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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二二三話 勇者の意外なルーツ

 遡ること少し前。謎のアイコン調査の準備を調えていた頃のことだ。

 おもちゃ屋さんに戻った私はモチャコたちへ、ハイエルフの女性が近々仲間になるかも知れない、という旨を告げていた。

 すると彼女たちは大いに驚き、それならば一度会ってみたいと言い始めたのである。

 姿を見ることも触れることも出来ないオルカたちは仕方ないにしても、ハイエルフならば問題なく自分たちとコミュニケーションが取れるはずであり、それならばミコトの師匠として、信頼に足る相手かを見極めたいとのことだった。

 こうした姿を見ると、師匠たちはいつの間にか私の保護者的な立ち位置に収まっているのかも知れないと、少しくすぐったい気持ちになった。


 また、私個人としてもこれを機にあわよくば、ソフィアさんに魔道具作りの協力を取り付けられたら、なんて打算がないわけでもない。

 まぁけれど、その点に関しては望み薄かなとも思ってはいる。

 何せ、ハイエルフの扱う技術の基礎は、どうやら『他者の魔力に干渉する』というものらしいのだ。

 しかもソフィアさんは冒険者ということで、物作りとしての運用ではなく、戦闘特化の運用が得意なようだし。

 仮に彼女が協力的な姿勢を見せたとしても、肝心の技術を彼女が持っていない、という可能性は大いにある。

 だから、その点は仕方がないとし、伝聞でもいいのでハイエルフにそうした物作りに使えそうな何かがあるか、という話が聞ければいいな、と言った程度の期待を懐くにとどめている。


 と、そんな私の思惑を他所に、私の師匠が妖精であるということすら知らないイクシスさんとソフィアさんは共にきょとん顔。

 当事者であるソフィアさんにはもとより、子どもたちにとって憧れの存在である勇者にも、師匠たち妖精のことは教えて問題ない、という事前の言質もいただいているため、私は早速二人へそうした事情をあらかた語って聞かせた。

 すると当然と言うべきか、二人とも大きな驚きを見せたのである。


「ま、まさか妖精が実在したとは……というか、ミコトちゃんがその弟子……」

「ミコトさんのロボ? でしたか。アレを見てまさかとは思っていましたが、驚きました。この私をスキル以外のことで驚かせるとは、流石としか言いようがありませんね……!」

「えっとそれで、無いとは思うけど万が一、このことが技術の悪用なんかに結びつくと非常に困るので、師匠たちの正体については内緒でお願いします」

「あ、ああ。心得た」

「無論です」


 そうはっきりと頷く二人に小さく息をつくと、改めてソフィアさんへと向き直る。


「それでソフィアさん、会ってくれます?」

「勿論です。鏡花水月に入るためというのであれば是非もありませんし、何よりこのような、ご両親への挨拶めいたイベントを前に逃げ出しては、妻の名折れというものでしょう」

「そのネタ、いよいよ誰も否定しなくなりましたね」

「言い続けたら勝ちなんです」

「ココロはまだ負けてませんから!」


 などという茶番はさておき。

 他方で急にソワソワし始めたイクシスさん。

 どうしたのかと水を向けてみれば、遠慮がちに彼女は言う。


「あの、その、私も妖精さんに会ってみたいのだが……というか、会ってお礼が言いたいというか何というか……」


 曰く、実は幼い頃妖精におもちゃを貰ったことがあるのだと彼女は語った。

 その相手がモチャコたちかは分からないけれど、仮にそうならなかなかの奇縁ではないだろうか。

 何せ子どもたちが憧れる勇者という存在は、今やモチャコたちにとってもヒーローのようなものである。

 そのヒーロー当人が、幼い頃に体験した夢とも現ともつかぬ、けれど印象深い思い出として未だに大事にしている妖精との出会い。

 それは彼女が旅に出る以前の、貧しいなれど幸せだった頃の出来事だったと。

 残念ながら貰ったおもちゃは、故郷がモンスターに襲われた際、家と一緒に燃えてしまったらしいが。

 それでも未だに、その思い出だけは胸の内に大切にしまわれているのだと。


 そんなエピソードを聞かされ、私たちは勇者の意外な過去に驚きながらも、何とも気まずく視線を彷徨わせた。

 イクシスさんはそれに気づくなり、ダメなのかと不安げに問うてくる。

 私は已む無く、彼女へと事情を語った。


「イクシスさん、妖精は子供にしか見えないって話は聞いたことあるかな……?」

「あ、ああ……え、まさか」

「うん。それって本当のことなんだ。ある程度年齢を重ねた人間は、妖精と波長だか何だかがズレてしまうらしくって、やがて見ることも触れることも出来なくなるんだって」

「だ、だがミコトちゃんは見えるのだろう?」

「だって私、まだ〇歳だし」

「……そう言えば、そうだったな……」


 何とも言えない表情で虚空を見つめるイクシスさん。その胸中には、諦念めいた感情が漂っていた。

 気まずいです。

 と、不意にその視線がクラウたちの方を向いた。羨ましげである。

 何を言わんとしているのか察した彼女等は、残念だが自分たちも見えないのだと慌てて申し開いた。するといよいよガックリ肩を落とすイクシスさん。


「まぁまぁ、なにか伝言とかあれば伝えるからさ、そんなに落ち込まないで」

「ああ……では、おもちゃをなくしてしまったことへの謝罪と、大切な思い出をくれたことへの感謝を伝えておいてくれ」

「うん。任された」


 残念そうに微笑む彼女。

 そこへふと、クラウが問うた。


「ちなみに母上は、どんなおもちゃを貰ったんだ?」

「あ。それが分かれば師匠たちも何か覚えてるかも知れないね」


 おもちゃ屋さんは一見ファンシーで、夢のある空間なのだけれど、その裏側は意外としっかりしているのだ。

 在庫管理がどうとか、どんな子に何をあげただとか、そうした記録もきちんとつけているらしい。

 なので、イクシスさんが貰ったというおもちゃがどんなものか分かったなら、師匠たちも彼女のことを思い出してくれるかも知れないというものである。

 それを受け、イクシスさんは過去を懐かしむように答えた。


「ぬいぐるみのエッくんだ。本名はエクスカリバーという」

「ううむ、良いネーミングだ。母上が名付けたのか?」

「勿論だ。幼い私の親友だったよ。よく剣の稽古に付き合ってくれてな……思えば私が旅に出て生き抜けたのは、エッくんと切磋琢磨して身につけた剣術のおかげだった」

「とんでもないエピソード出てきた!」

「わ、私も初耳なのだが!」

「妖精のことは、他者に話すべからずというからな。それ以前に、ぬいぐるみが動いて剣の稽古相手になってくれていただなんて、流石に語って聞かせられるような昔語りではないだろう。こんな機会でもなければ、な」


 ひょんなことから、衝撃の事実が明らかとなった。

 彼の勇者イクシスの原点を築いたのは、妖精から貰った動くぬいぐるみであったと。

 まさか師匠たちのおもちゃが、巡り巡って大英雄のルーツとなっていただなんて。何が幸いするかわからないとは、正にこのことである。

驚きの情報に皆が騒然とする中、そういうことであれば尚更師匠たちに、このことも含めてしっかり伝えなければと思いを改めた。

 そして、ならば早速向かおうかとソフィアさんに切り出す。

 しかし彼女の表情は珍しく、些かの曇りを見せており。


「ミコトさん、無理はよくありません。マルチプレイのスキルを行使したうえ、あれだけの激戦を繰り広げたんです。今日は無理せず、体を休めるべきです」

「確かに、ソフィアの言う通り。私たちだってそれなりに疲れてるんだから、ミコトはこれ以上ウロウロするべきじゃない」

「そうだぞミコト。先日プレイヤー操作の反動で痛い目を見たソフィア殿が言うのだから、間違いない」

「そ、その節はご迷惑をお掛けしました……」


 クラウの茶化しに、気まずそうにするソフィアさん。

 しかし彼女たちの言うことも尤もで、確かに先日のアレほどではないにせよ、結構反動は来ている。

 皆がそう言ってくれるのであれば、今日のところはお言葉に甘えさせてもらおうというもの。

 ソフィアさんとモチャコたちとの顔合わせは、また明日、ソフィアさんの仕事終わりにでもということになった。


 そうしてその日は、意見交換会もほどほどに切り上げ、各々休息を取ることになったのだった。

 とは言えワープが使える私がへばっているのだから、夜までイクシス邸でお世話になったわけだけれど。



 ★



 何やかんやで次の日。時刻はやがて夜の八時を回ろうという頃。

 少しずつ日暮れが早く訪れるようになってきた昨今。

 とっくに空は闇に覆われており、私は一人仮面の力で気配を殺し、闇夜に紛れてソフィアさんの仕事終わりを待っていた。

 そして、ようやっと出てきた彼女の背後から声をかける。


「ソフィアさ」

「あひゃぁっ!?」


 どうやら余程驚いたらしく、危うく反射的に放とうとした閃断の餌食になるところだった。

 テレポートがなければ、首を飛ばされていたところである。むしろ私の方こそビックリなんですけど!


「わ、私ですって! 殺さないで!」

「……な、なんですか。ミコトさんでしたか。驚かさないでください」

「そんなつもりじゃなかったんですけど……」


 彼女曰く、ハイエルフの特性である『他者の魔力に干渉する』という能力の特性上、普通の人間よりもずっと魔力の気配に敏感であり、たとえ誰かが闇夜に潜んでいたところで支障なく把握できるのだという。

 ところが仮面の効果か、はたまた無意識にか、どうやら私は魔力の気配さえコントロールして、目立たぬよう潜んでいたらしく。

 その結果、突然声を掛けられて驚くという、普段なら決して起こり得ないビックリ体験をしてしまったらしい。

 しかも普段なら起こり得ないということは、それだけ免疫がないということでもある。

 結果、素っ頓狂な可愛らしい悲鳴をあげてしまったというわけだ。

 それに伴って放たれたスキルは、とても可愛らしいとは縁遠いものだったけれど……。


「ミコトさんか、オルカさんくらいのものですよ。私をそんなふうに驚かすことの出来る人は」

「おお。私の隠形、結構評価高いんですね。ちょっと嬉しいです」

「……ところで、お一人なんですか?」

「ああ、はい。何せ師匠たちのところに行くんですからね、オルカたちはついてきても見えませんし」

「ミコトさんと、二人きり……ごくり」

「ごくりじゃないが」


 また変な茶番を始めそうな彼女を伴い、私はさっさとおもちゃ屋さんへ飛んだのだった。

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