表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

283/1717

第二八三話 VSリリエリリエラ2

 私の顔を見て固まってしまったリリとアグネムちゃんだったけれど、少し時間を置いたら無事に復活した。

 気を取り直したリリは、邪念を振り払うように鼻息も荒く、早速決闘の準備に取り掛かったのである。

 ひゅるりと乾いた風の吹く荒野は、やがて冬も訪れようというのに相変わらず暑く。

 そんな荒れた大地の只中、皆から十分に距離を置いた彼女は仁王立ちし、私を待ち構える。

 その威風堂々たる立ち姿ときたら、なるほどチャンピオンの風格を纏って見えた。

 闘技大会優勝の実績がそれを齎したのか、はたまた実力に裏付けられた自信からくるものか。

 何にせよ、大会で対峙した時よりなお、侮りがたい雰囲気を纏っているのは間違いない。


 彼女に続き、私も皆から離れて位置に付く。リリの正面、彼我の距離は二、三〇メートルといったところ。

 装備はバランスタイプだが、状況を見て換装を行っていくつもりだ。

 あとは決闘開始の合図だけれど。


「それでは僭越ながら、私が開始の合図を出させていただきます」


 と、申し出てくれたのはソフィアさんだった。

 私とリリの合意を得た彼女は、早速その手に火の玉を生じさせると、頭上に掲げた。

 ジリリと、ひりつくような緊張感が急速に辺りを覆う。特に、リリの発する空気は痛いほどに真剣であり、否応なく私もしかと構えを取る。

 心眼が、早速リリの心理を浅く読み解き、そこから彼女の出方を予測する。が、心眼持ちであることは昨日既に伝えてあるため、ブラフである可能性も十分に考えられる。

 それ故に、一層の緊張感を持って対峙する私と彼女。


 そしていよいよ、合図が示された。

 さながら打ち上げ花火が如く、ソフィアさんの手より頭上へ向けて放たれた火の玉は、まっすぐに上空まで上がると、派手な音と爆発を引き起こしたのである。

 それが、開始の合図だった。


 瞬間、リリから放たれたのは雨霰が如き火球である。それは、たった今ソフィアさんが空に向けて放ったものと同種のマジックアーツ。

 それが、弧を描き地面へ無数に放り落とされる。落ちた火球は派手に爆ぜ、まさに絨毯爆撃が如きえげつなさでもって先制攻撃としたのである。


 対する私だが。

 爆発によって著しく視界が制限されるのを利用し、光学迷彩を発動。姿を透明にし、気配を殺し、テレポートでもってリリの背後へ転移を果たした。

 が、問題なのは彼女が戦闘中常時展開している、強固な障壁の存在だ。

 生半可な攻撃では容易く弾かれてしまうため、このまま首元に刃を突きつけて、『はい決着』とは行かないわけである。

 とは言え、彼女は今ようやっと私が消えたことに気づき、探りを入れ始めたところだ。

 その方法は、所謂探知魔法の一種で【魔力探知】というスキルを用いたようである。

 その効果はというと、自身の魔力を全方位に放ち、魔力と魔力の反発や摩擦といったものを感知し、他者の存在や地形なんかを把握するという、要はソナーのようなスキルだ。

 姿を消していても、普通にこれに触れてしまっては簡単に位置バレしてしまうというもの。

 だが、伊達に連日魔力調律の訓練を続けているわけではない。

 リリの放った魔力を真似ることで、これをやり過ごすことに成功する。

 そも、魔力探知の仕組みは、異なる魔力同士が触れ合った際に生じる違和感を感知するものであるため、魔力の質を同質のものに変えてやれば、受け流すことが可能であるというわけだ。


 そうなるといよいよ困惑するのはリリである。

 彼女は素早く幾つかの可能性を思い浮かべ、私の襲撃に備える構えを取ろうとしている。

 私のテレポートについても知っているリリは、私が一瞬で長距離に飛ぶことも容易いと理解していた。或いは遥か頭上に飛んだり、地中に身を潜めたりすることだって可能だとも。

 探知に引っかからなかったということは、探知範囲外にまで飛んだに違いないと考えたのだろう。

 であれば、探知範囲の外側から一方的な長距離攻撃を仕掛けられる可能性がある。それは如何にも面倒だからと、一旦防御にリソースを割くことにしたようだ。

 そしてそんな決断を瞬時に下した彼女は、この一瞬、私がすぐ間近にいるという可能性を殆ど失念している状態にある。


 決闘開始早々ではあるが、大チャンス到来だ。

 が、変に溜めの要る攻撃では、魔力反応ですぐに気づかれ、対応されてしまう。

 かと言って出の早い技で、彼女の障壁を突破できる攻撃が果たしてあっただろうかと考え、それがなかなか難しいことに思い至る。

 私、魔力に頼らない火力ってあんまり持ってないかも。いや、無くはないんだけど、リリの障壁を貫ける程のものとなると難しい。

 しかしこの好機をみすみす無駄にするのも嫌なので、とりあえず物理特化装備に換装。間髪入れず、新舞姫で思い切り斬りかかった。無論、強化スキル等も乗せた、相当に重い一撃となっているはずだ。


「っ!?」

「! か、堅っ」

「こんのっ!」


 遠距離からの攻撃に備え、リリが守りを固めるよりも前に仕掛けた一撃だった。

 にもかかわらず、何と彼女の張った障壁は想像を絶する耐久力を発揮し、結果私の瞬撃は彼女へかすり傷を追わせる程度に留まったのである。

 試合の時はもっと柔らかかったと思うんだけど、これがリリの本気ということだろうか。ステータスに物を言わせ、しかもスキルレベルも相当に高いとくれば納得せざるを得ないガードの堅さではあるが、敵に回せばこれほど厄介な代物もそうはないだろう。


 対するリリは、肩口を浅く斬られつつも一切怯まず、直ぐに細剣でもって応戦し、あまつさえ瞬時に魔法まで放ってくるというのだからおっかないったらない。

 私の姿は相変わらず見えていないため、狙いも雑な範囲魔法である。

 私は内心でヒーヒー言いながら、テレポートにて瞬時に退避。本当に、このテレポートというスキルは滅茶苦茶便利でつい頼ってしまう。

 とは言っても、ワープに比べてコストは大分軽いものの、それでも転移スキルの一種だ。考えなしに多用すれば、あっという間にMPが底をつくだろう。

 それを思えば、ただの緊急退避に用いるだけというのも勿体ないわけだ。

 なので。


「よっ」


 リリの警戒が近距離に向いた直後に、テレポートで飛ぶなり遠距離からの一撃を放つ。

 用いたのは光魔法。貫通力おばけのレーザー光線だ。さながらデ○ビームである。

 遠方より唐突に飛来したそれは、無論光の速度で迫るわけで。とても人が反応できるようなものではなかった。

 そのため光線は狙い違わずリリの太ももへと襲いかかり、そしてまたも障壁に阻まれた。

 が、問題はない。

 狙いはあくまで、姿の見えない私が、どこに潜みどんな攻撃を仕掛けてくるかも分からない、という状況を作ることにあるのだから。

 今の一撃により、私がテレポートにて逃げ出したと匂わせることが出来ただろうし、当然のように光線の飛んで来た方角を最も警戒するリリ。

 しかしそれが狙いを逸らすための囮であるという考えにもすぐさま思い至り、ならばいよいよ行方が分からなくなったと困惑を見せる。


 作戦は上手くハマり、リリは相当にストレスを感じている様子。

 決闘が始まって、時間にして未だ一分にも満たないやり取りではあるが、私も彼女もお互いの厄介さを早速思い知っているところである。

 遠近問わない高火力で、当たると即戦闘不能もあり得る攻撃をぶん回す上に、とんでもなく堅い障壁を身に纏っている。それがリリだ。守りに徹したなら、きっと今より更に堅くなるのだろう。

 対する私は姿を隠し、テレポートでどこにでも一瞬で移動する。魔法やスキル発動時に発する魔力の気配を察知する以外に捉える方法はなく、非常にやり難い相手だと感じているはずだ。

 

 一見五分に見える現状だが、しかし有利を得ているのは私だろう。

 リリは私を上手く捕捉できておらず、火力を向ける先に困っている様子。

 対する私は彼女の障壁さえ抜ければ、一気に勝負を決めることさえ可能なはずだ。

 となれば、高火力を叩き出すだけの仕込みをしなくちゃならない。

 ただ、無闇に魔力を生成しようものなら、優れた魔法剣士である彼女はきっとそれだけで私の位置に当たりをつけてしまうだろう。

 故にこそ、感づかれない仕込みが必要になるわけだ。


 先ず前提として、たとえ姿が見えなくとも、私ないし何者かがスキルや魔法を発動しようとすれば、その際MPより生成される魔力に感づかれることは間違いない。【魔力制御】のスキルがあれば、魔力のカタチまでは分からないまでも、他者の魔力反応を捉えることくらいは可能らしいから。

 そうであるなら、私が何か手を打とうとした場合、普通にやったのでは位置バレは免れないというわけだ。

 そして位置バレしたが最後、即座に強力な魔法が飛んでくるに違いない。

 残念ながらリリの火力は、私の物理特化装備でも、魔法特化装備でも押し負けてしまうほどの凄まじいものである。

 出が速くて超火力とか、私からしたらとんでもなく羨ましいのだが。

 ともあれ飛んでくる魔法をどうにか処理し切れなければ、こちらの一撃を叩き込むことも難しいわけで。

 まぁ、長期戦を前提に戦術を組めば、裏技を持つ私は半ば無尽蔵のMPでリリの魔力切れを狙うことも可能なのだろうけれど、それは如何にも泥仕合である。優先するべき手ではない。


 とどのつまり、リリの超火力魔法を防ぎつつ、幾らかの溜めが必要なこちらからの一撃を上手く当てて、彼女の障壁を突破する。

 難しくはあるけれど、何とか頑張るしかないだろう。

 流石にリリの火力を一点集中で喰らえば、私なんてあっという間に蒸発させられかねないが、幸い狙いを絞れない彼女が放つのは範囲魔法ばかりだ。

 それならばある程度威力も分散しているため、防ぎ切ることは可能なはず。

 更に、魔法の同時展開を用いることで、一つの魔法を囮にして本命の魔法を準備することも出来る。

 これを駆使して、一気にリリを叩くのだ!


「あーもー! どこに行ったのよバカ仮面! コソコソ隠れるなんて卑怯でしょうが!! 正々堂々と戦えー!!」


 とうとう苛立ちを顕にし、先程にも増して範囲魔法をばらまき始めたリリ。ばかりか、魔法剣まで発動する始末。

 未だ決闘が始まって一分そこらだっていうのに、気の短いことである。

 ここで無防備に魔法を紡ごうものなら、直ぐに感知されて火力を一点集中したヤバい攻撃が飛んで来かねない。

 そこで、リリが魔法をばら撒くその瞬間を狙って私も動くことにした。流石の彼女とて、魔法を打ち出すタイミングで新たな魔法を紡ぎ別途放つ、なんて器用なことは出来まい。

 いや、彼女も並列思考を持っているとしたら分からないが。そこは無いと信じて行動あるのみだ。


 リリがまたも、所構わず絨毯爆撃を放った。その瞬間、私は魔力を生成して作戦を実行に移す。

 刹那、リリの頭がギュワンッとこちらへ向き、その目は見えないはずの私をしかと捉えていた。そして、一切容赦なく放たれる魔法剣の脅威。

 意趣返しのつもりなのか、リリの繰り出した魔法剣による瞬速の突きは、その先端より光の槍を撃ち出すものであった。

 が、心眼持ちがそんなピンポイントな攻撃をそうそう喰らいはしない。

 テレポートを使うまでもなく、大きく横へ飛び退くことでそれをやり過ごした。

 恐るべきは光の槍が齎した余波である。地面に深い溝と焦げ跡を残しながら、まっすぐに彼方へと飛んでいったらしい。

 試合の時も同じスキルは見たが、あの時とは威力が全然違う。どうやら会場への被害を抑えるためか、随分加減をしていたのだろう。笑えない冗談のようである。

 しかしながら当たらねば、どんなに強力な攻撃も意味はなく。手応えの無さから避けられたと察した彼女は、姿の見えない私の居場所を簡単に見失ってしまう。

 もしかしたら、先程の魔力反応はテレポートのそれだったのかも、という疑いも抱いているようだ。

 っていうか、考えてみたらテレポートの時にも魔力を使うのだから、それを逆手に取るっていうやり方もあるのか。なんて今さら気づきつつも、既に今の魔法行使にて幾つかの仕込みは行った。

 リリの一撃をやり過ごしたのだから、次は私のターンである。


 瞬間生じたのは地魔法による異変。凄まじい轟音とともに地面より生成されたるは、分厚く強固な岩の壁であった。

 形状は円柱を模しており、中央は空洞になっている。さながら岩にて生成された塔……いや、土管ならぬ岩管だろうか。

 リリを囲うように一〇メートルを軽く超える高さまで勢い良く伸びたそれは、一見彼女を閉じ込めるための牢獄めいてもいる。

 が、リリを前にしてはこの程度の壁なんてさしたる足止めにもなりはすまい。

 では一体何のために? などと考える暇すら与えず、それは彼女の頭上より降り注いだのだ。


 かつてイクシスさんとやった時に用いた光魔法。

 太陽光を凝縮し、天より光の柱を落とす強力無比な一撃。

 その名を、【ソーラーピラー】という。

 晴天より霹靂が如く生じた極光は、狙い過たず岩の杯を満たすように、しかと円柱の内を焼いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ