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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一八七話 大盤振る舞い

「街に戻ったら早速クラウのPT加入申請をしないとね」


 ということで誰からも異存は出ず、クラウが正式に私たちのPTへ加入することが決定した。

 クラウをPTに入れるということは即ち、私たちもまた彼女とともに恐ろしい敵とバチバチやり合わなければならないわけだけれど、幸い私には最強の逃げ足があるんだ。それを鑑みれば、彼女を拒む理由もない。

 どんな強敵であろうと、PTで挑めば大抵どうにかなるし、どうにもならないなら逃げれば良い。それだけなのだから。

 そうして先程までのシリアスめいた空気から一転、おめでたい雰囲気が漂ったが、しかし未だ本題の方が片付いていない。

 一頻りクラウを歓迎したところで、彼女は改めてイクシスさんへと向き直った。

 するとイクシスさんは、今度こそ限界突破のスキルオーブをクラウへと差し出したのだ。


「クラウがまた一人で行動し始めるというのであれば、もう一悶着やらかそうかというところだったが、杞憂だったみたいだな。さぁクラウ、受け取ると良い」

「母上……ああ!」


 そうしてクラウは両の手でその宝珠を受け取ると、包み込むように胸の中へ抱え込み、そっと目を閉じた。

 するとどうだ。指の隙間より漏れる金色の光はその強さを増し、やがてパリンとオーブは砕け、それ自体も光の欠片となりクラウの胸へ吸い込まれて行ったのである。

 ふわりと一瞬、彼女の全身を黄金色の輝きが覆ったかと思えば、次の瞬間には何事もなかったかのように元通りである。

 クラウの気配が変わったとか、すごい力を感じるとか、別段そういうこともない。ただ、上限が解除されたと。本当にそれだけのスキルらしい。

 しかしそれは、人間を辞めるための資格を得たようなものだ。言うなれば一種の進化とも言えるだろう。ゲーム脳から言わせて貰うと、限凸である。

 皆が呆然と彼女を見つめる中、誰より先に賛辞を送ったのはやはりイクシスさんだった。


「クラウ、おめでとう。これでお前は『こちら側』へ足を踏み入れる資格を得た。しっかり励むと良い」

「ありがとう、母上。私はきっと、母上にさえ劣らぬ冒険者になってみせる。仲間たちとともに!」


 斯くして、クラウにとって二度目となる幕開けは訪れた。

 一度目はこの場所を飛び出したその時に。

 そして二度目は、この場所へ戻ったその日に。

 イクシスさんめ、なかなかニクい趣向を凝らすものだ。


「さて、ではお待ちかね。私からキミたちへのプレゼントタイムだ! 聞けば私が想像していた以上に、キミたちにはクラウが世話になっているらしいじゃないか。何だ命を救われたって! 後で詳しく聞かせてもらうからな!」

「う、ま、まぁ説教は黙って受け入れよう。それより母上、一体プレゼントとは何を贈る気なんだ?」


 新たな門出の高揚に浸ったのもつかの間、イクシスさんの鋭い視線に苦い顔をしたクラウは努めて明るく話題を逸らす。

 イクシスさんも、明るい空気に水を差すつもりも無いようで。思うところはあれど、ぐっと飲み込んで代わりに携えていた袋の中に手を突っ込んだ。


「ふっふっふ、まぁ期待してくれて構わないぞ。私が冒険で手に入れた秘蔵の品から、キミたちに合いそうなものをそれぞれ託そうというのだからな!」

「おお! 太っ腹だねイクシスさん!」

「勇者イクシスのお宝……!」

「ほ、本当にそんな物頂いてしまって良いのでしょうか!?」

「無論だとも! むしろクラウを救ってくれた礼としては足りないくらいだ。埋め合わせは追々考えるとして、今は黙って受け取って欲しい」


 そう言って彼女がまず取り出したのは、深い青色をしたスキルオーブだった。

 それをイクシスさんは、徐にオルカへと差し出す。


「これはオルカちゃん、キミに相応しいだろう。【静寂の魔眼】というスキルを宿したオーブだ」

「静寂の魔眼……?」

「目を合わせた相手に、約三秒間の完全行動停止を強制するスキルさ。使用制限等もあるが、MNDによる抵抗を受けない強力無比なスキルだよ」

「そ、そんなすごいものを、本当に貰っていいの……?」

「勿論。キミたちには恩義も感じているが、加えてこれから先クラウとともに戦ってくれるというのだから、せめてもの支援だと思って遠慮なく使って欲しい」


 魔眼! 魔眼だって!? くっ、左目が疼く! でお馴染みのアレか!! うぅぅ、めちゃくちゃ羨ましいんですけど!

 オルカは恐る恐る、丁寧にイクシスさんからそれを受け取ると、キラキラした目でその綺麗な青の光を湛えたスキルオーブをまじまじと見つめた。

 だが未だ使いはしないらしい。どうやら皆に贈り物が行き届いてから使用するつもりのようだ。

 そんな嬉しそうなオルカの様子に満足げなイクシスさんは、続いて袋から別の品を取り出した。

 それはまたもスキルオーブである。今度は夕映えの空のようなオレンジがかった赤の宝珠だ。

 イクシスさんは得意気に、その詳細を語り始めた。


「このオーブに宿っているのは【必中の刻印】というスキルだ。効果は、命中させた対象に刻印を刻み込む。刻印を受けた対象は、スキル主の次の攻撃系スキルが必ず命中してしまうというものだ」


 刻印と言えば、オルカの持つ封刻のダガーを彷彿とさせるけれど、どうやらそれとは違うらしい。

 言うなれば一種の呪いのようなもので、受けた刻印は消そうとして消せるような代物ではないそうだ。

 刻印の刻み方は、スキルを乗せて直接打撃攻撃をヒットさせること。その際焼印が如く対象に印が刻まれるのだとか。

 印を受けた相手に対し、スキル主が次に放つ攻撃系スキルは必中。即ち距離や隔てる壁など、あらゆる障害を無視し、ダメージと副次効果が余すこと無く印を受けた部分にヒットするらしい。

 具体的にはまぁ、実際使っているところを見てみるのが一番早そうだが。印を刻む位置次第では必殺の一撃となるスキルだろう。

 あら方説明を終えたイクシスさんは、そんなスキルオーブをココロちゃんの前に差し出すのだった。


「このスキルは、キミにこそ相応しいだろうな。試合で見せてくれたキミの膂力には、正直驚かされたよ」

「あ、ありがとうございますイクシス様! 謹んで頂戴いたします……!」


 ココロちゃんはうやうやしくそれを受け取ると、満面の笑みを返してみせる。

 イクシスさんはその笑顔に当てられ、つられて頬を緩ませた。彼女の満点スマイルには、流石の勇者イクシスの表情筋も形無しである。

 そうして彼女は再度袋の中へ手を突っ込み、中を弄った。

 ちらりと袋の口から中身を確認し、それを取り出す。またまたスキルオーブが出てきた。っていうかスキルオーブばっかり出てくるけど、実際ものすごく貴重なものなんだよね。

 なにせスキルっていうのは、その一つをとってみても人生を大きく変えてしまうような、言うなれば目に見える形の『才能そのもの』と言って差し支えないだろう。

 そんなスキルを得ることの出来るアイテムなのだから、その価値は計り知れない。

 ましてオルカとココロちゃんが受け取ったような、強力無比な品なんていうのは一体、市場に並んだらどれ程の価値がつくのか。ちょっと想像がつかないほどだ。


 イクシスさんが三度取り出したスキルオーブ。今回は白の光を湛えたものだった。

 クラウは限界突破を。オルカもココロちゃんもそれぞれスキルオーブを貰ったとなれば、次は私の番に違いない。

 と、思うのだけれど。残念ながら心眼がそうではないと告げている。


「次はこれだな。PTの盾役であるクラウ、お前に使って欲しいスキルオーブだ」

「な、え、私? ミコトじゃないのか?」

「う、うーん。ミコトちゃんはまぁ、あれだ。放って置いても勝手に変なスキルを身につけるだろう?」

「ちょっと! 私の扱いだけおかしいよね!?」


 流石に冗談だとは思うんだけど、半ば本気であることが心眼のせいで分かってしまい、軽く落胆を禁じえない。

 そしてクラウもオルカもココロちゃんでさえ、納得している様子。

 わ、私だってプレゼント欲しいのに!

 なんて流石に駄々をこねるわけにも行かず、仮面の下でほっぺをパンパンに膨らませていると、それに気づくべくもなくイクシスさんは話を進めた。


「とりあえずスキルオーブの説明をするぞ。それに宿っているのは【ゼロストレンジ】という、これもまた強力なスキルだ。効果は、スキルや特殊能力などを由来とした、あらゆる特異現象を打ち消すことが出来るというものだな」

「!? スキルを打ち破るためのスキル……上手く使えば、相当に有用なものではないか!」

「そうだな。しかしそれ故に使用制限が存在する。いざという時や、ここぞという場面にこそ用いるべき奥の手としての運用が適切だろう」


 曰く、使用制限は一日に三回までしか発動できないという回数制限。

 使い方は、一定時間自身ないし自身の身に着けた装備にて直接触れること。そうすることでスキルに由来するあらゆる現象を無に返すという。

 イクシスさんの言うとおり、PTの盾役であるクラウにはぴったりなスキルと言えるだろう。

 逆に、攻めに用いればスキル由来のあらゆる防御術を無効化し、痛打を与えることが出来る。攻守ともに切り札たり得る、非常に強力なものだ。


「だが母上、もしやこのスキル……自らのスキルさえ打ち消してしまうのではないか?」

「まぁ、そうなるな」

「むぅ、使い所はよく考えねばならないようだ」


 それはつまり、自らの身体強化などのスキルさえ消してしまうという、ある意味諸刃の剣めいたスキルだ。

 使い所をよく見極めなければ、ただ自身を不利に追いやるだけ、ということもあり得るだろう。

 クラウは早速どのように運用したものかと、難しい顔で、しかし実に楽しそうに唸り始めるのだった。


 そして。

 イクシスさんはちらりと私を一瞥すると、袋に手を突っ込んで何やら言い訳めいたことを呟き始めた。


「さて、最後にミコトちゃんへの贈り物なんだが……」

「あるの?!」

「うーん……流石の私でも、ミコトちゃんに相応しいものというのは難題だった。秘蔵のスキルオーブの中にだって、キミの扱うようなスキルは存在しないからな」

「いやいや、そんなに珍しいものなんて要らないよ! ちょっと便利なものとかでいいんだけどなぁ!」

「ミコトちゃんなら、そのやたら器用な魔法で大抵のことは補ってしまえるだろう? わざわざスキルオーブを使うようなことではないじゃないか」

「うぐぅ」


 確かに私は、大抵のことなら魔法でなんとか出来る。

 それで何とも出来ないようなスキルとなると、それこそ希少なスキル類に数えられることとなるだろう。

 流石にそんなスキルオーブを寄越せとは、厚かましくて言い出せない。

 でも、それにしたって何かあるだろうに! 例えば魔眼とか!

 私が恨めしげな目をイクシスさんに向けていると、彼女は少し困ったような顔で袋から何かを取り出した。

 それは、真っ黒な玉である。大きさや質感からして、多分スキルオーブなのだろうとは思うけれど、それに似たただの黒い玉だと言われても信じてしまいそうだ。


「ミコトちゃんには、コレを託そうと思う」

「? イクシスさん、それは?」

「見てのとおりスキルオーブだ。ただし、私でもその内容は分からないし、使おうとしても何故かうんともすんとも言わない代物だが」

「はっ! ロマンの匂いがする!」


 私は早速それをイクシスさんから受け取ると、まじまじと観察してみた。くるくると手の中で回転させ、色んな角度から見てみたけれど、やっぱりそれはただ真っ黒なだけの玉でしか無い。光を湛えることすら無い。

 試しとばかりに使用を試みるも、うんともすんともである。

 いよいよ私が首を傾げると、オルカたちも興味深げに覗き込んでくる。


「本当にスキルオーブ?」

「壊れてるんじゃないですか?」

「母上、不良品を渡すというのはちょっと……」

「ひ、人聞きの悪い事を言うな! 一応鑑定でスキルオーブであることは確認済みだ。が、正直壊れているという可能性は否定できない……が、壊れたスキルオーブだなんて私は聞いたことがないからな。それはそれで珍しい品だろう?」

「珍しければいいってものじゃないよ!」


 開き直ってちょっと得意げなイクシスさんに、様式美的にツッコミを入れておく。

 けれど実際、本当にコレが壊れたものでないとしたら、何やらとてもすごいものって可能性は秘めているわけだ。

 私がしばし無言で黒玉とにらめっこしていると、流石にちょっといたたまれなくなったのかイクシスさんが声をかけてくる。


「すまないミコトちゃん、本当に嫌なら別のものを用意するが……」

「……ううん、これでいい。寧ろこれが良いまである!」


 決めた。私はロマンに賭けることにする。

 するとイクシスさんは表情を輝かせ、そうかそうかと嬉しそうに頷いた。


「ミコトちゃんならそう言うと思ったぞ! 実のところ、私もそれの正体については長年調べていたのだがな、さっぱり手がかりの一つも掴めず持て余していたのだ。私の直感は、きっとそれには何かあると告げてやまないんだ!」

「大丈夫、任せてイクシスさん。きっと私がこいつの謎を解き明かしてみせるから!」


 がしりと握手を交わし、斯くして私はイクシスさんより物言わぬスキルオーブと、それにまつわる調査を引き継ぐこととなった。

 そして、これで彼女よりのプレゼントは皆へ行き渡り、私以外の皆は目配せすると、一斉に自らへ与えられたそれを使用したのである。

 ああ、やっぱり羨ましいな……などと、私は一人心の中で小さな溜息をつくのだった。

 あばば、前回前々回と、サブタイトルに話数書くの忘れてました!

 別に無くちゃならないわけでも、強いこだわりがあるわけでもないですけど、強いて言えば様式美みたいなものですね。

 やぁ、うっかりうっかり。「毎回この話数を見るのが生きがいなんだ!」みたいな方には本当に申し訳ないです。以後気をつけます。

 万が一またやらかしを見つけた場合は、「こいつまた半分寝たまま投稿したんだな」くらいに思っておいてもらえると、やらかした身としましても大分救われますれば。

 自身で気付き次第、速やかに修正しますゆえ、ご容赦いただけると幸いでございます。はい。

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