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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二六六話 勝ち上がる為の理由

 大きな拍手を背に浴びながら、試合に勝利した私は舞台を降りた。

 壁にめり込んで動かないブンチャカ氏は、早速救護スタッフが駆けつけて救出すると、担架に乗せて搬送していった。

 思い切り蹴ったから、もしかして大変な怪我を負わせてしまったのではないかと些か不安にもなるが、聖女さんならきっとなんとかしてくれると信じよう。それに、過度な攻撃でのペナルティなんてものも発生しなかったし、大丈夫なのだろう。

 ただ、思い返すとなかなかエグいことをしてしまった自覚はある。服に火をつけて燃やしたり、鎮火の妨害をしたり、キレて頭に血が上ってる彼を罠にはめたり。

 我ながら、碌でもない勝ち方である。まぁ、まともに正面からぶつかったなら、きっと私のほうが不利だっただろうし。勝つためには仕方がなかったんだ。ということにしておこう。

 スタッフさんに促されて退場口より捌けると、私を控室に案内してくれた運営スタッフのお姉さんが出迎えてくれた。


「仮面さんさん、おめでとうございます! かっこよかったですよ、最後の技!」

「あはは、どうも。ちょっと照れますね……」

「ふふ……あ、そうそう、こちらをお受け取りください。二回戦への出場チケットです。成り代わり防止のための、証明書みたいなものですね。失くさないようお気をつけください」

「おお、これが」


 クラウも二回戦進出時に貰ったって言ってたっけ。

 お姉さんから受け取った一枚のカードには、複雑な模様や今大会の総合部門第二回戦への進出を証明する旨と、仮面さんの名がしっかり印刷されてあった。

 きっと印刷技術由来のものだから、複製が困難だとかそういうことなんじゃないかと予想してみたり。


 お姉さん曰く、今日の出番はもう無いため、後は帰っても大丈夫だし、施設内から観戦していっても構わないとのことだった。

 どうせオルカたちはまだ観客席で観戦を続けるのだろうし、折角だからリリの試合なんかも見ておきたい。

 というわけで、残りの試合も見てから帰る旨をお姉さんに伝えると、それならばと先導して試合前まで居た選手の控え区画へ案内してくれた。

 その後お礼を言ってからお姉さんと分かれると、早速観戦窓のあるスペースを訪れた私。

 すると私が戻ったことに気づいたリリが、こちらに視線を投げてくる。雰囲気が、さっきまでのそれとは少し違って感じられた。

 そして気づく。心眼をオフにしたままであるため、リリの空気の変化がいまいちどういう意味を持つのか理解できないのだと。


 これまでは、オフにしたくても出来なかった心眼。そのせいで勝手に周囲の人の気持ちを覗いてしまい、どれだけ内心で気まずい思いをしていたことか。

 けれど今は逆に、心眼に馴染んでしまったせいで不便さを感じている。これをないものねだりというのだろうか。まぁ、心眼使おうと思えば使えるんだけどさ。

 でも、折角オフに出来るようになったのだから、必要な時以外には頼らずに過ごしたいものである。

 というわけで、私は敢えて心眼に頼らぬまま、リリへと話しかけることにした。


「ただいまリリ。なんとか勝てたよ」

「ええ、見てたわ。あんた、随分容赦も余裕もない戦い方をするのね」

「? そうかな?」

「そうよ。滑稽なくらい必死そうだったわ」

「ああ、それはそうだよ。だって私弱いから、打てる手は何でも打たないとね。勿論、ルールの範囲内で」

「ふぅん……」


 リリは何やらもの言いたげな目でこちらを見て、ふむと何かを逡巡。

 そして、こう宣言した。


「いいわ。バカ仮面、あんた次の試合も何とかして勝ちなさい。三回戦で私に当たったなら、直々にその化けの皮、剥いであげるから」

「え」


 一瞬、肝が冷えた気がした。

 化けの皮とはつまり、私の正体に興味を持ったということだろうか?

 これはいけないと、堪らず心眼に頼ってしまう当たり、私の自制心は紙切れのようにペラペラである。

 広く浅いモードで心眼を展開し、私は改めるように彼女へ問うた。


「化けの皮って、この仮面を引っ剥がそうっていうの? それは困るなぁ」

「違うわよバカ。あんた、今の試合……手、抜いてたでしょ?」

「!?」


 心眼に頼るまでもなく、リリの言わんとしていることが分かった。そして心眼を通して見ても、彼女の興味はどうやら私が縛っている本当の力にあるようで。

 化けの皮を剥ぐというのは即ち、試合で私の全力を引き出してやろうという、そういう意味のようだ。


「人が隠そうとしてるものを暴こうだなんて、リリの変態」

「んなっ!? だ、誰が変態よバカ仮面!」

「じゃぁむっつり?」

「い、いい度胸じゃない。ちょっと二人で表に出ましょうか?」

「じょ、冗談だから! そんなに怒んないで!」


 分かりやすくこめかみをヒクつかせるリリは、どうやら余程沸点が低いようで。からかうにも相応に注意しなくちゃならないみたいだ。

 とは言え、化けの皮剥いでやる宣言というのは、私にとって大分よろしくない。

 別に優勝を目指しているわけでもなし、次の試合あたりでサクッと負けてしまったほうが要らぬリスクを避けられる気がしてきた。最悪棄権をしてもいいとすら思えるほどだ。

 なんて考えを巡らせていると。


「言っておくけど、次の試合で負けたりしたら承知しないわよ? まして棄権なんて論外だから!」

「うぐ。な、なんでバレたし」

「顔に出るのよあんたは」

「仮面なのに!?」


 もしかしてだけど、私が心眼を使わずにいた場合、むしろ私のほうが一方的に考えを他人に見透かされるばかりなのではないだろうか。

 こちらも心眼を駆使して他人の気持ちをある程度読んでこそ、ようやっとイーブン……みたいな。

 そう考えると、自分にだけ常時デバフが掛かっているような気がして、何だか無性に腹が立ってきた。


 決めた。広く浅い心眼は、今後もこれまで通り運用していこう。周りに人が多かったりして煩い時にだけ、オフにする感じで。

 そも心眼って、不意打ちとか奇襲とかスリとか暗殺とか、そういうこちらの無防備を突こうっていう相手に対してとんでもなく有効なスキルだからね。それをオフにしておくっていうのは、自分から安全性を手放すことと同義ではあるんだ。

 だから、正直これを捨て置くのは勿体ないとも感じていた。

 他人の心を覗き見るのは勿論気の引けることではあるのだけれど、広く浅いモードなら大まかな考えが読める程度なので、まだプライバシーの侵害にまではならない……と信じたい。

 自己弁護も甚だしいのだけれど、宝の持ち腐れとも言う。心眼を切っていたばかりに痛手を負ったというのでは、笑い話にもならない。

 なので、心苦しさはあれど使用は控えないことにした。


「っていうか、そもそも二回戦目の相手ってどんな人なんだろ? 相手次第じゃ私普通に負けるけど」

「トーナメント表ならさっき見たでしょ?」

「そうなんだけど、なんか自分も選手なんだっていう実感が薄くて、大分流し見ちゃったから覚えてない」

「あんたねぇ……はぁ。確か、シジマとかいうヤツだったかしら?」

「……はい、おわったー。私の負けが確定しましたよー」

「はぁ!? ちょっと、なに巫山戯たこと言ってんのよ。勝てって言ってるでしょうが!」


 なんて睨まれても困る。無理難題というものだ。

 シジマさんというのは、予選で同じBグループを勝ち上がった渋い和風なおっさんで、とんでもない剣の使い手だった。

 ほんの一度彼の太刀筋を見たのだけれど、加減をしたそれでさえ回避がやっと。お返しにと見舞った顔面パンチも、驚くべき反応で受け流されてしまったし、身のこなしも尋常ならざる実力を伺わせるものだった。

 それに何より、相当な有名人らしい。二つ名は『虚絶ち』と言ったっけ。クラウをもってしてすごい人だと言わしめるのだから、私ごときではきっと手も足も出ないほどの、隔絶した実力を持った人なのだろう。

 詰み、である。


「仮に、もし仮にシジマさんに体よく勝てたとしてもだよ? その次の試合でリリに化けの皮を剥がれるんでしょ?」

「そうよ。そのためにあんたは勝たなくちゃならないの」

「勝っても私、良いこと一つもないじゃん」

「む。それは、あれよ、ええと……確かにそのとおりだわ」

「認めちゃってんじゃん!?」


 思わぬ肯定が返ってきて、私は堪らず頭を抱えた。

 シジマさんの正確な実力というのは、正直未知数であるため、絶対に負けるだなんて断言こそ出来はしないものの。

 しかしあのチャラチャラしたブンチャカ氏ですら、私の想定を超える粘りを見せたのだ。

 シジマさんに、果たして私の小細工がどこまで通じるものか。正直全然自信がない。っていうか、うっかり腕や足の一、二本斬り飛ばされたなんてことになっては、シャレにも笑い話にもならない。

 そんな相手との試合に挑み、万が一勝利を手に出来たとしても、次に待つのは今大会優勝候補筆頭と言われているリリことリリエリリエラ。実はなんかすごい人らしい。

 で、だ。更に万が一私がリリに勝利したとしよう。そうしたらその後はどうだ。

 絶対仮面さん、目立つじゃん。寧ろそのまま勝ち進まないと不自然にさえ思われるし、なし崩し的に上位にまで勝ち残ろうものなら、もう有名人だよ。この大会を観戦してる人には、きっと顔と名前を覚えられてしまう。

 私にとっては不都合なことこの上ない。


「棄権、しようかなぁ……」

「却下! ダメ! 絶対!」

「どうして? 勝っても良いこと無いのに」

「うぐぐ……それはっ」


 私の問いかけに、目を泳がせるリリ。

 何か利点を提示できないかと必死に考えを巡らせているようだけれど、どうにも上手くそれが見つからないらしい。

 そうして一〇秒近くも逡巡した彼女は、結局苦し紛れにこう言ったのだ。


「私は、あんたとやってみたいのよ……」

「はぅあ!」


 尻すぼみ気味にしおらしくそう言う彼女に偽りの色はなく。その胸中には、純粋に私と手合わせをしてみたいという興味や好奇心だけが屯していた。

 よもや、優勝候補筆頭だなんて謳われている人にそんなことを言われるだなんて、全く思いもしなかった。

 化けの皮を剥いでやるだなんて言われたものだから、なんて意地悪を言うんだ! とそれなりにショックだったのだけれど。

 しかしその言葉の裏側にあったのは、謂うなれば『仮面さん! 一緒にあーそーぼ!』というゲームへのお誘いに他ならないわけで。

 それを無下にするだなんて、一ゲーマーとして出来ようはずもない。

 あと、しおらしいリリの破壊力もズルい。ギャップに弱いんだよ私は。

 ぐっと拳を作り、静かに覚悟を決める。ネガティブな考え方を前向きにシフトする。

 クラウではないが、自分より格上の相手と戦えば、良い経験になるのは間違いないんだ。それはきっと、この先の旅路の糧となるだろう。

 それを思えば、シジマさんやリリと戦える機会だなんていうのは、本来望んでもそうそう得られるようなものではない。そもそも私はバトルジャンキーではないからね。望むことさえないだろう。

 ならば、これは間違いなく貴重な機会。逃す手はない、か。


「分かったよ。リリ、私……頑張ってみる。明日シジマさんボコす!」

「! ふ、ふん、始めから素直にそう言えばいいのよ! いい? 絶対勝ち上がりなさいよね!」

「そんなこと言って、リリのほうが初戦敗退とかやめてよ?」

「ふっざけんじゃないわよ! いいわ、私の力見せてあげる。この後の試合、刮目して観てなさいよ!」


 リリの試合は、次の試合を挟んだその後。ということは、そろそろスタッフさんが呼びに来そうなものだが。

 なんて考えたのも束の間。タイミングよくスタッフのお兄さんが現れ、リリに声を掛けた。控室へのお迎えである。

 リリは鼻息も荒く立ち上がると、絶対見逃すんじゃないわよと釘を刺しながら、お兄さんに続いて去っていった。

 私はそんな彼女を見送って、ようやっと一つため息をつく。そして、一回戦突破の感慨を、静かに噛み締めたのだった。

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