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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一七〇五話 第四階層と、一方のスイレン

 第四階層、セーフティエリア。

 フロアボスであるアイアンゴーレムとの戦いを終え、やってきたのがここである。

 基本的には代わり映えのしない、館然とした光景が続いており、そろそろ見飽きようかという気にもなるけれど。

 しかし一点、これまでの階層とは明確に異なる点が存在していた。


「おや、鏡が無い……?」


 一通り周囲を眺めてみるけれど、何処にも鏡らしきものは見当たらなかったのだ。これまでは鏡の館ダンジョンとすんなり仮称してしまう程度に、しつこいほど鏡が設置されており。セーフティエリア内にも必ず一つは姿見が置かれていたものだ。

 しかしここにきて、突然失われたそれ。

「予算でも尽きた?」

 などと、推察とも言えないようなてきとうなことを呟きつつ、とりあえずエリア内を細かく調べに掛かる私。もしもなにかの仕掛けが施されているようなら、休憩している場合でもないからね。


 ってことで、一通り探ってみたのだけど。幸いというか残念ながらというべきか、これと言っておかしな点というのはついぞ見つけられなかった。本当に、ただ鏡が置かれていないというだけ。

 一体これが何を示しているのか……やや不穏な感じこそあるけれど、一旦ここで休憩するとしよう。

 なにせ赤い闘気の発展型は、精神疲労を強く被るっていう難点があるからね。ハイリスク・ハイリターン。強力だけど消耗も大きいし、発動も制御も難しいっていう。それを用いた後なれば、疲れていないはずも無し。

 壁に背を預け、床に腰を下ろす。身体は元気だけど、気力がへにゃってる感じだね。やや重ための溜め息が出ちゃうよ。


「はぁ……ドロップアイテムでも確認して、心の栄養を得るとしよう」


 今回のフロアボス戦においても、有り難いことにドロップアイテムを得ることが出来た。持ち運んできたそれらを床に並べ、じっくりと眺めてみる。

 アイアンゴーレムとの相撲に際し、「私が勝ったら篭手をくれ!」というような要望を出したのだけど。

 果たしてそれが、叶ったということになるのかな?

 目の前にあるのは一対の篭手。無骨なようでいて軽量。得物を握るのに不自由しない、使いやすさを感じさせるなかなかの逸品だ。

 しかしフロアボスから得た品とあれば、特殊能力にだって期待が持てそうである。鑑定スキルが使えない関係上、それに関しては後ほど装備して色々試したり、或いは実戦の中で確認するのが確実だろう。


「それにしても、まさか本当に篭手をくれるとは……相撲にだって付き合ってくれたし、もしかすると意思疎通が可能なタイプのモンスターだった? 或いは、闘志を燃やすためにノリよく応じてくれるような、特別な仕様が設けられていた可能性も考えられるか。次のフロアボスには、もうちょっと積極的に話しかけてみるのも良いのかも知れない」


 現在装備している篭手を外しつつ、考え事を口にする私。

 驚きなのはやはり、ドロップアイテムの要望に対してモンスター側が応じてくれた可能性がある、という点だろう。

 もしもこれが今回のフロアボス戦に限った話でないとすると、思った以上に大きな発見だったりするのかも。

 まぁ流石に、「オラ! 剣落とせ! オラァ!」とか言ってモンスターを惨殺したところで、望みが叶うとも思えないと言うか、思いたくないのだけど。

 しかし先程の相撲よろしく、賭けを持ちかけて勝利すれば、狙い通りのアイテムを残してくれる……みたいな法則性は、ワンチャンあるような気がしてる。特に知性や理性に富んだボスモンスターは狙い目かも? まぁ、私たちの場合「話しかける暇があれば殺せ!」が基本スタイルだからね。望み薄かも知れないけど。実際問題、敵が強いほど口を開いてる余裕もないわけだし。


「けど、『遊び』の大切さは再認識できたよね。単なる殺し殺されだけじゃなくて、如何に熱くなれる戦いが出来るか。闘気を操る上では重要な要素になるわけだし、アイアンゴーレムにはそれを教えてもらった気がする……やっぱりこの試練、闘気の使い方を仄めかしてるんじゃないかな」


 不定形の身体に始まり、それを動かす技術を求められ、形状を正確にコントロールする技術や、崩れた形を素早く立て直す即応性なんかを試される場合もあった。それらは「発展型」を操作するための基本だもの。

 ただ、闘気関係なく攻略できそうな内容でもある、ってのも事実なんだよね。さっきのアイアンゴーレムだって、工夫すれば普通に戦っても勝てたと思うし。ステータスがしっかりしているであろう他の皆なら尚更だ。

 つまり、闘気云々は「裏テーマ」みたいに隠された要素、って考えるべきなのかも?


「ひょっとして私、アイアンゴーレムには特殊な勝ち方をしたのかも知れない」


 とある条件を満たして敵を倒すことで、何かしらイベントフラグが立つ、みたいな事ってゲームではよくある話だもの。

 例えばノーコンティニューで勝ち続ければ隠しキャラが出たり、部位破壊をすれば報酬が増えたり、わざと負けることでしか見られないルートやエンディングがあったり。

 それで言うと先程のフロアボス戦は、「発展型」を使って勝利する、みたいな事が特殊な勝利条件に設定されていた可能性も……無いとは言えないように思えた。

 要するに、隠し要素を回収できた、かも知れないって話だ。

 この調子で行くと、今回の試練でも隠しボスを見つけることが出来るんじゃないだろうか。まぁもしそれが成ったとしても、戦うかどうかは分からないけれど。とは言え見落としは悔しいからね、できる限り色々と見つけていきたいものだ。



 ★



 ミコトが第三階層を突破した頃より、遡ることしばらく。

 チームミコバトの音楽担当、スイレンもまた鏡の館ダンジョンへと足を踏み入れていた。

 尤も、今の彼女には踏み入れる足が存在していないわけだけれど。


(ひん……詰みです……終わりですぅ~! 私はここで果てるんですよぉ~!)


 弱音を吐く口すら存在しないために、彼女は胸中で盛大に嘆き散らかしていた。

 涙を流すための目も涙腺もなく、身体はもっぱらスライム状。弱った姿はいっそ水溜りのようですらあり。

 この場にやってきてから、既に幾らかの時間が経っている。事前にメッセージウィンドウにてルールを把握していることもあって、今自分がどういう状態にあり、何をするべきかも一応は理解している彼女。

 されども、身動き一つすら思うようにならない難度の高さに、早くも心が折れかけているようだ。


(そもそも初期装備に楽器が! 楽器が無いっていうのは何の嫌がらせですか~! ハードモード過ぎませんか~?!)


 スライム同然でもぞもぞしている彼女は、現状布に包まれる形で悲嘆に暮れており。その布というのがつまりは、試練からの貸与品たる初期装備にほかならなかった。ミコトがお預かりボックスにまとめてぶち込んだ品々と同様のものである。

 すなわち、下着の上下にジャージ。そして短剣、短杖、短弓というラインナップだ。残念ながら楽器は存在していなかった。

 スイレンにとっての得物とは楽器であり、それ抜きにダンジョンを踏破しろというのは、陸に打ち上げられた魚がフルマラソンを走るのにも等しい無理難題。少なくとも当人にとっては大げさでも何でも無しに、そう感じられて仕方がないのだった。


(せめて、お歌が歌える口! 口を作らねば話になりません~)


 彼女にとって音楽を奏でるためのツールとは、なにも楽器が全てではない。声を発するための喉や口もまた、楽曲を成り立たせるための大切なファクターであると。そう認識していればこそ、不定形の体をなんとかこねくり回し、最優先で形にしたい部位であると言えた。

 そして実際、安定性にこそ乏しいけれど、試みは成功しつつあったのだ。スライムの上部に、人の口らしきものがぐにょぐにょと蠢いており。時折声らしい音を発したりもしている。傍目には何とも不気味な様子ではあれど、進展はあった。

 惜しむらくは、音を拾うための耳が未だ存在していないため、口を作れたという確信が得られていないことだろうか。当人がそれに気づくには、今しばらくの試行錯誤が要りそうだ。


 スイレンのダンジョン攻略は、まだ始まったばかり……いや、始まってすらいない。

 果たしてクリアなど可能なのだろうか……?

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