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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二五九話 変な語尾の後輩お姉さん

 武術部門にて、サラステラさんが優勝するシーンまでしっかり見届けた後、長時間の観戦疲れを引きずりながらようやっと家路につこうという私たち。

 それをどういうわけか追いかけてきた、大会優勝者のサラステラさん。

 結局、人目につかぬ暗がりに集合した私たちに、まんまと追いついてしまった彼女。

 もしかすると彼女目的に、熱烈なファンなんかが追いかけてくる可能性もある。実際マップをちらりと確認すれば、明らかに何かを探し回っていると思しき、不審な動きをする人の反応を複数見て取れた。


「イクシスさん、どうします?」

「はぁ……已むを得ないな。連れて行くとしよう」

「でも、抵抗されたら失敗しますよ?」

「サラ。今からちょっとスキル行使が行われるから、抵抗せず受け入れろ」

「ぱわぁ!」

「やってくれミコトちゃん」

「あれ、返事なんだ……じゃ、いきます」


 斯くして、急遽サラステラさんまで巻き込んだワープは無事に成功し、次の瞬間には例によってイクシス邸の転移部屋への瞬間移動が完了していたのだった。


「ぷわぁ!? な、なにごと!? ここはどこパワ!?」

「私の家だよ。そう言えばサラはしばらくぶりだったな」


 なんてお約束のやり取りをしているけれど。

 それを尻目に私達はと言えば、正直おっかなびっくりである。

 何せつい先程、とんでもない試合を見せつけられたばかりであるし、にもかかわらず彼女はピンピンしてるし。

 怪我は医務室で聖女さんがぱぱっと治せるとしても、全く疲れた様子がないというのが驚きである。パワーどころかスタミナまでも常識離れしているようだ。

 そんな彼女も、どうやらワープには素直に驚いたようで。イクシスさんの説明があっても尚、首を傾げている。

 しかしそんなことよりも、だ。

 問題なのは、彼女が何故私たちを追いかけてきたのかという話である。

 その点について、早速イクシスさんが問いただした。


「それでサラ、どうして私たちを追ってきた? なにか用事でもあったか?」

「そ、そりゃないパワーよ先輩! 後で顔を貸せって言ったのは先輩パワー!」

「ああ、そうか。わざわざお仕置きされに来てくれたってことか。殊勝なことだな、感心感心」

「ひえっ、ク、クラウ……」


 三回戦でクラウ扮するマスクちゃんを、何度もぶっ飛ばしてボロボロにした挙げ句、最後の激突でコテンパンにのしてしまったサラステラさん。

 あれはまぁ、ちゃんとした公式試合であり正々堂々たる勝負だったので、別にサラステラさんが何か悪事を働いたということではないのだけれど。

 それでも、愛娘をボコられたイクシスさんは怒り心頭なようで。しかもそれが知った仲の相手によるものだというのだから、尚の事ただでは済ます気がないようだ。

 これが接点のない赤の他人だったなら、まだ公平な勝負を第三者目線で冷静に見れたかも知れないが、なまじ関係者であるがゆえ、抑えが効かないのかも知れない。


 部屋の隅っこでプルプルしながら、クラウに助けを求めるサラステラさん。

 対してクラウはと言えば、大人な対応を見せた。


「母上。私のことで怒ってくれるのは嬉しいが、あれは誰の目から見ても公平な勝負だった。それに私自身、良い経験を得ることも出来たのだし、サラステラおば様に辛く当たるのはよしてくれないか?」

「うぐ……まぁ、クラウがそう言うのなら……」


 なんて騒がしくしていると、それを聞きつけたのか呼び鈴を鳴らしたわけでもないのに部屋の扉がノックされ、執事さんの声が問いかけてきた。


「ミコト様、お戻りでしょうか?」

「ああ、はい。みんな一緒ですよー」


 本来なら屋敷の主人であるイクシスさんに問うべきところだろうけれど、如何せんワープで皆を運んでいるのは私であるため、人の気配がしたというのなら間違いなくその場にいるのは私ということになる。

 故にこそ、手堅く先ず私へ問いを投げたのだろう。

 皆を連れて帰ってきたと返事をすれば、早速扉の向こうから執事さんや、その後ろにメイド長さんなんかも控えていた。お出迎えである。

 これには、苦い顔をしていたイクシスさんも気を取り直し、執事さんのお帰りなさいませという声に、ただいまを返した。

 と、そこでイクシスさんが気づいた。


「ん? じいや、普段より幾分表情が朗らかに見えるが、何かあったか?」

「おや、顔に出ていましたか。いえなに、皆との観戦が思いの外楽しゅうございましてな。年甲斐もなく一緒になってはしゃいでしまいました。レッカ様も大層お楽しみでしたよ」

「おお、そうか! 皆の良い娯楽になったのなら、用意してもらっ……じゃない。用意した甲斐があるというものだ!」


 そう言ってこちらにちらりと目配せしてくるイクシスさん。当初の予定とは少し違ってしまったけれど、みんなに楽しんでもらえたのなら却って良かったのだろう。

 何よりレッカが退屈せずにいてくれたなら、友人として嬉しい。


 執事さんの登場を機に、イクシスさんの怒りムードも収まったのか、気を取り直して皆で転移室を後にした。

 サラステラさんは外の様子や、執事さんを始めとした使用人さんを見て、いよいよ本当にイクシス邸にやって来たのだと実感を得たのか、一人目を丸くしてキョドっている。

 オルカたちその他のメンバーは、拠点に戻ってきたということでようやっと肩の力を抜き、脱力ムードで変装を解除しながら廊下を進んだ。

 そう言えば転移室は当初、オルカたちにあてがわれている部屋の向かいに当たる一室をそれとして使わせてもらっていたのだけれど、今日のように大人数で転移する場合も結構あるということで、現在は別途広めの部屋をあてがわれている。

 そのためオルカたちの部屋までは少し離れており、結局一旦はみんなで食堂に集まり、サラステラさんへの事情説明等を行うこととなったのである。


 その道中、廊下でレッカと遭遇した。メチャクチャほくほく顔である。

 私たちの姿を認めるなり、嬉しそうにパタパタと駆け寄ってくる姿には、そこはかとない犬っぽさが感じられた。


「お帰りミコト! って、ほぁ!? も、もしかしてこの人、優勝したサラステラさん!?」

「相変わらずいいリアクションするなぁ」


 さながら、憧れの芸能人にでも会ったかのように目を輝かせるレッカと、そんなレッカの反応に気を良くしたサラステラさん。

 放っておくと、ファンとの交流をするチャンピオンという一幕が展開されそうだったので、それは食堂に移動してからにしてくれということでレッカも連れて場所を移した。

 大きなテーブルを皆で囲い、お茶をすすって人心地ついたなら、今日も今日とてお話の時間である。


 話を切り出したのは、イクシスさんだった。

 一先ず改めて、サラステラさんのことを紹介してくれるらしい。


「すっかり紹介が遅れてしまったが、彼女はサラステラ。邪竜殺しの英雄などと呼ばれているが、その実態は変な口癖のある脳筋お姉さんとでも思ってくれればいい」

「よろしくぱわぁ! 親しみを込めて『ステラお姉さん』って呼んでくれると嬉しいぱわぁ!」


 ということで、ここに来てようやっと皆が『この人があの有名な……!』みたいな目で彼女に熱い視線を投げ始めたわけだけれど。

 しかしながら私だけは殆ど彼女のことを知らないため、その空気に乗り遅れてしまう。

 とは言え、流石にこの中で『あなたはどういう人なんですか?』なんて聞くような真似は出来ないので、今は口を挟まず黙して話の流れを見守ることにする。

 と同時、これまでに交わされた皆の会話などから拾った情報で、サラステラさん……ステラお姉さんがどういう人なのかをざっくり整理しておく。


 名前はサラステラさん。女性。年齢は多分、イクシスさんに近いんじゃないかな。

 外見は薄灰色の髪と、日焼けした小麦色の肌。ジャージっぽい服。一言で言うと、体育会系の女子大生って感じかな。

 イクシスさんを先輩と呼んでいるけれど、これはどうやら以前同じPTで活動していた名残らしく。見たまんま体育会系のノリをしている彼女はどうやら、先輩と仰ぐイクシスさんに頭が上がらないようだ。

 でもこう、何というか……ものすごく懐いているワンちゃんを思わせる態度でイクシスさんに接していることから、単なる後輩意識ってだけではなく、普通に慕ってもいるのだろう。そういう意味では、レッカに近いノリを感じる。

 現在はPT活動こそご無沙汰になったものの、未だ現役でイクシスさん同様、指名依頼を受けてあっちこっち飛び回っているとか。

 たまにふらりとこのイクシス邸を訪れては、数日滞在してまたふらりとどこかへ旅立って行く、というようなことをしていたらしいのだけれど、クラウが家出をして以来その頻度も下がっていたそうだ。


 と、まぁ大まかにはそんな感じだろうか。

 なるほど、勇者の仲間……道理で強いわけだ。と言うか、そんなレジェンドが普通に大会に参加してるとかずるいよね……。

 でも今日の優勝で殿堂入りを果たし、実質出場権を失ったわけだけれど。

 もしかして他の部門にも、そんな破格の選手が出場していたりするのだろうか……?

 なんか、急に怖くなってきたんですけど。


 そんなこんなで一通りステラお姉さんを中心とした話題が終われば、次はそんな彼女が問いを発する番である。

 ビッと興味をたたえたその瞳が私に固定されると、率直な質問が投げかけられた。


「ところでさっきの転移、キミの仕業パワ? 一体どうやったパワ? お名前はミコトちゃん、でよかったパワ? 強いパワ? お手合わせするパワー?」

「あ、はい。ミコトで合ってますよ。お手合わせは勘弁してください」

「おば様、ミコトが困っているだろう。彼女は私の所属するPTのリーダーで、恩人なんだ。あまりウザ絡みしないでやってくれ」

「ウザ絡み……ぱわぁ……」


 流石うちの盾役。試合では負けたけれど、今回は見事ステラお姉さんの質問攻めから私を守ってくれた。

 分かりやすくしょぼくれたステラお姉さん。

 しかしまぁ、そう言えば彼女の紹介はあったけれど、私たちはまだ自己紹介を行うタイミングを逸したままだった。

 これみよがしに一通り名乗ることにする。


「ええと、遅ればせながら私たちもちゃんと名乗らせてください。縁あってこのお屋敷でご厄介になっている、冒険者PT鏡花水月のリーダー、ミコトです」

「同じく、鏡花水月所属、オルカ」

「ココロです。お見知りおき頂けると光栄です!」

「ソフィアです。三度のご飯よりスキルが好きです」

「そして私、クラウを加えた五人がうちのメンバーということになる」

「おおおー、あのクラウがPTを組んだぱわぁ……感慨深いぱわぁねぇ……」


 幼い日のクラウをよく知っているステラお姉さんは、さながら親戚の子の成長を目の当たりにしたように、ほっこりと私たちの名乗りを聞いていた。

 しかしふと、気になったことがあったのか首を傾げてみせる。

 そして問うてきたのだ。


「あれ、クラウがリーダーじゃないパワ?」


 そう。ステラお姉さんは幼い頃の、勇者になることを強く夢見ていたクラウをよく知っている。

 だからこそ彼女の中では、クラウがリーダーではなく一メンバーに甘んじていることが不思議に思えたのだろう。

 そしてこのリーダー問題に関しては、私も未だに心底納得しているわけではない。

 だって私、冒険者になってまだ一年未満のペーペーだし。他の人に譲ろうって何度考えたかも分からないほどだ。

 なのでステラお姉さんの素朴な疑問は、見事に私へ突き刺さった。


「うぐぅ、ですよね。ステラお姉さんもそう思いますよね」

「ミコト。まだそんなこと言ってるの?」

「です。ココロはミコト様だからついていくんです!」

「ミコトさんこそが、このPTの象徴ですからね」

「そういうことだ。と言うか、いい加減に観念するんだミコト」

「パワー……なるほど。どうやら野暮なことを訊いてしまったみたいぱわぁね。悪かったパワァ」


 そう言ってステラお姉さんは、苦笑でもってお茶を濁すのだった。

 それからは一応シトラスさんもお久しぶりの挨拶をステラお姉さんへ投げ、次いでレッカも名乗った。

 ワープのスキルに関する情報は、イクシスさんによって口止めがなされ、もし口外しようものなら……というイクシスさんの睨みに、ステラお姉さんはおろかレッカやシトラスさんまでも顔を青くする始末。

 とは言え、最近ちょっとワープについて知る人がちょこちょこ出てきてしまっている。もっと秘匿を徹底する必要があるのかも知れない。

 転ばぬ先の杖、である。警戒しすぎれば確かに身動きを取りづらくしてしまうかも知れないけれど、後で厄介な問題に発展してからでは取り返しがつかないこともある。

 精々石橋を叩いて進もうと、そう思った。


 そんなこんなでイクシス邸での夜は更けていく。

 今日も試合の振り返り上映を行うべきか、という話も出たのだけれど、話が弾んだせいで時間も結構遅くなってしまったことから断念。

 しかし中継観戦に関しては軒並み大好評のようで、使用人さんたちの表情は一様に明るかった。

 そのため明日以降も中継上映は続けようということに。

 それに伴いレッカは、大会終了までイクシス邸へ滞在する許可をちゃっかり得ていた。

 一人ステラお姉さんだけは何のことやらという顔をしていたが、彼女は武術部門優勝者として明日以降、会場に設けられた特別観覧席からの観戦が決まっている。それゆえ中継映像を目にすることはないだろう。


 やがて各々がそれぞれの自室へ引き上げ、私もおもちゃ屋さんへ戻り、今日もにぎやかな一日が幕を下ろしたのだった。

 明日からはド派手な魔術部門の本戦である。

 一体どんな魔法が飛び交うのか、ソフィアさんではないが今から楽しみで仕方がない。

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