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第一六〇五話 とりあえずプリンセスホールド

「うお」

「……待ってた」


 ワープポータルでの転移直後に発した第一声と、その返しである。

 そう、転移先にはなんと、私の到着を今か今かと待ち構えていたものがあったのだ。それも、よく見知った馴染み深い顔。

 対人戦無敵であり、私の影を自称する彼女。即ち、オルカだ。


 Bさんに「またね」を告げ、飛んだ先は何処ぞの廊下と思しき屋内であり。少しばかりの窮屈を感じさせる通路が一本、まっすぐに奥へと続いている。

 そんな廊下の真ん中にぽつんと佇む姿は、さながら忠犬の如し。仮面を外して現れた私に対し、流石の彼女も一瞬ぎょっとした顔を見せたけれど、付き合いが長いだけありリアクションも小さめ。

 取り繕うように仮面を付け直す私へ、音もなく駆け寄ってくるオルカ。ぶんぶんと振られる尻尾を幻視してしまうね。

 さておき、ちょいと気を引き締め直さなくてはならないだろう。


 Bさんとのお別れイベントでしんみりしてしまい、注意力に緩みが出てしまっている。一度頭の中をリセットし、状況を整理したいところ。

 まず、心の試練は既にクリアしたものとみなして良いはずだ。ウィンドウによるアナウンスを受けていないため、まだ確信まではするべきじゃないが、十中八九次へ進んだものと考えて大丈夫だと思う。

 であれば次に考えるべきは、差し当たって二つ。

 一つはこの場所について。見たところ通路のようだけれど、どういった場所なのか。

 そしてもう一つが、オルカについてだ。こう言っては何だけど、彼女が本物であると断じられる要素、というのが現時点では乏しい。

 理屈の上では、このオルカが偽物って可能性は否めないものの。しかし感覚を頼りにものを言うのなら、彼女はきっと本物だ。そんな気がするってだけの話ではあるけれど。

 しかしそうであるなら、どうしてオルカがここに居るのか、というのが気になるところ。

 率直に問うのが手っ取り早いのだけれど、裏を返すことだって出来るんじゃないだろうか。


 この場に訪れた者はほぼ確実に、情報を求めて問いかけを投げるはずだ。見知った相手が目の前にいるというのならば尚更である。

 仮にこの問いかける行為自体をトラップのトリガーとしたなら、獲物が掛かるのは確定的とすら言えるじゃないか。

 だが如何な迷宮といえども流石にそんな卑怯な仕掛けはするまいよ、と高をくくって口を開くことは出来る。が、私は用心深いからね。


「よし、お姫様抱っこをしてあげよう」

「!」


 トラップの可能性がある以上、それを避けるためのムーブをしたいっていうのは当然として。

 それでいて、私はオルカを邪険に扱いたくない。好感度を下げるような真似を働きたくないのであれば、取れる選択肢というのは絞られてくるだろう。

 その中から私が選んだのが、そう。お姫様抱っこである。

 すいっと彼女を抱きかかえ、王子様然とした堂々たるウォーキングを披露する私。

 しかしその一方で、この通路をくまなく調べたいという欲求もあり。結果、分身スキルを行使。ギミックの類いが仕込まれてやしないかと、丹念に廊下を調べ回った。

 言ってもそれほど長い通路ではなく、隅々まで調べたところで然程の手間も時間もかからない。

 何も隠し要素は存在していない、という確信を得た頃には、廊下の最奥、扉の前に到着していた。


「なんか……知ってる気配がたくさんあるね」

「ん。みんな集まってる」


 質問ではなく、感じたままを口に出したところ、相槌のように情報をくれるオルカ。私が意図的に問答を避けたことに、察しよく気づいたのだろう。流石は私の影である。

 して、みんなというのは勿論、チームミコバトメンバーを指しているのだろう。感じ取れる限り全員揃っているように思えるのだけど、まさか私が最後? ドベってやつ? だとしたら顔を出すのが少しばかり恥ずかしいんですけど。

 ただ、思い返してみるとBさんにも、クリアタイムで減点だって言われたしね。平均より時間がかかったっていうのは間違いないんだろう。ちょっと悔しい気もする。

 さておき、いつまでも扉の前で佇んでいるわけにも行かない。念力を駆使しノブを捻って扉を開いてみれば、幾つもの視線がこちらへ向くのが気配で感じられた。

 その中へ、意を決して飛び込んでいく。


「ちょっとちょっと、どういう登場の仕方よそれは……って服! 全部後ろ前じゃない! 一体何がどうしてそうなるのよ!?」


 早速ツッコミを飛ばしてきたのはリリ。言われてみたら確かに、見た目装備で前後を入れ替えたままだった。

 抱えていたオルカを丁寧に降ろしていると、わらわらと皆が周りに集まってくる。

 正直なところ、この状況に対して思うことは色々あるのだけど。例えば無事に合流を果たせたことへの安堵感なんてのは勿論あるし、なればこそ気を抜いて大丈夫かという警戒心もあり。それでいて、心の試練で得たアレコレを自慢したい思いもあれば、皆の試練はどんな感じだったかと訊いてみたい気持ちもある。

 されども先ずは、確信が欲しい。

 心の試練は本当に終わったんだ、という確たる証拠。具体的には、メッセージウィンドウによる言質。

 よって、キョロキョロと視線を彷徨わせる私。結果、それはすぐに見当たったのである。


「はいはい、ちょいとごめんよ。まずはウィンドウを確認させてね」


 早速思い思いに声を掛けてくれた皆に申し訳なく思いながらも、チェックを優先させてもらう。

 皆とゆっくり話をするのに、邪魔となる疑いを腹に抱えていたくないのだ。

 ウィンドウが備え付けられていたのは、部屋の奥。


 そも、ここがどういった空間かと言えば、待合室然とした広々とした大部屋であり。幾つか扉も見えることから、休憩するのに適した場所なのだろうと予想できる。

 んでウィンドウは、とある扉の脇に設置されていた。如何にも先へ進むための扉、って感じで他よりも一回り大きく立派な作りをしていた。

 近づいて見てみれば、案の定それはメッセージウィンドウであり、思ったとおり何やら書かれている。


──────

心の試練の突破、おめでとう御座います

次なる試練へはこちらの扉より進むことが可能です

準備が整い次第お進みください

──────


 ……なるほど。取り敢えず心の試練は終わったという言質は確かに得られた。これの意味するところは大きい。

 なにせ心の試練は、「心を試す」という理由にかこつけて、何を仕掛けてくるか分かったものじゃないからね。ある意味技の試練や体の試練より、余程注意して臨まなくちゃならない、曲者だもの。

 なればこそ、それをクリアしたという明言はとてもありがたい。せっかく合流できた仲間たちのことを、「もしかしたら偽物かも知れない」だなんて疑って掛かるのは流石に嫌だからね。これで一安心だ。


 して、やっぱりこの他よりちょっと立派な扉から先へ進めるらしい。

 けれど「準備が整い次第」という文言のとおり、私たちには一旦準備を整えるだけの猶予がある、と考えて良いのだろう。ここはそのための空間であると。

 それと理解した上で、改めて皆のことを観察してみる。

 いつでも戦えるようなガチガチの装備を身に着けているメンバーというのは少なく、荷物に関して言うなら全員が降ろしている状態。即ち、私が来るまでの間、休憩していたことの証左なのだろう。

 それと少し気になったのは、皆の表情が心做しか暗いと言うか、元気がないと言うか。ちょっと凹んでる感じがする。何かあったのかな?

 まぁその辺りのことも含め、話を聞いてみるとしよう。


「よろしい、ならば団欒だ!」

「ガウラ!」

「流石ミコト様、マイペースなのです!」



 ★



 ってことで、取り敢えず一通り皆の話を聞いてみた。

 先ずこの部屋についてなのだけど、宿泊をするのにも不自由しない、十分な設備の備わっている空間らしく。今日のところはここで一泊してから今後のことを考えようという話に。

 んで、勿論心の試練についても多くの話が聞けた。細かい点は異なれども、大筋は皆同じものだったらしく。特にモンスターが何かしら作っているというのは共通だったらしい。

 まぁ中には、作業中のスタッフモンスターに攻撃を仕掛け、大変なことになったメンバーも居るようだけれど。さもありなんと言ったところか。


 さておき、そんな彼女らの表情がやや暗かった理由に関しても判明した。

 そうさ、大筋が同じだったということは、皆にも相方となる偽の誰かさんがくっついて行動していたわけで。

 皆はそうした偽物さんを、目の前で死なせてしまったらしいのだ。

 そのくせ、特典部屋に入ると何くわぬ顔でカウンターの向こうに立っていたのだとか。悪趣味な仕様だと、憤懣やる方ない感じでもやもやを抱えていたらしい。

 つまり、相方は必ず命を落とし、それを見せつけられることが心の試練の一部であると。皆はそう考えているっぽいのだけど。


「えっと……私の相方だったBさんは、どうにか最後まで生き残った、よ?」

「「…………??」」


 おっと、すごい空気になったな。

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