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第一六四九話 誉の一番手

 ゲストハウスの真南に位置する巨大な湖。

 そこを道沿いにぐるりと半周行ったところにソレはある。即ち、ボスエリアだ。

 色彩を際立たせる午前の光が、不規則に水面で跳ねて楽しげに踊る中。それを横目にしつつ眺めるはメッセージウィンドウ。

 どうやら以前見た時と変化は無さそうだ。裏を返すのであれば、ここで余計に気を削がれるようなこともないと。


 このウィンドウをすり抜けて、ボスエリアに踏み込んでいったなら、いよいよ試練ボスが出現するという寸法なのだろう。

 おおよそ一月の時間を掛けて整えた準備が、ついに試されるってわけだ。


「とうとう来たわね……それで、どのPTから挑むのよ?」


 緊張を孕んだリリのつぶやきに、周囲の面々はふむと考え、近くの者と顔を見合わせる。そう言えば順番とか考えていなかったっけね。

 これに関して、急遽意見を交わし始める私たち。


「ふむ……ミコトちゃん、どう思う?」

「そうだね、先ず間違いないのは、ここの試練ボスは何度も倒すことが可能なタイプなんだと思う。そうじゃなきゃ、私たち全員をテストすることなんて出来ないからね」

「それはそうなのです!」

「ガウガウ」

「そうすると気になるのが、『観戦の可不可』だよね。観戦が許されるっていうのなら、後に挑戦するメンバーほど多くの情報を抱えた状態で挑めるため、優位性を得ることが出来る」

「なら、観戦が不可能な場合は?」

「順番に大した意味はなくなるかな。一番手だけは、もしも観戦が可能だった場合に備えて、皆に情報を与えやすい、敵の力を引き出すのに適したPTが良いのかも。まぁその分リスキーではあるけど」


 焦点となるのはやはり、仲間たちが戦っている様子を、エリアの外から観戦することは可能か否か、というところ。

 まぁ観戦が出来たからと言って、次もまったく同じボスが出現するとも限らないのだけどね。むしろ対戦相手に合わせた調整を受けた上で出現する、って線をこそ疑うべきだろう。

 その場合も情報なんてのは、然したる意味もないものと考えるべきか。

 なので、観戦できた挙げ句、そこで得られた情報が活かせたらラッキー、程度に思っておくのが良いのかも知れない。

 んで、それを踏まえた上で挑戦PTの順番を考えるってなると……。


「はいはいはい! 私たちが一番ぱわ! 一番槍は誉らしいぱわ!」

「やーーーーーってやるのぜぇ!!」

「ギャウンガギャウンガ!」

「がんばる」


 名乗りを上げたのは、唯一の四人編成PTであるサラステラ班。

 所属メンバーは、サラステラさん、レッカ、ゼノワ、オルカの四名だ。目立ちたがり屋の三人が大暴れしている裏で、オルカがこっそりと大ダメージを狙うっていうのが基本的な作戦らしい。

 また、情報収集って意味においても前衛三人は何れもがかなり動けるメンバーであり。オルカに至っては斥候役だもの。なるほど確かに、一番乗りを譲るには適したPTであると言えた。

 他には鉄壁の防御を誇るクラウたちも候補ではあるけれど、立ち回りがかなり独特だからね。やっぱりサラステラさんたちに任せるのが良いのかも知れない。

 皆も似たような結論へ至ったのだろう。静かに合意は成り、斯くして一番手の座は彼女たちへ託された。

 尚、二番手以降はサラステラさんたちの様子を見てから判断する、ということで話はまとまり。


「よし、それじゃあ行くぱわ!」

「燃やし尽くしてやるのぜ!」

「グラッ」

「バフとかはどうするの?」


 おっと、それがあったね。

 これから強敵と戦うことが分かっているのだから、今のうちにバフを盛り盛りの盛りにしておいたほうが有利なのは間違いない。安全マージンを思えばやらない手はないと言ったところ。

 しかしネックとなるのが、「ここが技の試練である」という事実。

 果たして戦闘が始まる前からバフをしこたま盛り付ける行為を、テクニカルであると評することが出来るだろうか? まぁ、難しいだろう。

 こちらがバフで力を底上げすれば、それだけ攻略難度が相対的に低下するかも知れない。つまり、必要とされる技量が緩和されるってわけだ。

 技の試練的に、それはNGなんじゃないだろうか。

 それにもっとシンプルな懸念もある。


「もしも迷宮が、挑戦者側の戦力に応じた試練ボスを出現させるのだとするなら、バフで盛った分もカウントされるんじゃない?」

「! そ、それはちょっとよろしくないですね~……」

「バフはそのうち切れてしまうからな。一方でボス側が、こちらに合わせて律儀に弱体化するとも思えない」

「そうね。ならボスが現れた後でバフを付けるのが得策かしら」

「異議なしなのです!」


 警戒すべきは、ボスの「初期ステータス」だ。もしもこちらの戦力に応じてコレが上下するのだとしたら、戦闘前にバフを盛り付けるのは危険であると考えられる。よって、バフを盛るなら試練ボスの初期ステータスが確定した後が望ましい。

 ひょっとするとここら辺の仕様を予想できるかどうかも、技の試練の一部にカウントされていたりして。

 何にせよ、方針は決定した。

 ついでにちょこっと、ズルい案も出るには出たのだけど。


「逆にさ、挑戦前にデバフをつけてボスを出現させれば、相手を弱くした状態で戦えるんじゃない?」


 クオさんの意見である。流石は状態異常使い、発想というか観点が違う。

 実際彼女の言うことは尤もであり、もしも試練ボスにバフの底上げ効果がカウントされるのだとしたら、反対にデバフを用いステータスを低くした状態にてボスを出現させることで、戦いを有利に出来るのではないか、というアイデア。確かに可能性の否めない話ではあった。


「そんな小細工はしたくないぱわ! 正々堂々ぶつかって勝つのぱわ!」

「そうだぜそうだぜ、今日までの努力を全部ぶつけてやるんだぜぇ!」

「ガウーラー!」

「私はデバフ、いい考えだと思うけど」


 反対多数で否決となってしまった。オルカがちょっぴり残念そうにしているけれど、まぁ作戦とPTの相性もあるからね。仕方ないね。

 とまぁ、そんな具合に一通り話し合いが済んだなら、いよいよ挑戦開始の時である。

 いざ行かんとする彼女らへ、私はふと思い出した注意事項を語っておく。


「あ、そう言えばさ。無事に試練ボスを倒せたならその後、何処かのタイミングでこの場所へ戻ってくるための仕掛けが施されてる可能性があるから。それを見逃さないよう、気にかけておいてほしいかも」

「それって、前にミコトが宝箱の底に見つけた穴みたいな?」

「そう、そんな感じ」


 リニューアル前の迷宮攻略において、体の試練をクリアした後、だったかな? 特典部屋で装備品や私物を返してもらった時のこと。私はふとした思いつきから、備え付けの宝箱にお湯を張って簡易的なお風呂を作り上げたのだ。体中泥だらけで気持ち悪かったから。

 そうしたらなんと、急に箱の底が抜けて隠し通路が見つかるという、ビックリな展開となり。

 今回ももし、そうしたギミックを作動させなくちゃこの場所に戻れないっていうんなら、見逃さないよう気をつける必要があるだろう。


「せっかく忘れ物をしたのに、ここへ戻るためのルートに気づかずスルーしたら、流石に勿体ないからね。一応留意しておいてほしいなって」

「なるぱわ!」

「分かったのぜ!」

「ギャウ!」

「気をつける」


 それは言ってしまえば、試練ボスを倒した後の話。されど、気が早いだなどとツッコんでくる者は誰一人として無く。それだけ皆が、自分たちの勝利を強く信じている証左に他ならない。

 鍛錬は自らを裏切らない。どんなに恐ろしいボスだろうと圧倒できる筈であると、そのような確信を得られるほどの努力を、頑張りを、皆もしっかりと積み上げてきたのだろう。素晴らしいことである。

 そしてこれにて、一通り話し合うべきことは話し終え、注意すべきことも促した。

 最後にと、私の手を取ったのはオルカ。


「私も頑張る。ミコトも頑張って」

「オルカ……うん。次に合流できるのがどのタイミングになるかは分からないけど、お互い無事でいようね」

「ん」


 そのように互いの健闘を祈り合ったなら、いよいよ挑戦の始まりだ。

 皆の声援を受け、サラステラさんたち四人が足取りも力強く、ボスエリアへと踏み込んでいく。

 さて、どうなる試練ボス戦!

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