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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一九二話 すいすいー

 鏡のダンジョン第一階層。

 そこは、入り口の荘厳な印象を引き継ぐような、石造りの遺跡然とした場所だった。

 灰色の罅割れた石畳が延々と伸びる、いかにも正統派の迷宮といった構造をしており、久々にちゃんとしたダンジョン攻略に参加する私としては有り難くさえ思えた。

 これで急にへんてこなギミック満載のダンジョンとかだったら、流石にブランクのせいで皆のお荷物になっていたかも知れない。

 良い機会なので、ここではダンジョン攻略のカンを取り戻すことも個人的な課題としておこう。


「モンスターの反応はそう遠くないな。ミコト、どうする?」

「クラウにはなるべくたくさん戦闘を経験させたいからね。とりあえず戦ってみようか」

「それなら奇襲は控えてサポートに回る」

「数は三体ですね」

「鏡のダンジョン第一階層に出現するモンスターは、シルバーウィスプ、ミラーナイト、モノマネコウモリです」


 簡単に指針を決め、情報を述べ合うと、私たちは早速モンスターとエンカウントすべくマップを参考に足を早めた。

 そして僅か三分もせぬ内にそれらの姿を、突き当りの向こう側に捉えることが出来たのである。

 オルカが斥候に動いてくれた結果、モノマネコウモリ二匹にミラーナイト一体という構成のようだ。


 ぴりりと、些かの緊張感が漂う。

 ふと思い起こされるのは、鏡のダンジョンへの挑戦を一時諦め、修行を余儀なくされた時のこと。

 当時はここまでたどり着くどころか、道中で出会ったモンスターの強さに危険を感じ、鏡のダンジョンへ挑むには力不足だと痛感させられたものだ。

 それがたった数ヶ月前のこと。これから戦おうというモンスターは私にとって、良い試金石になってくれることだろう。

 果たして私は、私たちはどれだけ成長できているのか。このダンジョンでちゃんと戦えるのか。

 それを、測らせてもらおう。


「今回は小細工なし。正面から行こう!」

「了解だ。では先陣は私が」

「後は概ねプランA」

「心得ました!」


 イクシスさんとの戦闘で組んだ、幾つかの戦術プラン。汎用性が高いので、今後も活用していくつもりだ。

 プランAはオルカが奇襲を仕掛け、乱れたところにクラウとココロちゃんが突っ込んで行き、後方で私が心眼で状況を見つつ通話を駆使して指示を出したり、魔法で攻撃に加担したりという『いつものパターン』である。

 今回はオルカの奇襲がないため、ちょっと変則的ではあるけれど、それでも概ねいつもどおりというところ。


 皆で軽くアイコンタクトを取ると、早速クラウが曲がり角より躍り出てモンスターたちへ向かっていった。


「曲がり角からこんにちは! いざ尋常に勝負!」

「「いざ尋常に勝負!」」

「む!?」


 クラウの律儀だかなんだかわからない宣戦布告に、しかしそれとそっくりな声が二重で返ってきた。

 さながらオウムのように、モノマネコウモリが声音さえ再現して真似たのだ。

 事前の調べによると、奴等は中級魔法程度なら得意のモノマネで再現し撃ち返してくる習性があるのだとか。

 更にはもう一体のモンスター、ミラーナイト。奴も生半可な魔法攻撃はその鎧で弾いてしまい、角度が悪いと反射されてしまうそうだ。

 だから今回、下手に魔法による支援を行うわけには行かないのだ。が、魔法が使えなければ戦えないということもない。


「久々にスリングショットの出番かな」

「私も弓で支援する」


 私とオルカが後方より、射撃でもってコウモリの羽に穴を穿てば、クラウの陰より素早く飛び出したココロちゃんが空中に飛び上がり、二匹のコウモリを見事金棒で弾き飛ばした。オーバーキルである。

 コウモリと言っても人の上半身くらいの大きさがあり、一目でモンスターと分かる凶暴な容姿をしていたのだけれど、二匹それぞれ壁や床に衝突するなりあっという間に黒い塵へ変わるさまは、実に呆気ないものだ。

 そして残す一体、ミラーナイトへ疾風の如く駆け寄り斬りかかったクラウはと言えば。


「ふっ!」


 手にした長剣で、クラウの袈裟斬りを防ごうとしたミラーナイト。

 さりとてクラウはそれを見越してか、それとも見てからの判断か。振るった剣の軌道はぬるりとその行方を変え、気づけばミラーナイトの胴を鎧ごと真っ二つに切断し、奴の背後で残心しているではないか。

 なんとも恐るべき剣の冴え。ミラーナイトは敢え無く塵と変わり、初戦は一瞬で終わりを告げたのである。

 とは言え、実際武器で撃ったり殴ったり斬ったりしたら、そうそうゲームみたいに戦闘が長く続くわけもないのだ。

 剣で斬れば浅くて切り傷。最悪切断の憂き目に遭うのだから、そんな状態でどうして延々と戦い続けられるものか。

 そして実際、羽に穴の空いたコウモリはその痛みから酷く動きを鈍らせ、あっさりココロちゃんの金棒に捉まったし、ミラーナイトも聖剣で鎧ごと斬られたのでは一溜まりもなかった。


「モンスターの反応ロスト。追加もないみたい」


 私はマップを確認し、決着を皆へ知らせた。

 たまに戦闘音を聞きつけ、近くにいたモンスターが参戦してくる場合がある。特に耳の良いやつなんかはそうだ。

 けれど今回は、どうやらその心配も無いようで。

 背後でソフィアさんが溜め息を一つ。そしてなんとも気の抜けたような、残念なような声音で雑感を述べる。


「もっとスキルを使うところが見たかったです」

「魅せ試合ってわけじゃないんですから、我慢してください」


 そう苦笑で返すと、彼女は少しだけ唇を尖らせ、分かってますよとそっぽを向く。

 何はともあれ、これにて私たちの実力はちゃんとこのダンジョンで通用することが証明された。

 後は油断をしないことと、トラップをうっかり踏まないよう注意すること。

 その二点を意識していれば、本当にサクサク攻略も可能なのではなかろうか。

 ドロップ品をPTストレージに回収し戻ってきたクラウとココロちゃんを交え、簡単に戦ってみた感想なんかを言い合った後、私たちは取り急ぎ第一階層のマップ攻略を開始したのである。



 ★



 時計を確認してみれば、現在の時刻は午後四時半を過ぎている。そろそろ今日の攻略は引き上げ時だろう。

 そんなことを、なんとダンジョン五階層の入り口にて話し合っていた。

 入り口というのは階段降りて直ぐの、モンスターが湧かないセーフティーエリアのことを指すのだけれど。ここへならフロアスキップのスキルで簡単に戻って来ることが出来るため、何にしてもキリが良いのだ。

 それにしても。


「まさか一日で五階層も潜れるとは思わなかったね」


 私がそう呟けば、皆も同意を示してくる。

 特にソフィアさんはテンション高く乗っかってきた。


「予てよりその実用性の高さは存じていましたけど、やはりマップスキルはヤバいですね! なんですか五キロ圏内を見通してマップを作るスキルって! 実際使用するとこんなにダンジョン探索が捗るんですね!」

「おぉぅ、普段とは打って変わって目がキラキラしているぞソフィア殿」

「でも実際、このスキルには私たちもものすごく助けられた」

「ですね。人喰の穴ではこれがあったからこそ一月で済んだまでありますし」


 と言った具合に、予定を遥かに凌駕する進捗具合に皆のテンションも高めである。

 話に出たように、五キロ圏内をサーチしマップに捉えるという効果がとにかく強力で、ここまでの何れの階層に於いてもさして歩き回るでもなくマップ埋めは済んでしまった。当然次の階層へ続く階段だってあっさり見つかるし、ルートは一目瞭然だし。

 モンスターにしても、進行上のルートに存在するものは片っ端からエンカウントを仕掛け、先制攻撃からの殲滅を繰り返した。そのため余計に時間を取られるようなこともなく。

 そんなこんなであれよあれよと第五階層に降り立ったというわけだ。

 オルカたちは口にこそ出さないが、人喰の穴で経験した戦闘に比べたなら、まだまだ物足りなささえ感じる程らしい。

 あれほど警戒していた鏡のダンジョンが、ここまでスイスイと順調に攻略できてしまう事実に、私は正直困惑を禁じえない。

 ふと脳裏に過るのは、生前プレイしたRPGの記憶。

 とあるダンジョンで手痛い敗北を喫した私は、ひたすらレベル上げに励んだ。

 そうして久しぶりに件の場所を訪れてみたら、どうしたことか。道中の敵はもとより、ボスでさえ難なく打ち倒すことが出来てしまったという。

 現在は正にそれと同じような感じだ。ゲームのような世界だからって、まさかゲームのようなあるあるネタをかますことになろうとは……。


 ともあれ、安全なことは良いことだ。

 それこそこの世界では、ゲームオーバーが死……ん? そう言えばそうとも言い切れないのか?

 死んだらそこで終わりだなんて、よくよく考えてみるとそう言い切れるものではないよね。まさか『コンティニュー』みたいな何かがあったりして……。

 いや、流石に臨死体験を何度も味わうだなんて勘弁してほしい。HP減少に伴う苦痛はなかなかどうして、耐え難いものなんだ。

 その最たるところであるHP枯渇による死亡だなんて、到底耐えられるようなものでもないし、二度と経験したいものでもない。

 うん。やっぱり安全なのが一番だ。


「さて、それじゃぁ今日のところは一旦帰ろうか。それともキャンプする?」

「必要もないのに泊まり込んだりはしたくない」

「確かにな」

「ココロも帰ってお風呂入りたいです」

「私はどちらでも構いませんけど」


 ということで、そうと決まれば長居は無用。

 私たちは鏡のダンジョン攻略一日目を切り上げ、フロアスキップで脱出。ワープでもってアルカルドの街へ帰還を果たしたのだった。

 明日もこのペースを維持できたなら、ひょっとして一〇階層へ至ることが出来るかも知れない。

 そうなれば鏡の試練は明後日か。何ともトントン拍子で、拍子抜けすら感じてしまいそうである。


 今日の成果をお金に変えるべく冒険者ギルドに向かっていると、ソフィアさんはしれっと一行を離脱。どこかへ姿をくらませてしまった。

 そうしてギルドを出てくると、これまたどこから湧いて出たのか何食わぬ顔で合流を果たし、その後は浴場へも一緒に行ったし、夕飯も一緒に食べた。

 テーブルを囲って今日の良かった点や反省点を論っての意見交換は、ソフィアさんという普段とは異なる視点を加えたことでいつもより勉強になった気がする。

 その後はソフィアさんを家まで送り、その足でおもちゃ屋さんへ戻る私。

 オルカたちの修行は一段落したけれど、私の魔道具作りは未だ半人前とすら認められないレベルなのだ。

 日々努力である。勿論魔法やスキルに関する鍛錬も、スキマ時間や移動時間などにこっそり行ってはいる。何より寝ているときのそれが一番効いてる気がするけど。

 モチャコたちにただいまをした私は早速作業部屋で机に向かうと、今日も今日とてコミコトに乗り移ってロボいじりに精を出したのである。

 そのうち、冒険に役立つひみつ道具とか生み出して、みんなを驚かせるド○えもん的活躍が出来るようになったら楽しそうだな、なんて頭の隅で妄想しながら、静かに夜は更けていった。

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