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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二五一話 連行

 勇者イクシスの姿というのは、写真や肖像画なんかで広く知れ渡っている。

 とは言え現在の彼女は変装をしており、眼鏡もかけていて随分普段と印象が違う。

 そのため、彼女があの勇者イクシスです。だなんて本人を紹介してみたところで、やはり半信半疑がやっとと言ったところ。

 こんな場所で変装を解いてみせたところで、そっくりさんだという疑惑もあるだろう。

 だから、信じてもらうためには何かしらの証拠を示す必要があるわけだが。


「まぁ、とりあえず場所を変えよう。こんな場所で立ち話もあれだからね」

「う、うん……いいけど」


 ようやっと落ち着いたレッカを連れてイクシスさんたちと再合流。

 一緒に移動を開始した。

 ところが、みんなしてどんどん人気のない方へ歩いていくものだから、次第にレッカの中で不安感や警戒心が強くなっていく。

 まぁ、無理もない。だって突然、本物かも偽物かもわからない有名人の名前を出されて、疑心暗鬼にかられている状態で閑散とした路地の奥に連れ込まれるのだ。

 いくら女だけの集団とは言え、そりゃ警戒もするってものだろう。


「ね、ねぇミコト、これどこに向かってるの?」


 たまらずそう問いかけてくるレッカ。

 どう返したら不安を少しでも拭ってやれるだろうかと思案するも、代わりにクラウが返事をした。


「私たちの拠点だな。なに、心配はいらないぞ。なにも怖いことなんて無いからな?」

「却って怖いんだけど!」


 ごもっともである。

 そんな彼女を宥めながら、どうにか完全に人目につかぬ暗がりまでやって来た私たち。頼りは魔法で生み出したか細い光のみとなっている。

 心眼が、レッカの心的ストレスをこれでもかと教えてくれる。何ならいつ襲いかかられても平気なよう、心構えもバッチリだ。

 まぁ今回に限っては、そんな心配なんて要らないんだけどね。


「さて、この辺でいいか。飛ぶよー」

「と、飛ぶって、なに、隠語か何か!?」

「うーん、まぁすぐ分かるから。刮目しているといいよ」


 そう言うなり私は、意味ありげなスリーカウントを始めた。

 既に慣れている面々は何も言わないが、レッカだけはいよいよ緊張もクライマックスである。

 それを他所に、私は告げる。


「さーん、にー、いーち。ワープ!」

「!? …………え…………は??」


 瞬間、バトリオの狭い路地から景色は一変。

 そこは、飾り気の薄い部屋の中だった。

 頭上では照明の魔道具が省エネモードで部屋を照らしており、足元には絨毯の感触。そも空気からして、屋外のそれではなかった。

 小広いこの部屋は、通称転移部屋という、イクシス邸に設けられた私がワープで出入りするために使わせてもらっている、比較的質素な一室である。

 イクシスさんは早速、部屋の扉脇に備えてあるベルをリリンと鳴らした。帰宅を知らせるためのベルだ。一応魔道具の類いであり、このベルが鳴ると、使用人さんたちの詰め所、所謂スタッフルームに置いてある発音機が連動して鳴り、直ぐに誰かが応対にやってくるという仕組みらしい。


 そんなこと知る由もないレッカは、未だ状況についていけず半ば放心状態だ。

 対して他の面々は気楽なものである。外出から戻ったことで、どっと押し寄せた疲労に背を丸くしたり、首をコキコキ鳴らしたりしている。

 そんな中、イクシスさんは徐に変装用の帽子を取り、メガネを外すと、美しい所作でレッカに向かい言うのだ。


「ようこそ我が家へ。歓迎するよ、レッカちゃん」

「はひゃ……ほ、ほんもの……?」

「だからそう言ってるじゃん」


 ようやっとある程度は信じる気になったようで、改めて目をまんまるに見開くレッカ。

 広場で見せた大げさな驚き方とは違う、ガチのやつである。あの時の心情は、やっぱり「そんなまさか」という思いもそれなりに大きくあった。

 しかし今の彼女は、「え、マジ? マジで言ってるの?」という感じか。

 安心してください。マジです。


 と、そこへパタパタと使用人さんが出迎え……出迎えと言っていいのかは分からないが、まぁ迎えにやって来た。

 イクシスさんはそんなメイドさんや執事さんに軽い労いの言葉をかけながら、外した変装衣装やお土産なんかを渡していく。

 それをぽかんとしたまま眺めているレッカの肩に、私はポンと手を置いた。

 思ったとおり、面白いほどビクリと震える彼女。


「とりあえず、色々説明するから移動しようか」

「えぁ、うん……」


 そんな彼女の初々しい反応を見て、すっかり慣れてしまった組はほっこり笑顔。

 シトラスさん辺りは、分かる分かると何度も頷きを見せていた。



 ★



 場所を食堂へ移した私たち。今日食べたご飯と言ったら、屋台で買ったものを適当に食べ漁った程度であり、何れも軽食に分類されるものだった。

 オルカたちの方も似たようなもので、ちゃんとしたご飯というのは食べ逃している状態だ。

 なので現在、イクシス邸の食堂にてちゃんとした晩御飯を改めて頂きつつ、レッカへの事情説明なんかをしていた。


「つまり、ミコトはワープなんてすごいスキルを持ってるから、それを隠すために仮面をかぶってる……?」

「や、仮面は普段からなんだけど……まぁスキルを隠すために色々誤魔化してるのは本当かな」


 一先ずレッカに明かしたのは、ワープの件とイクシスさんの正体。それに私たちが鏡花水月というPTであることくらいか。

 あまり何でもかんでも無闇に明かす必要もないだろうという理由から、もし必要にかられた場合都度知らせる形で、小出しに行くスタイルである。

 しかしレッカにとってはワープやイクシスさんという情報だけで、十二分に驚くべきことだったらしく。これと言った疑念を抱く様子はなかった。一先ず今のところは、だけど。もしかすると気持ちが落ち着くに連れ、何かしら不思議に思う点がでてくるかも知れない。

 その時はまぁ、一個一個また説明すれば良いだけだ。


「ときにレッカちゃん。勇者と言ったら何を思い浮かべる?」

「へぁ!? あ、あー、うーんと、それは勿論、魔王を討伐した大英雄ってことと……それに、【灼輝の剣】! です!」


 灼輝の剣。それは勇者イクシスを代表する必殺技の一つだ。

 特に剣を振るう冒険者にとっては、強い憧れを抱く者も多いとかなんとか。

 そしてレッカにとってもそれは当てはまっていたようで。勇者イクシスから連想される情報の上位に、それはしかと食い込んでいたようだ。

 しかしながらイクシスさんは、何故突然そんなことを訊いたのかと、皆が不思議そうに彼女を見れば。

 不意に席を立ち上がるイクシスさん。


「ふむ。よし」

「? 母上、何がよしなのだ?」


 クラウが首を傾げるのを尻目に、彼女は普段から身に着けているらしい護身用と思しき短剣を懐から取り出すと、何でもない様子でそこに灼輝を纏わせたのである。

 一瞬、場の空気が完全に固まった。

 そして。


「待って待ってイクシスさん、何してんの!?」

「そうだぞ母上、それはこんな場所でおいそれと出すようなものではないだろう!」

「触れたら危険。ミコト離れて」

「眩しいです! おっかないです!」

「はぁ、はぁ、伝説のスキル……!!」

「え、え、え……?」


 そう。彼女がペッと短剣に纏わせたのは、紛れもない件のスキルによる光であった。

 万が一その状態の刃で何かを斬りつけようものなら、問答無用で瞬く間に対象を消滅させるという、とんでもなく危険な代物である。

 一瞬でレッカと変態のソフィアさんを除く全員がガタッと席を立ち、イクシスさんを遠巻きにした。

 こんな時でもさっと私を背にかばうオルカ。イケメンである。


 そして、そんな騒動を突発的に巻き起こした当人はと言えば、至ってすっとぼけた様子で言うのだ。


「え、だってほら。まだ私がイクシス当人だっていう証拠とか、ちゃんと提示できてなかったろう? だから見せたんだけど。あ、もしかして試しに何か斬ってみせたほうが良いだろうか?」

「マジでやめて! 家の中で火遊びをする子供より百億倍質が悪いからねそれ!!」

「そ、そこまで言わなくても……」


 必死にツッコんでみたところ、たちまちイクシスさんはしょぼくれて、灼輝もしゅんと消えてしまった。連動するように、そこに見惚れていたソフィアさんもしゅんとなる。

 それを確認し、ようやっと皆が緊張を弛緩させ、ため息交じりに各々の席へ戻るのだった。

 イクシスさんはクラウから直々のお説教タイムである。それを他所に、私はレッカへ声を掛けた。


「えっと、信じられないかも知れないけど、今のが紛れもなく【灼輝の剣】だよ」

「う、ううん。私も剣士のはしくれだから分かるよ。っていうか、危うくチビリかけたくらい……す、すごい力を感じた。やっぱり本物、なんだ……!」


 どうやら信じてくれたらしい。まぁ、エゲツないMPを用いて練り上げられているスキルだからね。あれをこの至近距離で見て、ただ光ってるだけだ、偽物だーなんていう人は、流石に冒険者の中にはいないだろう。

 一時騒然となった食堂内も、どうにか落ち着きを取り戻し。

 満を持して私はようやっと、本題を切り出すことにしたのだった。


「さて。それでさレッカ、会わせたい人がいるって話なんだけど」


 私の言わんとしている内容を察し、皆の注意がこちらへ向いた。

 ここからが、私にとって最も重要な話である。

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