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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二三一話 長いようで短い旅路

 何やかんやであれよあれよと休養日は過ぎ去った。

 結局オレ姉への手紙と魔道具に関しては、彼女の姉弟子で防具職人であるハイレさんに預けることに。

 彼女のところにも挨拶に行こうと思っていたので、もののついでというやつだ。

 まぁ、相変わらずのハイレさん無双だったので、なかなかに心労を被ることとなったのは当然のこととして。

 特に、彼女の工房を初めて訪れたオルカ、ココロちゃん、そしてソフィアさんは格好の餌食である。

 何と言うか、眼福でした。


 その後はそれぞれ、個人的にお世話になった人なんかのもとへ出向く中、私と言えば他のこれと言った友人知人もいないため、一人寂しく買い出し担当である。

 まぁ買い出しと言っても、ワープがある以上物資不足でピンチに陥る、なんて状況もそうそう訪れないため、適当に減ってきた備品の補充をした程度である。

 ただ、薬屋のおばあちゃん謹製のMP回復薬に関しては、ものすごくお世話になっていることもありたっぷり買い足しておいた。

 おばあちゃんのところへは多分、今後もちょいちょい遊びに戻ってくると思う。

 何と言うか、この世界におけるおばあちゃん家と言ったらもう、あのお店をおいて他にない感じがするのだ。


 それから後は、相変わらず魔道具作りに勤しんだ。

 通信機づくりで、自分の未熟さというのを再確認したからね。他に用事もないのに呆けている場合ではないんだ。

 オレ姉が修行して、私の専用最強武器を最高の出来に仕上げようとしてくれているように、そこには私の技術も組み込まれることになっている。

 なればこそ、私もしっかりと修行して、オレ姉の理想に応えられるよう技と知識を蓄えておかなくては。


 という具合に、私の場合休みの三日中、初日以外は割と代わり映えのしない過ごし方をしたのだった。

 オルカたちはちゃんと挨拶も済み、ソフィアさんに至っては今の住まいを解約する手続きだとか、他にもあれこれと一番忙しそうにしていた。

 その甲斐あって、予定通り休み明けには皆出発準備を調え、宿で朝食を摂った後、お世話になった宿の女将さんたちにしっかりとお礼を言ってから出発したのである。

 長期滞在していれば、それは勿論宿で働いているスタッフとも毎日顔を合わせるし、言葉も交わす。

 女将さんの「またいつでも泊まりにおいで」という言葉には、流石に涙を禁じ得なかった。



 ★



 時刻は午前九時半。

 街の西門を出た私たちは、例によって念のために人目のつかない場所まで歩き向かっていた。

 街を出る前には、最後にギルドへ寄って引き継ぎノートをアイシャさんから受け取ってきたけれど、ソフィアさんとアイシャさんは付き合いも長いことから、短いながらも印象深い別れの挨拶が交わされ、思わず感情移入してしまった私の涙腺は大ダメージを被ることに。っていうか当人たちより泣いてしまった。お恥ずかしいったらない。

 今後旅をしていくに当たり、行く先々でこんな感じじゃ拙いので、次からはあんまり一つ所に長居しないようにしようと決めたほどである。

 それはさておき、歩きながら交わされる会話の内容はと言えば、当然これから向かうバトリオに関するものだった。


「バトリオは、アルカルドより北西の方角……マップで言うとこの辺りですね。まだ空白地帯ですが、マーカーを立てておけば大丈夫でしょう」

「昔は空白地帯にマーカーを立てることなんて出来なかったのに、いつから可能になったんだろうね」

「ほほぅ、そうなんですね! ではその辺りを深く掘り下げて」

「バ、バトリオはコロシアム以外には何か無いんですか? 特産品とか、名物とか!」


 危うく長話に捕まりそうだったところを、ココロちゃんのナイスアシストに救われた。

 ソフィアさんは少し残念そうにしながらも、いつの間に仕入れたのかガイドブックらしき本を広げて情報を論っていく。


「ご飯ですと、お肉料理が美味しいらしいです。それと見世物も盛んで、路上パフォーマンスなどもよく見られるみたいですね」

「賑やかそうな都なのだな。楽しみだ」

「でも、人が集まるということは注意も必要」

「ですね。ミコト様のことはしっかりとココロがお守りしますよ!」

「ありがとうココロちゃん。すっごく頼もしいよ」

「でへへへ、お任せください!」


 なんて話している内に、アルカルドもずいぶん小さく見えるようになった。

 油断すると早くも胸が締め付けられそうになるため、皆を促し長距離移動の準備を調えさせる。

 気分はさながら、上京する若人のようである。


「それじゃ、今回はココロ号の出番だね。ココロちゃん、行ける?」

「いつでも大丈夫です! なんでしたら、新しく得た【鬼呼転身】の力で超加速も出来ますよ!」

「だがそのスキル、消耗がやたら厳しかったはずだろう?」

「そういうのは、私の見ているところで使用してください」

「むしろゆっくり行ったほうが、ミコトと長く過ごせるんじゃない?」

「はうあ!! 流石オルカ様、天才です……!」


 なんてやり取りをしながら、いつものようにチラホラと自らをストレージへ収納していく面々。

 やがて私とココロちゃん以外の皆の姿がストレージ内へと消えると、私たちも移動準備を調え始める。

 以前鏡のダンジョンへ向かう際経験済みということもあって、私にもココロちゃんにも遠慮は多少あれど躊躇いはなく。

 小さな体に見合わない、大樹が如き揺るがぬ体幹を持つココロちゃん。その背にお邪魔しますと負ぶされば、すぐさま彼女諸共に重力魔法で重さを一気に軽減。

 文字通り羽のように軽い身体となったのを確認したココロちゃんは、一言「それでは、上昇します」と宣言した後地面を蹴り、容易く雲の高さまで跳び上がったのだった。

 マップウィンドウを開いて、ソフィアさんの立ててくれたマーカーを確認すると、いよいよ移動開始である。


「それではミコト様、ココロ号発進です! 舌を噛まないようお気をつけくださいね!」

「らじゃー」

「では、発進!」


 そうノリノリで宣言し、宙を蹴るココロちゃん。

 すると何もないそこへ生じたのは、私がステップの魔法にて生成した刹那の足場。

 ココロちゃんどころか、勇者イクシスさんの蹴りでも揺るがぬ頑丈なそれは、彼女の脚力を高純度の推進力へ変換してくれた。

 その甲斐あって、私たちはたちまち音速の壁さえ越えて空を横切っていく。

 風圧無効に重力負荷無効など、様々な魔法を駆使して快適な飛翔を演出するが、ココロちゃんはそれに気づいた様子もなく気持ちよさそうに空を泳ぎ、その絶景をたっぷりと堪能していた。


「はぁ、やっぱりミコト様との空の旅は至高ですー」

「目的地までそこそこ掛かりそうだから、疲れたら無理せず休憩を挟もうね」

「心得ました。むしろミコト様こそ、お疲れでしたら遠慮なさらずいつでも言ってくださいね!」


 というわけで、イクシスさんの時でもこんなに長くは飛ばなかったと感じるほどに、空の旅はかつて無いくらいの長時間に渡ったのだった。

 途中お昼を食べたり、トイレ休憩を挟むなどして、ようやっと目的地を視認したのは何と、空に薄っすら紅が差し始めた頃のことであった。

 アルカルドよりも大規模なそれは、立派な外壁に囲まれた都であった。

 やっぱり街や都市を外界と隔てる壁というのは、この世界において重要なもののようで。モンスターと人のテリトリーを隔てる役割なんかを持っているとか何とか、以前本で読んだ気がする。

 思い返すと小さな村にも、壁というほど立派なものではないにせよ、柵のようなものでしっかり囲われていたっけ。


「ミコト様、この辺りで降りましょうか」

「そうだね。これ以上近づくと、誰かに見つかりかねないもんね」


 バトリオの都を遠目に見てはしゃいでいたココロちゃんから、打って変わって齎された冷静な提案に同意し、重力魔法を調整しながらゆっくりと降下を始める。

 休憩時にもやったことなので、慣れた調子でスルスルと地上へと降りていく。

 都へ続く街道には、馬車やそれを護衛する冒険者の姿というのも頻繁に見つけることが出来た。中にはキャラバンと思しき大所帯も見られたほどだ。

 闘技祭とやらを目当てに人が集まっているのかも知れない。

 そんな彼らに、空から人が降りてくるところなんて見つかるわけには行かないので、十分に人気のない場所を選んで着地した私たち。

 そうして改めて周囲に誰もいないことをマップや気配で確かめた後、頷きあって早速オルカたちをストレージより取り出す。

 私とココロちゃんにとっては結構な長時間の移動だったけれど、彼女たちにしてみれば一瞬のことである。

 故にこそ日の傾きを認めるなり、ギョッとする三人。


「今回は随分と掛かったのだな。何だか休日に寝過ごしたような、変な気分だぞ」

「ミコト、ココロ、お疲れ様。問題はなかった?」

「はいオルカ様。ミコト様とのふたり旅、最高でした……!!」

「安全に配慮した移動だったからね、トラブルも特に無かったよ」

「それは何より」

「うー、羨ましいですね……やはり私も飛びたかったです」

「はいはい、ソフィアさんはまた今度ね」


 そんなこんなで、時差ボケもどきを体感している皆とともに、早速バトリオへ向けて歩き始めた私たち。

 しかしそこでふと思う。


「もしかしてだけど、私たちってちょっと元気すぎたりしないかな? 普通だったらもっと、長旅の疲れとかでみんなクタクタになってるはずだよね?」

「確かに。それは盲点だったかも」

「言われてみると、私も街から街へ移動する際は疲れも溜まっていたな」

「ココロもそうですね。そこにお気づきになるとは、流石ミコト様です!」

「では、疲れた演技でもしますか? 身なりも多少くたびれていないと不自然かもしれません」


 ソフィアさんの言に、思わず黙る私たち。

 というのも、私たちは壊滅的に嘘が下手なのだ。したがって演技もお察しのとおりである。

 ソフィアさんは表情筋死にがちな上、対人スキルが高いためまだ良いとしても。

 それに比べて私なんて仮面で顔を隠しているのに、誤魔化しは常に看破される有様。

 正直、変に演技をしたほうが寧ろ怪しまれるに違いない。

 それに身なりを敢えてボロボロにすると言ったって、なまじソフィアさんが【修復】なるスキルを持っているせいと言うか、おかげと言うか。そのために持ってる着替えはどれもほつれ一つ無い状態である。無論、装備もだ。

 わざと汚すというのも気が引けるし、なんとも地味に面倒な話である。

 皆がむぅと唸る中、ならばと私から言い訳を一つ提示してみる。


「それならさ、都に入る前に着替えたってことにすれば良いんじゃない? 幸い私たちは女性PTなんだし、ボロボロな格好で人目に触れやすい場所にはいるのを嫌ったんだってことにすれば」

「なるほど。それならそこまで違和感はないかも」

「流石ミコト様です! 言い訳の天才です!」

「……あ、ありがとう」


 ごめん、褒められてる気がしないです。

 ともあれ話は決まり、それならばとソフィアさんのはからいで、急遽疲労メイクを施すことになった。

 身なりは誤魔化せても、顔に浮かぶ疲れまでは誤魔化せない。という体で演出を試みるそうだ。

 何と言うか、芸が細かい。

 っていうか、思い返すと私を含めてみんな、お化粧には疎い。ソフィアさん以外、かなり疎い。

 斯くいうソフィアさんも、それ程達者というわけではないらしく、そもそも論で言えばこの世界基準でも美人揃いの鏡花水月に、そこまでしっかりしたお化粧だなんてものは必要がないとさえ言えた。

 元女子高生だった私も、なまじ見てくれが良いことが寧ろコンプレックスだったという経緯があるため、そんな自分を飾ってどうするんだ! という理屈からお化粧なんて言うものには触れてこなかった。すっぴん女子である。


 というわけで、四人揃ってドキドキしながらソフィアさんのメイクを受ける私たち。

 その内容がむしろ、疲れを演出する為のものだというのだから、どうやら余程お化粧というものには縁がないみたいだ。

 っていうかそれ以前に。


「くっ……すみませんミコトさん。いくら何でも、そのお顔を汚すことなど私にはできません……!!」

「ええぇ……」


 仮面を外して待機する私に、結局告げられた言葉はまさかの「仮面を着けたままにしておけば大丈夫です」というものだった。

 この中で一番お化粧に縁がないのは、どうやら私で決まりらしい。

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