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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一九四話 私と私

 急遽キャラクター操作のスキルを駆使してオルカと融合し、二人で一人という状態で鏡の試練へ挑むことになった私たち。

 果たして目論見通り、この状態で試練を受けることが可能なのだろうか。

 私はオルカの体を操作し、徐に大鏡へと近づいた。透き通るような銀の頭髪へ変化している、鏡の中オルカに半ば見とれながら、その鏡面へと指を触れてみた。

 すると。


「……あれ?」


 それは紛れもない、鏡に触れたというだけの感触に過ぎなかった。

 話によると、この鏡の中に入ることが出来るということだったはずだが、首を傾げて再度鏡面に触れてみたところで何ら違和感も変化も生じやしない。

 思い当たる節があるとするなら、やはりこの融合状態がダメなんじゃないかという点だろう。

 一先ずこの状態は消耗が激しいため、私の内側に存在しているオルカの意識へ一旦スキルを解除する旨を伝えると、直ぐに分離。元の体へと戻った。

 それを見るなり背後で納得とも困惑とも取れる声が幾つか上がった。


「ミコト様、トラブルですか?!」

「やはり反則技は通じなかった、ということだろうか?」

「強行して大事故になるよりは良かった、と前向きに捉えるべきでしょう」


 そんな彼女らの声を尻目に、私は改めて自身の体で鏡面を軽くつついてみる。

 するとどうだ。鏡面にはさながら水面のように、触れた部分を中心とした小さな波紋が広がったのである。

 驚いて指を引っ込め、指先をまじまじと見つめてみるも、そこには別段何かが付着した様子もなければ、濡れた感触もない。しかし鏡面には正に、水面へ指先を触れさせたような、覚えのある触感が確かにあったのだ。

 先ほど感じた、硬質な鏡面とはまるで異なる触り心地だった。

 私はそれを確かめると、皆へ振り返り私一人ならやはり行けそうだと伝える。

 すると皆はむぅと唸り、心配そうに言葉を詰まらせた。

 事ここに至って引き止めるというのもやはり違うが、しかし一人で行かせるのは恐ろしい。そんな心の声が聞こえてくるようである。というか心眼で概ね見えているのだが。

 すると今しがたまで融合していたオルカが、くいと私の服の裾を軽く引っ張り、不安げに眉を歪めて問うてくる。


「ミコト、行くの?」

「うん……そうだね。行ってくるよ」

「そう……それなら、絶対無事に帰ってきて。怪我とかして戻ってきたら、怒るから」

「が、がんばります」


 一番のパートナーを自称するオルカがそう言うのであれば、他のメンツもこれ以上口を出すことは出来なかった。

 私はそんな彼女らにも一言「行ってきます」を告げると、改めて恐る恐る大鏡へ触れ、具合を確かめながらゆっくりとその中へ身を沈めていったのである。



 ★



 それは不思議な体験だった。垂直にそそり立つ穏やかな水面を、歩いて通過するという奇妙な体験だ。しかもその水は私を濡らすことはなく。

 そして鏡面の先にあるのは水の中、というわけでもない。これまた不思議な感覚なのだけれど、水面めいていたのはその表面だけであり、一度その中へ身を沈めてみれば、そこはこれまでと何ら変わらない環境下だった。

 呼吸も出来れば、体が軽くなったわけでもなく。当然水中のように抵抗や負荷を感じるようなこともない。


 そうして一瞬目を閉じた私が次に瞼の合間より見た景色は、先程ソフィアさんの話にあった通りの絶景であった。


 目の前には、果てしないほどどこまでも続く、途方も無い鏡の壁。世界の端っこだと言われても信じてしまいそうなほど、右を見ても、左を見ても、何なら上を見ても終わりの見えない鏡面が延々と続いている。

 後ろを見てみれば、私が潜ってきた大鏡は姿を消しており、純白で無機質な地面が地平線の彼方まで続いている。

 天井はなく、空は抜けるように青い。空気もどことなく清々しく、ともすれば彼の有名な精神と○の部屋みたいだなという漠然とした感想が脳裏を過ぎった。


 鏡の壁までは随分と距離があるようにも見える。が、とにかく視界に映る情報の何れもが随分大雑把な規模を誇っているため、いまいち距離感というものが掴めないのだ。

 試しにマップを確認してみれば、数キロ先に彼の壁は横たわっているらしく。しかも壁の先には何の表示も存在してはいなかった。さながらダンジョンマップの外郭のようだ。

 話によると、あの鏡の向こうからもう一人の私がやってくるということだけれど。であれば近くまで赴かねばならないだろう。

 パッと換装を用いて機動性重視の装備に切り替えれば、数キロの距離なんて本当にあっという間である。

 それにしても、これだけだだっ広くまっ平らな空間で思い切り走るというのは気持ちいいものだ。

 それを思えば、すぐに鏡の前に至るのは些か惜しい気がして、私は少しの間辺りを適当に走り回り、一汗かいてから鏡のもとへ向かったのである。

 機動性重視の装備も、今やベースはビキニアーマーとなっており、そこにゴテゴテとDEXを上昇させる装備アイテムをくっつけているため、大分露出度は高い。

 そのため、うっすら汗ばんだ肌を撫でる風は何とも心地よく、普段ではなかなか味わえない爽快感が感じられた。


 ひぃふぅと軽く呼吸を整え、浄化魔法で身を清めながらクールダウンを行いつつ鏡の壁へと近づいていく。

 すると、鏡の向こう側に私は痴女の姿を捉えてしまった。

 仮面で顔を隠し、ビキニアーマーで一応大事な部分を隠してはいるが、それ以外は派手に肌を晒した怪しさ全開の女である。まぁ、私の今の姿なんだけど。

 傍目に見るとあんな感じなのか……なんて今更衝撃を受け、そっと通常装備へ戻す。

 そうしてぽてぽてと、ようやっと世界を隔てている鏡面の前までやってくると、はたと立ち止まった。


「それで、ここからはどうしたら良いんだろう……?」


 規模こそデタラメではあるが、それは言うなればただの鏡だ。鏡の奥の私だって、今の所勝手に動き出したりはしない。

 何か試練を受けるためのプロセスめいたものでもあるのかと、今更ながらに首を傾げてみる。だとしたら私、手順も何も知らないんですけど。とりあえずここに来ればなんとかなると思ってたんですけど。

 急に不安にかられ、心細さを覚える。

 もしこのまま何も起きなかったら、私どうやって帰れば良いのさ? 出口とか無いんですけど!?

 なんて、私と鏡向こうの私がオロオロし始めた、その時だった。

 ピタリと、あっち側の私が動きを止め、そしてこちらへと歩み寄ってきたではないか。


「な、何事!?」


 ぎょっとした私が警戒感を顕にしていると、それを意にも介さず堂々と歩みを進めたもう一人の私は、さも当然のようにその境界を容易く跨ぎ、越えたのである。

 ますます驚く私。そういう現象が起こると事前に聞いていたわけではあるのだが、いざ目にすると衝撃映像、或いはホラー映像のようだった。

 そんな私へ、彼女は声をかけてくる。


「まぁまぁ、落ち着きなよ私」

「そ、そういうあなたはどちら様?」

「私は私だよ。いや、私も私だよ」


 そう言って彼女は仮面を外し、素顔を晒して見せてくる。

 それは間違いなく、生前私自身が丹精込めて作った理想の嫁像に他ならず。

 そんな彼女が目の前で生きて動いている、という事実に私は衝撃を受けた。正に雷に打たれたような強烈な衝撃だ。


「な、な、なんて美人なんだ……!!」

「自画自賛?」

「あなたが私だというのなら、これで私の気持ちも分かるはず」


 そう言って私も、同じく仮面を外して見せつけてやる。

 すると案の定、もう一人の私はビクリと体を震わせ、表情を硬直させ、そして頬を赤らめた。


「な、なんて美人なんだ!!」

「でしょう!」


 結果私たちはすぐに意気投合し、時間も目的も忘れてお互いの容姿をとにかく褒め合ったのだった。

 ばかりか、ここに苦労しただとか、ここは拘っただとか、制作にまつわる談義にも盛大に花を咲かせた。なにせ今まで、誰とも語り合えなかったような話題だ。それを話せるのが嬉しくて仕方がなかったんだ。


 だけれど、ふと話の途中でオルカたちの顔が脳裏を過ると、いかんいかんと自らを叱咤。

 それをもしや心眼で読み取ったのか、彼女も察しよく表情を真面目なものへと切り替えた。

 そうしてようやっと本題へ入っていくわけだが。


「その前に、私に問いたいことがあるんでしょ?」

「流石私、分かっているなら答えてほしいな。私って、何者なのか」


 ここを訪れた本題と言うなら、試練こそがそれに当たるだろう。

 けれど私にとってはある意味、そんな本題より尚重要なことがある。それをよく理解している彼女は、私の投げた質問にふむと顎へ手をやった。

 軽く瞑目して何やら考える彼女から読み取れる心は、何やら迷いめいたものだった。

 そんな状態はしかし、長く続くこともなく。

 結局彼女はあっけらかんと言うのである。


「私が知らないことを、私が知ってるわけ無いじゃん」

「えぇぇ……思わせぶりな振りをしておいて?」

「言うなれば私は、私のコピーみたいなものだからね。私に出来るのは精々が、私の中に眠ってるスキルを呼び覚ますための試練を与えることくらいだよ」

「私私ってややこしいな」


 ともあれ、よくも悪くも私たちが事前に予想していた都市伝説は見事に的外れだったらしい。

 鏡が生み出したのは、結局『今の私』から生じたコピーに過ぎず、私が知らないことは彼女も知らないとのこと。

 だから私の正体を尋ねたところで、きっと何も分かることはないのだろう。

 正直落胆を禁じえないのだけれど、そんな私に彼女は思いがけないことを言うのだ。


「とは言え、きっと無駄足ってことにはならないんじゃないかな。何せ私が掘り出すのは『眠っているスキル』だからね。言うなればそれって、隠し要素を表に引っ張り出すようなものだと思わない?」

「! ……隠し要素」

「それがどんなものかは私も知らないんだけどね。だから試練をクリアしてのお楽しみってことになるんだけど。どうする? 受ける?」

「受けずに帰ってもいいの?」

「勿論。多分、PTストレージにでも入れば離脱できると思うよ。でも、『私』は受けるんでしょ?」


 分かっていますよと言わんばかりのしたり顔。くっ、なんて私好みの顔なんだ! じゃなくて。

 どういう仕組で彼女が存在しているのか。どうやって鏡から出てきたのか。それは私の理解が及ぶところではないにせよ、私のロジックパターンなんてお見通しの彼女に余計な問答は不要だろう。

 だから私はシンプルに答えた。


「内容次第だね」


 すると彼女は一つ頷くと、試練の内容を語り始めたのである。

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