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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二四八話 大会観戦

 時刻は夕飯時の只中であり、街のあっちこっちでは闘技場の中継映像なんかが流されていて、それを鑑賞しながら飲み食いしている人たちが至るところで屯し、盛り上がっている。

 レッカさんもその輪に加わりたそうにしていたため、彼女共々適当に屋台でご飯を買い込み、街の広場に設置された巨大モニター前の席で観戦しながらの簡単な夕食となった。

 とは言えモニターは画質も悪く、たまにカクつく上、ノイズも入るという酷いものであり、妖精印のカメラに慣れてしまった私とクラウにとっては、あまり好んで見たいと思えるようなものではなかった。

 だからこそ、今日一日はおおよそ暇を持て余していたわけなのだけれど。

 しかしレッカさんにとっては、そも映像という物自体が珍しいらしく、しかもそれが闘技大会の試合中継となれば尚の事。

 目を輝かせて、食い入るようにモニターを眺めていた。


「見てよミコト仮面! あのでっかい剣すごくない!?」

「名前間違ってるから。ちゃんと仮面さんって呼んで」

「それはそれで、大声で呼ばれると拙くないか? 予選通過者は一躍時の人だぞ」

「うぇー……私、もう帰ろうかな」

「えー、なんでー! 一緒にもっと観ていこうよー!」

「あーはいはい。わかったよ。じゃぁ私のことは、マスクちゃんって呼んでね」

「それだと私と被るんだが」

「見て見てあの人、モーニングスター振り回してる! しかも使い方すごーい!」


 という具合で、とても情報の聞き取りが出来るような雰囲気ではなかった。

 まぁ既に、最低限聞きたい情報は得ているのだし、別にいいと言えばいいのだが。

 どうしたものかとクラウに視線を送れば、彼女は苦笑を返すのみだった。

 こうなったらもう、日を改めることにしよう。幸い彼女も、大会が終わるまではこの街に留まる予定だと言うし。そうでなくともマーカーはくっつけたままにしてある。

 どこかへ移動したとしても、すぐに追いつくことも見つけることも出来るのだから、そう慌てる必要もない。


 というわけで、この日は予選の全試合が終わるまで二人とともに質の悪い中継映像を観ながら、やんやと盛り上がったのだった。

 別れ際、よかったら明日も一緒に試合を観ようと誘われ、考える。

 明日はクラウの出場する武術部門の本戦が行われることになっており、当然クラウも一緒に観戦というわけには行かない。

 しかしそのことは既にレッカさんも承知の上なので、彼女の誘いは私だけでもというものであった。

 けれど私も明日は、みんなと一緒に観客席でクラウを応援する予定であるため、普通に考えると残念ながらお断りせざるを得ないところ。

 ただ、レッカさんとはもう少し親交を深めたいという気持ちもあった。だって愉快な人だし。

 彼女の為人を知るにつれて、何だかアルバムにある写真や映像に対する違和感が、納得にすり替わるような、そんな気さえしているほどだ。

 もしかしたらどこかの世界線には、この人やソフィアさん、それに青髪の吟遊詩人さんってメンバーでPTを組んだルートもあったのかな、なんてふと思った。


 うーん、私が分裂でも出来れば観戦しに行きつつレッカさんとも過ごせるのに……。

 って、待てよ? 分裂は無理でも、それに近いことなら出来るじゃん。

 妙案を思いついた私はレッカさんの誘いを了承。待ち合わせの時間と場所を決めて、その日は解散と相成った。



 ★



 翌朝。

 待ち合わせ場所である剣を模した大きなモニュメントの前には、既にレッカさんの姿があった。

 時刻は午前八時半と、なかなかに早く。予選の時遅刻ギリギリで現れた彼女が印象に残っていたため、先に彼女が待っていたことが意外ではあった。

 朝から賑やかな通りを抜けて彼女のもとへ駆けつけると、レッカさんはこんな時間から昨日と変わらぬ高いテンションで迎えてくれた。


「おはようレッカさん。早いね」

「もう、さん付けなんていらないってば!」

「あ、うん。わかった」

「私、朝は強いんだよ。冒険者だからっていうのもあるけど、朝から剣を振るのが好きなんだよね。清々しいじゃん?」

「朝練か。分かる。私も毎日やってるもん」

「同志よ!」


 まぁ、私の朝練は魔道具修行なんだけどね。魔法やスキルに関しては、ながら作業でこっそり出来そうなものは、常時高速で繰り返したり、維持し続けたりしているし、寝てる最中は特に激しかったりするらしい。

 思えば一番疎かなのが剣術とか体術とか、そういった近接系の訓練だ。これは……ちょっと、何か考えないとこの先痛い目を見る場面がやってくるかも知れない。みんなに相談でもしてみるか。


「ミコト朝ごはんは?」

「食べてきちゃった」

「えー、私はまだなんですけどー!」

「じゃぁ、またその辺の出店で何か買って行こうか」


 天気は快晴。気持ちのいい朝の空気の中、私たちは出店に立ち寄りながら食べ物や飲み物をそれぞれに確保し、たわいない会話を交わしながら昨日の広場を目指した。

 大きなモニターでは今日も早速会場の様子が中継されているけれど、今はまだ試合開始前。ステージ上は寂しいものであり、現在は実況の人に加えて解説役らしき人が本日の見所なんかを紹介しているところだった。

 ついでにプログラム紹介なんかもしてくれているため、何時頃からどんな対戦カードが見られるか確認することが出来た。

 クラウの偽名である『マスクちゃん』は、どうやら一〇時頃から試合開始の予定らしい。

 今日明日で武術部門のトーナメントが消化されるらしく、試合数もそれなりにあるため、観たい試合がある場合は時間を確かめておくのも大事かも知れない。

 レッカは全試合観る気満々のようだけれど。流石に疲れそうだなと、私はこっそり苦笑を浮かべたのだった。


 巨大モニターの設置された広場には、常時そうなのか、はたまたお祭り期間中の特別仕様なのか、テーブルと椅子がわんさかと並べられており、私たちはなるべく良い席を確保して観戦の支度を整えた。

 テーブル上には出店で買った飲み物に軽食が雑多に並べられ、長丁場に備えたお尻の下に敷くクッションも持参してくるほどの徹底ぶりである。

 流石にストレージを披露するわけにも行かないので、今日は珍しくリュックを背負ってやって来たわけだけれど。日頃の手ぶらな冒険が如何に恵まれているか痛感しようというものだ。

 まぁ、今回持ってきたのはこれと言って重たいものでもないし、まだ全然マシな部類ではある。でも普通の、特に駆け出し冒険者ともなると、こういったカバンやリュックに備品や手に入れた素材なんかを詰め込んで、長い距離を踏破しなくちゃならないんだよね。滅茶苦茶大変だ。

 所謂マジックバッグってアイテムは高価で、とても普通の駆け出し冒険者が持っているようなものではない。

 そう思うと、ストレージはヤバいスキルだったんだな……ソフィアさんが食いつくわけである。


「あ、ミコト良いものお尻に敷いてるじゃん! くっそー、私も用意してきたらよかったなぁ」

「そういうと思って、レッカの分も持ってきてあるよ。ほら」

「おお、心の友よー!」


 彼女にもクッションを渡すと、大喜びで自分の椅子にポフポフと設置しボスンとその上に腰を下ろしてご満悦な様子。喜んでくれたなら何よりである。

 なんてことをしていると、モニターにいよいよ動きが見られた。

 相変わらず見辛さのある映像の向こう、闘技大会会場ではファンファーレっぽい派手な音楽と、魔法による目にも鮮やかな演出がなされ、気づけばステージ上に司会進行役っぽい男の人が立っていた。そして淀みないよく通る声で口上を述べ始めたのだ。

 改めてのご挨拶に始まり、観客をくすりとさせる小粋なトークと大まかな日程の説明、そして試合のルールや観客席の安全性に関するあれこれなど、よく回る舌でテンポよく語っていく。やり手のMCである。


 そうして一〇分程度の出番を終えると、司会の人はそそくさとステージ上から捌け、いよいよ試合開始の演出が始まった。

 これまた派手な演出で、円形ステージを挟んだ左右の入場口より一回戦目を戦う選手が一人ずつ登場。

 片や観客に手を振りながら。片や淡々とした足取りでステージに上がると、舞台中央で対峙する。


「い、いよいよ始まるね! くーっ! ワクワクするなぁ!」

「本戦ってあんなに派手なんだ。今から緊張してくるんですけど」

「ミコトは私を負かしたんだから、そんな情けないこと言わないの! 私もあの舞台に立ちたかったのにー!」

「お、おっす。さーせん、おっす」


 というかもう普通に名前呼びが定着しちゃってる……まぁ、遮音で誤魔化してるから別にいいけど。

 しかしまぁ、レッカを下して勝ち残った手前、確かに彼女の前であまり弱音を吐くものではないか。これは素直に反省だ。

 内心で自分を戒めつつも、彼女とともにモニターへ注目する。

 すると昨日の観客たちによるコールでの試合開始とは異なり、今日は普通にゴングっぽい何かの音で試合が始まった。

 レッカによると、バトルロワイアル形式は開始の合図直後からワチャワチャとステージ上で戦闘が始まるため、観客のコールがゴング代わりとして用いられているらしいが、本戦の場合は一対一の、所謂タイマンってやつである。

 派手なスタートの合図に対し、しかし睨み合いから試合が始まることは割とあり、観客と選手との温度差で風邪を引いちゃう人が続出するとかしないとか。

 そんなわけで、本戦は観客の熱気渦巻く声ではなく、シンプルにゴングが鳴らされ開始の合図と相成ったのだそうな。

 斯くして私たちを含む多くの観客が見守る中、闘技大会武術部門本戦は、その幕を開けたのだった。



 ★



 闘技会場の観客席は朝も早くから熱気に包まれており、第一試合を終えた現在は尚の事である。

 武器を駆使し、アーツスキルを駆使し、武具の特殊能力までも駆使して全力をぶつけ合う真剣勝負。

 当然それは、そう長々と続くようなものではなく。ボクシングのようにラウンド制というわけでもないので、存外コンスタントに決着は付く。

 だが、かと言って地味ということはなく。

 本戦の試合ルールには、『魅せ技』を必ず一つは披露しなくてはならないという謎の規定がある。

 というのも、広いステージ内で単純な勝利のみを追求したなら、それはもうなかなかに地味な試合になる可能性はそれなりに高く、故にこそ考案されたルールらしい。

 魅せ技とは、見た目の華やかさ、派手さが一定の水準を超えている技のことであり、もしもこれを用いずに試合を終えてしまうと、試合内容次第では仕切り直しが求められるという、なかなかにシビアなルールとなっている。

 これに加え、場外を狙った戦闘もよく行われるため、選手は広いステージをよくぶっ飛びまわったりするわけだ。

 そうすると当然、見ていて飽きるような試合にはならず。どの試合にも必ず一箇所は見どころが出来るようになっている。


 ちなみに今の第一試合では、マジックアーツを用いたわけでもないのにステージ中央で大爆発が起こり、選手を場外に吹き飛ばすという大技が見られた。文句なしの魅せ技である。

 観客は大盛り上がりし、次の試合が始まるまでのインターバルでは早速あっちこちで感想を語らう声が交わされていた。

 勿論、私たちの間でも。


「すごかったですねミコト様! 大爆発ですよ!」

「だねー。こういうの見ちゃうと、私も新技作りたくなっちゃうよ」

「流石にアレは、味方を巻き込みそう」

「今の技は、体術系アーツスキルの【爆拳】ですね。あそこまでの威力が出せるとは……やりますね」

「ク、ク、クラウはこんなレベルの高ぇ試合に出るのか!? 大怪我とかしないよな!?」

「はっは、問題ないさ。あの程度ならクラウの盾で容易くしのげる」


 というわけで、今日も今日とて昨日同様に試合観戦に赴いた私たち鏡花水月と、イクシスさんにシトラスさん。

 クラウは出場選手なので、多分選手控室とか舞台袖なんかで試合を見ているのだろう。

 私とソフィアさんを除く全員が望遠メガネを掛け、尻の下にはふかふかのクッション完備で観戦を楽しんでいる。

 どうやら昨日は長時間座りっぱなしで、みんなお尻や腰をゴリゴリに削られたらしく。その反省を踏まえてのクッションというわけだ。

 ちなみに望遠メガネなんて無くてもオルカやイクシスさんはスキルの力で、普通に試合の様子も見えるだろうに、眼鏡のほうが楽だからという理由で使っているそうだ。

 それに対し、私はと言えば。


「ミコト、それちゃんと見えてんのか? そんなちんまい目でよ」

「失敬だなぁ。高性能なんだよ? この体。ちゃんと見えてるから心配ご無用!」


 そう。今の私はミコトであってミコトにあらず。

 魔道具作りの際よく使用している、もう一つの身体。即ちコミコトをオルカの胸元に忍ばせ、皆と一緒に観戦しているというわけである。

 これにより、私の本体はレッカと街の広場で中継映像を楽しみつつ、同時にコミコトでみんなと一緒にここで生の迫力を体験できるという贅沢観戦を満喫しているわけだ。

 コミコトはフィギュアサイズの小さな体であり、他人から見たら超絶クオリティの人形にしか見えないことだろう。

 しかしその実態は、妖精師匠たちの力作であり、私がプレイアブルのスキルを駆使して操作することで、何ら違和感なくもう一つの体として動かすことの出来る、とんでもない魔道具なのだ。


 当然というべきか、シトラスさんやイクシスさんに初お披露目した時のリアクションときたら、なかなかの見物だった。

 勿論固く口止めはしたけれど、コミコトに関してはきっと誰に話して聞かせたところで、眉唾ものの与太話としか扱われないだろう。それくらい常軌を逸した技術の結晶なのだ。

 何なら普通に小人とか言われたほうが、まだ信じられるだろう。っていうか、小人っているのかな、この世界。妖精師匠たちは正にそれくらいのサイズ感だけど。

 ひょっとして親しい種族にそういうのがいるかも知れない。今度尋ねてみるのもいいかもな。


 とまぁそんな具合に、私は二つの視点から同時に闘技大会を楽しむのだった。

 師匠様様である。

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