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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二六一話 寄り道

 武闘都市、或いは闘技の都と呼ばれるこのバトリオにて年に一度開かれる闘技祭。

 その最注目イベントが、私の今日出場する闘技大会総合部門、その本戦であった。

 他の二部門も勿論注目度は高いのだが、やはり武術と魔術がいっぺんに楽しめる総合部門こそが、舞台の花形であるという見方をする人は多いようで。

 参加資格は、スキルアーツとマジックアーツのどちらも扱えること。ただし、極端にどちらかに偏っていても問題はない。

 すごい試合を見せてくれるならそれでいいという、割とラフな受け皿であった。

 そんなわけなので、他二部門に比べて挑戦者も多く、本戦に進める人数というのもまた多めに設定されている。

 そしてこれまた他の部門と違い、総合部門だけは三日掛けて全試合が消化されるプログラムとなっているそうだ。


 今朝はモチャコたちから心強い応援で送り出されてきたし、レッカやイクシス邸の使用人さんたちからも沢山激励をもらった。

 現在は会場へ向かっている途中だけれど、気遣って皆が声を掛けてくれる。


「ミコト、緊張してる?」

「ココロ、いっぱい応援しますからね!」

「気持ちはよく分かるぞミコト。心細くなったら何時でも通話を繋げてくれ」

「ミコトさん、控室でボロを出さないよう注意してくださいね。猛者の集まる空間になるでしょうから、下手をすると怪しまれますよ」


 と言った具合に。

 流石にこれだけ応援や励ましを受ければ、緊張も薄れようというものだ。

 それに縛りを設けて挑むということも幸いし、こう言っては何だが全身全霊を懸けて臨む選手なんかに比べたら、まだ気が軽いものである。

 わざと負けようとまでは思わないものの、ここまでの大会を見てきて理解しているのだ。実力を隠したまま勝ち上がれるような、甘い大会ではないと。

 諦念と言うほどのことではないのだけれど、今の心境としてはともかく『やれるだけのことをやってみよう』というチャレンジ精神が全てと言っていい。

 勿論、諸々のヘンテコスキルに関してはしっかりバレぬよう立ち回るのだが。そのために考えてきた縛りだからね。


「お。総合部門のトーナメント表がモニターに映ってるな」


 とここで、クラウが観戦用の街頭モニターを見てそれに気づいた。

 先日実際本戦に出場したクラウ曰く、どうやら自身の試合時間より早く会場に着きすぎても、ただただ暇なのだという。

 大会プログラムはざっと、午前の部・お昼の部・夕方の部・夜の部、という四つに分かれており、それぞれの間に休憩時間が設けられている。

 また、各部限定の観戦チケットも販売されており、休憩時間中に多くの観客が入れ替わるようになっている。

 と言うか、丸一日ぶっ通しで観戦できるチケットというのは本来、とんでもなく高価なのだとか。

 それを闘技大会全日程分、しかも私たちメンバー分だけ確保してしまうイクシスさんは、流石としか言いようがない。


 実のところ、トーナメント表は当日早朝に発表されるため、それを確認するまでは自分がどの部に出場するか分からないというネックが存在した。

 とは言え普通の出場者たちは、皆ほぼ例外なくこの街で宿を取っているため、自身が出場する試合の時間帯というのは中継映像でプログラムの進み具合を見れば概ね予想がつく。

 それに遅刻すれば問答無用の不戦敗であるからして、本戦に姿を表さない選手というのは滅多にいないそうだ。


「見た感じ、ミコトの試合は結構後の方」

「今日の夜の部か、ひょっとすると明日になるかも知れませんね」

「明日かぁ。だとしたら、送り出してくれたみんなに合わせる顔がないなぁ……」

「しかしそれでは、かなり時間が浮くことになるのだな。拠点で皆と観戦してくるか?」

「特訓をするのなら、私がお付き合いしますよ!」

「え。ソフィアさんは試合見なくていいの?」

「試合より、ミコトさんの例の技術のほうが余程ヤバいので」


 鼻息も荒くそのように言い切るソフィアさん。

 確かに難しい技術ではあるのだけれど、試合観戦に優るほど面白いことかと言えば、どうなんだろう。

 まぁ、ソフィアさんは特殊な人だからね。彼女にとってはそうなのかも知れない。

 それはさておき、私は自身でもトーナメント表を確認してみる。

 確かに私の試合は随分後の方みたいで、今日行われるかも微妙なところだ。少なくとも夕方までは暇と考えても良いと思う。

 そうなると、クラウの言うように拠点でみんなとワイワイ観戦するのも楽しいだろう。

 けれど、私と言ったら訓練。訓練と言ったら私、みたいな所あるしね。実際時間があるのなら少しでも訓練の続きを行いたいという気持ちはあったのだ。

 とは言え、ソフィアさんを巻き込むのは心苦しい。


「そうだね、じゃぁ私は拠点で訓練の続きをしているよ」

「そうですか。では私も……」

「いやいや、せっかく用意してもらった席が勿体ないからさ、ソフィアさんは観戦しててよ。技能鏡で覗くの楽しみにしてたんでしょ?」

「う。そう……ですね。わかりました、ではそうさせていただきます」


 ソフィアさんには【技能鏡】という、特殊なスキルがある。指で作った輪っかを通して人やモンスターなんかを覗くと、対象の持つスキルを看破することが出来るという、スキル大好きな彼女にとって鬼に金棒的なそれである。

 今大会中も、試合の度に客席から技能鏡を通してウキウキで観戦を決め込んでいた彼女。

 それを引き合いに出されてはかなわないと、大人しく試合観戦を優先することにしたソフィアさん。

 それならば自分がと、他の面々が協力を申し出てくれるものの、せっかくの席を空にするのはやはり勿体ない。

 ということで有り難いながらもそれらの申し出は遠慮し、私は一人イクシス邸の訓練場へワープで飛ぶことに。

 会場へ向かう皆とはぐれ、一人人目のない場所から訓練場へ直接転移したのだった。



 ★



 斯くして時刻は夕方。

 お腹が減っては何とやら。根を詰めすぎて、試合で実力を発揮できないというのは本末転倒でもあるため、訓練は少し早めに切り上げて、イクシス邸で程よく腹ごしらえをした。

 すっかりシアタールームと化した一室を覗き見れば、沢山の使用人さんたちに交ざってレッカが食い入るように試合の中継映像を観ているところだった。

 ステージ上で行われる、武術と魔術を巧みに駆使した息をもつかせぬ攻防に、遠目ながら私も思わず息を呑んだ。レ、レベル高いなぁ。

 この後私もあれと同じ舞台に立って戦うのかと思うと、早くも帰りたい気持ちでいっぱいだ。まぁ、その帰る場所の一つがここなんですけどね。


 選手の繰り出す見事な技の数々に、観戦しているみんなは現地の観客さながらの反応を示してみせる。その熱量たるや、決して本場のそれにも見劣りするものではなかった。

 うん。とても楽しんでくれているようで何よりである。

 それにしても、部屋の後ろの方には軽食やお菓子、飲み物等がどっさりと用意されており、もしかすると現地の観客より余程良い環境で試合を楽しんでいるのかも知れない。

 そうこうしている間にどうやら試合の決着がついたらしく、途端にどっと盛り上がる使用人一同。

 そんな様子を、部屋の入り口からこそっと眺めていた私の背後から、不意に声がした。


「ぐぬぬー、私を差し置いて随分盛り上がっているようじゃないか」

「あ、イクシスさん」

「! え、なんでミコトちゃんがいるんだ? まさかもう試合が終わって……」

「ああいや、違うよ。実は――」


 今日も仕事で忙しかったイクシスさんは、使用人さんたちがワイワイと楽しそうに試合観戦を行っている最中も、せっせと自室に籠もって実務を行っていたらしい。

 それがようやっと一段落ついたので、急いでシアタールームを訪れたところ、どういうわけか大会に出場するはずの私がいることに驚き、よもや私の試合を見逃してしまったのではないかと顔を青くする。

 が、慌てて私が経緯を説明したところ、ほっと胸をなでおろした。


「そうだったか。では、会場へはこれから向かうのかい?」

「うん。通話でみんなとも話したんだけど、試合の進行具合から考えても、私の出番は夜の部になるはずだよ」

「ふぅ、それを聞いて安心した。どうやら見逃さずに済みそうだな。ミコトちゃん、しっかリ応援しているからな! あと、万が一うっかり何かやらかしても、どうにか私がもみ消してやるからな! 遠慮せず戦ってくると良いぞ!」

「お、おぉぅ……ありがと。うん、頑張ってくるよ!」


 下手にやらかすと、それはイクシスさんに迷惑を掛けちゃうってことじゃないか。

 けれどその心意気は、素直に嬉しかった。

 なんて話していたせいで、使用人さんたちやレッカに見つかった私は、一頻り激励の言葉を受け、やる気に灯った火の暖かさを感じながら、改めて会場へ向けて移動したのだった。



 ★



 空の色もオレンジめいた時間帯。

 人目につかぬ路地の奥に転移した私は、会場へ向かうべく早速移動を開始した。

 するとである。マップにふと、ぽつんと一つだけある人の反応を捉えた。

 距離は私のいる場より然程遠くはなく、しかし気になるのは、それが他に人の気配もない奥まった路地の狭い道をフラフラしていることにある。

 マップから見た限りでは、それが一体どういう人物かなんて分からないし、ともすればこんな人目のない場所にぽつんと居る人がまともな者であるはずもない。

 とは言え、ならば一体たった一人で何をしているというのか。

 もしや、このお祭りに乗じてテロでもやらかそうという危険人物だろうか。だとしたら、それを見過ごすわけには行かないだろう。

 が、そうと決まったわけでもない。何かの理由があって偶然、一人でフラフラ複雑な路地を彷徨っているだけかも。例えばそう、迷子とか。

 迷子なら迷子で、見過ごすわけにも行くまい。

 何にせよ様子見がてら、私はひっそりこっそり気配を殺しながら、その反応へと近づいて行ったのだった。


 結果。


「……なんか、どこかで見た覚えのある人だな……誰だったっけ?」


 物陰からこっそり、マップにあった件の人物を確かめてみたところ、そこには意外なことに可憐な一人の美少女がいたのである。

 装いは恐らく冒険者のそれで、軽鎧を纏っているようだ。腕には籠手、足には形の良い足具が装着されており、腰には細剣と思しき得物を携えている。

 そして何より目を引くのが、その長い金髪ツインテール……うーん、どこかで見た覚えが。

 ……あ、そうだそうだ!

 何時だったか、確か会場の方で見た人だ。周りの人から警戒されてた、注目選手の一人だと思うんだけど。

 そう言えば今まで彼女が戦ってる試合を見たことがないな。

 だとするともしかして、予選で落ちた? もしくは総合部門に出る予定の人?

 うーん。私が言えた義理じゃないけど、そんな人がなんでこんな場所に?


 謎である。気になる。でも、変に首を突っ込むのはなぁ。

 いやでも……心眼で見た感じ、あの人メチャクチャ不安そうにしてるんだよね。困ってる様子だし。

 一応、声掛けてみようかな。


 私は意を決し、何気ない風を装って物陰から歩み出た。

 そして偶然彼女のことを見かけた感じで、首を傾げ、いざ声を掛ける。


「おやめずらしー、こんなところで若いむすめさんを見かけるなんてー」

「……は……? な、なによあんた……」


 まぁ、そうなるよね。

 メチャクチャ警戒されました。

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