私だって嫌だ。

 であれば、返事は一つ。


「わかりました。やってやりますとも!」


 斯くして早速、私たちはゾロゾロと広く設けられた裏庭へ場所を移したのだった。

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