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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二五三話 闘技大会上映会

 昨日今日と、熱心に試合の模様はオルカを中心に、皆の手で撮影されており、特にクラウの出場した試合なんかはしっかりバッチリその戦いぶりが記録されていた。

 それを観るイクシスさんとシトラスさんは、当時さながらの盛り上がりで、映像の投影されている壁に向け声援を送る始末。

 大丈夫です。その声援は、しっかり当人に届いていますよ。

 なにせその当人の両サイドで大騒ぎしてるんだものね。クラウの迷惑そうな、それでいて恥ずかしそうな顔ったらない。

 そして私の隣にも、大はしゃぎしている娘が一人。レッカである。


「すごいすごーい! なに、なんで!? 壁の中でマスクちゃんが戦ってる!!」

「うんうん、そうだね。クラウは壁だね」

「なんかすごいパワーワードが聞こえた気がするんだが」


 そんな感じで、予選本戦と続けざまにクラウの試合が上映され、時間にして半刻あまりと言った程度にも関わらず、壁一面の大スクリーンに、とてつもなく鮮明な映像が流れたということで、実際の観客席からの観戦に準ずるほどの満足感をもたらしていた。

 また、みんなとこういう形で上映会をしてみて、ふと思う。せっかくの異世界超技術なんだから、次はVR映像なんかも再現できないかな、なんて。

 まぁそれはさておき。かくして上映会は、体感時間にしてほんの一瞬が如く過ぎ去ったのだった。

 私はプロジェクターを操作して映像を停止。

 はしゃぎ疲れた組は、些か放心状態である。特にレッカなんかは、あまりの衝撃に開いた口が塞がらないって言葉を体現している。

 そんなお開きムードの最中、ココロちゃんが不意にアンコールを要求してきた。


「ミコト様! ココロはミコト様の試合を再度拝見したいのですが、ダメでしょうか?」

「それはそう。大賛成!」

「異議なしです。それにレッカさんの姿も映っているはずですし」

「!! ほ、ほんとに!? それは観たい! 絶対観たい!!」

「えー、でも私ほとんど逃げ回ってたしなぁ」


 なんて抵抗も虚しく。皆の声に流される形で、私はせっせと私が出場した予選の映像を探し、セットしたのだった。

 程なくして映像が切り替わると、早速総合部門予選Bグループの試合映像が流れ始めた。

 映像はステージ全体を写すような引きで撮ってあるが、画質が良いため気になったシーンをズームアップして再生することが可能となっている。

 案の定、開幕早々見事な逃げっぷりを見せつける私の姿は、ともすれば不思議なほど存在感が薄く、客観的に気配を殺す術がこう活きているのかと感心を覚えてしまった。

 そして、何が楽しいのかそんな逃げ回る私へ声援を投げつけるみんな。クラウの気持ちが痛いほど理解できた瞬間である。


「あのさ、私のズームはもういいよ。レッカを観ようレッカを!」


 そう言って反論も受け付けずプロジェクターを操作し、レッカに追いかけズーム機能をロックオン。師匠たちが発案し導入した便利機能だ。今の私じゃ真似するだけで精一杯の高度な技術である。

 映像にはレッカの姿がでかでかと映し出され、きりりとした表情で、それでいて楽しげに剣を振るい有象無象を蹴散らしている。

 その姿に皆は自然と関心を示し、今のは良かっただとか、この点は注意が必要だとか、様々な意見が交わされた。

 それを熱心に聞くレッカは、視線は映像に釘付けであり、しかし耳は同業者からの貴重な意見を聞き逃すまいと忙しなさそうにしていた。


 そうしていよいよ私とレッカのバトルが始まる。

 ここからはレッカも口を挟み、あれが失敗だった、これはいけると思ったなど皆に交じって見解を述べた。

 そうこうしている間に試合は終わり、誰からともなくパチパチと拍手が起こったのだった。

 ふと見ると、レッカが目を真っ赤にして涙をぼろぼろ流しているではないか。

 ぎょっとする一同。


「ちょ、なんで泣いてるの!?」

「うぇ、う、うん、なんでかな……色々ビックリしちゃって、感情が上手く整理できない、みたい……あはは」


 心眼で見てみるに、ストレスから出た涙、ということでは無さそうで一安心。

 試合で負けた悔しさや、広場ではしゃいだ楽しさ、急にここへ連れてこられた驚きや戸惑いに、勇者イクシスさんとの出会い。それに、映像にも衝撃を受けたのだろうし、それを観ながら意見を交わすという新鮮な体験もあり、確かに感情がついていかないというのも得心のいく話ではあった。

 私はレッカを抱き寄せ、落ち着くまでその背を撫でてやる。お風呂上がりのいい匂い……っていかんいかん、変な下心がちらついてしまう。


 それから暫し、レッカが落ち着くのを皆で待った後、今夜の催しはお開きとなった。

 その際。


「あ! そーだれっかちゃん、きょーはとまっていくといー」

「母上、ちょっと黙っていてくれ」

「えぇ……」


 思い出したように棒読み演技を始めるイクシスさんを、すかさずクラウが黙らせる。

 そして母親に代わり、クラウが演技ではなく自然な言葉として提案を述べた。


「レッカ、今日は家に泊まっていっていかないか? 部屋はすぐに用意できるし、遠慮は無用だぞ」

「あ、そっか。クラウはイクシスさんの娘、なんだったね。それにもすごいびっくりなんだけど……ってことはこの家って」

「ああ、私の実家でもある。謂うなればあれだな、友だちの家にお泊まり、というやつだ」

「! あはは、それはなんだか嬉しい響きだね。……うん。なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな!」


 というわけで、今日はレッカもイクシス邸でお世話になることが決まった。

 ふふふ、計画どおりである。イクシスさんの大根役者っぷりにはヒヤヒヤしたけど。

 その当人に視線を向けてみれば、クラウに冷たくあしらわれたのが堪えたのか、しょんぼりと背を丸めている大英雄の姿があった。シトラスさんに一生懸命励まされている様子がまたなんとも、である。


 斯くして、闘技大会本戦の一日目は、賑やかなうちに更けていったのだった。



 ★



 一夜明け、現在時刻は午前八時。

 昨日は楽しかっただの、よく眠れたかと言ったお約束の件を経て、朝食のテーブルを囲いながら今日の予定を皆で話し合っている最中である。

 面子はイクシスさんを始め、鏡花水月のメンバーに、シトラスさん。それにレッカを加えた昨日同様の顔ぶれとなっている。

 冒険者組はともかくとして、忙しいであろうイクシスさんやシトラスさんは、連日観戦に赴いていて大丈夫なのだろうかと些か心配になる。

 が、今日は闘技祭本戦二日目。武術部門第二試合から決勝まで、一気に消化される予定だ。

 そして第一試合を勝ち進んだクラウ扮するマスクちゃんには、本日も当然出番があるわけで。

 であれば、この二人が応援に駆けつけぬはずもないかと、一人納得を覚える私。


「それじゃ、今日も全員でバトリオに向かうってことで」

「何だか未だに現実味が湧かないよ。バトリオってここから相当離れた場所にあるはずでしょ? なのに一瞬で移動できるとか……」

「そこはもう、そういうものだって割り切るしか無い。気にしたら負けのやつ」


 レッカの言に、すかさずオルカのアドバイスが飛んだ。

 レッカの不思議がっていること。それは謂うなれば、パソコンやスマホ、ゲーム機の仕組みに思いを馳せるような、途方も無い探求への入り口なのだ。

 しかしそんな詳しい原理を知らずともワープを利用すること自体は可能なのだから、気にするだけ仕方がないと。

 そしてこれには、他の皆がうんうんと共感を示してみせた。

 どうやら皆、一度はワープの仕組みについて思いを馳せたことがあるようだが、結局理解には至らなかったようで。

 その点ソフィアさんだけは、未だ以て興味津々といった様子だが、彼女のように特別な興味を常に抱いている変わり者でないのなら、オルカの言うように『そういうものなのだ』と割り切って、今日の予定にでも思いを馳せていたほうが余程有意義である。

 この場にいる皆は一様に、そんな結論に一通り至った経験があるようで。レッカもまた、それに倣うことにしたらしい。

 とそこへ、イクシスさんが問いを口にした。


「ところで、レッカちゃんは今日どうする予定なんだ?」

「それはまぁ、昨日と同じように広場でモニター観戦ですね。会場には入れませんけど、クラウのことはバッチリ応援しますから!」

「ふむ……」


 レッカの返事に、イクシスさんはちらりと私へ目配せ。

 小さな頷きで返事を返せば、彼女はレッカへと視線を戻して言った。


「実は昨日見せたアーティファクトだがな。あれには更に便利な機能があってだね……」


 そう言ってイクシスさんは、録画だけでなくライブ中継も可能なのだとレッカへ教えた。

 つまりは、この家にいながらにして、カメラで撮影した映像をリアルタイムに視聴することが出来るわけだ。

 それを聞いたレッカの胸中には、驚きと期待が一気に膨れ上がる。

 しかし何と返して良いものかと言葉に詰まる彼女へ、イクシスさんは告げたのだ。


「キミさえ良ければ、うちで試合を楽しむと良い。勿論現地の良さというのもあるだろうから、強要はしないが」

「いえ! 是非ここで観させてください!」


 思わずと言った具合に勢いよく立ち上がったレッカは、一も二もなくそのように返答していたのだった。

 そう、私の計画通りだとも気づかずに。

 と言っても別に、大した企てってわけじゃない。単純な話、広場で硬い椅子に座り続け、日がな一日質の悪い大モニターを眺め、陽気な人達の熱気に当てられるのがしんどいだけなのだ。

 だから出来れば現地ではなく、家で観戦を楽しみたい。けれどレッカとの付き合いもある。

 だけどそんな彼女も、もっと鮮明な映像で試合を楽しみたかったとぼやいていた。


 レッカには仮面の化け物だとか、私やソフィアさんとの面識などなど、ちょっと混み合ったことを問いただしたかったため、それに伴いある程度は私の秘密を打ち明けるべきとの考えもあった。

 ならばそのついでに、ワープでイクシス邸に招いて色々巻き込んでしまえと。そしてその流れで、レッカも一緒にここで観戦したら良いじゃない! と、まぁそういう思惑である。

 家にいられて私もハッピー。綺麗な映像で観戦できてレッカもハッピー。これぞWin-Winってやつだ。

 というわけなので。


「それなら私も、今日はレッカと一緒にここで応援しているよ」

「え、でもミコトは現地でクラウの応援をするべきなんじゃないの? 仲間なんだし!」

「う。それを言われると、確かに」


 レッカからの思わぬ指摘に、たじろいでしまう私。

 それは当然、折角なら現場で直接声援を送るに越したことはないだろう。

 画面越しの応援が無意味だとは思わないものの、やっぱり実際仲間が近くにいたほうが心強いというのは理解できる話である。

 さてどうしたものかと、ちらりとクラウに視線をやる。

 彼女としては、どちらでも良いらしく。その表情には軽い苦笑を浮かべていた。

 するとそこで、イクシスさんが助け舟を出してくれる。


「それなら、家の使用人たちと一緒に観戦してはどうだ? 皆もクラウの活躍には興味があるだろうしな。それならレッカちゃんが寂しい思いをすることもないだろう」


 と。結局この提案が決め手となり、今日の予定が決定した。

 即ち。レッカを除いた私たちは昨日同様バトリオへ飛び、試合に出場するクラウの応援。ならびに、その他の試合観戦である。

 他方でレッカはイクシス邸の使用人さんたちと一緒に、大スクリーンで試合中継を楽しむことに。

 結局私は、今日も硬い椅子の上で一日を過ごすことになるようだ。が、ようやっとみんなと一緒に普通に会場で観戦を楽しめるというワクワクもある。


 斯くして話し合いと朝食を終えた私たちは、各々支度を整えるなり転移部屋へ向かい、レッカに見守られる中ワープにてバトリオへ移動したのだった。

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