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第一六一一話 謎の特殊ルール

 闘気に関する話題はなかなかの盛り上がりを見せ、特に親分オーガに対し想定以上の成果を出した、という情報には様々な推察が飛び交った。

 とは言え幾ら意見を交換してみたところで、検証作業が行えないというのでは、必要以上に試したいという欲求を高めるばかり。自制が必要である。

 というわけで、程々のところで話題を切り上げたなら、次に話に上がったのは「隠しボスの撃破特典」について。


「実は、こんな物をもらったのだけど」

「「!?」」


 言いつつ、マジックバッグより取り出したるは一冊の本。即ち、ルールブックである。

 ルールブック。それはスキルとも特殊能力とも異なる、『特殊ルール』という不思議な力を宿せし合成専用アイテムであり。

 現状においてはこれを含めて、たった二冊しか確認できていない、私たちにとっても極めて希少なアイテム。なれば必然、皆の驚きも相応に大きく。

 特典を得た、という話自体は大雑把に伝えていたものの、それがよもやルールブックであるとは思いもしなかったのだろう。周囲はやや騒然とした。

 早速この本に、如何な特殊ルールが記されているかと、質問が投げかけられるわけなのだけど。


「そろそろリリ辺りに噛みつかれそうだから、勝手に鑑定なり何なりしてもろて……」


 ここまで、頑張った成果として皆に色々語ってきたわけなのだけど、ぼちぼち自慢が過剰な気がして心苦しい。何ならちょっと貰い過ぎな気すらしているくらいだ。

 まぁルールブックは、それを最大限活かせるメンバーの手にこそ委ねるべきだ、と個人的には思うので、そういう意味でも私が使うって前提を省いて意見を交わしてみて欲しいところ。

 そんなわけで、取り敢えず優れた鑑定スキル持ちであるイクシスさんにルールブックを渡し、サッと踵を返して長椅子にダイブ。

 なにせダンジョン探索にボス戦、更に隠しボス戦を乗り越えてきたために、疲れているのだ。ちょっと横になったって罰は当たるまいよ。


 して、本を受け取ったイクシスさんは徐ろにページを開き、視線で文字を追いかけ始めた。周囲のメンバーたちも、競うように本を覗き込む。

 ルールブックは鑑定するまでもなく、本に特殊ルールの内容が記されているからね。読めば概要は理解できるのだ。

 よって、それほどの間を様子でもなく、皆は今回のルールブックが如何なるものかを、各々理解できた様子。

 その結果。


「めちゃめちゃ有用な特殊ルールじゃないの!!」

「リリエラちゃん耳元でうるさい」

「いやしかし、声が大きくなるのも分かるな……」

「またとんでもないものを手に入れましたね~」


 そう、とんでもないのである。

 引き合いに出されるであろう、以前入手した「逆さま」のルールブックが可哀想になるくらいには、有用性に優れた特殊ルールと言って間違いなく。

 とは言え多少の癖はあるため、適した所有者というのは限られるだろう。全員での争奪戦、ということにはならないと思うのだけど。

 使いこなせそうなメンバーを挙げるとすると、オルカ、イクシスさん、クラウ、リリ、私……ああいや、周囲が協力したなら殆どのメンバーに適正あり、か。


「まさか心の試練に、こんなお宝が隠されていたなんて……惜しいことをしたのぜぇ」

「ぱわぁ……」

「いや、恐らくミコトちゃんでなければ発見は厳しかったと思うぞ。さっき聞いただろう? 隠しボスを見つけ出すまでに彼女が解き明かしたギミックの数々を」

「単なる仕掛けなら見つけられたけど、名前を聞き出すって発想はなかった」

「同じく」


 おっと、チームミコバトの誇る斥候組ですら、第三階層なんかで用いられた名前に関する謎解きには気づかなかったらしい。

 ダンジョンの外に居た、透明のモンスターになら気づいて撃破したメンバーもちらほら居たようだけど、やっぱり何処かしらで見落としをやらかしていたようで。結局隠しボスを出現させるところまで至れたのは私だけだったみたい。


「流石は天使様です。誰も気づかぬ隠された要素を暴き、更には心命珠を落とすほどの手合すら退けてみせた。故にこそこれほど素晴らしいルールブックが贈られたのですね!」

「ですです。ミコト様にこそ相応しい、すんごい特殊ルールなのです!」

「推しがますます輝いちゃうなぁ!」


 おや。崇拝組の中では、ルールブックを私が使うものとして既に話が決まっている様子。

 これは一つ、口を挟まねばなるまいよ。

「いやいや、今回の特殊ルールもちょっとクセのある能力だからさ。一番使いこなせそうなメンバーこそ、そのルールブックは使うべきだって思うのだけど」

 と、長椅子に寝そべりながら告げてみたところ。

 キョロキョロと、メンバー同士で視線を交わし合う彼女たち。皆なりに相応しい人物の見定めを行っているのだろう。


 強力な特殊ルールであることは間違いない。であれば、然るべき者が扱ったればこそ、最も高い効果が期待できるというのは当たり前の話。単に私が入手したからって理由だけで、所有権を頑なに主張しようとは思わないよ。

 そりゃ勿論、私が自分で使っていいというのならば、喜んでそうさせてもらうけれどね。前提にくるべきはルールブックとの相性である。

 皆の目から見て、尤も件の本と相性の良いメンバーは誰なのか。それが肝要だ。


「このルールを使用した際、一番猛威を振るいそうなメンバーか……」

「先ずもって、一対一での戦闘に強いことが重要ね」

「加えて発想力も大切ですね~」

「隠しボスから得た特典として、相応しい特殊ルール。隠しボスっぽいメンバーに似合うはず」


 チラチラと時折視線が飛んでくるけれど、私は既に赤い闘気で皆に先んじている他、心命珠もへんてこスキルも得ている。なのであまり気を遣わないでいただきたい。

 そんな私の思いを知ってか知らずか、早速話し合いはなされ。

 そして結論は出たのである。


「────えー、というわけで。このルールブックに関しての所有権はミコトちゃんにあるものとし、合成先はアクセサリー。状況に応じ、借り受ける形での運用をしていこうということで決定だな」


 ってことになった。逆さまの時と似たような落とし所である。まぁでも、今回は特殊ルールの汎用性も高いことから、貸し出す対象も幅広い希望者が予想される。

 ちなみに、ルールの内容というのが以下の通り。


・装備者は、専用の亜空間へ出入りすることが出来る

・装備者は攻撃を命中させた対象を、強制的に亜空間へと転送する

・装備者以外は亜空間に居る限り、常時HPとMPを失い続ける

・対象の失ったHPとMPは、装備者の回復に用いられる

・装備者は亜空間に予め『謎』を用意しなくてはならない

・装備者は『謎』の答えと解き方を理解・把握していなければ、『謎』として機能しない

・対象は亜空間にて『謎』を解くことで、装備者を同じ亜空間内に召喚することが出来る

・対象は装備者を殺傷することで、亜空間から脱出することが出来る

・装備者は対象を、いつでも亜空間より解放することが出来る

・装備者は亜空間内に対象が居る限り、亜空間内より脱出することは出来ない

・装備者は亜空間内に対象が居る限り、この特殊ルールを宿した装備を解除することが出来ない

・この特殊ルールを宿した装備が破壊された場合、亜空間は消滅する

・亜空間の消滅に伴い、亜空間内に存在したものも同時に消滅する


 うん……ちょっとややこしいね。

 とどのつまり、このルールを宿した装備を身につけた状態で、モンスターや人間なんかに攻撃をヒットさせると、その相手を亜空間送りに出来るってわけだ。強制的なので、多分魔法抵抗力とかも関係ないだろう。

 んで飛ばされた相手は、亜空間内で謎解きに挑戦しなくちゃならない。その謎は、装備者自身が予め用意する必要があるらしい。

 そして見事謎が解かれた暁には、装備者も亜空間内に引き込まれ、一対一での戦闘に突入するってわけだ。ああいや、もしも亜空間内に複数の相手を閉じ込めた場合は、一対多の構図になる可能性も考えられる。そこは要注意だね。

 後はまぁ、勝利した奴が外に出られるって寸法だ。例外的に、装備者が「外に出ていいよ!」って解放した場合、亜空間から強制退場ってことになるようだけれど。数的不利を背負ったときなんかには便利な抜け道となるだろう。


 してこの特殊ルール、何が凄いって、モンスター相手に謎解きを強いることが出来るわけだ。

 つまりはダンジョンなんかにある隠しギミックを、モンスターに見つけさせた上に解かせる、みたいな無茶振りが可能であり。それを達成できない限り、常にHPとMPを奪われ続けるっていう鬼畜仕様。

 んで、やっとこさ謎を解いたとしても、その頃には随分弱っているだろうし。加えて装備者が、それこそ隠しボスよろしく満を持して出現し、そのまま襲い掛かってくるのだから相手にとっては堪ったもんじゃないだろう。


 ただ、亜空間に誰かしらが入っている状態では、特殊ルール装備を解除できないっていう縛りを受ける他、いつ自分が亜空間内に引き込まれるか分からないってリスクを背負うことにもなる。

 また、攻撃を当てると問答無用で亜空間送りにしちゃうわけだから、下手をすると戦闘で立ち回りが制限されたりもするだろうし。

 そこら辺をよく理解した上で、上手に運用しなくちゃならない。

 最終的にタイマンで敵を倒せる、対単体戦への適性や、どんな相手でも頭を抱えるような謎を考える能力なんかも必要になるため、強力ではあれども誰だって簡単に扱える特殊ルールってわけじゃない。そういった意味で、扱いには人を選ぶわけだ。


 んで、それと分かった上で尚、使ってみたいと主張するメンバーはそれなりに居り。

 されども所有権という意味合いにおいては、やはりルールブックを獲得した私こそが握っておくべきだろう、という話にもなった。

 事実として、謎を考えるのも、タイマンでの戦闘も、攻撃を制限された場合の立ち回りも、私であれば一通りこなせそうではあるしね。

 ただ、謎に関しては別に、当人が一人で考えなくちゃならないってわけでもないだろうし。立ち回りも皆でサポートすればいいし。もしも謎が解かれて亜空間に引き込まれたとしても、直ぐ様解放を行えば無理に一人で戦う必要もない。

 よって、希望者に適宜貸し出しを行うって形に落ち着いたわけだ。

 これに伴い、合成は誰でも装備可能なアクセサリーとすることも決定。


 まぁ実際に合成ができるのは、この迷宮から脱出し、裏方組とコンタクトが取れてからの話にはなるのだけど。

 そのためにも皆で無事にこの迷宮を踏破しようと改めて団結できたのだから、それだけでも親分オーガに挑んだ価値はあったように思える。

 残りの試練も、スムーズにクリアできると良いのだけど。さてどうなるものやら……。

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これフェルマーの最終定理を紙とペンだけ用意して置いといたら誰も出てこれないから。 出題者自身が解けるとかの制限必要では?
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