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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二一三話 現地調査

 マップに謎のアイコンを見つけてから、なんだかんだで一〇日ほどが過ぎた。

 主にソフィアさんのスケジュール調整に手間取った結果、ようやっと本日調査へ向かうことと相成ったわけである。

 時刻は午前九時。メンバーは鏡花水月の四人に加え、仮メンバーのソフィアさん。そして、助っ人のイクシスさんである。

 南門に集合した私たちは、挨拶もほどほどに早速門を出た。

 何せ目的地まではイクシスさんに乗っかって飛んでいくわけだから、人目は避けねばならない。なのでとりあえず街から遠ざかるように歩きながら、改めて言葉を交わす私たち。


「やぁ、楽しみだなぁ。何があるのだろうな、ワクワクするぞ!」

「声をかけておいて何だけど、勇者をこんな私用に付き合わせてよかったのかなぁ?」

「母上は根っからの冒険者だからな。未知やロマン、謎や神秘なんかが大好物なんだ」

「それで言えば、ミコトはそれらの塊みたいなもの」

「もう、今回はミコト様の謎を解き明かす手がかりが得られるかも知れないんですから、皆様ちゃんとしてください! 遠足気分じゃ困ります!」


 相変わらず脳天気なノリに、真面目なココロちゃんがぷりぷりと怒ってみせる。

 とは言え、イクシスさんの存在が如何に心強いかは誰もが知るところであり、特に実際戦った経験のある私たちにしてみれば、彼女さえいれば何があろうと大丈夫だという確信めいた安心感があるわけだ。

 であればこそ、こんなに気楽にしていられるというものであり、それはココロちゃんとて認めるところである。

 それでも、私の謎に関するあれこれというのはシリアス案件なので、もっと真面目にというのも尤もな言い分だ。


「とは言え、イクシス様が助っ人に入って下さったとなれば、安全は約束されたも同じです。万一それで危機が訪れるようなことがあるならば、それは即ち私たちでは対処のしようがない脅威に直面した、ということになるのでは?」

「うぐっ……それは、そうかも知れませんけど」


 ズバリとしたソフィアさんの指摘に、怯むココロちゃん。

 だがまぁ、事実である。もしもイクシスさんが苦戦するような何かがアイコンの場所にいたとしたら、彼女にあしらわれた私たちなんてきっと歯が立たぬまま、一方的に蹴散らされてしまうことだろう。

 万が一そんな怪物が現れたとするなら、私たちに出来ることはただ速やかに、一目散に逃げることくらいである。


「まぁでも、私にとって重要な何かが待ってる可能性は確かにあるからね。危険かどうかはともかく、些細な手掛かりも見落とさないように気を引き締めて行かなくちゃ」

「ミコトちゃんについては私も興味津々だからな。しっかりと協力させてもらうよ」


 イクシスさんがそう頼もしく宣言すると、他のみんなも一様にそれへ続き「任せて」だとか「頑張ります」など、思い思いに短く意気込みを述べ、呑気なように見えてちゃんと真剣味も持ち合わせていることが窺えた。

 これにはココロちゃんも一安心なようだ。


 そうしてしばし歩いた後、いよいよ本格的な移動フェイズへ移る。

 その方法は、以前これにて大陸中を、何なら海を越えた先にまでかっ飛んだ、勇者イクシス号での空中ダッシュを用いるわけで。

 その際、私とイクシスさん以外の面々は一旦PTストレージに潜っていてもらうことになる。

 とは言っても、ストレージ内の時間は停止しているらしいので、体感時間的にはゼロだ。

 ストレージに入って、出たと思ったらもう目的地という寸法である。


「それじゃぁミコト、また後で」

「安全運転ですよ、ミコト様!」

「むぅ、私も乗ってみたかったぞイクシス号」

「ハァ、ハァ、スキルの中に入る……うふふふ……」


 そうして皆は次々にストレージへ自らを収納し、瞬く間にその場には私とイクシスさんだけとなった。


「イクシス号って……」

「世界一速い乗り物だよ。すごいねイクシス号」

「そ、そうか? そう言われると悪い気はしないな!」


 チョロい勇者である。

 私は仮面の下で苦笑しながら、慣れた調子でそんなイクシスさんの背中へ乗っかった。

 その途端、彼女から小さく「おお」と声が漏れる。


「少しぶりだな、この感じ。比喩でなしに体が羽のように軽い。いやぁ、病みつきになっちゃうなぁ」

「加減を間違えないでね?」

「ああ、勿論だ。イクシス号にお任せだぞ!」


 なんて言いながら、彼女は軽い調子でぽんと跳び上がると、次の瞬間にはもう雲の高さにまで至っていた。

 季節は秋。上空は流石に冷えるが、魔法による防寒が働いているためどうということはない。

 少しぶりのイクシス号ではあるが、どうやら調子はバッチリなようで、私が満足げに空の景色を堪能していると、不意に彼女がぼそりと言った。


「ときにミコトちゃん。イクシス号と言うが、これはミコトちゃんの魔法が前提の連携技なのだから、ミコトちゃん込みでの乗り物ということになるよな?」

「え、あー……まぁ、言われてみたらそうかも」

「ならイクシス号改め、イクシスミコト号だな!」

「何その呼びづらい名前! 繋げればいいってものじゃないよ!」

「ではイクシスミコト号、発進だ!」


 斯くして、私たちの空の旅が幕を開けたのだった。



 ★



 移動時間にして一時間と少し。

 今回はモンスター討伐時と異なり、マップ上のアイコンという明確で詳細な目的地の位置情報が示されていることから、目標を探し回るという手間はない。

 が、その反面目的地に何が待っているとも定かではないため、念の為目標からは距離を置いて地上へ降りた私とイクシスさん。

 今更だが、この一〇日の間にアイコンが消えるということはなく、そして移動するようなこともなかった。

 監視は皆で協力して続けていたため、おそらくそれは動かない何かなのだろうという事前予測はある。

 上空から見た限りでは、別段目立ったモンスターや物体等は見つけられなかった。ただ乾いた大地が広がっているだけの、壮大で味気ない景色が続き、時折強そうな野良モンスターの姿がちらほら見える程度のものだった。


 地上に降りるなり、早速オルカたちをストレージから出す。

 毎度のことながら、彼女たちにしてみると一瞬で景色が変わっているため、皆物珍しそうに周囲へ一通り視線を巡らせる。

 乾いた大地には、乾いた風が吹く。日差しも強く、季節感が狂ってしまいそうな気候である。同じ大陸でも、こんなに違うものなのかと感心するほどの日天だ。

 以前イクシスさんと試合をした場所も、これに近い荒野ではあったけれど、それと比べてもこちらの方が環境は厳しいように思えた。

 早くも茹だるような暑さに顔をしかめた面々は、一通り辺りの観察も終えたのか視線をこちらに向ける。

 それを認め、私が本題を促す。


「さて、それじゃぁ現状を説明するね。移動開始から一時間と少し。現在地はマップを見てもらえると分かる通り、念の為例のアイコンがギリギリサーチ範囲内に入らない位置にいるよ。ここからは徒歩で、警戒しつつアイコンの示す場所を目指す手はずだね」


 これは事前に話し合いで決めておいた予定通りであり、皆からは特に言うこともなく頷きで了解を示した。

 そして更に、現地へやって来ての追加情報を告げていく。


「空から見た感じ、やっぱりこの辺のモンスターは強力なものが多そうだった。環境も厳しいし、イクシスさんがいるとは言え十分気をつけて」

「空から見て、目的地には何かあった?」

「ううん。それは確認できなかった」

「大きいものではない、ということでしょうか?」

「そうかも知れませんね。もしも目立つものであれば、おそらくここからでも確認できるでしょうから」


 マップがサーチできるのは半径五キロメートル圏内だ。

 しかしソフィアさんの強力な視力をもってすれば、ほぼほぼ平らなこの大地でその程度の距離を見通せないはずもない。

 私にも地味に、遠くを見るためのスキルは備わっているしね。


「やはり、サーチ範囲に踏み入らねば変化はないのだろうか?」

「或いはもっと接近してみて、初めてなにかが起こる可能性もあるな。接近だけではなく、何かのアプローチが必要な場合も十分考えられる」

「ふむ……何はともあれ、準備ができたなら早速出発しよう」


 いくら話し合ってみたところで、結局はどれも憶測の域を出ないのだ。

 それを皆分かっていればこそ、各々より了承の返事が返り、私たちはイクシスさんを先頭に移動を開始したのである。

 少し歩いたなら、早くもアイコンをサーチ範囲に捉えることとなった。

 一瞬皆に緊張の色が浮かぶも、しかしこれと言った変化は観測できず。

 どうやらサーチ範囲内に捉えてもまだ、何かが起こるということは無いらしいと、皆が小さく息をつく。


 しかしながらサーチ範囲内に入ったということは、アイコンのもとにモンスターなり人物なりの反応があるかどうかを調べることが可能になった、ということでもある。

 私たちは早速とばかりに、みんなしてマップを凝視した。

 が、拍子抜けするほどに何も無い。

 アイコン自体が何かの存在を示している可能性、というのが一番濃厚ではあるが、とりあえずその周囲に何かが待ち構えているということはないようだ。


「今のところ異常なし、か」


 まだ数キロの距離があるとは言え、冒険者の健脚にかかればそんなものは大した道のりでもない。その気になればすぐにでも駆け抜けることが出来るだろう。

 しかし私たちは油断すること無く、確かな足取りでもってアイコンの示す場所へと歩を進めたのだった。


 強い日射の降り注ぐ中、半刻ほどもかけてようやっと私たちは、残り一〇〇メートルもないほど近くまで目的の場所へと迫っていた。

 だが事ここに至って尚、これと言った何かがあるわけでもなく。

 緊張が高まる一方で、本当にここに何かあるのだろうか? という疑念めいた感情が、皆の胸中に顔を覗かせ始める。

 マップが指し示している以上、何も無いということはないだろう。だが、事前に警戒していたような強力なモンスターと言った線は消えたのではないか、と。

 目に見える脅威がないことから、そのように皆が考えていた。


 そうして、一層慎重に歩を進めること暫し。

 いよいよ私たちはその場所へ至ったのである。

 その結果は。


「何も……ない?」


 そこには、アイコンを見ながら皆で予想した、恐ろしいモンスターの存在も、例の仮面をした私も、その他怪しい何かも見当たらず。

 ただ漠然とした不気味さだけが漂うのみだった。

 しかし当然、そんなはずはないだろうと。皆が揃って目を凝らし、アイコンの示す場所を中心に辺りを調べ始めた。


「こんな特殊な印があって、何もないはずはない」

「もしかすると、この場所で何かをしなくてはならない、みたいなことなのでしょうか?」

「或いは地下かも知れないぞ。この地面の下にお宝が! とかな」

「キーアイテムが必要だった、という場合もあるかもな。過去にそういう仕組を幾つも目にしたことがある」


 そうして皆が目を凝らし、あれこれと意見を言いながら周囲をあらためる中、不意にソフィアさんが小さな声を漏らした。


「これ……何でしょう?」


 そう言って彼女が拾い上げたのは、一見すると何の変哲もない石ころのような、白い何かの欠片だった。

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