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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二五〇話 顔合わせ

 時刻は午前一一時頃。

 巨大モニターの設置してある広場は、朝よりも、何なら昨日の予選時よりもずっと人が増え、中継映像を眺めるギャラリーによる歓声が時折巻き起こり、さながらサッカー中継で大騒ぎするサポーターの人たちみたいだった。

 私たちが確保していた席にも、いつの間にか知らないお姉さんが座ってるしで、正直落ち着いての観戦というのは出来そうにない。

 が、さすが陽キャのレッカは違った。お姉さんと肩を組んで騒ぎまくっている。

 まして今しがた終わったクラウの試合なんかは、あの娘私の友達なんですよだなんて言って、どんちゃん騒ぎである。

 対して陰キャ寄りの私としては、そのノリについていけず縮こまっている始末。

 しかも心眼が勝手に働くものだから、正直頭の中はぐーるぐるである。


 それにしても、よくあんな昭和のテレビ放送みたいなガサガサザラザラした映像でここまで盛り上がれるものだと、感心するばかりだ。

 実際クラウの見せた技だって、この映像越しじゃ何が起こったのかさっぱり分からなかった。ただドウド選手をすごい力でぶっ飛ばした! くらいにしか見て取れなかったのだ。

 それでも関係なく、ギャラリーは大騒ぎ。みんなごきげんに昼間からお酒を呷ったりしている。

 まぁ、ドウド選手を応援していた一部の人達からは、落胆の気配を感じたわけだけれど。

 ともあれ、こっちはこっちで会場とはまた異なる盛り上がりを見せていたわけだ。


「いやぁ、すごかったねミコト! あの娘あんなに力強かったんだ!」

「うーん、別にそういうわけじゃないよ。勿論普通の人に比べたらそりゃ強いけどさ」

「え、ってことはアーツスキルで吹っ飛ばしたってこと!? 詳しく!!」

「それは、私の口からはなんとも」

「ぐぬぬぅ、やっぱり生で見たかったなぁ! そうしたらもうちょっとなにか分かったかも知れないのに!」


 そう言って悔しがるレッカ。

 どうやら彼女も、映像に満足しているというわけではなさそうだ。

 しかしこの世界の映像技術のレベルって、このモニターでも最新鋭のものらしいし、これ以上を求めるのなら直接会場に足を運ぶ他ない、という感じらしい。

 そう考えると、生前の私や、妖精師匠たちに出会えた今の私って、すごく恵まれてたんだなとここでも実感してしまう。

 だって、生前はお金さえかければ幾らでも綺麗なモニターってあったし、何なら立体投影映像の研究も進んでたし。上を見たらきりがないってレベルだった。

 妖精師匠たちだって、簡単に生前のそれと比べても見劣りしないようなカメラをぽんと作り出しちゃうし。

 それらを普通に手にできている私って、相当恵まれてるってことだ。間違いない。

 実際、オルカたちに初めてカメラで撮影した映像を見せた時の驚きっぷりときたら、それはもうすごかったしなぁ。

 それこそ、昭和時代にタイムスリップして、当時の人達に最新のカメラで撮った映像を見せたような驚きっぷりだった。

 レッカも、今会場で撮影している映像とか見せたら、ビックリしてくれるのかな?


 うーん。この陽キャの集まりの中で観戦するのも辛いし、提案してみるのもあり……なのか?

 でも、カメラは妖精師匠たちに関わる極秘技術だからなぁ。おいそれと見せるわけにはなぁ。むー。


「ミコト、ほら次の試合始まるよ!」

「おっと、どれどれ」


 レッカに言われ、慌ててモニターへ視線を移す。

 ステージ上では次の選手が向かい合い、ゴングを待っているところだった。

 レッカへの提案はまぁ一旦保留にして、今は観戦を楽しむとしよう。



 ★



 あれよあれよと一日が過ぎた。

 試合は一回戦全試合が消化され、明日は一気に二回戦以降が行われるらしい。夜には決勝戦が大々的に執り行われ、特に大きな注目を集めるようだ。

 現在時刻はそろそろ夜の九時を回ろうという頃。中継も終わり、広場も随分落ち着きを取り戻していた。

 さながら、打ち上げ花火が終わった後の空気感である。

 会場の方も撤収しており、私もそろそろ皆と合流して拠点へワープで帰らないといけない。

 のだけれど。


「はぁぁぁ……やっぱり生で、観戦したかったなぁ」


 テーブルに突っ伏し、そんなことを言うレッカ。

 さっきまでは底なしの体力ではしゃいでいたのに、落ち着いたところで残念が顔を出したらしい。


「映像越しじゃよく分からない技とか、駆け引きとか、細かなテクニックとか、色々あったんだろうなぁ……はぁぁ……」

「うーん……」


 残念そうにしている彼女を見て、考える。

 私なら、どうにかしてより良い環境で試合を見せてあげることは出来る。

 でも、それをやっていいのだろうかと。要は、レッカの口の堅さが些か心配なのだ。

 今日の陽キャっぷりを見て、良からぬ偏見が少しだけ過ぎってしまった。陽キャは口が軽いのではないか、と。

 口が軽いと言うか、滑りやすい、か。そんな懸念が、彼女への提案を妨げている。

 だがかと言って、私とレッカはもう友だちと言って差し支えないほどには親しい仲である。

 友だちが凹んでいるのに、出し惜しんでいいものか。それを友と呼べるのか。誰にともなく試されている気分だ。

 とは言え、出会ってたった二日の相手を信じ切る、というのも難しい話ではある。

 シトラスさんみたいに、クラウラブだったり、イクシスさんっていうバックがついていれば話は別……あ、イクシスさんか。ふむ。


「ところでレッカ、この後暇だったりする?」

「むー? そりゃ、後は剣振って、宿に戻って寝るくらいしかすること無いけど」

「そっか。じゃぁさ、少し付き合わない? ちょっと会わせたい人がいるんだ」

「? マスクちゃんのこと?」

「まぁそんなところ」

「なら行く! 今日の感想とか、会場の様子とか聞きたいし!」


 私の提案に、早速食いついてガタッと席を立つレッカ。

 そそくさとテーブルの上を片付け、クッションをリュックに詰め込み、私たちは連れ立ってその場を後にしたのだった。


 向かった先は、会場近くの小さな広場だ。コミコト経由で決めた待ち合わせ場所であり、そこにもちらほら出店が並んでいて、帰り際の観客たちをターゲットになかなか賑わっている。

 レッカと二人そこへやってくると、マップとコミコトの視界を頼りにみんなの姿を見つける。

 斯くして彼女を連れ、無事オルカたちと合流を果たすことが出来た。

 すると早速クラウが、気さくにレッカへ声をかける。


「昨日ぶりだなレッカ、今日はミコトが世話になった」

「マスクちゃんおつかれ! 試合見たよ、何アレどうやったの! ミコトが『あれは力じゃない、テクニックだ!』だなんてキメ顔で言うもんだから気になって気になって!」

「ちょっと! そんなふうには言ってないでしょ!」

「ああ、そのとおり。あれは力ではない、テクニックだ!」

「ぎゃー! 本物キター! 是非詳しく教えておくれよー!」


 などと、早速賑やかに騒ぎ始める彼女たち。他の面々はそのノリに圧倒され気味だ。

 ここは私が間に入らねばなるまい。

 わかりやすい咳払いで空気を改めると、それを察してか一旦静かになるレッカ。

 それを認め、私は改めてレッカのことを皆に紹介した。


「彼女がレッカ。『赤髪の剣士』だよ」

「どうも。赤髪の剣士ことレッカです……って、そんな見たまんまの二つ名名乗った覚えないけど!」


 私がボケか何かでそう紹介したと思ったのだろう。早速分かりやすく反応してみせるレッカ。

 まぁ、『赤髪の剣士』だなんて私たちが勝手に呼んでただけだからね。馴染みがないのは当然だろう。

 しかし、逆に私たちの間では通じるのだ。みんなして「なるほどこの娘が……」と言った顔をするため、いよいよ困惑気味のレッカである。

 まぁそれは一旦置いておくとして。


「んで、こっちが私の仲間たち」

「オルカ。よろしく」

「あ、ココロです。ミコト様専属のシスターをやってます!」

「マスクちゃんこと、クラウだ」

「ソフィアです。変わったスキルの情報をお持ちでしたら、是非私にご一報ください」


 そう言って名乗る鏡花水月の面々。ココロちゃんの名乗りはまぁ、どうかと思うけど……。

 そこに引っかかっていても仕方がないので、次に残りの二人を紹介する。


「それからこっちが、私の友達兼協力者である……」

「シトラスだ。クラウの幼馴染であり、大親友だぜ。ミコトとは最近知り合ったが、拳で語り合った仲さ!」

「まぁ、間違ってはないけど……それで、ええと。この人が」

「クラウのママ、イクシスだ。レッカちゃん、よろしくな!」

「イクシ……す、すごい名前だね! だってそれって」

「レッカ、ちょっとこっち来て」


 こんな場所でオーバーリアクションを取られても困るので、私は彼女の手を掴み広場の隅っこまでやって来た。

 念入りに遮音の結界も張り、こそっと告げる。


「あのね、レッカ。あの人……本物だから」

「? ど、どういう意味? まさか、他の人達はみんな擬態系のモンスターってこと!?」

「違う違う! そういう意味ならみんな本物! そうじゃなくって、イクシスさん。あれ、同じ名前の別人とかじゃなくて……」

「?? ……イクシス……本物……?」

「イクシスって名前、聞いたこと無い?」

「そりゃあるよ! イクシスって言ったら、勇者で大英雄…………え、本物って、まさか、そういう……?」

「うん、それ」

「…………~~っ!?」


 張っててよかった遮音結界。

 その後彼女が落ち着きを取り戻すまで、暫しの時を要したのだった。

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