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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二五四話 スタンバイ

 バトリオにワープで飛び、徒歩で会場へ向かう私たち。

 一回戦の昨日よりもなお、祭りに赴いている人たちの期待値は高いようで、まだ午前九時前だと言うのに早くも街の通りからして高い熱量が感じられた。

 今更な感想なのだけれど、こういう大勢の人というのは、心眼持ちにとってなかなかにしんどい環境だったりする。

 何せ全方位からこれでもかと言うほど人の感情が伝わってきて、しかもお祭りの空気に当てられているため、その振れ幅というのも平時に比べて大きいのだ。

 そういう意味でも、正直イクシス邸でじっとしていたかったとうっかりため息が出そうになる。

 が、こんなことで仲間に心配をかけたくはないため、気を張っておかねば。


 なんて一人、小さな覚悟を決めていると。

 不意に私の服の裾をクイクイと引っ張る者があった。

 ソフィアさんである。

 何事だろうかと顔をそちらに向ければ、彼女はそっと私にだけ聞こえるように言うのだ。


「ミコトさん、キツくなったら無理せず離脱してくださいね。レッカさんの様子を見に行くとでも言えば、誰も不審には思わないはずです」

「! ……ありがとう。これは良妻と認めざるを得ないね」

「ふふん、当然のことです」


 茶化したつもりだったのに、真に受けられてしまった。まぁいいけど。

 スキル大好きソフィアさんはどうやら、私のしんどさにも目ざとく気づいたらしく。しかも皆に心配をかけぬようにと言う私の意図を汲んで、そっと助言をくれた。有り難いことである。

 それだけ気配りが出来るのなら、普段からもっとそれを発揮してくれたら良いものを……。

 まぁそういうところも含めての、彼女らしさなのだろう。


 そんなこんなで人の流れに沿って歩いていると、やがて闘技場前へたどり着いた。

 すると変装したイクシスさんが、既に慣れた様子で皆にチケットを配り始めた。


「はい、それじゃぁこれが今日のチケットだ。入場時に必要だから失くさないようになー」


 何気に私は初めて手にする、試合の観戦チケット。

 予選日は選手として参加してたから、席は用意してもらえなかったし、昨日はコミコトとして入場したから私はそれを手にしていない。

 イクシスさんから映画の前売券みたいな長方形の紙片を受け取ると、私はそれをまじまじと見た。

 スタイリッシュなイラストの他、チケットの有効日時や指定の席番号といった情報が並べられられ、本当に前売り券さながらのデザインである。


 それからは、皆に倣う形で入場口の長い列に並び、自分の番が来たならチケットを提示。

 すると裏面にポンとスタンプが押され、晴れて入場が許された。列を滞らせぬよう、気持ち早足で会場内に入れば、前を歩いていたオルカの背中に続き、指定の席へ早速移動である。

 程なくして、問題なく自分の席を見つけた私たち。ちゃんと皆の席は観客席の一箇所に集中しており、しかもかなり前の方という好ポジション。

 流石、イクシスさんにお願いして取ってもらっただけのことはある。


「ここからならバッチリ見えそうだね」

「このメガネのおかげで、ますます良く見えちゃいますよ!」

「今日もカメラは任せて」

「皆さん、クッションをどうぞ」

「そんじゃ俺はつまめるものでも買ってくるかな」

「お、それなら私も付き合うぞ」


 みんな手慣れたもので、早速自分たちの席を居心地良く整え始めたではないか。

 オルカなんてちゃっちゃかビデオカメラを三脚にセットして、丁寧に具合を確かめている。今日は録画のほか、イクシス邸へ映像を送るという役目もあるため、気合が入っているようだ。

 なお余談だが、試合の撮影に関しての禁止事項等は設けられていない。むしろ、推奨する空気さえあるとか。

 というのも、そもカメラを個人で所有している人、というのがなかなかおらず、いたとしても裕福な人か権力者かという世界である。

 そんな人たちにとって闘技祭は、高級なカメラを活用する絶好の機会なのだ。

 それを禁止するということは、そういった人たちの機嫌を損ねるという意味を孕んでいるわけで。

 そうした事情から、カメラでの撮影は特に禁止されていないのだそうだ。

 まぁそうでなくとも、写真や映像でこの大会のことがより広い範囲に知れ渡れば、それだけより多くの人を呼び寄せたり、腕に覚えのある参加者を招くことにもなる。

 よって、カメラを持っているならどうぞ好きに撮影し、そして世界に広めてくれと。運営側はそういったスタンスらしい。


 とは言え、オルカの構えているものがまさかカメラだと気づく者は、きっとそうそう居やしないだろう。

 何せこの世界のカメラは大きいのだ。古いものだと持ち運びさえ不可能なレベルである。

 ましてビデオカメラともなると尚更だ。オルカが手にしているそれは、そんな常識を置き去りにしたハンディーカムである。

 一体誰がそれをカメラだなどと気づけるだろうか。寧ろ、武器のたぐいだと怪しまれないかが心配なほどであった。

 が、それを踏まえてのオルカである。彼女の隠形があれば、わざわざ絡んでくる者など居ようはずもない。

 正に私のカメラを託せる理想的なカメラマンだと言えるだろう。


 と、不意にそんなカメラマンオルカが私に問うてきた。

 どうやら既にテスト撮影を始めているらしいが。


「ミコト、これってちゃんと向こうに映像届いてるの?」

「あ。言われてみたら、その確認が出来なかったね。うーん……」


 一応レッカに通話を飛ばすことは出来るが、あまり何でもかんでも明かすべきではないだろう。何せシトラスさんにだって、まだまだ教えてない情報は結構あったりするからね。

 しかしだとすると、連絡が取れないわけだ。一応通信用の秘密道具くらいは作ってあるけど、こんなことならメイド長さんとか執事さんとか、その辺の上級スタッフさんに渡しておけばよかったと今更思い至る。


「そういうことなら、一旦私が様子を見てくるよ。レッカの様子も気になるしね」

「そう……わかった。それならカメラは回し続けてる。大丈夫そうなら通話で教えて」

「了解。じゃぁちょっと行ってくる」


 オルカにそう告げると、私は一旦その場を離脱。

 何せどこに行っても人がいるものだから、ワープする場所を選ぶのにも一苦労しつつ、しかしマップで良さそうな場所に目星をつけて無事転移に成功したのだった。



 ★



 イクシス邸転移部屋へ戻ってきた私。出かけてからまだ一時間にも満たない、気の早い一時帰還である。

 マップを一応見てみると、既に昨日こしらえられたシアタールームには使用人さんたちが詰めかけているのが見て取れた。勿論、その中にはレッカの反応もある。

 コミュ力の高い彼女のことだから、特に心配はないと思うけれど。果たして楽しくやってくれているだろうか。

 私は転移部屋を出るなり、未だ慣れない広い屋敷内を、マップ頼りに進みシアタールームを目指した。

 すると道すがら、メイドさんの一人とばったり出くわし、何時になくウキウキした様子に思わず私もほっこり。

 やっぱりこういう娯楽って需要があるんだなと、改めて認識させられた気分である。


 シアタールームは既にワイワイと、たくさんの使用人さんたちで賑わっており、レッカは早くもその中に馴染んでいる様子だった。流石の一言である。

 私の姿を見つけるなり、ソファに腰掛けたまま嬉しそうに手を振って迎えてくれた。

 そんな彼女に手を上げて応えつつ、早速投影映像の具合を確かめる。どうやら問題なくライブ上映が成立しているようで、一安心。

 今はワイワイと自分たちの客席で観戦準備を整える、イクシスさんたちの姿が映されていた。

 私はそれを部屋の隅っこで確かめながら、小声で通話先のオルカへ語りかける。


「オルカ、映像は問題なく来てるみたい。すごく盛況だよ」

『よかった。それなら、ちょっと遊んでみる』


 そう言うなり、映像に動きがあった。オルカがカメラを持ったまま、何やら行動を開始したらしい。

 それに伴い使用人さんたちやレッカから分かりやすいどよめきが起こった。何か始まるぞという、期待のこもった声だ。

 すると不意に、映像からオルカの声がする。私には通話とダブって聞こえ、タイムラグがないことに驚きを感じた。


『これから少し、会場内を練り歩いてみる。人目を避けるために、時々映像が乱れるかも知れない。酔わないように気をつけてほしい』


 そう前置いた彼女は、早速カメラ片手に席を立ち、闘技場内を歩き始めたようだ。

 カメラには何と、手ブレ補正機能まで付いており、驚くほどスムーズな移動映像が流れ始める。

 これには使用人さんたちも、大喜びである。何せこの世界にはテレビ放送ってものが存在していないため、こうした遠く離れた場所の景色を映像で楽しむ機会なんていうのは、本当に稀なことのようだ。

 私から見たら、特に何でも無いことのように思えることにもいちいち良いリアクションが聞こえ、何だかこちらまで楽しい気持ちになってくる。

 それにしても、沢山の人とすれ違っているにも関わらず、誰一人としてこっちを気にかけないことが何気に驚きだった。

 私が気配を殺している時なんかを彷彿とさせる光景だ。流石オルカの隠形である。

 散策映像は、人が混雑している場所なんかに当たると突然、視点が分けのわからないアングルに変わったりする。

 これどうやって撮影してるんだ!? って言いたくなるような、まるでドローンから撮った映像が如しである。

 多分、壁を歩いたり天上に張り付いたりと、ニンジャらしい動きで張り切っているのだろう。オルカの茶目っ気はしかし、こちらで映像を楽しんでいる観客たちには大ウケだった。

 皆しきりにすごいすごいと歓声を上げている。私は逐一彼ら彼女らの反応をオルカに知らせ、しかしあまり調子に乗り過ぎぬようにとも釘を刺しておいた。


 と、ここで遅れてやって来たメイド長さんが私の存在に気づいたらしく、声をかけてくれた。


「あらミコト様、戻っていらっしゃったのですね。何かお忘れ物でもありましたか?」

「ああいえ、映像に不備はないか確かめに来ただけですよ。それとレッカの様子も気になって」

「左様でしたか。レッカ様ならばご覧のとおり、既に使用人たちと打ち解けておいでです。とても順応力の高い方のようですね」


 感心するような彼女の視線の先には、皆に交じってワイワイとはしゃぐレッカの姿があった。

 この調子なら、特に心配するようなことは無さそうだ。


「それと、丁度いいので……ちょっとこっちに来てもらえます?」

「? 何でしょう?」


 メイド長さんを、一旦部屋の外に連れ出すと、私はストレージから小型の通信機を一つ取り出し、彼女に渡した。

 受け取った彼女は首を傾げ、まじまじとそれを確認する。


「あの、これは? もしや爆弾ですか?!」

「発想が物騒! 違いますよ、通信機です。私は会場の方に戻るんで、もし何かあったらそれで知らせてほしいんです」

「! ああ、そういうことでしたか。失礼しました、おかしな勘違いをしてしまって」

「いえ、突然用途の分からない謎アイテムを渡されたら、そう警戒しても仕方ないですよね。こちらこそ配慮が足りませんでした」


 私たちはヘコヘコと謝罪を交わすと、それから簡単に通信機の使用方法をレクチャー。

 また、通信機も一応普通の魔道具とは違う、所謂秘密道具に当たるため、極力内緒で使うようにとも言い含めておいた。

 その後試しがてら動作チェックも軽く行ったら、あとのことは彼女に任せて私は会場へ戻ることに。


「それじゃ、レッカのこと宜しくおねがいします。向こうではイクシスさんも側にいますから、何か急用があったら取次も出来ますからね」

「はい、承知いたしました」


 そんなこんなでメイド長さんに見送られながら、私は踵を返して転移部屋へ。

 マップの仕様上、サーチ範囲内にいる人の反応しか捉えられないため、通常はサーチ範囲外へのワープの際、現地に人がいるかどうかというのは分からない。

 そのため光学迷彩だとか気配遮断だとか、そういった工夫が大きな意味を持つわけだけれど。

 しかし今回は、現地に仲間たちが屯しているためそこを起点にマップのサーチが機能しており、会場内のどこに人がいて、どこなら人目を避けられるかが遠く離れたイクシス邸からでも確認できた。

 なので、それを参照に安全そうな場所へ転移。一応人目を逃れる隠密スキル・魔法セットも盛った状態でのワープである。


 斯くして私は無事人目につくことなく、会場に戻ることに成功したのだった。

 ど、どうも。カノエカノトです。

 えー、今回いただいた誤字報告についてなんですけど、良い機会なので一つカミングアウトさせてください。


 最近でこそ慣れてきましたけど、実は以前まで……

『オルカ』と『クラウ』の名前をちょいちょい取り違えて書き込むことがありました!

 響きが似ているからなのか何なのか分かりませんが、オルカと書きたいところにクラウ。クラウと書きたいところにオルカと書いてしまうっていう謎現象が度々ありまして。

 出来る限り投稿前の読み返しで修正しているんですけど、もしかすると見落としがあって、書き損じが残っている可能性を否定できません。

 今回ご報告いただいた誤字も、正にそれでした。


 ですので、もしも「あれ? これって間違ってね?」とお気づきの方がいらっしゃいましたら、誤字報告いただけますと、確認の上修正させていただきますゆえ、ご協力いただけると幸いでございます。はいー。

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