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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二七五話 リリエラ戦開始

 私を控室に案内してくれたのは、一回戦のときにお世話になったお姉さんだった。

 おかげで要らぬ緊張を溜め込むこともなく、促されるまま控室入りを果たした私。

 ステージの方では早速今日の一試合目が始まっている頃だ。っていうか一応備え付けのモニターもあるので、確認することも出来るわけだが。

 いよいよ大一番を前にしているためか、落ち着かない気分である。モニターを眺める余裕もない。


 それというのも、次の試合。多分私は負ける。っていうか、勝ったらいよいよ拙いことになるので、寧ろ何が何でも負ける。

 しかし負けるってことは、痛い目を見るってことでもあり、それはおっかない。これから痛い思いをするのだと思うと、何だか予防接種の順番待ちをしている時の気分にも似ているかも知れない。

 しかも、あまり無様な負け方をしては、応援してくれている人たちに顔向けができないし、きっとリリが大層腹をたてることになるだろう。

 なるべく自然な形で負けなくてはならない。今まで体験したことのないタイプの難題である。

 そういった事情も相まって、非常に気持が落ち着かないと言うか、困惑していると言うか、後は野となれ山となれって感じですらある。実際ちゃんと戦うための準備はしてきたのだし、今更焦ったところで仕方のない話であることも事実なのだが。

 そうは思えど、やっぱり落ち着かない。


 と、そこへ通話がかかってきた。鏡花水月のみんなからだ。

 一応遮音を掛けて応答する。


「はいはいこちら仮面さん」

『ミコト、今平気?』

「うん。控室で待機してるところだよ」


 初めに聞こえてきたのは、オルカの声だった。次いで他のみんなの声もする。

 彼女らの声を耳にした途端、何だか気持ちに余裕が出来た気がするのだから、今更ながらに通話の偉大さを思い知った気分だ。

 それから幾らか言葉を交わした後は、縛りの最終確認や、リリの情報のおさらいなどが行われた。


『百剣千魔のリリエリリエラ。多彩な剣技と無数の魔法を操る、圧倒的な実力者です。ミコトさんの仰る魔力のカタチ、とやらを鑑みるに、様々なスキルと親和性のあるカタチをお持ちなのでしょうね。羨ま……いえ、妬ましい限りです』

「言い直して口が悪くなってる!」

『失礼しました。中でも特筆するべきは、やはり魔法剣士の代名詞である【魔法剣】ですね。彼女のそれは、レベルが違います。下手をすると、ミコトさんの魔力調律に比肩する程やも知れません』

「そ、そんなに!?」

『断言は出来ませんが、それ程他に類を見ない威力を誇っており、注意が必要であるということです』


 私の魔力調律というのは、理論上スキルの最大効率運用を可能とするための裏技だ。

 最小限の魔力消費で最大限の威力を発揮するため、もしも本当にリリがそれ程の魔法剣を扱うのだとしたら、それは当然とんでもない脅威に違いないだろう。

 まぁ理論上だなんて銘打っているけれど、それはあくまでスキルやそのレベルに関する仕組みが私の考えた通りの仕様であれば、という話だ。

 しかし事実魔力調律という方法にて強力な魔法やスキルが実現していることは間違いないので、天然で調律クラスの効率を発揮できるというのなら、それはもう紛うことなき天才と言えるのではないだろうか。

 生まれ持った魔力のカタチが、魔法剣のスキルと完璧な相性を持っているということなんだから。


「リリエリリエラ、恐ろしい子……!」

『ミコト様、それブーメランです』

『ともあれ、彼女の魔法剣はひどく燃費が良く、それでいてとてつもない火力を有しているということだな』

『ええ。その上素のステータスからして超越者級ですからね。そこから繰り出される魔法やスキルの威力は、どれ一つとっても油断の許されるものではありません』

「そうなんだよね……魔力調律で効率は上がっても、ステータスの違いから最大出力は比べるべくもない。どうしたって私が力負けするから、立ち回りとか策で補うしかないわけで。はぁ……本気にさせないように気をつけないと」

『それより何より、一番大事なことがある。ミコト、気絶だけは絶対ダメ』


 そう。オルカの言う、気絶。それが最大の懸念事項だった。

 気絶と言うか、意識を失うこと全般が該当するわけなのだけれど。

 もしうっかり私が意識を手放そうものなら、あのスキルが勝手に発動してしまうことだろう。

 即ち、【オートプレイ】だ。

 普段は私が寝ている間、私に代わって魔法やスキルの訓練をしてくれているオートプレイだが、一度戦闘中に私が意識を飛ばそうものなら何をしでかすか分かったものではない。

 ひょっとすると縛り関係なく、最適な戦闘行動を行い、全力でリリを倒しにかかるかも知れない。

 そうなれば、せっかくここまで隠し通してきたスキルなんかが、衆目に晒されてしまうことになる。

 それは非常によろしくない。私の持つへんてこスキルを、どうにかして悪用してやろうという悪い人たちに目をつけられかねないからだ。

 なので、気絶だけはどうしても避けなくちゃならない。


「大丈夫、心得てるよ。安全第一で立ち回るようにする」

『最悪、禍根を残すような結果になったとしても、ギブアップという選択肢を選んでくださいね。それが何よりの安全第一です』


 まったくそのとおりだと思う。

 リリに、「あんたとやってみたい」だなんて言われたのは確かに嬉しかったけれど、そうは言っても譲れないラインというものがある。

 化けの皮を剥いでやると息巻く彼女には申し訳ないけれど、状況によっては降参も厭わないつもりだ。


 そんなこんなで、その後もしばらく通話を介し最終打ち合わせを行っていると、いよいよ時間が訪れた。

 本日最初の試合が終わり、スタッフのお姉さんが扉をノックしてくる。

 私は皆にお礼を言って通話を切ると、ゆっくりとベンチから立ち上がり、控室を後にしたのだった。



 ★



 朝の清々しい空気とは裏腹に、観客席から感じられるのは煩わしいほどの熱気。

 それらの不釣り合いさを感じつつ、円形の巨大な闘技ステージに上った私。

 対面側からは同じくリリが歩いてくる。中央には審判の人が待っており、そこを目印に双方より歩み寄れば、すぐにルールの最終確認等が成され、いよいよ試合開始のゴングを待つばかりとなった。

 審判さんが駆け足でステージ上から捌けていくのを尻目に、私達は静かに距離を取った。

 否応なく高まる緊張感。

 優勝候補筆頭とまで言われるリリの試合ということもあり、注目度は非常に高いらしい。会場中から寄せられる興味の色は、これまでに感じたことのないくらい濃厚なものだった。

 その殆どが、どんな熱い試合になるのかという興味よりも、リリが私をどう負かすのかという期待に彩られている。アウェイ感も甚だしい。


 斯くして、そんな居心地の悪い衆目の集まる中、とうとうその時が訪れたのだ。

 実況が高らかに叫び、そして開始のゴングが鳴る。

 闘技大会総合部門、第三回戦。対するは百剣千魔のリリエリリエラ。

 緊張に軽い吐き気を催す私のことなど意にも介さず、いよいよ戦いの幕が切って落とされたのである。


 ゴングと同時、先んじて動いたのはリリの方だった。

 当然の如く詠唱もなしに編まれたるは、万物を焼き貫かん炎の槍。マジックアーツの名を【ファイアランス】という、ポピュラーな火魔法だった。

 しかしながら高ステータスより繰り出されるそれは、掠めただけでも深手を負わされることは必至。

 そんな槍が、無数に宙空へ展開されるなり、私めがけて雨あられが如く突っ込んでくるのだ。

 彼女からしてみたら、挨拶兼様子見がてらの開幕ブッパなのだろうけれど、どう見ても必殺級の魔法である。


「ひぇっ」


 対する私は、ひたすら避けることに専念した。

 唐突に始まったのは、リアル弾幕回避ゲーである。当たったら最悪即死っていう、リスクが高すぎるクソゲーだ。

 しかも紙一重で避けていては、炎の熱で火傷を免れ得ない。ある程度余裕のある回避が必要だった。

 こうなっては心眼を出し惜しんでいる場合でもない。

 私はひらりひらりと、巨大な矢のように降り注ぐファイアランスの雨を何とかステップだけでやり過ごす。

 会場からはどよめきと歓声が上がる。もしかして私が簡単に避けているようにでも見えるのだろうか? 冗談ではない。必死なんですけど!


 ファイアランスだけでは埒が明かないと思ったのか、追加で今度は雷撃を閃かせ始めたリリ。それは拙いです。

 雷撃は目で捉えて避けるなんて出来るものではないし、何より挙動が不安定で術者自身狙いが大味になりがちな属性だ。

 ファイアランスにて動きを誘導しておいて、雷撃で仕留める。そんな段取りが見え見えであるが、しかし対処も容易ではない。

 回避より防御を優先してみたところで、何せ火力が圧倒的なのだ。普通に守りを貫かれる恐れが高かった。


 でもまぁ、やり様はある。

 と、早速とばかりに思ったとおり、鋭いファイアランスの一突きを躱した私へ向けて、リリの雷撃が飛んだ。

 が、それはしかし私に迫ることはなく、あらぬ方向へと逸れたのである。


「!?」


 雷には避雷針。常識です。

 地魔法を駆使して金属製のそれを咄嗟にでっち上げた私は、見事彼女の【ライトニングボルト】を捌いてみせた。

 流石に面食らったリリ。好機である。

 彼女が驚き、ほんの僅かに見せた隙。そこを綺麗に突くためには、「きっとこれなら驚いてくれるだろう」という事前の読みが不可欠だ。

 案の定雷が意図せず反れたことに動揺したその瞬間には、私の行使した火魔法が彼女の目と鼻の先で生じ、火炎となって爆ぜた。

 が、常に強固な障壁を展開しているリリには毛ほどの痛痒もない。

 私のちっぽけな反撃を何ら苦もなくやり過ごしたためか、雷を捌かれたという驚きの余韻もたちまち消え去り、すぐに冷静さを取り戻した彼女。

 そしていつもの思考パターンに則り一瞬、私を軽んじた。

 そこが、狙い目である。


 火炎は確かにリリへ直接的なダメージを与えるに至らぬ、ちっぽけなものだった。

 けれど、その視界を覆うには十分な仕事をしてくれたわけだ。

 結果、その視界から火炎が消え去った時には既に、私の魔力調律が済んでいたのである。

 二回戦目で使用したエアロクラフト。一度見せたスキルならば、出し惜しむ意味はない。


 私とリリを隔てる、見えない巨壁が突如ステージ上にドンと横たわり、進行を始める。

 何もせずにいれば、壁は容赦なく彼女をステージの外へ押し出してしまうだろう。

 だが。

 リリは待ってましたとばかりに、にやりと口角をつり上げたのだ。

 そして、これみよがしに腰の細剣を引き抜くと、そこに青白い光を纏わせた。


 否応なく理解する。ヤバいのが来る。

 しかも、所詮『空気の壁』では防ぎようもない属性攻撃だ。

 シジマさんのそれは、物理寄りの魔法だったため完封することが出来た。が、リリは違う。

 空気の壁などものともしない魔法を多数所持している。

 しかも、魔法剣に乗せて放ってこられたのでは、どうにもしようがないだろう。

 っていうか、アレって一回戦の時に見せたヤバいやつじゃないの!?


「えちょまっ」


 慌てた時には既に遅く。

 彼女のエゲツない魔法剣は、既に振られた後だった。

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