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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二八七話 カンカン

 久しぶりのアルカルドにて、防具職人のハイレさんからオレ姉の居場所に関する情報を得ることに成功した私たちは、早速アルカルドを出立してその進路を東北方面に向けたのだった。

 目指すは鍛冶師の町カンカン。普通に移動すれば馬車で一週間ほどの道のりだと言うが。

 私たちは今回も、特別な移動方法を用いることにした。


「じゃぁよろしく、イクシスさん!」

「ああ、イクシス号にどんと任せるがいい!」

「っていうか、なんで母上がいるんだっ!」


 盛大なクラウのツッコミが入るが、別に大した理由ではない。

 オレ姉の師匠がゴルドウさんと言うらしく、どうやらその人の作った武器はイクシスさんのコレクションにも数えられるほどの素晴らしいものらしい。

 なので、折角だから通話でイクシスさんへ連絡を取り、それらの情報を明かしてみたのだけれど。

 カンカンへ向かうのならぜひ同行したいと駄々をこね始めた彼女。

 特に拒む理由もなかったので、ちゃっちゃとワープでひとっ飛びし、連れてきたというわけである。


「ゴルドウ氏には昔世話になったからな。良い機会だし、私も顔を見に行きたいんだよ」

「まぁ、それなら止めはしないが。その代わり変装はしてくれ。騒ぎになったら面倒だ」

「そうですよイクシス様。イクシス様が騒がれては、その近くにいるミコト様にまで注目が及びかねません」

「余計な足跡は残さないに限る」


 ということで、イクシス号発進の前に彼女への変装作業がババっと施され、適当な布で顔を隠しただけの彼女は如何にも怪しげな人物に変身したのだった。

 こんなのが空を飛んでやって来たとなったら、それはそれで大いに怪しいし目立つことだろう。今回もしっかり人目は避けて行動しなくてはなるまい。


「ではミコトちゃん、行こうか」

「うん。みんなはどうする? 待機かストレージか」

「ストレージがいいです!」

「あ、はい。今日も元気だねソフィアさん」


 ということで、皆がPTストレージ内に入ったことを確認し、私は怪しく変装したイクシスさんの背に乗っかり、諸々の魔法を使用。

 容易く上空高くにまで飛び上がった彼女は、マップを確認するなり宙を蹴って進んだ。

 速度は一瞬にして音速の壁をぶち破り、そのままにしておくと周囲へとんでもない音と衝撃の余波を齎しかねない。

 なので、そこへの対処もまた、私の仕事の内である。

 余波を魔法で打ち消しながら、音もなく大空を横切るイクシス号は、やはりダントツで速かった。


 斯くして私たちは、あっという間にカンカンへと至ったのである。



 ★



 鍛冶師の町カンカン。主にドワーフ族の暮らすこの町は、険しい山岳地帯の中に無理やりこしらえられたような、何ともすごい場所だった。

 職人ドワーフはとてつもなく器用だと言うけれど、なるほど建築技術一つ見ても見事なものだった。

 凸凹と安定しない土地を上手く活用して、不自然さのない家々が立ち並んでいる。不格好ということもなく、寧ろ品の良さすら感じられる上等な建築物であり、町並みだ。

 そして何より特徴的なのが、耳を澄ませば町の至るところから聞こえる、カンカンと金属を叩く音。

 きっとこれが町の名前の由来に違いないと、誰もがそう確信するくらいには、殆ど絶えることもなく小気味のいい音が鳴っていたのだ。


 時刻はやがて午後一時を回ろうかという頃。

 私たちは無事町に入り、通りをゾロゾロと歩いているわけだけれど。

 この町に入る時の審査は、流石にアルカルドやバトリオほどしっかりしたものではなかった。

 まぁ、冒険者証は見せることになったけど。いっそのこと一般人として通るという方法もありなのかも知れない。その場合通行税とやらが発生するらしいけどね。それに場所によっては面倒な審査もか。難しい問題である。


 流石にイクシスさんは、あからさまな変装で顔を隠しているため、なかなかどうして怪しまれたのだけれど、冒険者証を提示すればその効果は絶大。

 お忍びだと彼女が口元に人差し指を立てて見せれば、心得ましたと騒がずにいてくれた門番さん。

 っていうか、門番さんからしてドワーフだ! ちっちゃくてもじゃもじゃのおっさんだ!


 背の高さは精々私の胸辺り。ずっしりとした体型で、すごい筋肉質。

 表情は豊かで、イクシスさんの正体を知るなり目を輝かせた彼は、きっと戦士タイプのドワーフなのだろう。

 ガハハと笑いながら、快く私達を通してくれた。

 町を守る壁は、アルカルドのそれとは比べるべくもないほどに低い。高さにして三メートルくらいか。冒険者の身体能力があれば、軽く飛び越えてしまえる高さである。

 そう考えると、冒険者ってすごいな。いや、すごいのはステータスか。

 門の造りにしても頑丈そうではあるが、やはり大きな街のそれと比べれば控えめなものであった。


 まぁそんなこんなで無事に門を抜けた私たちは早速、イクシスさんに続く形で通を歩いているわけだけれど。


「イクシスさんは、そのゴルドウさんっていう人の工房知ってるの?」

「勿論だ! 昔何度か訪れたこともあるしな」

「勇者イクシスの冒険譚にも、そんなエピソードがありましたね」

「しかしながら家からなかなか距離があるからな。ここしばらくはずっとご無沙汰だったよ。果たして彼の御仁は元気にしているだろうか……」


 昔を懐かしむような目をした彼女に導かれるまま、歩くこと半刻ほど。町の奥、一際どっしりとした大きな工房が見えてきた。

 そこでふと気づく。


「ん……? なんか、カンカンって音が他のより綺麗かも……」

「おお! 流石ミコトちゃんだな! 鍛冶師の技量は、振るう槌の音色にすら影響するものだ。それを聞き分けるとは、余程耳が良いんだな! 或いは鍛冶師の素質があるのかも知れないぞ?」

「う。魔道具作りだけでお腹いっぱいだよ」


 イクシスさんの冗談とも本気ともつかない言を軽くいなしながら、私たちはゴルドウ氏の工房へと近づいていく。

 すると。


「こんのバカタレがーーーーーー!!」


 という、野太い怒鳴り声が工房内より響いてきて、一瞬ビクリと身を強張らせる私たち。

 しかしそれに続いて。


「師匠こそ何で創作武器の良さが分からないんだよ!? このアホンダラーーーーー!!」


 という、聞き覚えのある声が聞こえてきたのである。

 今度は不思議と、強張った身が解れたような、安堵感が胸中にじんわりと広がるのを感じたのだった。

 どうやら彼女は、無事にこの工房へたどり着き、元気に修行に励んでいるらしい。


 そう。二つ目の怒鳴り声は、聞き間違えるはずもない。

 私たちの探し人である、オレ姉のものだったのだ。


「何やら揉めているようだな」

「意見……っていうか、価値観の相違かな。二つの譲れないこだわりがぶつかってる感じがする」

「ミコトがスピリチュアルなこと言ってる」

「心眼の力ですよ。流石ですね」

「さすミコ!」

「で、どうするんだ母上? あそこに入っていくのか?」

「勿論だ!」


 そう言うなり、イクシスさんは工房へ近づいていく。が、流石に鍛冶師の仕事場である工房に直接足を踏み入れるような無礼は働かず、正面玄関から「ごめんくださーい」と声を張ったのである。

 すると、未だ工房の方でバチバチに交わされていた口論の声も一旦収まり、直ぐに玄関から一人の人物が顔を出した。

 オレ姉である。

 彼女は変装したイクシスさんに一瞬ギョッとするも、その後ろにいる私たちを見て、更に目を大きく見開いた。


「な、なんだいなんだいミコトたちじゃないか! じゃぁ、この怪しいのは……」

「やぁオレネ殿、久しいな!」

「イクシス様ぁ!?」


 予想通りのリアクションに、私たちは一様に苦笑を浮かべつつ、同時に満足感も得ていた。

 何せ私たちがわざわざここへやって来たのは、彼女の無事を確認することと、通話が再度繋がるよう顔を合わせること。あとは、念の為マーカーをくっつけておくこと……くらいのものなのだ。

 というわけで、早速ステータスを確認してみたところ、あっさりオレネという名前がPT欄に復活しており、通話もマップも、何ならPTストレージさえ共有化することが出来るようになった。

 このことから、一度仲間として認めた相手なら、たとえ名前が消えても復活は容易であるってことが考えられる。

 相変わらず、仕組みがいまいちよく分からないスキルではあるけれど、まぁいい。

 ここへやって来た主な目的は果たせたのだから、あとは適当に挨拶をして自由行動で問題ないはずだ。


 などというのはまぁ、こちらの事情であり。

 突然現れた私たちに、困惑しているのはオレ姉の方であった。


「あんたたち、一体どうしてこんなところに?」

「オレ姉の顔を見に来た」

「実は突然ステータスからオレ姉の名前が消えて、何かあったんじゃないかってずっと気がかりだったんだよ。だから……来ちゃった」

「ああ、便利な能力がいきなり使えなくなったと思ったら、そういうことだったんだね。って、今は使えるみたいじゃないか!」

「うん、復活したみたい」


 そう言うと、オレ姉は嬉しそうに虚空を指でひっかき始める。マップウィンドウを操作しているみたいだ。

 またサーチ範囲が広がっていると、驚きを見せているさまが、何だかくすぐったく思えた。

 と、それもほどほどに。


「それはそうと、何でイクシス様まで?」


 と首をかしげるオレ姉。

 よくぞ聞いてくれたとばかりにイクシスさんが口を開きかけた、その時である。


「何でぇ何でぇ玄関先で騒がしいな。一体何を話し込んでいやがる」


 そう言いながら奥から現れたのは、筋肉質で、もじゃもじゃした……大男だった。

 小さくないドワーフ……!

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