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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二三五話 グランリィス

 オルカたちと合流後、人目を避けてワープを行い、イクシス邸に戻った私たち。

 尚、今回光学迷彩は使用していない。あれはワープを使用しているところを見られないために、という意味もあるのだけれど、それ以上に転移先に人がいた場合の対策として使用しているわけで。

 今回転移先に指定したのは、転移用に用意されている空き部屋であるため、隠蔽の必要がなかったのだ。

 そんなわけで、空き部屋からゾロゾロと退室する私たち。

 通りかかったメイドさんがギョッとした様子で一瞬固まったが、直ぐに持ち直して「おかえりなさい」を言ってくれた。

 それが何だか嬉しくて、私たちは口々に「ただいま」を返したのである。


 転移部屋を後にした私たちは、クラウの先導で廊下を歩く。

 広いお屋敷なので、私なんかはマップを頼りにしないとすぐに迷ってしまうところだが、流石この家で育っただけあり彼女の足取りには迷いがない。

 あれよあれよと正面玄関にたどり着いてしまった。

 玄関にやって来たということは、当然外に出るということなのだろうけれど。

 もしかしてクラウの言う『いい考え』とやらは、この家の庭かどこかで鍛錬を行おうというものなのだろうか?

 というような疑問を投げかけてみたところ、しかし彼女の反応は思いがけないものだった。


「いや、そういうわけではない。それでも構わないとは思うのだが、やはり実戦を用いた鍛錬のほうが好ましいだろう?」

「まぁ、それはそうだけど。ならどこに行くつもりなの?」


 そのように問えば、彼女は楽しげに微笑んで言った。


「無論、この街の冒険者ギルドにだ」


 その言葉を受け、衝撃を受ける私たち。

 というのも、考えてみたら当たり前のことで。イクシス邸は何も、辺境にぽつんとある隠れた豪邸というわけではない。

 確かにパッと外を見た感じ、小高い丘の上にある広々としたお屋敷であり、その庭も広大であるため、周囲には家の一軒もないのではないかという錯覚を覚えてしまいそうになるのだけれど。

 しかしそうではなく。丘を下れば街があり、そこには当然冒険者ギルドも存在しているのだとクラウは語った。

 しかも謂わば、その街こそ勇者イクシスのお膝元である。当然賑わっていないはずもなく。

 玄関から伸びる一本道をせっせと歩けば、やがて件の街が一望出来る、見事な絶景に行き当たった。


 季節は秋も中頃を過ぎ、やがて冬の気配も訪れようかという頃合い。

 そのため丘から見下ろした景色は、目の醒めるような緑……とは行かなかったけれど、高い秋空の下に広がる平原は非常に気持の良いものだった。

 そして何より、丘を下ったそこには見事な街並みが広がっていたのである。

 白を基調とした景観は美しく、その向こうには大きな湖がでんと横たわっている。

 空を映す湖の青と、綺麗な白の街並みは、正に壮観たるものであった。

 思わずその景色にしばしと気を忘れ、見惚れる私たち。

 クラウもまた、久しぶりに見るこの景色に目を細め、懐かしさを覚えているようだ。


「そう言えばそうでした。イクシス様のお屋敷があるということは、ここはグランリィス。彼の有名な英雄の街じゃないですか」

「えーゆーの街……?」

「「「…………」」」

「まぁ、ミコトだからな……」


 どうやらまた私だけ知らない常識が飛び出したようで、恒例の呆れた視線が私に突き刺さる。

 恥を忍んで情報を求めてみると、彼女たちは快く教えてくれた。

 皆の説明によると、グランリィスという眼下の白い街は勇者イクシスのホームとして有名であり、そこには英雄に憧れを抱く若き冒険者から、英雄譚好きの読書家や吟遊詩人なんかが集まる、夢の詰まった街なのだという。

 一昔前はそうした、勇者好きの集う街というだけだったグランリィスは、徐々にその嗜好から来る需要に応える形で変化を続け、今やイクシスさんに限らず世界各地の冒険譚が集う特殊な場所になっているそうだ。

 ある意味秋葉原のような街、と考えるのが近いのかも知れない。何にせよ面白そうなところではある。


「興味深いね……よし、早速行ってみよう!」

「ミコト、英雄譚とか興味あったっけ?」

「そういうわけじゃないけど、こう……オタクの血が騒ぐっていうか。二次創作文化とかって、この世界にも存在したりするのかな?」

「あ、ドージンシというやつですねミコト様! それに似たようなものならココロ、見たことがありますよ!」

「じゃぁ漫画は? 漫画はあるのかな?」

「マンガ……聞いたことはないな」

「それはどういうものなんですか?」


 グランリィスの街へ向かう道すがら、私は皆に漫画というものの概念を語って聞かせた。

 皆興味は持ったようだが、やはり口頭での説明では絵本との違いをイマイチ理解してもらえないようで。

 しかし実物さえ見せたなら、きっともっと関心を示してくれるはずだ。

 しかもグランリィスという場所柄、見る人が見たならきっと爆発的に広がる可能性がある。


 これはもう、私がなるしか無いのではないか。

 この世界における、漫画文化の伝道師ってやつに!

 でも私、立体造形には自信があるけど、二次元作画は専門外なんだよな……漫画も読むだけだったし。

 うん……伝道師を名乗るのはやっぱりやめておこう。

 しかし漫画という表現媒体は、きっとこの世界の二次元を駆使した表現の幅を広げるのに役立つはずだ。

 一人のオタクとして、この世界の人にもその素晴らしさを知ってもらいたい。

 そしていつかは、この世界独自の漫画を読める日が来たら、こんなに嬉しいことはないだろう。


「やらいでか……!」


 私が一人夢物語の実現に思いを馳せ、オタク魂に火を灯らせていると、いつの間にやらグランリィスは目前にまで迫っていた。

 間近で見てみると、規則正しく並んだ建物に、綺麗な石畳の路面。活気がありつつも美しい街並みに思わず感嘆の息が漏れた。

 一目見ただけで治安の良さが感じられる、何というか志の高い人が集まっている街という印象である。


「すごい。綺麗なところ」

「ですね。初めて訪れましたけど、他ではなかなか見れないほど景観が美しいです」

「ここには確か、スキル愛好会の支部があったはず……後で探してみましょう」

「それもいいが、一先ずギルドへ向かおう。こっちだぞ」


 お上りさん宜しく、あちらこちらへキョロキョロと忙しなく視線を走らせながら、クラウの後について歩く私たち。

 こういう時便利なのがマップスキルであり、特に3Dマップへと進化した今のそれであれば、こうして一度訪れておくだけで後からストリートビューのような楽しみ方が出来てしまうわけだ。

 もしかするとマップスキルのレベルが更に上がれば、それこそ本当に現実のそれと見紛うほどの再現率になったりするかも知れない。

 現在は灰色の、無機質な立体モデルとして3Dマップを表示できる程度であり、ぶっちゃけすごく見やすいってわけではない。

 地形把握にはとても役立つし、カメラも思っただけで自由に動かせるから不便はないのだけれど、如何せん色も質感も無いものだから、無着色モデルを鑑賞しているような非常に味気ない感じではあるわけで。

 それを思えば、マップスキルのレベリングにも力を入れるべきかも知れない。


 英雄オタクの集う街、という事前のイメージに反すること無く、ギルドへ向かう道の途中に本屋さんらしきお店をチラホラと見かけることが出来た。

 更には劇場も多いらしく、宣伝看板もまた多く目にかかる。

 なんともワクワクする街である、という印象を強く受けた。

 と、そうこうしている間に冒険者ギルドと思しき一際大きな建物が目につき、そこではたと私は考えた。


「ところで、引き継ぎノートってここで渡すの? それともバトリオの方で?」

「そうですね……バトリオの方は、あの調子ですと当分まともな依頼は受けられそうにありませんし、そもここに拠点を移したのですからこのギルドで担当に付いてくれる方へ渡せば良いと思いますよ」

「なるほど……でもその場合、バトリオの次に訪れた場所のギルドではどうするの?」

「……如何せん状況が特殊すぎますからね。いっそ、もう一冊引き継ぎノートを作ってもらうことも視野に入れるべきかも知れません」


 ソフィアさん曰く、適当なギルドにてそれらしい理由をでっち上げ、今持っている引き継ぎノートとは別のノートを新規で作成してもらって、それを今後訪れる先のギルドで用いるようにする。そして今持っている引き継ぎノートの初代は、ここのギルドの担当さんに預けたままにしておけば良いのではないか、と。

 これによって、移動先で適した依頼等の斡旋を受けることが出来るようになり、且つこのグランリィスのギルドでも、同じく実力に見合った斡旋が期待できるという、ワープにより生じる特殊な状況に対応した、上手なギルドの活用が出来るのではないか、とのこと。


「何だかややこしい話」

「要は、ここの担当受付嬢をキープしつつ、今後行く先々での担当にもお世話になろうという二股作戦というわけだな」

「クラウ様、もうちょっと言葉を選びましょうよ……」

「しかし、つまりはそういうことです」

「なるほどなぁ」


 クラウの喩えで言うなら、イクシス邸を拠点としている私たちにとって、本命となるのがここの担当受付嬢さん。

 そしてワープを駆使しながら、行く先々のギルドで担当に付いてくれる人が浮気相手……っていうか、現地妻? ってことになるわけだ。

 うん。酷い喩えである。


 でもまぁそういうことならば早速、本妻となる受付嬢さんの顔を拝みに行こうではないか。

 美人なお姉さんだったら嬉しいな。

 などと淡い期待を懐きながらギルドの入口を潜った、その瞬間であった。

 ドゴンッ! と、凄まじい衝突音が私たちの右側より響き、ギョッとしてとっさにそちらを確認してみれば、何と屈強な冒険者が壁にもたれ掛かって目を回しているところであった。

 どうやら今の激突音は、彼がすごい勢いで壁面へ衝突した拍子に起こったものだと察せられる。

 しかしならば、一体全体どうしてそんな事になっているのか。

 すわ喧嘩か乱闘騒ぎかとギルド内を見回してみれば、皆の注目は一人の女性のもとへ注がれていた。

 彼女は何と、カウンターの上に仁王立ちし、指をバキボキと鳴らしながら怒声を上げたのだ。


「俺の斡旋した依頼に文句があるってんなら、まずは力を示して見せな! 話はそれからだろうが! ああ?!」


 その人は、見事なほどのモデル体型であり、その顔も美しく整っている紛うことなき美人なお姉さんだった。

 ただ、纏っているそのオーラたるや、ヤンキーのそれである。

 一目見て、ヤバい人だと分かった。オタクで陰キャでボッチ気味の私とは、決して相容れないタイプの種族。その気配を、私は確かに彼女から感じ取ったのである。

 そしてお姉さんを見る他の冒険者の視線もまた、畏怖を存分に滲ませたものであった。


 私たちは素早くアイコンタクトでもって、とりあえずあのお姉さんにはなるべく関わらないようにしようと、そう示し合わせたのだけれど。

 しかし彼女だけはそんなアイコンタクト会議に参加せず、あまつさえ件のお姉さんへと歩み寄っていったのだ。

 そう、クラウである。

 彼女は無防備にもお姉さんのもとまで寄っていくなり、早速声を掛けたのだ。


「相変わらずみたいだな、シトラス姉さん」

「? あんたは……まさか、クラウか!?」


 あ。

 先程までの剣呑な雰囲気はどこへやら。

 再会を懐かしむようなクラウと、おっかないお姉さんことシトラスさんとやら。名前は可愛らしいのに、その口調たるやクラウとはまた違った路線での男口調である。

 そして、どう見たって二人は昔馴染みと言った有様であり、この事から私たちはこの後の展開を悟って、一様に遠い目をしたのだった。

 とりあえず、そこで伸びてる彼のようにならぬよう十分気をつけようとだけ、私はそっと心に決めたのである。

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