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第一六四四話 変質

 魔力のカタチをチューニングし、特定の現象を引き起こすパーツを生成。そうしたパーツによる現象を組み合わせることで、理論上はあらゆる既存のスキルを再現することが出来るはず。というのが、魔力のカタチを扱えるようになった皆が漠然と懐く共通の認識なのだけど。かくいう私も、初めは同じように思っていたのだけど。

 ところがどうしてか、どれほど複雑にパーツを組み合わせてみても、再現の叶わないスキルが存在していることに気づいたのである。


 皆の場合は、魔力適性的に作成できるパーツの種類がどうしても偏ってしまい、得手不得手というのが必然的に発生するため、「作成できないパーツ」というのが少なからず存在する。ゆえに、己が扱えるパーツでは再現できないスキルがある、というのも仕方のないこと。と割り切ってしまえるのだろうけれど。

 ところが私の場合、際立って作りやすいパーツがない代わりに、あらゆるパーツをチューニングできるというワイルドカード的な適性を持っており。

 なればこそ気づいたのだ。既存のパーツを如何に駆使しようと、再現の出来ないスキルは存在するのだと。

 勿論、未発見のパーツが存在している可能性というのは考えたし、その方向からしっかり探りを入れてもみた。が、結論が覆ることはなく。少なくとも私が把握している限りにおいて、どんなパーツをどう駆使しようとも再現不能のスキルは、やはり存在するようだった。


「私が目指したのは、試練ボスとソロで戦えるだけのヤバいスキル。それを開発する過程において、『再現の出来ないスキル』を気に掛けるっていうのはまぁ、ぶっちゃけたことを言うと直接的に関係のない、横道に逸れたものではあったのだけどね。ただ結果として私は、一部のスキルが再現できない理由を、大なり小なり理解したのかも知れない」


 いまいち要領を得ない私の言い回しに、皆の表情は難しげ。無理もないことだ。

 何せこれはまだ、前置きでしかないのだから。

 取り敢えず、念頭に置いてほしい情報は伝えることが出来たはずだ。そうしたら、いよいよここからである。


「ってことで、ここからが本題だよ。まずは……見てて」


 言って、私は胸の前で両の手を構える。視えざるバスケットボールでも挟み込んでいるような形にて維持されたそれは、今のところ何の変哲もないただのポーズ。

 されども、観察する皆の表情は、数秒とせぬ間に引きつっていったのである。


「これは……」

「と、とてつもない魔力濃度です」

「カタチも綺麗に一定を維持しているな。まるでブレが感じられない」

「このカタチなら恐らく、水を生み出すパーツです~」

「魔力濃度、どんどん高まってる」

「っていうかもしかして、圧縮してるのぜ……?」

「しかしそれにしては、何か……」


 流石である。魔力だなんて視えもしないものを、感覚だけでそこまで読み解くとは。

 そう、皆の言うように私は今、「水を生み出すパーツ」をチューニングし、ホールドにて固定した魔力を、しこたま圧縮している最中だった。

 パーツのカタチを維持したまま、魔力をぎゅうぎゅうと小さく押し潰していく作業というのは、言うほど容易いことではなく。なればこそ皆も、異様なものを目の当たりにしたように、驚きと興味を湛えた瞳にてまじまじと観察しているのだろう。

 人間、他者の見せる「やり過ぎ」に対しては存外大きな驚きが伴うもので。彼女たちが感じているそれも、謂わばそうした類いの戦慄だったのだろう。私が一段階、また一段階とパーツを小さく圧縮する毎に、場がざわめくのを感じていた。


「ど、何処まで小さく潰す気なのよ……!」

「そもそも一体どうやってるんぱわ? こんな事が可能なのぱわ?」

「少なくとも、ちょっとやそっとのことで真似できるとも思えんが」

「でもこれに、一体どんな意味が……?」


 執拗に、しつこいほどに、ともすればバカげて見えるくらいに。私はひたすらにパーツの圧縮を続けていった。

 圧縮率の上昇に伴い、ホールドの難度も上昇を続け。僅かにでも気を抜こうものなら、その時点で台無しになってしまう、力強さと繊細さの両立を必要とする極めて困難な作業。

 まるで自分の首を絞めるように、圧縮を強めるほど自らを追い詰めているかのよう。正に己との戦いと言えるだろう。されどなればこそ、苦しい反面どこか小気味良くも思えた。集中力が研磨され、研ぎ澄まされていく実感が不思議と心地良い。

 あたかもそれは、飽くなき限界の更新。その上を、更にその先をと。満足という言葉を忘れてしまったかのように。ゲームのベストスコアを更新する時にも似ていて。

 頭をよぎるのは、トッツォくんを作るのにダンジョンをしこたま小さく圧縮した時のこと。或いはそれ上回るほど執拗に、パーツを小さく小さく押し潰していったなら。

 ふと、それは生じたのである。


「……きた」

「「!?」」


 きっと私が何を言わずとも、皆にはそれを感じ取ることが出来ただろう。そのくらい顕著な「変質」が、確かに生じたのだから。

 今しがたまでざわざわとしていた彼女たちが、今はどうしてだか鳴りを潜め、されども強い興味に目の色を変え、じっと観察するのは私の手元。次に何が起こるか、それを決して見逃すまいと集中しているのかも知れない。

 一方で、ようやっと難関を乗り越えた私は皆の顔を見回すだけの余裕を取り戻しており。

 寄せられる期待に応じるよう、現象の発現を押し留めていたホールドパーツを、徐ろに解放してみせたのである。

 瞬間、生じたのは水。変質した小さなパーツは、蛇口を捻ったように小さな水流を地に落とし、数秒を経て鳴りを潜めてしまった。

 沈黙。静寂。まさかこれだけではあるまいと、続きを期待する皆の視線に、何とも居た堪れない気持ちが湧くけれど。


「取り敢えずこれだけ。じっと見てても、もう何も起きないよ」

「「…………」」


 私の顔と手元を交互に眺め、反応は実に様々。だが、言わんとしていることは分かる。

 あれだけ魔力を圧縮し、明確に変質を感じ取ったのだ。だというのに、こんなちょろっと水が出ただけで終わるだなんて、そんなはずはないだろうと。

 要するに腑に落ちないのだ。我々は一体何を見せられたんだ、とでも言いたげである。気持ちはまぁ、よく分かる。

 黙っていられなくなった面々が、早速説明を求めて口を開いた。


「ミコトさん、今のは一体……」

「結局なんだったのよ! 何が起きたわけ!?」

「詳細を求めます~!」

「グラッグラッ」


 言及の声に対し、まぁまぁと彼女らを制する私。

 さて、それでは次にどういったパフォーマンスを披露しようかと少し考え、とあるメンバーを手招いた。

「レッカ、ちょっと協力して」

「ぜ?」

 指名したのはレッカ。言わずと知れた、チームミコバトの火属性担当。

 そんな彼女にお願いしたのは、得意な火系アーツの行使である。

 これを受け、お安い御用とばかりにレッカは右手を前へ突き出し、勢いよく火炎放射を放ってみせた。ああ勿論、皆の居ない方へ向けてね。

 ゴオッと迫力のある音を伴って、見事な火炎が躍って見せる。火竜のファイアブレスを彷彿とさせる、上等なアーツだった。


 そうしたら、そんな彼女の手元へと件の圧縮し、変質したパーツを近づける私。

 するとどうだ、変化は劇的に生じたのである。

 さながらそれはハイドロポンプ。彼女の炎は大量の水へと姿を変え、前方の地面を凄まじい勢いで濡らしたのだ。

 レッカにしても、皆からしても不可解な現象。道理に合わぬ奇っ怪な出来事。喩えるなら、科学の実験で度肝を抜かれた子供たちのような、そんな顔をする彼女たち。

 これは何だ、どういう事だ、一体何が起こったんだと。質問の勢いは一気に激しさを増し、今にも詰め寄ってきそうな面々にやや慌てる私。

 それらに応じる前に、レッカへと問いかける。


「レッカ、炎が水に変わっちゃったわけだけど、どんな感触だった? 魔力の変化とか感じた?」


 この問い掛けには皆も興味を惹かれたのだろう。彼女の返答に耳を傾ける。

 対し、レッカの返答は。


「それが、おかしいのぜ。私はちゃんと火炎放射のアーツをチューニングしてるはずなのに、こう……私のアーツが勝手に姿を変えたっていうか、書き換えられたっていうか……炎が無理やり水に変換されちゃった感じなのぜ!」

「「!?」」


 困惑しながらも、感じた通りのことを答えてくれたレッカ。当人も解せないと言った感じではあるが、聞かされた皆は尚更に首を傾げており。

 そうしたリアクションを見るに、十分驚きを味わってくれたことだろう。興味も刺激できたはずだ。

 なれば、そろそろ種明かしと行こう。

今週も誤字報告に、感謝!!


それにしても、ようやくちょっと春めいてきましたねー。私の居る時間軸ではそんな感じ。もう寒波は大丈夫なので、来ないでもろて。

あとできれば、花粉も大人しくしてもろて……

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 レッカ「あ…ありのまま起こったことを話すぜ!? 私は頼まれて炎を出していたのに、謎パーツを近付けられたら『炎』が『水』に変えられていた…!! な、何を言ってるか(ry」 まさにこ…
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