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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二六四話 思いがけぬ成長

 闘技大会総合部門、第一回戦夜の部がいよいよ開始された。

 医務室から出た私とリリは、共に選手用の観戦窓からステージの様子を窺っていた。

 観戦窓は魔道具により偽装が施されていて、ステージや客席側からは他と変わらぬただの壁に見えるものの、こちら側からはステージを眺めることの出来る窓となっている。所謂マジックミラーのようなものだ。

 一応モニターの設置されている待合室のような場所もあり、そちらにはくつろげるソファなどが完備されているため、敢えて直接ステージは見ず、そっちで過ごしている人もいるようである。

 そんなこんなで、夜の部一戦目が私たちの前で繰り広げられたわけだけれど。

 やはりレベルが高い。武術部門とも魔術部門とも違うトリッキーな立ち回りも見どころで、非常に個性的な試合が展開されるのだ。

 それこそが総合部門が最も注目される所以であり、実際観ていて面白い試合だった。立ち回りの勉強にもなるし、改めて録画を観るのが今から楽しみなほどである。


 一戦目が終わり、リリと一頻り今の試合について感想を言い合っていると。

 不意にこの観戦スペースをスタッフさんが訪れ、声を上げた。


「仮面さん選手、いらっしゃいますかー?」

「? はいはい、ここにいますよー」

「ああ、こちらにおいででしたか。ご出場の試合が迫っておりますので、控室にて待機をお願いします」

「おお、控室ですか。分かりました、行きます。ってことだからリリ」

「はいはい、ここで見てるから精々頑張ってきなさい」

「うん!」

「では、ご案内します」


 そうして、スタッフのお姉さんに先導されて控室へと向かう。

 心眼で見るに、お姉さんもなかなかお疲れのようだ。


「ひょっとして、いちいち選手を捜して控室に案内してるんですか?」

「ええ。以前は音声放送でのご案内を試みたこともあるようなんですけど、中には道に迷ってしまわれる方もいらっしゃったみたいで」

「ああ……迷いそうな人に、一人心当たりがあります」

「あはは……そういうわけでして、こうしてご案内させていただいているわけです」

「そっか。大変なんですね……お疲れさまです」

「! ありがとうございます。今大会で、そのようにおっしゃっていただけたのは初めてですよ」


 そう言ってお姉さんは、嬉しそうにはにかんだ。

 スタッフさんあっての大会だもんね。こんな言葉一つで喜んでくれるのなら、お安い御用である。少しでも労う事が出来たのなら私も嬉しい。

 そんなやり取りをしている間に、あれよあれよと控室に到着。

 お姉さんにお礼を言って分かれると、早速控室の扉を潜る。時間になったらまた呼びに来てくれるとかで、それまではここで待ちぼうけである。

 室内には小さいながらも例によって質のイマイチな中継モニターが設置されており、試合の様子を見ることが出来る。

 でも、この後自分の出番なのかと思うと、それを観ているだけの余裕がなかった。

 すごく今更な話ではあるのだけれど、予選の時と違って次の試合では私と対戦相手にだけ、観客すべての視線が注がれるわけだ。

 しかも試合を撮っているカメラの向こうにも、視聴という形で観戦している人がわんさかいるのを、私はよく知っている。何せレッカと一緒に丸一日巨大なモニター前で過ごしたりもしたわけだしね。

 つまるところ私が想像しているよりもなお、大勢の人が試合に注目しているわけだ。

 それを思えば、ステージ上で下手なことは出来ない。

 今のうちに縛りの再確認を繰り返し行う。

 うう、落ち着かないな。怖いなー、嫌だなー。


 そんな時だ。ふと脳裏に、私を応援して送り出してくれたみんなの顔が、声が過ぎっていく。

 それを思えば、何だかちょっと頑張れる気がしてきた。相変わらず怖いって気持ちはあるんだけどね。その上で、踏ん張れる気がしたんだ。

 とそこへ。


『ミコト、今大丈夫か? 分かるぞ、一人ぼっちで不安な頃だよな』

『マップを見たら、もう控室にいるみたいだから通話を繋いでみた』

『ミコト様! ココロがついていますからね! 心配はいりませんよ!』

『先程までどなたかと一緒におられたみたいですけど、ボロは出していませんか? っていうか浮気ですか?』

「! みんな!」


 とりあえず浮気とかではないです。

 どうやら私の動きはマップを介して観客席にいる仲間たちに筒抜けだったようで、気を使って控室に入り一人になるのを待ってくれていたようだ。

 と、私たちが通話を始めたのが分かったのだろう。あの人の声も聞こえてきた。


『そろそろミコトちゃんの出番か! こっちもみんなで見守っているからな!』

「イクシスさん!」

『っていうか通話って便利すぎだろ、ミコトちゃんと関わると距離の感覚が崩壊しそうで怖いな』


 なんて今更なことを言い出すイクシスさんに皆で苦笑を返しながら、私は改めて皆に礼を言った。


「ありがと、みんな。ちょうど急に緊張し始めて、ヤバいところだったんだ」

『そうなんだよな。控室に入ると、急に現実味が顔を出すというか何というか』

「そうそう。試合を観てる時はなんだか、自分とは関係のない別世界のことみたいに思ってたんだけど、いざここまで来ると急に、ね」

『む。経験者にしかわからないトーク……』

『ところでミコト様、ソフィアさんではないですが、先程までどなたとご一緒されていたんです?』

『私というものがありながら!』

「ああはいはい。ええと、リリ……リリエ……? なんか、そんな名前の人。噛みそうだったからリリって呼んでたんだけど。聖女さんと同じPTなんだって」


 瞬間、しんと皆が黙った。

 あ、またいつものやつだ。私だけ知らない有名人のやつ。


『百剣千魔のリリエリリエラ。ミコトさん、その方優勝候補筆頭ですよ?』

「え」

『自在な剣技と多彩で強力な魔法を駆使し、数多の敵を屠る特級冒険者だな。無論、超越者だ』

『大丈夫ですミコト様。ミコト様が本気を出されたなら、きっとどうということはありません!』

『でも、ミコトには制限がある。仮面さんじゃ全力どころか、両手両足を縛ったも同然で戦わなくちゃならない』

『いやー、レベルの高い大会だなぁ。というかそうなると、勝ち負け云々よりミコトちゃんの安否が心配だな。もしもの時は迷わず縛りを解いて、自分の身を守るんだぞ!』

「おっふ、まじか……っていうか先ず、一回戦を勝ち上がれるかすら分からないんだけどね」


 順調に勝ち上がれたとして、リリと当たるのは三回戦目となるはず。奇しくもクラウと同じく、三回戦目で優勝候補筆頭とぶつかるっていう、変な構図になってしまった。

 まぁ、優勝を目指していたってわけでもないから、いいと言えばいいのだけれど。

 しかしイクシスさんの言うとおり、こうなるといよいよ身の安全を考えないといけないか。

 ぶっ飛ばされて、うっかり後頭部を強打してポックリ逝く……なんて洒落にもならないし。それが起こらないとも限らない。

 ちょっとやそっとの大怪我(四肢欠損レベル)なら、多分聖女さんがあっさり治してくれるのだろうけれど、それはそれでそんな痛そうなのはゴメンである。

 そうしたおっかない話を聞いてしまっては、いよいよ観客の目を気にして身を強張らせている場合ではないという気がしてきた。

 それが幸いしてか、同じ緊張でも強敵と命がけの戦いをする直前のような、あの『一歩間違えれば命を落とす』っていう緊張感に質がすり替わったように思う。というか、そっちが上回ったと言うべきか。


 そんな具合に、ダラダラと通話で話し合っていると、あっという間に時間は経過し。

 不意にコンコンコンと控室の扉がノックされ、お姉さんの呼声が聞こえてきた。


「仮面さん選手、そろそろお時間です」

「あ、はーい」


 私は最後に、気持ち小声で皆にお礼を言って通話を切ると、此処から先は冒険の時とおんなじ。下手を打てば大怪我ないし、最悪死亡する可能性があることを肝に銘じて、緊張と恐れを胸に、腰掛けていたベンチを立ったのである。



 ★



 スタッフのお姉さんに先導され、選手入場口までやって来た私。

 入場のタイミングにも決まりがあるようで、入場口すぐ手前で待機していると、いよいよ実況の人が高らかに私の、仮面さんの名を呼んだ。

 スタッフさんのゴーサインが出て、私はおっかなびっくりいよいよ入場口を潜る。

 するとどうだ。眩いほどの照明がステージを照らしており、とんでもない数の注目が私に集まっていることを心眼が感知。

 観客側にいた時とも、予選の時とも比にならぬほどの圧倒的な思念の波に、一瞬頭が破裂するかと思ったほどだ。

 が、驚くべきことに強烈な頭痛を伴ったそれは、ほんの刹那のことだった。

 もしかして許容量を超える心眼の酷使に、何かしらの不具合が生じたんじゃないかと。一瞬本気で心配になったのだけれど、どうやらそうではないらしい。

 試しに適当に目についた観客の一人に意識を向けてみると。


『仮面さんか、知らない選手だな。一体どんな戦いを見せてくれるんだ?』


 明確な声が、聞こえたのである。変わりに、他の人の心はまるで読めない。

 これは拙いと思った。心眼がどうやら、いよいよレベルアップしたらしい。

 意識を集中することで、相手の心の声がちゃんと聞こえるようになってしまったのだ。これまで感じられたのは、周囲に存在する者が懐く何となくの感情だったり、何を意識しているかという程度の、結構漠然としたものだったのだけれど。

 多くの関心を一気に集めてしまったことが切っ掛けで、心眼は次の段階へと成長を果たしたようだ。

 心の声が聞こえるとか、いよいよ便利を通り過ぎて不便な能力になってしまった。しかも試合直前の今っていうのがまた動揺を誘ってくる。


 頭痛の際一瞬よろめいてしまいはしたが、しかし不戦敗なんて落ちはゴメンなので、私は努めて何でもないようにステージへ向けて歩き出した。

 心の声が聞こえるというのは、プライバシーの侵害だとか、色々問題のある能力なのだけれど、とは言え悪いことばかりではない。

 これまで以上に相手の動きを読むことに長けるだろうし、戦闘以外にも用途の幅は計り知れないだろう。

 けれどもしかして、その代わりこれまでのような使い方は出来なくなったのだろうか、という疑問が一瞬頭を過り、その回答だとばかりにほんの一瞬また、先程襲われた思念の波に圧殺されかけた私。今度はどうにかふらつかず耐えた。

 波は一瞬で引いたけれど、どうやら以前のように広く浅い読心というのも相変わらず可能なようで、安心とも感心ともつかぬ感想を覚えたのだった。

 今ぱっと把握した限り、使い方が増えた、と捉えるのが正しいように思える。

 今まで通り、周囲の思念を読む広く浅い使い方。対象を一つに絞ることで、相手の考えをハッキリ読み取る狭く深い使い方。

 そして更に、そのいずれもを遮断する能力の一時停止も、今試してみて可能であることが判明した。ようやっと能力のオンオフが切替可能になったようだ。


 総じて確かに驚くべき変化ではあったけれど、しかし前向きに考えるのであれば、今まで以上に試合に集中することも可能だろう。

 余計な観客たちの思念をシャットアウトしたり、特定の人物の心を集中的に読めるというのは、控えめに言ってもとんでもない能力である。とんでもなさすぎて、使用が躊躇われるのが問題といえば問題だが。

 また縛りの面に於いても、きちんと心眼をオフに出来るというのであれば、うっかり相手の考えを読んでしまう恐れもない。戦略的、戦術的な先読みに徹することが出来るというものだ。

 でも、うーん。つい今しがたまで心眼に馴染んだ立ち回りをしてきたものだから、もしかすると感覚のズレとか、そういうものが生じてしまっているかも。その点は懸念要素だ。

 かと言って『広く浅い』をオンにしてしまうと、頭がパーンしそうになるし。ちょっと困ったぞ。

 最悪、『狭く深い』を実戦で実験することになるかも。まぁ、その時はその時だ。臨機応変にやるしか無い。


 ステージへ向かいながらそのように考えをまとめると、いよいよ何の石材で出来ているのかもよく知れないステージ上へ上る私。

 予選開始時とは全然違った緊張感に、身が竦みそうになる。

 マップを頼りに仲間たちの姿を見つけ、そちらをちらりと窺えば、必死に声援を送ってくれている彼女たちの姿を見つけることが出来た。

 頑張れる気がした。やっぱり応援の力って偉大なんだな。クラウももしかすると、こんな気持ちだったのかも知れない。


「ふぅ……よし、大丈夫。行ける」


 自分にそう言い聞かせて、正面を睨んだ。

 続いて実況の人に名を叫ばれ、姿を表したのは……僧侶の男だった。

 ただし、滅茶苦茶チャラそうなやつだ。スキンヘッドにサングラス。着崩した神官服に、ジャラジャラとアクセサリーを着けまくっている。多分装備枠を全部使ってるんだろう。それと肌は日焼けなのか元からなのか、日サロで焼いたような色をしている。

 得物はどうやら長杖のようだけれど、多分魔法だけじゃなく、棒術の類いにも用いるんだろう。だって総合部門だし。振り回しやすそうな、均整の取れたフォルムをしてるし。

 名前はブンチャカと言うらしい。名前からしてチャラいもん……総じて、私の苦手なタイプである。


「トーナメントガチャ、爆死したかも……」


 一抹の不安を感じながら、私は静かに試合開始の合図を待つのだった。

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