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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二七一話 スキルレベル

 今から遡ること、三日前。

 それは魔術部門を観戦した夜のこと。

 イクシス邸の訓練場にて、閃きを何とか形にしようと四苦八苦している最中、それに付き添ってくれたソフィアさんが問うてきたのだ。


「ところでミコトさん、その『チューニング』とはつまりどういう技術なのですか? というか、同名のスキルが他にあるんですけど」

「え、マジですか。じゃぁ『チューニング(仮)』にしておこうかな」

「それより、内容を教えてください」

「ああはいはい」


 今大会の魔術部門を観戦する過程で、私は一流の魔法使いたちによる数々の魔法を目の当たりにし、自らの魔法をより強力に運用する為のアイデアを幾つか得ていた。

 その一つが『チューニング(仮)』である。

 っていうか言われて思い出したけど、そう言えば音魔法に【チューニングノイズ】ってあったっけね。名前のない技術っていうのも味気ないから、今は便宜上適当な名で呼んでいるだけだし、それを思えば(仮)というのは存外的を射た表現だろう。

 まぁそれはともかく。


「先ず、ソフィアさんは私の【魔力制御】ってスキルが、いつの間にか結構育ってるのに気づいてたかな?」

「もちろんです」

「そ、そっか……」

「ミコトさんの様子をしかと観察してれば、自ずと分かることですよ。鏡花水月に入れて本当に良かった」

「……まぁそれでね、いつの間にか新しいスキルが生えてたんだ。多分派生スキルで【スキルシミュレーター】っていうんだけど」

「あなた! また私に黙って知らない子を連れ込んでいたんですね!! 私というものがありながら!」

「茶番に見せかけておいて、わりと本気でキレるのやめて。恐いから」


 そも魔力制御ってスキルは、魔法やスキルに込める魔力の量を減らしたり過剰供給したりして、その効果や威力を調整するっていうものだった。さらに、どこか(多分大気中とか、もしかしたら異空間とか)から魔力だかMPそのものだかを引き込んで、スキル行使にかかる消費魔力の一部を肩代わりさせるっていう謎機能も付随してたりっていう、非常に重宝するスキルだったわけなんだけど。

 更には、込める魔力の調整に伴って、スキルが齎す効果の具合というのが感覚的に理解できる、っていう地味に役立つおまけがあったんだ。

 そしてこの【スキルシミュレーター】というのは、その効果予測が昇華して派生したと思われるもので、その内容も、スキルが発動した際に生じる結果というのをより正確に予測し、あまつさえはっきりとしたビジョンとして頭の中に投影してくれるというパッシブスキルである。

 便利ではあるけれど、まぁ地味なスキルであるため、ぶっちゃけ加減をしたりダメージ管理をしたりっていう用途にしか使えない、オプション機能的な意味合いの強いサポートスキルでしかなかった。


「――なるほど。まぁぶっちゃけそれでしたら私も持っているスキルです。ミコトさんなら獲得していても不思議ではありませんね」

「怒られ損……」

「それでその、スキルシミュレーターがチューニング(仮)とどう関係するんですか?」

「どうってそれは勿論、魔力のカタチを調整しつつ、スキルと魔力の親和性について調べるのにすごく便利、って話なんだけど」

「…………詳しく」


 ヒュルリと冷たい夜風が吹き抜ける中、魔道具の照明に照らされたソフィアさんは表情に興味の色を浮かべ、先を促してきた。

 スキルや魔法に詳しいソフィアさんならば、もしかするとこれだけである程度は察してくれるかなと簡単に説明したのだが、どうやら流石に難しかったらしい。言葉が足りなかったか。

 私は小さく空咳をつき、今度はもう少し詳しくその内容を語って聞かせた。


「先ず、スキルレベルってものがあるけど。私、コレって一体何なんだろうってずっと不思議に思ってたんだ」

「? 何が不思議なんですか? スキルレベルと言えば、数多あるスキルそれぞれに設けられている、習熟度を示す値のことですよね。上昇させることで、スキルの効果は強化され、逆に消費する魔力などは軽減されるという」

「だね。でもコレ、一体どういう原理で上昇してるんだろう? どうしてレベルが上がるとそんな恩恵があるのかな?」

「それは……専門家によると、スキルを巧みに操る技量を示したものがスキルレベルであるという説や、スキルと肉体との馴染み具合を表したものがそうであるという説、他にもスキルには意志があり、それそのものが経験を蓄えて成長しているという説なんかもありますね」

「ほほぅ、なるほど……」

「ミコトさんはどう思われているんです?」

「私はね、スキルそれぞれには最も相性の良い魔力のカタチがある、って考えたんだ」


 今大会を眺めていると、誰もが使用するような基礎的なスキルというものが様々な場面で目にできた。

 例えば強化系スキルなんかがそれだし、魔法で言えば牽制に便利な初級スキルはしかし、存外その種類が少ないため、色んな人が同種の魔法を使用する様を、俯瞰して見比べる機会が結構あった。

 そこで気づいたのだ。

 そんなスキルや魔法に用いられている魔力のカタチが、みんな酷く似通っているということに。

 例えて言うなら、みんなして特定の人物のモノマネに勤しんでいるような、そんな感じだった。スキルの時も同様だ。

 仮にお題となるCD音源があったとして。皆競うようにそれを、歌い方から声音、ちょっとした癖まで正確にトレースしようとしている。皆の魔法やスキルからは、それに近しい感覚を覚えたのだ。


「それで思ったんだ。もしかしてスキルレベルっていうのは、魔法やスキルを発動する際に用いられる魔力が、その理想的な魔力のカタチに近づくに連れて上昇していくものなんじゃないかって」

「! ……なるほど。初めて聞く説ですが、とても興味深いですね。というか、そも魔力が似通っているというのはどういうことなんでしょう?」

「え。ソフィアさんも魔力制御持ってるんなら、魔力のカタチがみんな似てるって気づかなかった?」

「いえ。私に分かるのは、込められた魔力の強弱や、密度の違いなどが精々ですね」

「? え……いやいや……え? 魔力ってそんな単純な感じじゃない、よね……? もっとこう、色とか、波長とか、匂いとか音とか感触とか、色々あると思うんだけど」

「ふむ……どうやら認識に齟齬があるようです。ミコトさんはもしや、私や他の人間には感じ取れないその『魔力のカタチ』とやらを捉えることが出来る……ということでしょうか」

「!?」


 ふわっと脳裏を、生前の知識が横切っていった。曰く、動物は人間に聞き取れない音や、見えない色、嗅ぎ取れない匂いなんかを感知できるのだと。

 つまりは、それに似たような感じなのだろうか。或いは霊感とかに近いやつ? シックスセンスとかなんか、そういう。

 ともかく、どうやら私は自分の魔力のカタチを自由に弄れる他、他者の魔力のカタチを読み取る能力も持っている、ということらしい。

 いや、違うな。もうちょっと根本的な……ええと、『魔力のカタチ』っていう概念を、普通の人は持っていないとかっていうレベルの話なのかも。専門家の唱える説を色々知っているソフィアさんが、私の見解を初めて聞く説だと評したことから、その可能性は高いのではないだろうか。

 ちなみに魔力の『カタチ』と呼んではいるけれど、これは先程論ったような、色や波長や匂いや感触などなど、様々な要素を一纏めにした略称のようなものだ。


「確認なのですが。その魔力のカタチとやらが似通る現象というのは、つまりどういうことなのでしょう?」

「んー……と、そうだなぁ。まず、もともと個々人の持つ基礎的な魔力というのは、人によっててんでバラバラ、自分だけのカタチってものがあるんだ。スキルや魔法を発動するんじゃなく、純粋にMPを魔力に変換しようとすると生じるのが、この基礎的な魔力に当たるね」

「ふむふむ……」


 魔力はMPから生成されるものであり、そのため意図しなければ『基礎魔力』というのは発生しない。

 それゆえ私も、そうちょくちょく他人の基礎魔力のカタチというものを目にしたりはしないのだけど。

 しかしちょっと力んだ拍子にとか、感情の昂りにつられてとか、寝ぼけてとか、そういった思いがけないタイミングでちらっと見えることはある。

 そして今まで確認したそれらは、十人十色の個性を持っていたのだ。指紋や手相、姿形が人によって異なるように、魔力のカタチもまた人の数だけ存在していると言えるのではないだろうか。まぁ、断言は出来ないけど。

 興味深げに相槌を打ってくれるソフィアさんへ、私は説明を続ける。


「だけれど、スキルや魔力の発動に際して、自動的に生成される魔力のカタチっていうのはどうしてだか、基礎的な魔力のカタチとは異なるものに変化するんだよ」

「モノマネをするように、ですか?」

「そうそう。魔力のカタチを声に例えるなら、仮にファイアーボールを使用するとして、ファイアーボールさんご本人の声に頑張って似せようと捻り出してるのが、変化した声。即ち、変化した魔力のカタチってわけだね」

「では、スキルレベルを引き上げるために、ひたすら反復練習を行わねばならないというのは……」

「多分、沢山練習していくにつれて、ご本人のカタチに少しずつ近づけるように出来ているんだろうね。ただ、モノマネがそうであるように、元の声帯に限界があるのと同じで、基礎魔力のカタチ次第ではどうしても一定以上似ないこともあると思う。だからスキルレベルの上限には個人差があるんじゃないかなぁと。若しくは、同じスキルレベルでも威力や効率に個人差があったり?」


 どうしたって「雰囲気は似てる」って評価から脱せない、モノマネの一発芸とかってよくあるよね。

 私も生前罰ゲームでやらされた経験が……うぅ、思い出したくもない。


「むむむぅ……確かに、仰る通りです。INT値やスキルレベルを揃えた数人の魔法使いに、同じ魔法を撃たせるという実験は様々なところで行われた記録があります。結果何れに於いても、そこにはどういうわけか個人差があった、と」

「おー。やっぱりそうなんだ」

「……それではもしや、『チューニング(仮)』というのはまさか」

「そう。とどのつまり、私はモノマネ名人ってわけだね」


 私の特技は、自分の魔力のカタチを好きなように弄れること。

 思えばこれのおかげで妖精師匠たちの【付与】も、ハイエルフの術も再現することが出来たと言っていい。

 それらを行使する際には、一般的なスキルの使用時には見ない、一風変わった魔力のカタチが見て取れたのだ。謂うなれば、一般的な普通の魔法なんかに用いられるのが人の声音のようなカタチだとすると、付与やハイエルフの術に用いられているのは、特撮モノに出てくる怪獣の轟くような鳴き声みたいな、それくらいの異色さがある魔力のカタチだったのだ。

 だからこそこれを『特殊な魔力』、と勝手に称してきたのだけれど。

 それをなんとか地力で再現できたというのだから、私の魔力はそれだけ自由度が高いと言うか、柔軟と言うか。余程色んなカタチを再現することが出来るようになっているらしい。

 正にモノマネ名人である。


 そしてチューニング(仮)というのは、この特技を駆使してファイアーボールならファイアーボールさんご本人の。ウィンドカッターならウィンドカッターさんご本人のカタチをそっくりに真似て、地道な鍛錬というプロセスをすっ飛ばし、理論上最強級の魔法やアーツスキルをぶっ放してしまおうと。そういう企てからなるものなのである。

 と、ここまで語り終えると。


「ああ……やはり私の目に狂いはありませんでした。あなたこそスキルの申し子。私の運命の人!!」

「でも待って。これには大きな落とし穴が一つあるんだ」


 案の定暴走しかけたソフィアさんを手で制し、私が直面している大問題を聞かせたのである。

 即ち。


「私はその、ファイアーボールさんや、ウィンドカッターさんたちご本人のカタチを、知らないんだよね……」


 そう。それはつまり、歌ってみた動画は何本も見たのに、ご本人さんの歌を聞いたことがないっていうのと同じようなものである。

 どこまで言ってもモノマネのモノマネしか出来ない私は、このままだとどこまで行っても二流の壁を超えられないわけだ。


「しかも、通常の魔法やスキルは発動しようと思えば勝手にMPを魔力に自動変換して、安定したカタチをいつでもどこでも再現してくれるわけだけど、私の場合はオートじゃなくマニュアルのモノマネだからね。毎回微妙にブレたりするんだ。だから効果が安定しないっていうのも悩みのタネだね」

「それは……確かにそう、ですよね」


 そも、一体どういう仕組でオート再現なんてことが出来るのか。それこそ正にゲームめいたシステムチックを感じる、この世界の謎、或いは人体の神秘とでも言うべきところだろう。

 まぁそれはともかく、チューニング(仮)にはこうした大きな問題が立ちはだかるわけで。これではせっかくの特技も活かしきれない。計画の頓挫である。

 が、しかし。


「そこで有用なのが、【スキルシミュレーター】ってわけだよ」

「!! ああ、なるほど! それで……!!」


 そう。スキルシュミレーターを通すことで、微調整した魔力のカタチがご本人のカタチに近づいたのか遠ざかったのか。それを間接的に推し量ることが出来るのである。

 魔力のカタチを操作しつつ、スキルを試用した際の結果をシミュレートにかければ、果たして効果が上がったのか下がったのか実際スキルを行使するまでもなく把握でき、それに応じさらなる調整をどんどん繰り返せるという寸法だ。

 つまり私にとってスキルシミュレーターというのは、謂うなればチューニングツールのようなものであると言えるだろう。


「これを頼りに、特に役立ちそうなスキルから逐次チューニング(仮)を施していく。ただ、体よく最強チューニングに成功したとしても、結局は感覚が頼りの技術だから正確に記憶しておく術がない。だからそこは今のところ、地道な反復練習で感覚を体に覚え込ませる他無いんだよね」

「なんと……おみそれしました。よもや、そこまでのことをお考えだったとは!」

「本戦までに、一体どれくらいレパートリーを確保できるかも分からないけど、いざという場面にはきっと役に立つから」

「そうですね。それにスキルレベルが高いだけというのなら、他者からは『一部のスキルを極端に育て上げた』という風にしか見えないはずですし。隠し玉としてはもってこいです!」


 というわけで、私は魔術部門を観戦した日以来、チューニング(仮)を駆使してひたすらレパートリーを増やす作業に努めたのである。

 それはもう、寝る間も惜しんでっていうか、寝ている間もっていうか。

 斯くして手に入れたるは、一部のスキルを限定的に最強進化させるという、とっておきの秘技であった。



 ★



 そして今! 頑張って覚え増やしたレパートリーの中から、私は一つの魔法をチョイスした。

 素早く自らの魔力を調整し、理想のカタチを再現する。

 シジマさんは回避を諦め、受けて立つ姿勢だ。

 私の魔法の威力というのは、ここまで散々見せてきた。その上で、対処しきれるという自信があると見える。

 そして事実、私が普通の魔法剣士辺りだったなら、彼をこの状況から一撃で倒せる手段など捻り出せはしなかったに違いない。


 だが、残念。私の手中にはその手段があるのだ!

 受けてみるがいい! チューニングを施した、このぉ! 最強火炎放射を!!


 今更詠唱も必要ない。確実性を求めた無詠唱だ。

 彼に手のひらを向け、強く魔法の発動を念じる。

 マニュアル操作で練り上げた魔力が、いよいよ魔法へと変わる。

 正にそれは、その瞬間のことである。

 スキルシミュレーターが私に見せたのは……骨までガッツリ炭に変わった、シジマさんの無残な姿だった。

 咄嗟に、私は魔力のカタチを大きく乱した。

 そしてその結果。


「…………」

「…………」


 ポッポッポッポッ。と、私の手より放たれたのは、切れかけのガスコンロじみたしょっぱい弱火。

 魔力の乱れにより、魔法がうまく形を成さなかった結果である。謂うなれば、モノマネしようとしたら緊張して声が裏返った、みたいな。

 まぁ、端的に言って……失敗だ。


 身構えていたシジマさんも、息を呑んでいた観客たちも、ノリノリで声を張っていた実況さんも、目を凝らしていた審判さんも、みんなが一様に静まり返った。

 水を打ったような、とは正にこのことか。静かな会場の中に、私の手から未だ発せられる弱火の音だけが、ポッポポッポと小さく鳴り続けた。

 ど、どうするの、この居た堪れない空気。


「え……っと……」


 私はそっと弱火を消すと、ぴょんとその場から後ろへ飛び退き間合いを取り、そして何事もなかったかのようにスチャッと剣を構えるのである。

 仕切り直しだ!

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