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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二三〇話 いつぞやの

 街を離れるということで、一先ずPT全員で冒険者ギルドまでやってきた私たち。

 お世話になった人たちへの挨拶というのなら、一先ずここは外せない。

 とは言っても、私が知ってるのはアイシャさんや買取おじさん、それに飲食スペースのお姉さんくらいだろうか。

 我ながら、交友関係が非常に狭いことに今更思い至ってしまった。

 他方で他のみんなはと言えば、早速それぞれが色んな人に声をかけて回っている。

 時刻はまだ朝の九時を少し回ったくらい。依頼を受けにカウンターに並ぶ冒険者も多く、彼女らの顔見知りもそれなりにいるようで。


「これは、ちょっと時間が掛かりそうだな。アイシャさんも忙しそうにしてるし」


 何だか急にボッチをこじらせてしまった私は、所在なさを感じながら自然とロビーの隅っこに。

 ああ、隅っこってなんでこんなに落ち着くんだろうな……。

 なんて朝っぱらから黄昏れていると、しかし意外なことに、こんな私へ声を掛けてくる者があった。


「あ、ミコトさん! ちわっす! どうしたんですかこんな隅っこで?」

「! ……えっと、どちら様でしたっけ?」

「オ、オレですよ! ほら、”元気なドラゴン”の!」

「ああ、いつぞやの!」


 元気なドラゴン。

 そのなんとも間の抜けた名前が印象的な彼らは、かつて私がダンジョン内で助けたことのある冒険者PTだ。

 私に話しかけてきたこの人は、確かリーダーの……えー……ダメだ。名前がさっぱり出てこない。

 実は彼らを助けたしばらく後、お礼にと結構な額のお金を差し出されたのだけれど、要りませんって断ったり、そのことで一悶着あったりっていう、ちょっとしたエピソードがあったりする。

 それ以来、何故か敬語+さん付けされるようになってしまい、たまにこうして声を掛けてくるようになった次第だ。

 彼の背後に控える他三人のメンバーも、恐縮した様子でこちらを見ている。


「ところで、今日は他の皆さんと一緒じゃないんすか?」

「あー、なんと言いますか。実は……」


 一応顔見知りであるわけだし、他に話し相手もいないため、この街を離れることに加え、私だけ交友関係が狭いことなんかをぼやきがてら掻い摘んで説明した。

 すると四人は一様に、複雑な表情を顔面に貼り付けたが、しかし結局私たちが街を出るという点に一番興味を惹かれたらしい。


「ど、どっか行っちゃうんすかミコトさん!?」

「まだちゃんとお礼できてないのに、急っすよ!」

「そうっすそうっす! 水臭いっす!」

「そうだ、それなら今夜はパーッとやりませんか? 勿論私たちのおごりっすよ!」

「なんで喋り方みんな一緒なの……」


 曰く、冒険者なんてやってるもんだから敬語が苦手なのだそうで。

 元気なドラゴンは男二人に女二人というメンバー構成なのに、私に対する喋り方がみんなこんな感じで実に紛らわしい。そりゃ記憶にもあんまり残らないわけだ。

 ともあれ、有り難いお誘いではあるのだけれど、丁重にお断りさせていただくことに。


「お気持ちだけで十分なので」

「そんなことおっしゃらずに、是非!」

「そっすそっす!」

「そんなつれないこと言わないでくださいっすミコトさん!」

「食べ放題、飲み放題っすよ!」


 などと、私が隅っこにいるのを良いことにグイグイ来る元気なドラゴンの面々。

 すると。


「ミコトから離れて」

「「「「ひっ!」」」」


 一体どこから現れたのか、ぬっと私と彼らの間に出現したのはオルカだった。

 流石である。私が困っていると、彼女は颯爽と現れるのだ。ちょっとだけ出会いのワンシーンが脳裏を過ぎる。

 そんな私を他所に、元気なドラゴンを静かに威嚇する彼女。どうやらナンパかイチャモンの類いだと勘違いしているらしい。

 だが、そんなオルカに対しても彼らは腰が低い。


「「「「お、オルカさんちっす! お疲れさまです!」」」」

「……誰?」


 まぁ、そうなるか。私もほぼ忘れてたんだし、私より尚彼らとの接点が薄いオルカが首を傾げるのも無理はない。

 と、そんなやり取りをしていると。


「あれ、元気なドラゴンさんじゃないですか」

「「「「! コ、ココロさんちっす! お疲れさまです!」」」」


 オルカに続いて、私が絡まれているのに気づいたココロちゃんがやってきた。

 が、私たちと違って彼女は元気なドラゴンをちゃんと知っているらしい。見た感じ、普通に面識があるようだ。


「それで、どうかされたんですか?」

「あー、実は……」


 イマイチ状況の飲み込めていないオルカとココロちゃんに、簡単なあらましを説明する。

 と言ってもなんてことはない、ぼっちの私に気づいて彼らが声を掛けてきてくれたと言うだけのことなのだけれど。

 すると得心がいったのか、肩の力を抜くオルカと、変に恐縮する元気なドラゴン。

 そしてその場は、ココロちゃんがさらりと丸く収めてくれた。


「ミコト様はお忙しいのです。敬うその気持ちは尊いものですけれど、それを押し付けてはなりません」

「お、おっす。そうですよね、出発を控えているのなら準備もあるでしょうし」

「配慮が足りませんでした。すんません!」

「お礼はまた、次の機会にしゃす!」

「次こそは受け取ってもらえるような何かを考えておくっす!」


 ということで、ヘコっと一礼すると去っていく彼ら。

 ココロちゃんはニコニコしながらそれを見届けていたが、どうにも嫌な予感がする。


「ココロちゃん、あの人たちと知り合いなの?」

「はい! 以前、彼らがミコト様に助けられたという話を小耳に挟みまして、良い機会でしたからミコト様の素晴らしさをしっかり説いておきました! あ、勿論伏せるべき情報は伏せていますから心配ご無用ですよ!」

「……なるほど。元凶がここにいた」

「さすが野良シスターと言われるだけはあるってことか……」


 もしかすると他にも、ココロちゃんによる布教活動の影響を受けている人がいるかも知れない。

 そう言えばBランクに上がってから悪目立ちするようになったと、周囲の目線が一層気になり始めたわけだけど、もしかするとその中に信者もどきが混ざっていないとも限らない。

 う。何だかゾゾッと背筋に悪寒が。


 とまぁ、そんなこともありつつ、ギルドでの挨拶は一通り済んだ。カウンターが空いた頃を見計らってアイシャさんにも声を掛けた。

 その際、出発はいつなのかと問われたけれど、今日含めて準備に三日設けてあり、特に支障なければその後すぐにでも発つことになるだろう。

 引き継ぎノートに関しては、それまでには用意しておくから取りに来るようにと言われた。

 それを聞き、思い至る。このギルドを訪れる機会も、ほぼ無くなってしまうのだなと。

 そう思えば、急に寂しさが胸にこみ上げてきて、ちょっと涙が出そうになった。


 ギルドを後にした私たちが次に向かったのは、オレ姉のお店である。

 まぁ、店主は不在なわけだけれど。

 バッチリ戸締まりのなされたお店の前で、私はストレージからスチャッとレターセットを取り出す。

 それを見てギョッとするソフィアさん。


「え、まさかこれから書くんですか?」

「そのつもりです。何なら、オレ姉と連絡がつきにくいのがずっとネックだったので、通信用の魔道具も作って置いておこうかなと」

「そういうのは前もって準備しておくものじゃないのか?」

「し、修行が忙しくて忘れてたんだよ……」


 いつの間にかステータスのPT欄にオレ姉の名前はなくなっていた。イクシスさんは未だにあるのに、不思議である。

 そのため彼女には通話が使えないのだ。だからこその魔道具というわけである。


 一先ずお店の裏庭を借りてテーブルを取り出し、そこでさっさと手紙を書き始める私。

 こういうのって、人目があるとなかなか進まないんだよね。平気な人もいるんだろうけど、私は気になるタイプである。

 それでもあまり時間を掛けるのも何なので、遮音の魔法なんかを駆使して一気に集中。ズババっと書き上げた。

 内容は、アルカルドを出ることと、たまに様子を見に来ること。あと、併せて魔道具を置いておくことなどを記した。

 手紙が書き上がったなら、次は魔道具づくりである。

 ぱっぱと材料をテーブルに並べると、ソフィアさんが不安そうにこちらを見てくる。


「ミコトさん、それ結構な作業になるのでは……」

「いえ、師匠たちの手伝いで、似たものを作りましたからね。すぐ出来ますよ」

「ふっふっふ、これを機にミコト様の早業をその目に焼き付けると良いのです!」

「何故ココロが得意げなんだ……」


 手紙は人目で気が散っちゃうけど、魔道具作りなら別だ。

 作業に手を付ける前に、一度作業工程を頭の中で組み上げ、そして通信機作りに取り掛かった。

 出来た。


「え……ええ!?」

「何度見てもわけが分からない」


 時間にして五秒くらいかな。ロボ作りの反復練習で磨いた早業は、今や師匠たちをも驚かせるレベルだ。

 まぁ、早ければいいってものじゃないって注意されることもあるんだけど。

 ともかく、通信機はロボほど複雑なものでもないし、必要以上にクオリティにこだわらないのならばまぁ、こんなものだろう。

 テーブル上にあった素材アイテムは見事に形を変え、私の手元には一対のトランシーバーに似た通話機と、着信を知らせるための首飾りがあった。

 師匠たちならもっとスマートで多機能なものに仕上げられるのだろうけれど、私が未熟なことと、今回はお手軽に済ませたこともあって鉄アレイくらいのサイズになってしまった。重さはそんなに無いけど。

 しかし如何せん嵩張るため、常に身につけておくというわけにも行かないだろう。

 そこで別途用意したのが、首飾り型の受信通知機だ。頑丈さを重視して作成した、着信履歴も残せるすぐれものだ。

 これならば身につけておいても問題ないし、通知があればすぐさまストレージから通話機を取り出し応答できる。

 まぁ、スマホなんかに比べたら酷く原始的なものだけどね。

 しかし、この世界の一般的な魔道具基準で言ったらまずまずの品なのではないかと思う。

 少なくとも、オレ姉からの連絡を受ける分には問題ないはず。あと、防犯対策もバッチリ仕込んである。

 私と面識のない人が使おうとすると、爆発を起こした上に、付与したコマンドの尽くが消去されるというトラップを組み込んでおいたので、万が一誰かに盗まれるようなことがあっても技術漏洩なんてことにはならないはずだ。


 動作確認までちゃっちゃと済ませると、後は手紙と一緒にこれを置いておくだけなのだが。

 そこで一つの問題が浮上した。


「これ、どこに置いておこうか……」


 ああ、皆の視線が痛い。

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[良い点] オルカかっこいいし可愛いし最高
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