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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二一八話 仮面の化け物

 ソフィアさんの放った閃断は、確かに完璧なタイミングで仮面の化け物を捉えたはずだった。

 けれど、それはさながらコマ落ちのように、奴の姿は何の前触れも、予備動作の一つさえ無く忽然と消失したのである。

 かと思えばそれと同時、ソフィアさんの背後にパッと現れた奴は何ら気迫の一つも込めず、無機質な動作でもってその刃を閃かせたのである。

 だが。


『読めていたさ!』

「ぐぬっ!」


 すかさず、彼女の背と怪物の間に割って入ったのは、クラウだった。

 他でもない、ソフィアさんが明らかにした奴のスキル。その中に、私は一際警戒するべきものを見つけていたのだ。

 その名を【テレポート】と言い、名前からしてエスパー御用達のあれだと確信した。

 そして恐らく、ワープから派生したスキルなんじゃないかという予想もあった。

 私は持っていないが、もし予想が正しければ、ワープ同様に予備動作もなく転移するスキルだと思われる。それも多分、近距離専用の転移手段だ。

 そうでなければ、わざわざワープと別のスキルとして存在している理由もないだろうから。


 予想は当たり、仮面の化け物は後衛であるソフィアさんの背後へ突如として姿を現したのである。

 それを見越していればこそ、オルカが追撃を放った瞬間から既にクラウは動いていた。

 結果、まさに間一髪。クラウの盾は見事ソフィアさんをその凶刃より守護せしめたのだ。

 しかしその一撃はやはり重く、ずしりと彼女の全身に強烈な荷重が伸し掛かる。

 更には、攻撃を防がれたことへの驚きも動揺も、奴には一切生じない。

 なればこそ、先程同様にガード崩しが飛んでくる。


 けれど、そうはさせじと飛来するオルカの矢。

 更にはココロちゃんも動いており、クラウの背中を警戒して駆け出していた。

 一方でそのココロちゃんの背はソフィアさんが見ており、テレポートで現れたなら、次こそ閃断を命中させるだろう。

 ならば無防備なのはオルカだが、しかし彼女に関しては本物なのか分身なのか、易々と見分けられるはずもなく。見分けたところでニンジャを捉えられはしないだろう。

 即席ながら、皆が背後をかばい合うことでテレポートの脅威へ対策を打ったのである。


 対する仮面の化け物はと言えば、クラウへのガード崩しを中断。パッとその場より、再度姿を消したのだった。

 瞬間。


『ココロちゃん!』

「あい!」


 マルチプレイ時、私のステータスは皆に分配され、スキルはシェアされる。

 それは確かに強力な効果だ。自慢じゃないが、私のスキルはどれも相当に使えるものばかりだからね。

 けれど、ならばその間スキル主である私はどうなっているのかと言えば、意識だけの存在となっている。

 動かすべき体はなく、ただみんなと感覚を共有しているだけの存在となるわけだ。

 けれど、かと言って何も出来ないのかと言えば、そういうわけでもない。

 実はこの状態にあっても、魔法なら私の意思で使えることが最近分かった。もしかするとイクシスさんとの試合を経験したこともあり、スキルレベルが上がったのかも知れないが。

 たとえみんながそれぞれ、とても手が離せないくらい集中した状態にあったとしても、フリーの私は自由に魔法を駆使し、状況に介入できるのである。


 だから今回も。

 ココロちゃんの正面に、ポッカリと開いた空間の穴。私の用いたマジックアーツ、【スペースゲート】によるものだ。

 それが生じたと同時、彼女の助走をつけた拳が勢いよく突き出され、穴向こうのそれを殴りつけたのである。

 瞬間、私たちの頭上高くにて凄まじい破砕音が鳴り響き、見上げれば奴が頭部を失いデタラメに回転しながら吹っ飛んでいるところだった。

 奴がテレポートで飛んだ先は、多くの生き物にとって死角である直上だったのだ。

 そこから何かしらの攻撃を狙っていたのだろう。けれど、そう来るだろうと予測していた私は予め狙いを定めており、奴が飛んだ瞬間その仮面に覆われた顔面の直前にスペースゲートを開いた。

 そこを、ココロちゃんが殴り砕いたのである。


「綺麗に入った」

「手応え、ありです!」

「まだ気は抜くなよ!」

「ダメ押し、仕掛けます」


 慣性の赴くまま、弧を描くように空中を飛ぶ奴の身体。それがふと、バラバラに切断された。

 宣言通り、ソフィアさんの閃断がダメ押しがてら奴に襲いかかったのだ。

 結果、哀れ仮面の化け物は中空にてぶつ切りにされ、見るも無残な姿でやがて地面へボトボトと落下したのである。

 それから間もなく、それらの残骸は白い光に変わり、そして。


「! 待て。様子が変だぞ」

「光が、集まっていく……!」

「まさか、復活するのです!?」

「仕掛けます!」

『みんなも魔法で一斉攻撃!』


 残骸の解けた光はふわりと宙に浮かぶなり、急速に一点へ集まり始めた。

 それを再生の予兆と見た私たちは、すぐさまその行動を阻止するべく一斉に魔法攻撃を仕掛けたのだが。

 しかし、どうにも手応えは得られず。

 と、そこへ。


『そこへ攻撃を加えたら良いんだな? 任せろ!』


 頼もしい声が通話より聞こえてきた。

 そう、半ば空気と化していた勇者イクシスさんである。

 次の瞬間、遥か後方の彼女より放たれたのは、おぞましいほどの魔力を濃縮した一発の灼炎弾。

 それが、私たちが攻撃を集中させていた位置へ至るなり、カッと目も眩むような閃光を放った。

 だが、すかさず隔離障壁にて爆心地を起点に半径一〇メートルほどが隔てられ、障壁内部ではとんでもない破壊が生じたのである。

 その様たるや、太陽の表面ってこんな感じかなと思わせるような凄絶さであり、純粋な物理的破壊にとどまらず、用いられた濃厚な魔力はあらゆる魔法の構築さえ阻害してしまうことだろう。

 これならば、それこそ跡形もなく奴は滅びたに違いない。

 暫しの間、明々と直視さえできぬほどの光を放ち続ける隔離障壁を前に、私たちはさりとて警戒を解くこと無く様子をうかがい続けていた。


『うーん。マルチプレイの制限時間的に、そろそろ厳しいな……』

「けど、解除したら私たちは戦線に加われない」


 感覚的に、マルチプレイを維持できる時間が残り三割にも満たないことを感じた私は、一旦解除するべきかと逡巡した。

 だがオルカの言う通り、マルチプレイなくして彼女たちは仮面に干渉できない。どころか、その姿形を認識することすらかなわないのだ。

 それにスキルを解除したなら、途端に強烈な反動が襲ってくるはずである。

 万が一仮面がまだ健在であったとしたら、一気に窮地へ立たされることとなるだろう。

 あまつさえ、奴もまたワープのスキルを所持していることが分かっている。

 そうなると、私たちが例の手段で再度逃げてみたところで、次は追いかけてくる可能性があるわけだ。

 不利な状態で逃げ切ることもかなわないとなれば、いよいよ詰みが見えてくる。それを避けるためには、何とかこの場で決着をつけ切るほか無いのだが。

 とは言え隔離障壁内にて、未だ収まるまで暫しの時間を要するであろう超破壊を眺める暇は、如何にも勿体ない。ただいたずらにマルチプレイの制限時間を削っているようなものである。


『仕方ない。これが収まるまで一旦解除するよ。もし動きがあれば再発動する』

「已むを得んな」

「了解です」

「わかった」


 直後、私の意識は一瞬の暗転を経て、自らの肉体へ戻った。

 オルカたちの髪色も輝くような白銀より元の色へ戻り、そしてその途端にガクンと力が抜けたようにフラついた。

 マルチプレイによる反動は、複数人に等分されるためキャラクター操作時よりも軽いとは言え、やはりそれなりの疲労感をそれぞれに及ぼす。

 特に私の消耗は重く、自分の体に戻るなり思わず膝をつきそうになるほどの疲労感が全身を襲った。

 だが、まだ勝負がついたと決まったわけでもない。こんなところでバテているわけにも行かないのである。


 重たい体に鞭打って、己が目で隔離障壁を観察する。

 未だ破壊の赤熱が眩しいそこには、仮面の白を見つけること叶わず。けれど何せ得体の知れない相手であるが故に、私たちは誰一人警戒を緩めること無く、各々が気を張っていた。

 とは言え今の状態で仮面を捉えることが出来るのは私と、それにソフィアさんの二人だけである。

 故に、私と彼女は一層注意を張り巡らせて、奴がひょっこりテレポートで障壁を抜け出してこないかとひたすらに身構えたのだった。


 それからたっぷり五分近くも続いた豪炎は、考えてみるとおかしな話である。とっくに障壁内の酸素なんか消費され尽くしているだろうに、何故にそれ程燃え続けたのか。

 もしかするとMP由来の特殊現象というのは、既知の科学現象とは根本から異なる何かなのかも知れない。

 そんな事を考えている内に、ようやっと火は小さくなり、そして障壁内部の様子が詳らかとなった。

 私とソフィアさんは目を凝らし、他方で他の面々は私たちへ声をかけてくる。


「ミコト、どうなった?」

「流石に消滅したのではありませんか?」

「……いや、ダメみたい」


 その問いに、しかし私は首を横に振って返すこととなる。

 確かに奴の再生こそ妨げることは出来ていたようだが、障壁内では未だ白の光が漂い続けており、どうにか実体を取り戻そうと集まっては燃え尽き、また光に戻るという繰り返しを行っていたのである。

 それを伝えたところ、皆の脳裏には当然のように一つの疑問が浮かんだ。

 そんな奴、どうやったら倒せるんだ、と。

 するとソフィアさんがこういった場合の主な対処法を述べた。


「コアの見当たらないモンスターであれば、体の外に核を持ち、それをどこか別の場所へ隠して戦うという場合がありますが」

「ああ、それなら私たちも戦ったことがあるな」

「あの時はオルカ様がコアを見つけてくださって、事なきを得たのでした」

「でも今回は、そもそもコアが存在していない気がする。探ってみたけど反応がなかった」


 モンスターは、コアを壊さなくては倒せない、なんてことはない。普通にHPを削りきっても倒れるし、そも普通はコアの場所を割り出し、そこを正確に狙って攻撃し無くてはならず、しかし当然それが安安と通るはずもないわけで。

 だからHPをゼロにするという倒し方こそが一般的であり、以前オルカたちが対峙したというそれは恐ろしく頑強なモンスターだったのだという。

 頑強な上に、コアが見当たらない。確かにそれはおっかない相手だろう。

 しかし今回の場合、際立って頑強でこそ無いが、厄介な転移術を用いる上に不死身である。

 そのくせコアが存在しないとなれば、一体どうしていいものか。

 普通に考えて、ジリ貧である。


 果たして、あれをどう攻略すれば良いのか。

 私たちは揃って頭を悩ませたのだった。

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