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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二五二話 レッカとお話

 レッカをわざわざ私たちの拠点である、イクシス邸にまで連れてきた理由の一つ。

 それが、先日戦った仮面の化け物に関して何か知らないかだとか、写真に映っていたことに対して心当たりはないか、なんていう、謂わば事情聴取のようなことが目的であった。

 一先ず彼女には、色々ぼかしながら仮面の化け物にまつわる怪奇現象について、大まかな部分を語って聞かせた。

 ついでに私の作った、写真に映る私がつけていた仮面のレプリカも見せて、その上で問う。


「なにか心当たりとか無い? それとコレ、この人の顔に見覚えは?」

「コレとはなんですか失礼な」

「うーん……ごめん。そんな不思議な話、ちょっと聞いたことないかな。その人とも初対面のはずだよ」

「そっか……」


 まぁ、仮面の化け物に関しては、正直情報を得られるとは思っていなかった。

 何せ私たちだって、謎のアイコンをマップ上に見つけ、それを調査していて初めて遭遇したような謎の塊である。

 もしも心当たりがあると言われたら、その方が不可解というものだ。


 仮面の化け物についての情報は得られなかった。仮面を見せてもソフィアさんを引き合わせても、やっぱり見覚えがないという。

 ならばと、望み薄には思いながらも私はステータスウィンドウを呼び出し、そこにレッカの名が連なっていることを確認する。

 思ったとおり、一定時間以上行動をともにしていると、勝手にPT欄に名が現れるようである。

 であれば、彼女に写真を直接見てもらうことが可能だろう。

 ステータスウィンドウのことをまるっと明かす必要はない。アルバムのスキルについてだけ今回は話すことにし、実際写真を確かめてもらうことにした。


「実は私、ワープの他にも【アルバム】っていう変わったスキルを持っていてね――――」


 アルバムのスキルには、私が過去に体験し、見聞きしたような情報が写真や映像として保存されること。

 そこに何故か突然、見聞きした覚えも、勿論体験した覚えだって無いような場面を切り取った、一枚の写真が現れたこと。

 仮面の化け物を取り込んだことで、それに連なる写真や映像までもが多く追加されたことなどをレッカに説明した。

 そして、実際にそれらの記録を自らの目で確認してもらう。


 最初はアルバムウィンドウの出現に、大仰に驚いてみせた彼女だったけれど、私たちの神妙な空気に当てられ居住まいを正した。

 そこへ満を持して、もうひとりの私関連の記録をまとめたアルバムを見せる。

 すると、彼女は眉根にシワを寄せて盛大に困惑の感情を心にも、その表情にも浮かべたのだった。


「これ……私? え、いや、でも……」

「その様子だと、やっぱり身に覚えは無い……?」

「無い無い! え、この仮面をしてるのがミコトで、この人がその、ソフィアさん? んでこの青いのは……?」

「吟遊詩人の冒険者らしいんだけど、まだ出会えてないんだ。もしかしたらなにか手がかりを持ってるかも知れないって思って、探してるんだけど」

「そうなんだ……って、もしかしてそれで私のことも探してたってこと?」


 私が頷きで返すと、レッカはここに来てようやっと得心がいったように深く息をついた。

 ずっと入りっぱなしだった肩の力を、ふぅと抜いてつぶやく。


「どうして私なんかが、わざわざあの勇者のお家に招かれたんだろうって不思議だったけど、それを訊くためだったんだ」

「まぁ、それはそうなんだけどさ。それとは別にもう一個理由があるんだ」

「? それって?」

「それについてはまた後で。とりあえず、アルバムを見ながらもう少し話を聞かせてほしいんだけど、いい?」

「勿論構わないけど、それにしてもすごいねこのスキル。すごい色も形もはっきりしてるし、今にも動き出しそうっていうか。それで言うと映像なんて、まんま記憶を再生してるって感じだもん。声まで鮮明だし、確かに私たちの声だし」


 それからは、皆も会話に交えながらあれこれと情報集めがてら雑談を交わした。

 自らがここへ連れてこられた理由や、目の前にいるのがあの勇者であり、身元のこの上なくしっかりした人であることから、レッカの警戒心や緊張というのも一気にほぐれ、アルバムに関する質問には全て正直な内容で答えてくれた。心眼からもそれは間違いない。

 しかしその結果分かったのは、新たな情報がなにもない、ということが改めて確認できたという程度のこと。

 その事に関し、レッカは些か申し訳なさげにしていたが、それは彼女が気にするようなことではない。

 知らないものは知らないのだもの。それに関して彼女に非はないのだ。

 勝手に期待してやってきた私たちが、勝手にちょっと落胆したという。ただそれだけのこと。

 しかしながら、自身のことでガッカリされたとあってはやはり、あまりいい気はしないものだろう。


 そこで、である。

 私はちらりとイクシスさんに目配せをする。

 すると彼女は私の意を組み、事前の打ち合わせ通りレッカへ声を掛けたのだ。


「すまないなレッカちゃん。秘密裏の調査のためとは言え、強引に君を家につれてきたばかりか、嫌な思いをさせてしまったようだ」

「! あ、いえいえそんな! 寧ろ折角私のことを探してまで当てにしてくれたっていうのに、何もお役に立てなくて申し訳ないっていうか、その……」

「そんな顔をしないでくれ。君が気に病むようなことは何も無いのだから」


 イクシスさんを相手に、恐縮してしまうレッカ。私もイクシスさんと初対面の時を思い出し、それも已む無しと思わず苦笑が顔に出てしまう。

 それを他所に、ずばりイクシスさんから一つの提案が彼女へ齎されることとなる。


「そこでお詫びや話を聞かせてくれたお礼も兼ねて、一つサプライズを用意しているのだけれど。どうだろう、見ていってはくれまいか?」

「サプライズ、ですか? それはどういう……」

「ふふん。実はな……わ、わたしがまだわかいころー、ぼーけんのさなかみつけたあーてぃふぁくとがー」

「「「「「「「…………」」」」」」」


 ここにも大根役者発見!!

 アドリブは上手いのに、具体的な設定の説明に入った途端なんでそこまで棒読みになるかなー!?

 ほら、レッカなんて既にサプライズの始まりだろうかとキョドってるじゃないか。

 レッカを除く一同は、深い深い溜め息をつきそうになるが、それを必死に堪える。

 そして、見かねたソフィアさんが割って入った。すらすらと予め用意していた設定を語り始める。


「どうやらイクシス様は、応援疲れで急に頭をやられた様子」

「ひどい!」

「代わって不肖このソフィアがサプライズの紹介をさせていただきます」

「う、うん。よろしく……」


 そうしてイクシスさんから説明を引き継いだ、ソフィアさんの口から語られた内容とは。

 イクシスさんが大冒険を繰り広げていた、今より昔のこと。彼女はひょんなことからとあるアーティファクトを手に入れた。

 それは現在出回っている最新の映像記録装置などより遥かに高性能な、素晴らしいビデオカメラ及び投影装置であった。

 イクシスさんはそれを秘蔵していたが、此度はクラウの晴れ舞台ということでこれを用い、大会の映像を記録してきたのだという。

 よかったらその映像を見てみないか、と。そういうお誘いであった。

 その説明を聞き終えたレッカには、是非もない。


「観たい! ものすごく観てみたいです!!」

「だそうです」

「おお、そうか。ならばすぐに用意をさせるとしよう。皆はその間、風呂にでも浸かってくるといい」


 というわけで、この後はクラウの試合の振り返り上映会が行われることに。

 広場で昨日から観ていた映像に、慢性的な不満を抱えていたレッカである。きっと喜んでくれるに違いないって思ったんだ。

 まぁ、これは布石でもあるのだけれどね。

 それと、アーティファクトというのは概ねデタラメである。性能的にはそれと呼んで差し支えないものだろうけれど、その正体は師匠謹製のカメラやプロジェクターを、私が勉強がてら複製した秘密道具だ。

 流石にその魔道具私が作ったんだよすごいでしょ! だなんて言えるはずもなく。

 スキルはあくまで個人の才能ということで話が済む問題だが、妖精由来の技術となれば話は別である。

 まぁ、普通の人には付与のスキルが使えず、コマンドの存在も知らないのだから、自力で作成するなんてきっと出来ないだろうけれど。

 しかしコマンドの存在に気づいたなら、万が一私みたいに付与スキル無しで秘密道具を作れちゃう人が現れるかも知れない。

 それ自体は仕方がないとしても、そこに私は関与したくないのだ。師匠から教えてもらった知識も技術も、それは私が責任を持ってこっそり取り扱うべきもの。

 たとえ間接的にであったとしても、子供を悲しませるような用途に用いてはならない。それが師匠たちとの約束なのだから。

 なので、極力情報の漏洩は避けなくちゃならない。

 そのためには、私の秘密道具は勇者イクシスさんの持ち物であり、アーティファクトの類いだと言い切ってしまうのが一番安全で、疑われにくいと考えたわけだ。


 そんな裏事情など知る由もないレッカは、純粋にワクワクとした気持ちのまま一先ず晩御飯を終え、私たちともども大浴場へと足を運んだのだった。



 ★



「まさか……まさかミコトの仮面の下が、あんな事になってたなんて……」

「うわ言みたいに言ってるけど、これ悪口じゃないよね? 一応褒められてるんだよね?」

「まぁ、気持ちは分かる」

「もはやお約束ですよミコト様」


 というわけで、のぼせたのか何なのか、大浴場で仮面を外した私の素顔を見るなり、ずっとこんな調子のレッカはボーッとしており、お風呂上がりということもあってポヤポヤしていた。

 そんなレッカを伴い、入浴上がりに冷たい飲み物を頂きつつ、私たちはメイドさんに案内されるままとある一室へとやって来たのだった。

 質のいい扉を潜れば、そこは一見して謎の配置がなされたソファの並ぶ不思議な部屋だった。

 如何にも高級で、座り心地の良さそうなソファが幾つも、広く真っ白な壁へ向けて扇状に並んでいるのだ。

 不可解なその配置は、さながらみんなで壁を見つめるための部屋、みたいな異様さを醸し出していた。

 その壁が何か特別なものであったなら、まだ納得も行くというものだろうけれど。しかしそんなこともなく。

 現に私たちを案内してくれたメイドさんは、何の儀式が始まるのだろうと首をかしげる有様。


 しかしまぁ、当事者たる私たちは、これが何のための配置かよく理解できているわけだが。

 一足先にソファでくつろいでいたイクシスさんは、私たちが入ってくるなりソワソワと立ち上がると、こちらへ足取りも軽く寄ってきた。


「待っていたぞみんな! さぁさぁ、早く各々好きな席に座ってくれ。クラウの勇姿を一緒に観ようじゃないか!」

「私も待ちきれないぜ! ほらみんな、早く座ろうぜ!」

「は、恥ずかしいんだが……」

「どきどき! わくわく!」


 クラウラブのイクシスママとシトラスお姉さんは、皆を急かしてソファへと着席させた。

 ただ私だけは、セッティングもあるのでイクシスさんとともに後ろでゴソゴソとアーティファクト(笑)を操作している。

 それから程なくし、部屋の照明が暗いものへと切り替わった。間接照明というやつだ。

 そうしてぱっと、プロジェクターが光を吐き出し白い壁を照らし出せば、皆から期待の声が鳴った。

 まだ映像は始まっていない。

 開始前に、イクシスさんが前口上を述べ始める。


「えー、それでは皆聞いてくれ。今宵これより始まるは――――」


 思ったより長かったので、馬の耳に念仏的に私はそれを聞き流したのだった。

 そうしていよいよ上映会が、始まる。

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