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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一五六五話 問題のフロア

「え、迷い込んだのぜ!?」

「そう。その篩の迷宮? っていうのにも聞き覚えないし」


 フェソナの危うい戦いぶりを見て取って、流石に違和感を禁じ得なかったレッカ。

 故に一体どういう経緯でここへ至ったのかと、気になっていたことを質問してみたところ、返ってきた答えがこれだった。

 曰く、元はダンジョン内に居たはずだと。それがどうしたことか、いつの間にやら見知らぬ部屋に迷い込み、脱出も不可能。やむを得ずルールに則り腕輪を付けて先へ進んでみたところ、馴染の景色にレッカを見つけた、というのが経緯であるらしい。

 対し、腕輪の効果で疑心を抑えられているレッカは、すぐさま納得。


「そういうことであれば、戦闘は私に任せるのぜぇ! 幸いここのモンスターはそんなに強くないみたいだし、問題はないと思うのぜ!」

「それは頼もしい限りだけどさ……」


 得体の知れない地下通路を奥へ奥へと進みながら、そんなやり取りを交わす二人。

 自信をうかがわせるレッカに対し、フェソナの表情はいささか晴れない。

 そうした彼女の様子を少しばかり不思議に思っていると、意を決したようにフェソナから切り出してきた。


「実際対峙してみて良く分かったよ。私じゃここのモンスターには歯が立たない……なのにレッカ、あなたはそれを圧倒してみせた。一体どうやってそんな強さを身につけたの?」

「え、内緒なのぜ」

「内緒!? それに即答!」

「秘密とも言うのぜぇ!」

「なんでドヤ顔!」


 さらりと誤魔化してみせたレッカではあったが、その胸中はやや複雑であり。

 先ずもってあったのは、実感。フェソナの「今の実力」を垣間見たことにより、己がどれ程一般的な冒険者から逸脱した力を得たのか。それをこれまでにないほど強く実感したのだ。それに伴い、今更ながらに思うところがチラホラと。

 加えて古い馴染に対し、何処までのことを話したものかという線引にも迷っていた。

 フェソナとの力の差を知ったことで、チームミコバト、延いてはミコトのことを明かすべきではない、という思いはこれまで以上に強いものとなった。が、それはそれとしてである。

 新しい友のことを自慢したい、という思いもレッカの中には確かにあったのだ。

 だから言葉を探し、選び、慎重に語り始める。


「強いて言うなら、面白い友だちが出来たんだぜぇ」

「友だち? もしかして冒険者の?」

「ぜ。友だちであると同時に、ライバルでもあるのぜ!」

「あー……なるほどね」


 レッカの口ぶりから、おおよその事情を察したフェソナ。

 切磋琢磨は世の常であり、もちろん冒険者の間にも存在する概念である。若い冒険者が急激に力をつけ頭角を現すとき、そこには「ライバルと競うように技を磨き、急成長を果たす」というお約束めいた事情がつきものだったりする。

 レッカもまた、そういった経験をしたのだろうと。フェソナは一人、そのように納得した。にしても異常な成長ぶりではあったけれど、当人が話したがらないのである。深く突っ込もうとは思わない。

 その代わり、少し切り口を変えてみることにした。


「それってどういう子なの?」

「どういう子……一言で言うなら、へんてこな子なのぜ!」

「えらく抽象的ね……」

「その子と居ると、面白いことに事欠かないのぜ。謂わば私にとって、色んな意味で最強の友だちなんだぜぇ!」


 楽しげにそう語るレッカを、少し眩しげに見るフェソナ。

 どうやらとても良い出会いを果たしたらしいと。そう理解するのに、レッカの笑顔は十分な明るさを帯びていた。

 しかし、そんな彼女の表情にふと、真剣味が宿り。


「だから私は、あの子の力になってあげたいんだぜぇ……!」

「!」


 メラリ瞳の奥に灯った炎は、果たして幻視によるものか。はたまた今のレッカであれば、本当に瞳が炎を湛えていたとて特に不思議ではないけれど。

 いずれにせよ、息を呑むほどの気迫に、たらり冷や汗を流すフェソナである。

 力のほどは疎か、精神性においても昔よりも一回りと言わず大きく見え、彼女の感じさせる頼もしさに思わず苦笑い。

 斯くして二人のダンジョン探索は続く。



 ★



 家の地下に伸びる通路は延々と続き、こうなってはもはや地下通路と言うより、純然たるダンジョンとして認識するようになってくる。

 そんな地下通路ダンジョンも、レッカの無双ぶりが故にあれよあれよと第三階層だ。

 そう、問題の第三階層である。


「ここは……一体何なのぜぇ」

「なにかの作業場……工房のようにも見えるね」


 フロアは平坦かつ見晴らしが良く、迷宮らしい入り組んだ構造とは無縁に見えた。ただし、数多並ぶ机や雑多な品の数々が、一応の通路を構築しているようだけど。

 そして、そんな広々としたフロアには多くのモンスターが見られ。されども彼らはレッカたちに目もくれず、黙々と目の前の作業に取り組むばかり。

 そうした様子を前に、レッカはというと。


「なんだか良く分かんないけど、薙ぎ払っていいのぜ?」

「ど、どうだろうね……」


 愛剣を鞘から抜き放ち、今にも全体攻撃をぶっ放しそうな様子だった。

 されどもこれだけ思わせぶりな階層。燃やした後では取り返しのつかない要素だってあるかも知れないと、一旦思いとどまることにする。

 改めてフロアを見回してみるけれど、やはりモンスターたちが敵意を向けてくることもなく。


「ふーむ、なんだかちょっと不気味なフロアなのだぜぇ」

「確かに得体が知れないね……もしかして特殊ダンジョンっていうやつ?」

「迷宮だから、特殊なのは間違いないのぜ」


 ここまでやって来る道すがら、フェソナへは一応迷宮について、ふんわりとした説明を行っているレッカ。何処まで語っていいか探り探りの、なんとも不格好な紹介とはなってしまったけれど、ざっくりとした概要は伝わったらしく。

 少なくとも、フェソナのレベルで足を踏み入れていい場所ではない、ということは理解してもらえたようで、それ以降は極力レッカの足を引っ張らぬようにと、命大事にここまでやり過ごしてきた形である。

 そうすると必然、主導権はレッカが握っており。


「取り敢えず、モンスターに注意しながら次の階層へ続く階段を探すんだぜぇ」

「了解。極力刺激しないように、静かにね」


 レッカの立てた方針に、同意で返すフェソナ。

 背負った大斧がどこかしらにぶつかり、ドンガラガッシャン! なんてことにならぬよう注意しつつ、フロアの端に沿うよう移動を開始した。

 そうして探索することしばらく。


「本当に一度も戦わずに階段まで来ちゃったんだぜぇ」

「なんだか拍子抜けね」


 ある意味スリリングでこそあったけれど、裏を返せばただそれだけのフロアだったと、まるで肩透かしを食らったような顔で改めて第三階層を見渡すレッカとフェソナ。

 こうなってくると流石に違和感を覚えるレッカ。


「素通りを許されると、却って勘ぐってしまうのぜぇ」

「分かる。冒険者のサガよね」

「実際何も無いとは考えにくいし、ちょっと調べたほうが良いと思うんだぜぇ」


 フロアを通過する最中、嫌でも机の上や、モンスターたちの作業に目が行ったりもした。だから彼らが何かを作っているらしいことは、一応把握しているレッカ。

 しかしそうしたふんわりした情報で満足せず、本腰を入れて調査をするべきかと、やる気をのぞかせる。フェソナにも否やは無く、かくして彼女たちはこのフロアで何が行われているのかと調べて回ったのである。

 その結果。


「何にも分からんのぜ!」


 二人は途方に暮れていた。

 一応机の上や床に資料のようなものは沢山あるのだ。積まれていたり、放り投げられていたり。だからそれらに目を通すこと自体は容易いのだけど、残念ながら文字が全く読めない。これでは有益な情報など得られようはずもなかった。

 レッカにとっては既にこの階層が、「意味深に見えるけど、意味深なだけで無意味なフロア」として確定しつつあるほどだ。


「いっそ燃やしてしまえば、何か変化が見られるかも知れんのぜぇ……」

「発想がもはや放火魔のそれ! いや放火魔だって流石にそんなこと言わないと思うな!」

「けど、それじゃあどうするのぜ。燃やす以外に何があるんだぜぇ……」


 腕組みをし、むんむんと考え込むレッカ。それを恐恐と見守るフェソナは、さながら何をしでかすか分からない狂人を見張っているかのような、強い心細さを覚えており。

 そんなふうに見られているとも知らず、レッカは考える。


(こういうとき皆なら……ミコトなら……ああそうか、ミコトの行動をトレースすればいいんだぜぇ!)


 カッと目を見開き、会心の案でも浮かんだようにポンと手を打つレッカ。

 そんな彼女へ、恐る恐る「な、何か思いついた……?」とフェソナが問うてみれば、自信ありげにレッカは答えた。


「モンスターに話を聞いてみるのぜ!」

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