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第一六〇八話 見えない粘土

「どうするゼノワ、チケット使う?」


 個人的な見解としては、一度十分に抜け道がないか探ったうえで判断を下して欲しいところなのだけど。

 しかし当然ながら、ゼノワ当人の意思、というのは尊重されるべきだ。

 事実として、【リザーブスロット】の効果は非常に強力なものであり、もしも無事にゼノワが新たな空き枠を得た場合、その恩恵はチームミコバト内でも際立って大きなものになると予想できる。

 ただ、チケットが正常に機能せず、装備枠が追加されない可能性もまた否定できない。それならまだマシで、もしもチケットの使用が切っ掛けで予期せぬ不具合なんかが生じようものなら、パワーアップどころか弱体化の憂き目にだって遭いかねないのだ。私はそれが恐ろしい。

 そうした事情も踏まえた上で、ゼノワはどうしたいのかと。当人の意思を問うてみる。果たして彼女はどういった意向を示すのだろう?


「ガウガウ……ガウーラー」

「保留か。そうだね、私もそれが良いと思う」


 そもそもチケットの入手から今に至るまで、いざという時の切り札として所持していたチケット。

 枠が増えれば、状況をひっくり返し得る力を振るえるのだろうし、それとは逆に枠が増えず、あまつさえマイナス効果が出てしまった場合、潔く敗北を受け入れる他無いっていう、ギャンブル要素の強い奥の手。

 であれば、リザーブスロットの登場によりその奥の手が、より強力なものになったと。一先ずそう思っておけば、保留という決定も飲み込めるというものだ。

 まぁ周囲で皆が、リザーブスロットの力で暴れるのを目の当たりにすれば、羨ましさに疼きを覚えることもあるだろうけれど。どうにも我慢ならなくなったなら、その時はいよいよチケットが使用されるだけの話。願わくは悪い結果が訪れないことを。


「ところでミコト、件の隠しボスから心命珠を得たとの話だったが」

「ん? ああそうそう、これだね」


 一頻り見た目装備やリザーブスロットの効果を確かめ、盛り上がりも粗方落ち着いた頃。ふと声を掛けてきたのはクラウだった。

 心の試練を私が如何にして乗り越えてきたかは、既に説明を終えている。その話の中で、勿論隠しボスとの戦闘についても触れており。その流れから、心命珠を得たこともまた簡単になれど明かしていた。

 ソフィアさんが食い気味に詰め寄ってきたせいで、先にへんてこスキルの説明から行ったわけだが、それが済んだのならば別の要素に興味が移るのも道理と言えるだろう。

 どうやらクラウは、中でも心命珠について詳しく聞きたいようだ。他の皆も気になったようで、既にこちらをロックオンしている。

 差し当たっては、取り出してみせた現物に皆の視線が吸い寄せられた。


「今までも何度か目にしてきましたが、やっぱり綺麗ですね~」

「それで、どういう力が宿ってるのよ? もちろんあるんでしょ、特殊能力!」


 心命珠は、綺麗な球体状の形と大きさから、ともすればスキルオーブに間違われても不思議ではない神秘的な宝珠なのだけど。しかしそこに宿った意思がゆえか、独特の気配が存在しており。総じて魔性とも言えるような凄まじい魅力を放っており。スイレンさんがうっとりした目をするのも仕方のないことではあった。

 まぁどれほど美しかろうと、そのうち何かしらの装備に用いられるのだけどね。


 して、気になるのはやはり、この心命珠に如何なる力が宿っているのか、という点。問いかけてきたリリのみならず、今や全員が興味津々だ。

 そんな彼女らへ向け、早速紹介を行っていく。


「そりゃ私と戦って心命珠を残していくほどの相手だもの、持っていた能力も相応に凄いものだったし、この心命珠にはそれが宿ってるっぽいのだけど……言葉で説明するのはちょっと難しい能力だね」

「ほぉ、というと?」

「既存の属性とは異なる、強いて言えばカミカゼの念力と近い能力って感じかな」


 地水火風など、既存の属性に当てはまることはなく、かと言って重力魔法や空間魔法の類いとも異なる。

 カミカゼの操る念力は、手を触れることなく物を浮かせたり移動させたりと、超能力でいうサイコキネシスに属するような力なのだけど。それに近い力のように思える。

 しかしそれでいて、決定的に異なってもおり。


「幾つか特徴を挙げるとするなら、まず『不可視』であること。次に『重み・硬度』を有すること。それから『自在』であること。そして何より『スキルを通さない』こと」

「! スキルを通さないですって!?」

「むぅ、何やら謎掛けめいているのです」

「ガウー」

「良く分からんのぜ。使って見せてほしいのぜ!」


 キーワードのように、或いはヒントのように、件の能力を象徴する幾つかの情報を開示してみたのだけど、やっぱりイメージするのは難しかったらしい。

 とは言え、今の説明も無しに力をお披露目したところで、きっと何がなんだか分からなかったに違いない。事前情報や前提知識っていうのは大事なのだ。それを頭に入れたのであれば、要望に応じて実際見てもらうことにする。

 心命珠の状態でも、能力を引き出すことは可能だからね。実際カミカゼは、今のチョーカーっていう装備の姿を得る前から、私と一緒にモノ作りを行っていたもの。なればこそ、私は心命珠の扱いにだって一家言ある。


「ええとそれじゃ、どんな実演を披露してみせようか」

「重さや硬さがあるのなら、取り敢えず触ってみたい」

「ちなみに接触のリスクってあるの? 毒とか麻痺とか火傷とか」

「いや、そういうのは無いかな」

「ならば決まりだな」


 接触のリスクか。確かに、もしもそんなものがあればもっと凶悪な能力だったに違いない。

 けれど幸いなことに、或いは残念ながらと言うべきか、この能力は敢えて属性に当て嵌めるなら「無属性」こそが相応しいタイプの力。

 ただ触れただけでは、きっと何の害にもならないだろう。ひょっとすると、何かしらのアレルギー反応が出る特殊な体質の人なんかも居るかも知れないけれど、そんなのはイレギュラーである。この中には居ないと信じよう。

 ってわけで、早速実演に移ることに。

 抱えた心命珠に軽く意識を集中し、どのようなことを成したいか丁寧にイメージ。

 ……うん、これで良いはず。


「はい、今みんなの目の前に、件の力をちょっとした塊として発生させたよ。目に見えず、宙に浮かんだ粘土、みたいなものだと思って触ってみて」


 皆のちょうど胸の前辺り。作り出したのは殆どの人が一度は触れたことのある、細工用の粘土と同程度の硬さを持つ力の塊。

 掴んで捏ね回せば、目にこそ見えずとも形を変えることは容易いはずだ。

 尤も、私にとっては初めてこの力を扱う機会だもの。上手く行っているかどうかは、少しばかり心許なくもある。

 なので心命珠を頭の上に乗せ、自分の分の塊をむんずと掴んでみた。

 結果は……悪くない。って言うかイメージした通りの大きさと形がきちんと生成できたようで一安心。

 心命珠に宿る親分オーガも、感心した様子である。合格点は貰えたと見て良いのかな。

 他方で、皆も早速見えざる塊を捏ねくり始めており。


「わぁ~、なんですかこの、変な感触は~!」

「ギャウンガ!」

「暖かくも冷たくもないね。でも触り心地は悪くないかも!」

「流石は天使様。見えない粘土とは言いえて妙だと思います」


 奇妙な体験に、ワーキャーと楽しげな声がそこかしこから上がっていた。

 これなら、私が「言葉で説明するのは難しい」と述べた理由もある程度理解してもらえるんじゃなかろうか。

 そうして皆が一頻り粘土いじりを体験し、驚きが余韻へと変じ掛けた頃。


「これ、燃やしてみていいのぜ?」

「スキルが通らないという、聞き捨てならないお話でしたからね。私も試して構いませんか?」

「いいけど、室内なんだから加減はしてよね?」

「念の為障壁を張っておくとするか……」


 一部メンバーは案の定、不可視の粘土をいじくるだけじゃ満足できなかったらしく。特にソフィアさんなんかは、目をギラつかせて何かやらかしそうな気配を漂わせている。スキルが通らない、なんて言われたなら、彼女にとっては挑戦状を叩きつけられたも同然ってことなんだろう。

 勿論そんなつもりで言ったわけではないし、どちらかと言えば「バニッシュメントスキル」に近い性質を持っている。ほぉ興味深い! みたいな流れを期待していたのだけどね。ままならないものである。

 とは言え、スキルの効果を通さないってのがどういうことか、実際体験してもらうのが手っ取り早いっていうのは事実。

 事故が起こらないよう十分に配慮し、準備したなら、早速試してもらうとしようじゃないか。

今週も誤字を見つけてくれてありがとう!


ってことで、予告通り引き続いてシングルチェックでの投稿が続きます。

そのため誤字が増えるかも知れませんが、どうかご容赦いただきたい。

次週からは通常通り、ダブルチェックを再開する予定。まぁそれでも、ポロッと紛れ込むのが誤字というものなのですけれどね。はぁ……。

それにしても、シングルチェック投稿……案の定めっちゃ楽だなぁ。いやいや楽だからこそ、一層気を引き締めて臨まなくっちゃ!

ってことで、本文に違和感を見つけたなら、是非誤字報告にてお知らせください! よろしくです!

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 チケットは一旦保留ですか…まぁ現状は迷宮内ですし、ゲームのガチャチケットみたく有効期限が今日って訳じゃない=今すぐ使わなきゃダメってことでもないですからね。 全く関係ない話ですが…
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