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第一六六三話 リリエラ班 VS 技の試練ボス 三

 リリエラの概念オリジン【無敵斬り】。大変な使用コストと維持難度を引き換えに、一方的な攻撃を可能にする暴虐のスキルだ。

 これを駆使し、見事ビッグトレモちゃんの両断に成功。しかも幸運なことに、核まで巻き添えにしたクリティカルヒットとなった。

 ライフバーは大きく削れ、一瞬でレッドゲージへと突入したほどであり。しかも核を壊したことによる一時的な行動不能状態が発生。リリエラたちにとっては千載一遇とも言うべき大チャンスの到来だ。


(む。何やら姿が変わりましたね……レッドゲージに突入した影響でしょうか。恐らくは再びステータスが引き上がったのでしょうけれど……どうしてか動きが止まっていますね。これは一体……? ともかく、動かないというのなら攻め時に違いはありません)


 状況を俯瞰するソフィアの視点を持ってしても、核の破壊が成ったという事実にはなかなか思い至らない。何故なら、普通モンスターは核を壊された場合例外なく即死。黒い塵へと還るものだから。つまりは、塵に還っていないことが核が無事であることの証左、と捉えてしまっているためである。とは言えここは試練という特殊な環境下。もしかしたら核を破壊されたとて死なないモンスターが存在するかも知れない、という予想が無いわけでこそないけれど。その可能性は当然、低く見積もられているわけで。

 ビッグトレモちゃんの行動が停止したことと、核の破壊が成されたことを一瞬で結びつける、というのは聡ければこそ難しいことであった。

 故に、理由がわからず動きを止めた巨大人形の姿、というのは誰にとっても不気味なものだったけれど。おまけに電子回路めいた不思議な模様が身体に浮かび上がったのだから、ただ事じゃないと警戒もしたけれど。

 さりとて、みすみすアタックチャンスを見逃すような彼女たちではない。


(ここで一気に削り切るわよ!)

(全力ラッシュだおりゃああ!)

(手塩にかけたオリジンたちが火を吹きます!)


 警戒心を懐きながらも、ライフゲージを枯渇させる勢いで各々が猛攻撃を浴びせに掛かるリリエラたち。

 ただ、こうしたタイミングで巨大な火力を発揮できる系の概念オリジン、というのは誰も持ち合わせがなく。繰り出されるのは通常のオリジンスキルであり。つまりはここまでに行ってきた攻撃を一生懸命叩き込む、というだけの話なのだけど。

 とは言え成果はあり、レッドゲージはみるみるうちに目減りしていった。見たところゲージの20%以下が赤色となるらしい。つまりは本当に、もうちょっとで仕留めきれるという状況。

 レッドゲージモードによるステータス上昇に伴い、防御力も上がっているようだけれど、最大HPが削れたことにより回復力も三割減。結果、DPSは十分に回復速度を上回り、確実に決着を引き寄せていた。


 そうして、残りHPがいよいよ5%を下回ろうかという、その時だ。

 唐突に行動を再開したビッグトレモちゃん。どうやらあと一歩というところで仕留め損なってしまったらしい。

 無理を通して押し込んでしまう、という選択もあるにはあった。が、レッドゲージモードの巨大人形は殊の外良い動きをし、これまでとはまた違った狙いでもって動き出したのである。


(おや、こちらへ来ますか)


 リリエラに攻撃が届かない、ということは既に、否というほど理解している。分からされたと言うべきか。

 であれば、次に狙うべきは他でもない。リリエラと連携攻撃を行っている、ソフィアである。彼女から放たれる魔法がリリエラにより増幅され、斬撃として叩き込まれるのが痛いのだ。ならば魔法の出どころさえ潰してしまえば、リリエラの火力も否応なく低下するのは道理。

 しかしビッグトレモちゃんにとっては困ったことに、行動不能中彼女たちは、もし再度動き出した場合に備えて、と念入りに四肢を破壊しに掛かっており。結果、不完全な再生状態で無理矢理に身体を動かし、リリエラをすり抜けソフィアを目指した形となる。さながら、崩壊間際の人型機械が、ボロボロになりながら執念深く襲いかかってくるかの如し。壊れた手足をばたつかせて、這うように猛スピードで迫る様などは正にだ。

 だが。


(残念、それもまた想定の内です。ご覧に入れましょう、私の概念オリジンを!)


 ビッグトレモちゃんの向かう先、佇む彼女は怯えるどころか、むしろ良くぞ向かってきたと喜ばんばかりの表情にて、ジッと巨体を見据えたのである。

 すると、その瞬間だった。不可解な事象が、ビッグトレモちゃんを襲ったのだ。

 たしかに彼女は、不格好なれど手足を必死に動かし、大地を掴んで前進していた。その自覚はある。

 だが、だと言うのに。どうしたことか、どれほど進んだところで佇むハイエルフへ一向に近づけずに居るのだ。


 そんなバカなと。理解が及ばず、しかしそれなら魔法はどうだろうかと、即座に判断した柔軟性は学習データの賜物か。

 繰り出したるは岩塊。大砲の如く撃ち出したそれは、彼女の細身をへし折る程度造作もないはずだ。ただ、障壁で身を守られては面倒だ、とは思った。だからせめて、気を逸らしこの不可解な現象をどうにか出来ないかと。期待と言えばその程度。

 が、思いがけない結果がビッグトレモちゃんを再度困惑させる。


(届きませんよ。なにせ、「私への接近」を喰らっているのですから)


 そう、生み出された岩塊は、凄まじい速度にて撃ち出されたはずのそれは、しかしどうしたことか何時までも発射位置に留まったまま、僅かとて前進しないでいるのだ。

 だが違う。停まっているわけではない。岩塊は確かに飛翔しており、今も尚対象めがけて突っ込んでいっている最中なのだろう。だが、自身と同様に彼女へ近づけないでいるのだと。

 理解したのと同時、そんなビッグトレモちゃんの背へ襲いかかったのはリリエラとアグネムだ。


 どうしたことか、彼女たちは何ら問題なくソフィアとの距離を縮めてみせる。

 リリエラは人形を飛び越しがてら、ついでとばかりに一撃をぶつけて行ったし、ソフィアを背にするよう目の前に立ち塞がってもみせた。そして、アグネムはまたも猛烈な勢いでビッグトレモちゃんの背中を殴り始める。

 彼女らのそうした動きを見て、人形は考える。己だけがこの異様な現象に苛まれているのかと。それはつまるところ、対象を限定して行使される何らかの力によるものではないかと。

 事実、それは的を射た考察であった。


 ソフィアの概念オリジン【遥かなる叡智】。

 それは彼女が目視し、対象と定めたものから「自分への接近」を奪い糧とする術であり。そして、この糧はソフィアのINTを際限なく引き上げる効果をもたらす。

 矢の如く駆けども、必死に手を伸ばせども、決して何者もソフィアに届くことはなく。それはあたかも智の探求めいた、果てしなさを思わせる。際限がなく、途方もない。何時までも何処までも詰まらぬ距離。求めれば求めるほど、その途方のなさを知るのだろう。

 事実、アグネムに追いつかれ、リリエラに飛び越されたビッグトレモちゃんの気持ちは、容易く折れてしまった。これはダメだと。どれだけ駆けても無意味だと。利口に、大人しく、合理的に、己が取るべき別の立ち回りを模索しに掛かったのである。

 されども残念、ライフバーは既に風前の灯。仕留めにかかるための準備は、とうとう整ってしまった。


(いよいよ仕上げだね。行くよ、私の概念オリジン!)


 そうして振るわれたのが、アグネムによる奥の手だ。

 ここまで、最初に足止めを突破されて以降【幻視拳術:打慣】にて、実際のダメージに比して痛みも衝撃も殆ど感じないという、不気味な技にて存在感を抑え込み、脅威度を低く見積もらせるよう立ち回ってきた彼女。

 それがここに来て、ようやっと大きな意味を成す。


 概念オリジン【プチフリーズ】。

 そも、アグネムが今回のオリジン作成に際しテーマに据えたのが、彼女の有する「負荷魔法」の掘り下げだった。

 特殊な魔法を有しながらも、当人の適性はガチガチの前衛職にこそあり。結果、いまいち上手く扱いきれていないという自覚はあったのだ。ゆえに、この機会に見直しと深堀、そして扱いやすいオリジンとしての再構成を試みようと。

 そうしたアプローチにより生まれたのが、「幻視拳術」であり。

 そして、この【プチフリーズ】でもあった。


 糧とするのは「感触」だ。攻撃に際し生じる、あらゆる感触。それを喰らい、糧と成す。

 得られる結果はと言えば、「思考停止」。


(ミコト様が言ってた。データが重いと画面がカクつくことがあるんだって。酷い時だとフリーズを起こすこともあるって。私の概念オリジンは、それを擬似的に再現する!)


 アグネムの拳が、ズゴンとビッグトレモちゃんの背を打ち据える。するとどうだ、突然呆けたように行動の一切をストップさせる彼女。

 五感は生きている。情報の取り込みは正常に行われている。だが、処理が停まっている。

 打ち付けた拳に感覚はなく、殴られた側とて何ら感じるものはない。何なら、ダメージだとて他のオリジンにも劣る程度だ。けれど、その効果はあまりに劇的であり。

 動きが止まったというより、行動が停止したビッグトレモちゃん。がしかし、効果自体はあっという間に切れてしまう、ほんの些細なものに過ぎない。正にプチフリーズ。それ故にコストが軽く取り回しが良い、というメリットこそあるけれど、拳一発分ではとても実用的とは言えないだろう。

 であれば、連続で何度も殴れば良い。


 そう、アグネムが殴り続けている間、ビッグトレモちゃんは正気に戻れないのである。

 数秒おきに訪れるリフレッシュとて、行動を再開するまもなくプチフリーズを受けてしまえば仕方がない。

 そして、そんな無防備を曝す巨大な人形に対し、リリエラもソフィアも容赦がないのだ。


 INTの上昇に伴い威力の増した、ソフィアの繰り出すオリジン魔法。

 これを受け止め、斬撃としてビッグトレモちゃんへ叩き込めば、しっかりと削れるライフバー。

 されども人形が我に返る兆しもなく。アグネムはひたすらに拳を振るい続けている。


 そうすれば、決着がつくのに然程の時間も掛かりはしなかった。

 最後の最後、残りHPが3%を下回ったタイミングで、もう一段階ビッグトレモちゃんに変化こそ見られたけれど、だからと言って行動を再開できるわけでもなく。

 そんなこんなで憐れビッグトレモちゃん、散り際はなんとも呆気なく。正に人形然とした無抵抗ぶりのまま、哀愁すら漂わせ黒い塵へと還っていったのである。


「……よし、勝ったわね!」

「他に敵影は、無さそうですが」

「作戦通りだったね!」


 斯くして、リリエラたちもまた試練ボスを無事撃破したのであった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ソフィアさんのオリジンスキルはリアルで言うなら『物体運動によるカロリー消費によって発生したエネルギーを自分のにする』というボス系(?)スキルで、アグネムちゃんのはメガテ○シリーズ…
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