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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第二〇九話 暴走特急

 ソフィアさんが特級冒険者に数えられる所以は、ハイエルフ固有の特殊なマジックアーツも然ることながら、優れた魔法適性にもあると身を以て知った私。

 そしてそれは、天を焼かんほどの業火を目にし、その余波を受けたオルカたちもまた文字通り、痛いほど理解したのだった。

 急ぎココロちゃんの魔法で火傷は癒やされ、大事に至るようなことはなかったけれど、これを機に多少なりと彼女を見る目というのにも変化が生じるだろう。

 ただのスキル大好きソフィアさんという人物像から、実は恐ろしい魔法の使い手である、と。


 そんなこんなでソフィアさんのスペックは十分に確認できた。

 目的は果たしたので、長居は無用とばかりに融合を解除しようとしたのだけれど。

 しかしそこで異変は生じたのである。


「あ、あれ、解除……出来ない?!」


 スキルの解除を強く念じてみても、どうしたことか私はソフィアさんの中から出ることが出来ずにいたのである。

 思い起こされるのはつい先程、キャラクター操作スキルを発動する直前のやり取り。

 その口ぶりは、効果時間が切れるまで融合状態を決して解かせぬという意気込みに満ちていた。

 そんなまさかと思っていた私は、現在そのまさかの事態に直面しているわけで。

 そんな私へ、内側から彼女が嬉しそうに声をかけてくる。


『ふふふふふ、どうやらスキル解除、出来ないみたいですねミコトさん?』

『な、何をしたんですか!』

『心外です。何もしていませんよ。私はただ、時間切れまでこの素晴らしいスキルを体感し尽くしたいと願っているだけです』

『スキルには、イメージが大事……』

『そうです。以前、ミコトさんが教えてくれたことです。強いイメージと相応の経験、それと幾らかの適性があればスキルは発露するのです。ならば、スキル行使に於いてもイメージ力というのは重要なファクターとなり得るわけですね』


 何やら講義が始まったが、要するにソフィアさんの『キャラクター操作を解除させてなるものか!』という執念めいて強烈な思いが、私の持つスキル解除権限さえ無効にしてしまったということだろうか。

 その結果、このままでは本当に制限時間が切れるまでスキルを解除できないと。

 急に血の気が引き、私は縋るようにオルカたちの方へ視線で助けを求めた。

 すると素早く異変を察した彼女らは、今しがた見た魔法の余韻からハッと覚め、何事かと問うてきた。


「ソ、ソフィアさんが放してくれない……!」

「え、スキル解除できないってこと?」

「キャラクター操作は確か、術者か受け入れ側のどちらかが解除を念じた時点で状態が解けるものだっただろうに」

「ソフィアさん! ミコト様になんて無礼を働いているのですか! ココロは許しませんよ!」


 驚きと呆れ、そしてココロちゃんによる猛抗議が始まった。

 が、ソフィアさんはどこ吹く風とばかりに、私が出ていくことを決して許さない。

 それどころか。


『さぁミコトさん、どうせスキル解除は出来ないのですから、時間いっぱいこの状態を満喫しようではありませんか。もっと体を動かしてください。魔法だって好きに使ってもらって結構ですよ!』

『ええい、いいから放してください!』


 斯くして、そんな珍騒動は結局の所、本当にキャラクター操作が時間制限により強制解除されるまで続いた。

 その結果、スキルが解除されたと同時に押し寄せた、許容量を超える暴力的なまでの虚脱感により、私の意識は強制的に刈り取られたのだった。

 これが戦闘中なんかだったら、もしかすると無理やり耐えられたかも知れないが、命の危機があるわけでもない今、それに抗い意識を繋ぎ止めることは残念ながら叶わなかったのである。

 ソフィアさんのスキルに関わる執念を甘く見ていた、私の完敗だった。



 ★



 薄目の向こうに捉えた景色は、馴染みの深い宿屋の自室だった。

 どうやら夢も見ないほどに深く眠っていたのだと、回らぬ頭で理解したのは、覚えている直前のシーンを思い起こしてのこと。

 草原の只中で倒れてから、どういうわけか今は自分のベッドで寝ている。

 それらの情報から導かれる成り行きはと言えば、意識を失った私をオルカたちが運んでくれたのだろうという推察であった。

 では、迷惑をかけてしまったであろう皆はどうしているのかと部屋を見回してみても、彼女たちの姿は何処にもなかった。

 何だか不意に、風邪を引いた時の心細さにも似た感情がふわりと胸に漂い、それを誤魔化すようにストレージから懐中時計を取り出して時間を確認してみる。

 現在、八時をとっくに回って、やがて短針が九の文字を指そうかという頃合い。

 もう夜なのかと、何とはなしに窓の方へ視線を向けると、カーテン越しに見た外は非常に明るかった。


「……朝やんけ」


 些かの混乱を覚えながら、一先ずマップウィンドウを駆使して仲間たちの反応を探してみると、どうやら彼女たちは現在宿の食堂で朝食を摂っている最中のようだ。

 段々と回り始めた頭と、鉛のように重い身体。

 とてもではないが、私も起き出して皆に合流しようなどとは思えず、投げやり気味な心持ちで天井を見上げた。

 そして、今頃私同様、酷い倦怠感で寝込んでいるだろうソフィアさんを思い浮かべる。


「言わんこっちゃない」


 寝起き特有の、些か低い声で一言だけぼやくと、大分のどが渇いていることに気づいた。あと、トイレにも行きたい。

 溜め息を一つ吐くと、私はどうにかこうにか体を起こし、鈍重な動きでベッドを降りて、おぼつかぬ足取りで部屋を後にしたのだった。



 ★



「これはもはや、要介護者」

「そこまでじゃないやい!」


 なんとか朝食まで済ませた私は、オルカにおぶわれて部屋へ戻ってきた。

 当然のようにココロちゃんとクラウも後に続いて、ぞろぞろと部屋へ入ってくる。

 そうしてベッドへ横たわった私は、一瞬で着替えを済ませた。

 正直、換装スキルの恩恵をこんなに染み染み感じる機会も珍しい。


 目覚めた時、私はちゃんと寝間着を着ていたのだが、朝食を食べに食堂へ降りるために一度普段着へ着替えたのだ。その時も換装の恩恵に預かった。

 たかが着替えなのだけれど、正直今は手足を一つ動かすのさえ億劫なほどに、酷い疲れを感じているのだ。疲労感と言うより、倦怠感、虚脱感という方が近いだろう。バッサリと言い換えるなら、体調不良である。

 なのでオルカの言ではないけれど、もしも換装がなければ着替えすら手伝ってもらっていたかも知れない。

 と、そこでふと気になったことがあった。


「あれ、でもそう言えば私が倒れた後は、着替えってどうしたの? オルカがやってくれた?」

「あー……あれは、なかなかシュールだった」


 三人曰く、キャラクター操作が解除されるなり私は意識を失い、その場に倒れ伏したと言う。無論ソフィアさんも。

 彼女の方は実に満足げな寝顔を晒していたそうだが、一方の私はと言うと、意識が飛んだ瞬間にとあるスキルが発動したそうで。

 私が寝ている最中働く、並列思考とは異なるもうひとりの私。即ち、オートプレイのスキルがどうにか受け身を取ってくれたようで。倒れた拍子に頭を打つようなこともなかったのだそうだ。

 であれば、私は自分の足でここまで戻ってきたのだろうかと問うてみると、どうやらそうではなかったらしく。

 オートプレイの私は、珍しく言葉を発したらしい。

 オルカたちへ向けて、『動けない。助けて』と。実に抑揚のない、綺麗な棒読みセリフだったそうだ。

 そのくせMPの方には余裕があるせいで、倒れて動けない身でありながら魔法やスキルの訓練はいつもどおり開始しており、草原の只中ということも相まって普段より大規模な訓練が始まってしまったと言う。

 おっかなびっくりオルカは私を背負い、ソフィアさんはクラウが回収。ココロちゃんは現場の後片付けなんかを行ってから、いそいそと街へ戻ったそうな。

 街へ戻るとオートプレイは目立つ魔法を避け、基本目に見えない魔法やスキルの訓練に切り替えたと言う。

 そうやってどうにか宿に戻った私は、勝手に換装で寝間着に着替え、そこから延々と訓練をぶっ通しでやっていたそうだ。


「久々に見たが、寝ているミコトは本当に滅茶苦茶だな」

「眠っておられても勤勉に訓練をなさるミコト様、流石です!」

「最近は前より更に激しい。隣で寝てると生きた心地がしない」

「えっと、お騒がせしてごめんね……ところでソフィアさんの方はどうなったの?」

「ん? ストレージに放り込んであるが」

「え、えぇ……」


 さらりとそんなことを言うクラウ。オルカはなんとも言えない表情をしており、ココロちゃんに至っては些か憮然とした表情で、お宅の場所が分からないのだから仕方がありませんよねと言ってのける始末。

 どうやら彼女の暴挙が余程腹に据えかねたらしい。草原に放置しなかっただけ感謝してほしいくらいだと、珍しくプンスカしていた。

 一応PTストレージを確認してみると、確かにソフィアさんの名前があった。

 私は一つ苦笑を顔に浮かべると、どうにか憤懣やる方ないと言わんばかりのココロちゃんを宥めた。


「気持ちは分かるけど、このままだとソフィアさん行方不明ってことで、騒ぎが起きちゃうよ」

「う……それは、そうですね。すみません、ミコト様を害されたと思って、頭に血が上っていました」

「心配してくれてありがとうね」


 ココロちゃんばかりか、オルカもクラウも些か彼女の暴挙に思うところがあったようで、私の指摘に気まずさを覚えたようだ。

 冷静に考えたら分かることでも、彼女のために家を訪ねて送り届けたり、宿に部屋を別途取ってあげたり、なんて手間を嫌ってしまう程度には許せなかったということかも知れない。

 とは言え、ソフィアさんのスキル好きを知っていればこそ、心底腹を立てるというほどでもないという、まさにグレーゾーンを侵した感じだろう。


「こうなったら仕方ないね、ソフィアさんを拉致った責は負わないと。一先ず彼女は、意識が戻るまでこの部屋で休ませておこう。あと、ギルドの仕事は無断欠勤扱いだろうから、職場に行って事情を説明しないとね」


 重たい体に鞭打って、立ち上がろうとする私。換装にてパッと着替えも済ませる。

 するとそれを見た三人は、急に大きく狼狽えだした。


「ミ、ミコト様、何をなさっておられるのですか!?」

「何って、PTリーダーをやってる私が行かなきゃ始まらないでしょ」

「ダメ、ミコトは寝てて」

「言い分はわかるが、今回の件はソフィア殿をストレージに入れた私の責任だ。ミコトはソフィア殿の暴挙に始まり、巻き添えを食っただけの立場なのだから、今日はおとなしく休んでいてくれ」

「でも……こういうのはリーダーが行かないと示しがつかないんじゃない?」

「それなら私が、今回だけリーダー代行を務める。だからミコトはソフィアを見てて」


 そう言ってオルカは、ソフィアさんをストレージから取り出して自分のベッドへ寝かせた。

 ほんとだ。やたら幸せそうな、満足そうな顔でグーグー寝ている。

 そんな彼女に気を取られている隙に、オルカたちは「ちゃんと休んでいるように」と捨て台詞気味に言い残すと、さっさと部屋を出ていってしまった。ギルドへ向かったようである。


 そんな具合に急遽、私は休養日ならぬ療養日を過ごすことになったのだった。

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